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デアリガズはなぜ《終止》に至ったのか

今回はふとしたきっかけから、《終止》のカード背景が気になったので、原著を読み一部を訳してみました。斜め読みのうえ、意訳が多いのでご了承ください。また、物語のラストシーンのネタバレを含みますのでご注意ください。

1.悪意ある助言
(原著Chapter 6: The Dragons Primevalより)

プレーンシフトでのデアリガズの物語はコイロスから始まります。決死の覚悟でファイレクシア兵との戦いに臨もうとするデアリガズ。そこにテヴェシュ・ザットが接触してきます。


「それは恥ずべき行いだ、デアリガズ」
「我は、我々の世界の為に戦うのだ」
「我々の世界?人間やエルフのような下等生物の住まうこの死すべき世界のことかね?ドミナリアはもう長いこと、我々の世界ではなくなっているのだよ」

そうしてザットは黒く光る稲妻で空を切り裂き、デアリガズにある風景を見せました。彼の故郷であるシヴを。今はフェイズアウトにより世界から切り取られ、島があるはずの大きな空間にはただ海が流れ込んでいました。
「たしかにこのシヴの犠牲で、10万のファイレクシアの軍勢が海に沈んだ。テフェリーは賢い。君の故郷を荒廃させた、1万もの人々を救ったのだからな」
その言葉を受け、デアリガズは確かに思い出したのでした。ゴブリンの異邦人の家に押し寄せる人々を。ヴィーアシーノの神秘家を殺すために山を越える人々を。そして虐殺するためにドラゴンの居住地へ進軍する人々を。

デアリガズはその裂け目からシヴに降り立ち、残ったファイレクシアの軍勢を切り裂き、焼き尽くしました。そしてザットは再び、彼の精神に語りかけます。
「君の炎を下等生物のために浪費することはない。荒廃の運命にある、君の同胞のために使わなければ」
その後ザットは遠く離れた、破壊されたヴィーアシーノの村にデアリガズを導き、この世界の真実について語り始めます。

かつてドミナリアは、強大な5体の上古族ドラゴンのものであったこと。
しかしあるとき、最も幼い上古族ドラゴンが捕らえられ、それを交渉材料に人間と同盟を結んだこと。
一見友好的であった人間の王 Themeusは、同盟を結んだ後に一匹また一匹と上古族ドラゴンを罠にかけ征服していき、ドラゴンは徐々に衰退していったこと。

だがドラゴンは完全に滅んだわけではなく、5体の上古族が再び覚醒することができればまた世界を掌握できる、と彼は語ります。
そしてファイレクシア人はその事実に気づいており、ドラゴンを殺そうと躍起になっている、すでに一体のドラゴンは彼らの手にかかっている、とも。
「彼らを守らなければ」そのデアリガズの言葉に、ザットはこう告げます。
「守るのではない」
「君が彼らを覚醒させるのだ」

2.上古族の栄華な再誕
(主に原著Chapter 32: When Gods Awakenより)

そうしてデアリガズは、残る上古族ドラゴンたちの元へ向かいます。
ヤヴィマヤの、少年期を司るドラゴン、リース。
新アルカイヴの、青年期を司るドラゴン、トリーヴァ。
海底洞窟の、成人期を司るドラゴン、ドロマー。
そしてアーボーグ、死を司るドラゴンのクローシスの元へ。

一つのタール孔を囲み、クローシス以外の4体のドラゴンたちが円環を作ります。
「何を犠牲にしなければならないのだ?」とデアリガズはリースに尋ねました。最後の上古族に出会うために、何かを犠牲にしなければならないことをこれまでの同族との邂逅の経験からデアリガズは感じ取っていたのです。
「お前も我らと考えることが似てきたな」リースは笑いました。
「そう大したものではない…今ここにある、我ら上古族の4つの命のみよ」
復活の儀式の間、リースはデアリガズに真実を語ります。

デアリガズこそが原始の上古族ドラゴンであること。
1000年前のデアリガズ再誕の日から、この日をずっと待っていたこと。
ドラゴン再興のため、ザットがデアリガズの教師となったこと。

そして儀式の最後に、リースはこう告げます。
「死のなかで我らは最後の同胞に出会う。彼は死そのものであると同時に、死の支配者でもある。彼こそが我々を新しいものに作り替えてくれる。新しい、神として」
デアリガズはこの時、自分が神であることを一瞬の内に悟りました。
「そうだな」
「完成させよう。円環を」
そうして彼らは死に落ちていきました。

次にデアリガズが目を覚ました時、彼は力がみなぎってくるのを感じました。体は迅速かつ強力に、精神は神々から相続した呪文が今にも溢れ出そうなほどに、覚醒していました。
同様に復活した眷族を従え、デアリガズはドミナリアの空を力強く飛び回ります。
「空は我らのものだ!」クローシスが金切り声で叫びます。
「勇敢にも我らの邪魔をする、あれは何だ?」ドロマーは不満げに言いました。
「ウェザーライトだ」とトリーヴァ。
「大地へと叩きつけてくれよう」リースはそう裁定を下しました。
デアリガズは最後にこう告げました。
「彼奴らを滅ばさなければならぬ」



3.カーンとの対話
(原著Chapter 33: Where All the World Fought、
Chapter 35: The Mortal Flawより)

上古族たちのウェザーライトへの猛攻が始まりました。当初はデアリガズを仲間だと思っていたシッセイたちは困惑しながらも勇猛に戦いますが、火山地帯に追い込まれてしまいます。
猛追の中、クローシスがデアリガズに皮肉たっぷりに語りかけてきます。
「かつての仲間、かつての友と、お前はセラの聖域で傍らで戦っていたのにな。今度は滅ぼそうというのか?」
デアリガズはその言葉に不思議な苛立ちを覚えました。
「セラの聖域、遠い昔…」
死のドラゴン、クローシスはデアリガズの意識の中から死の匂いを感じ取りました。
「お前の母、ゲリーデアリガズはセラの聖域で死んだのだ」
デアリガズに彼女の死の記憶が甦ります。彼女はセラの聖域で、ウルザとウェザーライト、そして彼自身を守るために自らの身を呈して生ける盾となったのでした。
「セラの聖域、遠い昔…」
デアリガズはその幻視を振り切ろうとしました。
クローシスはほくそ笑みながら、なおも続けます。
「恥じることはない。お前の母親は選択を間違えたのだ。自己犠牲などというものは、最も愚かしい考えだ」
「お前は母親とは違う。彼女は神ではなかったのだ」

とうとう、ウェザーライトは上古族たちに捕らえられました。デアリガズの手によって、火山の中腹にウェザーライトは叩きつけられてしまいます。デアリガズの爪が、機関室を引き裂きました。その中から現れた、重く巨大な金属の塊は、彼の記憶の片隅を揺さぶりました。

「あなたはどうしてしまったのですか?」
カーン。デアリガズはずっと、彼の声が好きでした。かつては、シヴのマナ・リグのそばで隣りに並んで本を読んでくれました。
「あなたはかつてドミナリアのために戦ってくれました。でも今は、あなたは自分自身のためにしか戦っていません」

デアリガズは平坦な口調でこう答えました。
「かつて我は定命であった。しかし今や我は神である」
銀のゴーレムの目が、彼をしっかりと捉えました。
「かつてあなたは正しい存在だった。でも、今のあなたは邪悪です」
カーンは遮二無二に前進し、ドラゴンの角を掴みました。デアリガズはその接触によろめきました。
これは何だ?カーンから神々しさが伝わってきます。カーンは接触によって、デアリガズの記憶を呼び起こしたのでした。


彼の意識は遠い遠い昔のイメージに沈んで行きました。彼はまだ若い蛇で、ウェザーライトの中を翼を広げて飛んでいました。次に、創造主の乱心から真の地獄へと変わり果てた、セラの聖域を脱出するときのあの光景を思い出しました。

「かつて、あなたは誰かを守るために自分の身を捧げる覚悟を持っていました。今のあなたは自分自身を守るために全てを犠牲にしようとしています」 
上古族たちの言葉が虚しく響いてきます。
「自己犠牲などというものは、最も愚かしい考えだ…」

カーンはより多くの記憶を思い出させることに注力していました。
ロークン。リースのしもべ。マグニゴスの犠牲の上に彼らは立っていた。
新アルカイヴ。4体のドラゴンが墓所の中で犠牲になっていた。
地下洞窟。100匹以上の蛇が生け贄に捧げられていた。
そして今。すべてのドラゴンは上古族のために生きたまま犠牲にされようとしている。
「我はどうしてしまったのだ?」
デアリガズは絞り出すように言いました。その言葉は、彼を神に縛り付けているなにかを断ち切ってくれたように感じました。カーンが手を離すと、デアリガズはよろめきながら後退しました。

彼は飛び去ることもできました。しかし、そうしませんでした。彼は自分の死の運命、眼下に広がるカルデラから逃げることもできました。しかし、彼はもはや自分自身の命に興味がありませんでした。

たったひとつの、最後の犠牲。
それが、上古族の円環を砕く。
それが、ドラゴンたちを隷属の運命から解放する。
それが、龍神たちをもう一度定命の存在に戻す。

彼は最後の行動として、自身の力を集め、火山へ放ちました。溶岩が噴火し、彼を包みこみ、地中深くへと引きずりこんでいきました。
彼は赤熱した溶岩に焼かれる激しい苦痛の中で、自分自身の犠牲ではなく、母の犠牲を想いました。母を、すぐそばに感じました。
彼の母親は、「最も愚かしい考え」にその身を捧げ、正しい選択をしたのでした。


4.スランの秘本
(原著Chapter 37: A Highway in the Skyより)

残る4体のドラゴンたちはデアリガズの死を嘆き、また彼の死により、円環が断たれたことで弱体化していました。ウェザーライトの砲撃は彼らを追い詰めますが、そこでカーンはこう提言しました。
「彼らを殺すことはありません。デアリガズはそれを望んでいません」
ウェザーライトは残った力を振り絞り、ムルタニの助力を得ながら、マグニゴスのタール孔へ上古族たちを追い込みました。ドラゴン達を封印することには成功しましたが、ウェザーライトは完全に機能停止してしまいました。
シッセイたちが途方に暮れる中、ドミナリアの軍勢はウェザーライトの下へ集まってきました。
シッセイはクルーたちにこう告げます。
「クロウヴァクスがまだ要塞にいる」
「それはあってはならないことよ」

・・・
機能停止したウェザーライトから、カーンは外の光の中へ足を踏み出しました。その手には本が握られていました。かつてデアリガズを抱きながら、読み聞かせたスランの秘本を。
彼は友の眠る火山へと顔を向け、見上げました。彼の目はその手に抱く本よりも輝いていました。彼は友へと、山から山へ届くほどの大きな声で語りかけました。
「何をすべきか、理解しています」
「そして、どのように世界を救えば良いのかも」


(小説Apocalypseへ)

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