虚
人間は誰しも、多種多様な禍羽を被って生きている。猫を被るなんて生ぬるいものではない。他者と会話するためのもの、共感するためのもの、さらには表情を作るためのものまで。禍羽はひとりひとり用途が違う。
「君、すごくコミュニケーションが得意そうだよね。」
中肉中背の中年がボソッと呟いた。名前を思い出そうとしたが、さっき飲み干した3杯目のビールのお蔭で思い出せない。まあ、もう会うこともないから。なんてひとしきり考えた後、
「いやいや、家を出る時に皮を被ってるだけですから。」
なんて、哲学でもやってるかのように返した。
その日から夜が来る度に、
「皮、川、河、かわ、カワ、カワ…」
と。6畳しかない古惚けたアパートで、辞める理由の無いタバコを蒸す。
さて、明日はなんの禍羽を被ればいいのだろうか。48度の風呂に浸かって、今日の禍羽を溶かしながら、考えてみる。
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