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あけぼの大豆が身延町にもたらすもの

1. はじめに

 身延町ではあけぼの大豆が特産品として生産されている。私たちは身延町の農家の方々へのインタビューや生産管理を行うあけぼの大豆拠点施設、産地フェアへの参加など、あけぼの大豆を通じて様々なフィールドワークを行った。これらの活動により、地域農業は単なる経済効果だけでなく、それ以外にも地域に様々な価値をもたらすのではないかと考えた。
 この記事では、私たちが身延町で行ったフィールドワークや実施したインタビューに基づいて、地域農業が生み出す潜在的な価値について考察していく。

2. 地域農業

 身延町では、あけぼの大豆での町おこしに力を入れるため、平成28年に「あけぼの大豆振興協議会」という団体が結成された。この団体は身延町役場、山梨県庁、JA 、商工会、在来種あけぼの大豆保存会、生産者等が所属している。そして、この協議会により、令和4年には「あけぼの大豆」が、食品を地域ブランドとして保護する国の地理的表示(GI)保護制度に登録された。このように、あけぼの大豆を通して地域内で異なる団体間や個人が協働する新たなコミュニティが生まれていた。
 さらに、あけぼの大豆を活かした産地フェアというイベントも行われている。身延町内の複数箇所で開催され、あけぼの大豆の枝豆の直売や、収穫体験ができる所もある。実際に参加させていただくと、町の大人たちがボランティアで運営を手伝ったり、多くの子供たちが収穫を楽しむ様子が見受けられた。さらに、他地域からあけぼの大豆を買いに来る方もいた。そのように、あけぼの大豆のイベントにより地域内での世代間交流を生み、さらには地域外とのつながりをも生むきっかけとなっている。
 その他にも、地域おこし協力隊の中に「あけぼの大豆」部門が存在していたり、以前そこで活躍していた移住者の小林さんが行っている「農育」という活動では、あけぼの大豆について子供たちが学ぶ機会も提供されている。つまり、あけぼの大豆を通じて身延町と身延町外の人、さらに身延町の農家と子供たちなどがつながる取り組みがあけぼの大豆を通して行われている。

産地フェアの様子

3. 地域の感覚

 次に、あけぼの大豆に携わっている移住者の方へのインタビューにより、住民目線のつながりについても明らかになった。まず、身延町では農作物を近所の方々から頂き、自分も何か渡すというモノが巡る文化があるという。農業を行うことが、農作物を渡すということをきっかけに地域内で交流を生んでいる。
 さらに、畑は周辺にいる地域のみんなに見える場所だという。そのため、畑で作業している様子が地域の方からの評価につながったり、会話の機会になるとおっしゃっていた。また、昼間畑に出ている人たちが地域で遊ぶ子供たちの見守り的役割になる面もあるそうだ。畑で作業をするという行為が、作業以外の意味や価値も生んでいる。
 そして、フィールドワークの際にも農家の方々が今年の畑の様子や手法などの情報共有を行っていたり、周辺が誰の畑かを把握していたりと農業による地域の人々との結びつきを垣間見ることができた。

4. 考察

 以上のような身延町での出来事や移住者の方のお話より、身延町内での農業がただ産業としての作業だけではなく、人々を結びつけるための要素となっており、地域内外のコミュニティや安全などの価値をもたらしていると考えた。農業が地域内で共通の言語となり、地域内外、世代間を超えての交流のきっかけとなるのだろう。
 そして、身延町では「あけぼの大豆」という種を用いて町おこしをしていこうという意識が高まっている。そのように農業は人との結びつきを深め、町の一体感をももたらしていると考える。町で一体となってブランドある農作物を育てていくという事が、地域に対するプライドや仲間意識なども醸成し、お互いに助け合って高め合うことのできるコミュニティを築いているのだろう。人口の多くない身延町だからこそ「あけぼの大豆」という地域の大きな柱が共有され、共通の目標を追うことで、つながりのある町の雰囲気を醸成しているのではないだろうか。

5. まとめ

  身延町では、あけぼの大豆を生産していく中で様々な制度や取り組みが行われており、団体間や、個人間、地域外にまでもつながりを生んでいる。さらに、農業を行うことにより日々の交流機会が生じ、人々の結びつきを深めていると考えられた。そのように、農業はただ地域の経済効果を生むというだけではなく、人と人をつなぐ役割を持ち、それによって地域コミュニティの醸成や地域の安全、さらに町の一体感をももたらしていると考える。

(担当:森屋)

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