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【ライブレポート】2022.6.12/CRYAMY 「売上総取」tour final/東京キネマ倶楽部

CRYAMY初のワンマンツアーとなった「売上総取」のツアーファイナルが東京キネマ倶楽部で行われ、無事ツアーは完遂されました。結論から言うと、CRYAMY史上最高のライブだった、と断言できる、素晴らしいライブでした。キネマ倶楽部の通常のライブハウスとは違った独特の空間も相まって、CRYAMYの楽曲が緊張感をもってこちらに迫ってくる感覚と、その楽曲に一人没頭できる鋭い空気のあった、ツアーがいなるにふさわしいライブでした。

セットリスト

1.マリア
2.ビネガー
3.crybaby
4.戦争
5.pink
6.スカマ
7.変身
8.sonic pop
9.HAVEN
10.delay
11.くらし
12.悲しいロック
13.正常位
14.ギロチン
15.E.B.T.R
16.ALISA
17.兄弟
18.物臭
19.待月
20.WASTAR

en1.まほろば
2.鼻で笑うぜ
3.普通

Wen1.テリトリアル
2.世界(新アレンジ)

ライブレポート

無音の開演前。緊張感のある空気の中で、メンバー四人がぞろぞろとステージに上がりチューニング。そこから第一声、カワノさんの歌声からこの日の一曲目、「マリア」が鳴らされてライブはスタート。音源のバージョンと比べて速いテンポが、展開が進んでいくにつれてより加速していくのが印象的。カワノさんのボーカルも、メロディを歌うというよりはリズムを全く無視して語るように、叩きつけるように叫ばれて奏でられていきます。とにかく焦燥するのもおかまいなしに、ヤケクソに進んでいくエイトビートがこのライブがツアーの最後を飾るにふさわしいものになることを確信させるような迫真の演奏でした。
僕はツアー初日、新代田FEVER公演にも足を運んでいたのですが、CRYAMYの「#4」リリース後のライブは丁寧で重厚に奏でられているライブをしているように感じられていたのですが、その初日では打って変わって、かつて暴力性と狂気性をもってたたきつけられていたころの彼らを彷彿とさせるライブをしていて(カワノさんは演奏中、ドラムのオオモリさんをものすごい剣幕で怒鳴りつける一幕も!)、否が応でも「これは彼らのワンマン、独壇場なのだ」と突き付けられるような鋭いライブだったのですが、この日は一曲目からそれを凌駕するほどの荒々しさと狂気を見せつけていました。アウトロでのカワノさんの「死ね」の連打で、彼の喉は果たして最後まで持つのか、とこちらが心配になるぐらいの絶叫で、不覚にもしょっぱなから涙が出そうになってしまいました。

なだれ込むように初期の名曲「ビネガー」「crybaby」と続きます。テンポも加速しっぱなしで、ギターも音源をなぞるというよりは、ノイズをまき散らし、感覚的に弾いているような荒々しさでした。
そして驚いたのですが、この日はリズム隊二名の音もとにかくでかい!リキッドルームでも感じたのですが、ある程度のキャパシティの広さでの高性能な音響システムによるものなんでしょうか、小箱でのギターが馬鹿でかくて、それ以上にでかいボーカル、といったバランスではなく、とにかく全部の楽器がでかいんですね。そしてこの楽器のでかさは、これはCRYAMY独特の現象ですが、後半になるにつれてどんどん増していく。前半でのハイライトもまるで打ち消すように後半になるにつれてギアをあげていく彼らのライブを知っているので、この時点で「今日はどうなってしまうんだろう」と、心の中でワクワクしていました。

「それが答えじゃないとさ」という歌詞を変えて叫ばれたカワノさんの絶叫を伴った「戦争」の演奏を終えると、セッション的にリズム隊がビートを刻んで、その上を泳ぐギターノイズを切り裂くように「pink」がスタート。「pink」という楽曲が女性とのただならない関係性を歌った歌であることと、この日ライブの行われた鶯谷というロケーションの持つ雰囲気が相乗効果を生み出して、紫色の照明に包まれる四人の激しい演奏がより濃密にたたきつけられていきました。
続く「スカマ」ではカワノさんの暴走はより激しくなります。へらへらと笑うように、おどけてしゃべるように歌われるヴァースのメロディを引き裂くサビの絶叫。個人的には「#4」の楽曲の中でも異質でありながらライブでのギャップの強烈さを強調した名曲だと思っています。前方三人の「ららら」のコーラスが唯一のポップさでしょうか。

続く「変身」まで人間の醜さを描いた楽曲を叩きつけ、最後にはその人間への執着じみた信頼をぶちまける「sonic pop」で前半のパンクロックのセクションが終了。驚くことにここまでチューニングなし。狂ったチューニングもお構いなしに、体感時間で五分ほどではないかというぐらいに8曲がかき鳴らされていきました。そして、次の曲に移るまでももちろん無言。どうやらこのツアーではほとんどMCらしいMCもなく、曲をどんどん叩きつけるライブをしてきたらしいです。

普段であれば(昔であれば?)ここらでカワノさんの奔放かつヘビーな内容のMCがはさまれるところではありますが、すぐに「HAVEN」の演奏がスタート。前半のブロックとは打って変わって丁寧に、美しく鳴らされるリバーブギターが空間を包んでいきます。
続いて、歌詞を大幅にアレンジした「delay」、高性能なスピーカーと大きな会場で鳴らされることでスケール感を増した「くらし」と続き、再びセッションから「悲しいロック」へ。「#4」収録曲の中でも指折りの出来と言っていい名曲が奏でられます。この楽曲の歌に入る前のにらみつけるような、遠くを眺めるようなカワノさんの視線が忘れられません。
ここからサウンドスケープ、質感共に同じく冷たい質感で鳴らされた「正常位」と「ギロチン」から、最後は重厚な「E.B.T.R」で中盤のブロックは完結します。セットリストを通してライブで味わっていて思ったのですが、セットリストがまさに人間の生きる上でのストーリーのように感じる瞬間が多々ありました。人とかかわりあう葛藤、人間関係の不全と苦悩という流れから、孤独を慰めるような、恨むようなこのブロックまでの流れは、これまでのCRYAMYのライブにはなかった説得力がありました。楽曲を多く作り、蓄えていくことでこうしたライブをすることができるようになった成長を感じられる完璧なライブ運びだったと思います。

ここから、観客が誰一人拍手すらできないほどの静寂と緊張感を破るように、カワノさんの弾き語りから「ALISA」へ。これまでの流れからは打って変わったメジャー調のスケールの大きなバラードですが、そこにポップさは皆無。アウトロでの悲鳴のようなギターソロと、溜めたリズムで絞り出すように枯らされるカワノさんの「ここにいてはいけない」という絶叫が一人一人の心を押しつぶしていきます。演奏がやんで、音源ではアコースティックギターで奏でられる最後のメロディがカワノさんの独唱でうたわれて、この楽曲は静寂をもってこの空間に溶けてゆきました。
流れるように始まり、「この歌が流れなくてはだめだ」と、ライブ後半にもかかわらず叫ばれる(むしろ後半になるにつれて絶叫が増えていきました。)「兄弟」と、「友達の歌」とポツリとこぼして始まった、これもまた初期の名曲の一角と言える「物臭」をしっかり届けて、重厚なドラムから「#4」を象徴すると言えるCRYAMY史上最高のラブソングと言えそうな「待月」へ。
CRYAMYの楽曲はとにかくシリアスです。深刻で、重たく、そこに笑顔や共感、一体感といった要素はまったくの皆無で、ただ四人の演奏を通してたたきつけられるのは残酷な事実であったり、目をそむけたくなるものを見せつけられる苦しさであったり、自分の実存を問いただされる厳しさであったり、そういうものです。ただ、その楽曲群と、それに心を許した人間を最後に救う出口を作り出すことを忘れないのも彼らです。その「徹底的な孤独」(カワノさんのインスタグラムより引用。)の先にあるのはこうした愛の言葉や人間のあたたかさで、僕はむしろこれこそが彼らの本当に表現したいロックの形なんだ、と受け取っています。
個人的にアツかったのが、「待月」のイントロに入る前にカワノさんが

君を振り向かせる方法は名前をやさしく呼ぶだけ

とノイズの中で絶叫したことです。この一節はデモ段階での「待月」の歌詞にあった一節で、僕はこの歌詞が大好きだったので、ここから楽曲がスタートしたところでまた泣いてしまいました。

ここまでまったくのMCなし、観客もかたずをのんで見守ってきた今日のライブで、カワノさんが初めて口を開いて言葉にしたことも非常に印象的で、とてもかっこよかったです。

俺はステージ上だと天使だから。
「愛してる」ってたくさんの人が言ってきただろうけど、俺は違う。
目の前の人間を愛さなくちゃいけない。

そうささやくように宣言して、本編最後の「WASTAR」が鳴らされました。胸に手を当て、身をよじるようにして歌うカワノさんがサビの前に両手を広げて爆音で叫ぶ「君のために生きる」が、この日集った彼らを愛する人たちへ万感の思いをもって届けられました。「命なんて懸けるな」と叫び、加速する後半。それを断ち切るように歌われる「愛している」が、アウトロのファズギターの上を駆け抜けるように絶叫されました。フロアからようやく上がる無数の手、涙を流して顔を抑える女性、真剣なまなざしで見つめる年配の男性、満員のフロアがその言葉を自信を持って受け止めて、ありのまま、正しい姿で人生を歩める日を、CRYAMYは決してあきらめないでしょう。そのために命を燃やしていくでしょう。叩き込まれた今のCRYAMYの最高の一曲をもって、この日の本編は終了しました。

アンコールを求める手拍子にこたえて四人がステージへ。途中、カワノさんの友達の赤ちゃんが泣いてしまうのを見た彼がこの日初めて笑顔を見せる一幕と、「今日最後だからしゃべっていい?」という一言で、ようやく観客の緊張が解けた気がします。僕も含めて。
そこで語られたのはカワノさんの思う正しさと、それを受け入れられるように生きていけるように、これからCRYAMYの楽曲は歌われるという、彼の宣言でした。

「愛している」ということは正しいということを見せなくてはいけない。
それができない人に「愛している」ということを許してやらなくちゃいけない。

人間の「生と暮らし」を奏でてきた彼らを経て、おそらく、「愛」というテーマを明確に打ち出して歌われた「#4」の楽曲は、この言葉をもって完遂され、そして、その後にならされる「まほろば」からこの日の最初のアンコールが鳴らされました。
CRYAMYの楽曲の中でもとびぬけたポップセンスと、開放的な疾走感を併せ持ったこの楽曲では「正しくなくてもかまわない」と、まるで先ほどまで語った言葉を翻すようにも聞こえますし、逆に、そういいながらもその正しさを受け入れることを許すようにも聞こえました。再三述べられてきた、カワノさんの「正しさ」がこの世界では「正しくない」とされ、「諦められてしまった」けど、それでもかまわない、生きるとはそういうことだよ、と、彼の絶叫は僕らに押してくれているようでした。
間髪入れずにパンクソング、「鼻で笑うぜ」ではその「間違えた人間たち」への賛歌を歌い、「君が生きていてよかった」と高らかに宣言して、「ありがとう」と一言告げて、最後はこのツアーでほぼ封印されてきた、ある意味「#4」とは真逆のテーマ性を内包していた「#2」より「普通」。待ってましたと言わんばかりにイントロでフロアが揺れた光景は圧巻でした。アウトロを奏で終わり、カワノさんは「なんも言えねぇな」と吐き捨ててさっさと退場。アンコールが終わりました。

もちろん、これで満足することのないフロアからはさらなる拍手。しばらくして、オオモリさんだけがふらふらと、まるで満身創痍といった具合で現れて、絞り出すように爆音でエイトビートを叩き始めます。続いてタカハシさんも入場。ここで彼の奏でる4コードで次の曲を悟った方も多かったのではないでしょうか。フジタさんのフィードバックに導かれるようにカワノさんがダッシュでステージに走りこんでノイズギターをまき散らし、正真正銘最後だ!といわんばかりにならされたのは、カワノさんがいつも

この曲は大好きな人にささげたんです。
だけど受け取ってもらえませんでした。
だからこの曲は皆さんにあげます。

のお決まりのセリフで、これまで重要な局面で鳴らされてきた、彼らの始まりを告げた大名曲、「テリトリアル」でした。一気に沸き立つフロアと、この日初めて観客にみられたであろう満面の笑顔、「最後だからよ」と告げたカワノさんのシャウトで、ライブは一気に終わりに向けて加速していきました。
尋常ではないテンションでかき鳴らされた、幾度となく僕らの心臓を打ってきた高速のパンクロックは、おそらくこの日が歴代で最も最高の演奏だったと断言できます。「今日は言えたぜ(癒えたぜ)」と絶叫するカワノさん、原曲のテンポよりも大幅に前につんのめるリズム隊、ほぼノイズだけが轟音で会場を揺らすギター、そしてアウトロで繰り返し叫ばれた、「もう痛まなくていい!」の絶叫…。カワノさんが「はじめまして」と必ず告げてきたこのツアーで出会ってきた、これまでを知る人も、これからを知っていく人も、すべての人を全肯定するその演奏は、おそらくこれからも僕らの心臓を打って、いつの日か何もかもが正しくなる日に連れ出してくれるのだと確信させる、音楽の力を持っていました。

「テリトリアル」のアウトロが轟音を残す中、最後、カワノさんが絶叫します。

もう痛まなくていい!もう痛まなくていいように、本当の愛を見せてやろう。ありがとうございました!

最後にならされたのは「世界」でした。このバンドを象徴するような、カワノさんが「俺のすべて」と心臓を叩いてツアー初日にならされた、CRYAMYそのものと呼べるロックが、最後の最後、もう一段階ギアを挙げた大爆音、超轟音でたたきつけられました。
これまで彼らのライブでありえないほどの爆音を聴いてきたのですが、この日の「世界」はどれをも超える圧倒的な音圧と四人の迫力で、もう体力も気力も残されていないであろう四人の最後の一滴が迫ってきました。それにこたえるようにフロアが沸き立つ光景も、涙をこらえることなく流す多くの人たちも、この日この場に見えたすべてが美しい光景でした。
そして、「#4」リリース以降、リアレンジされたと思われる間奏のインプロビゼーションパートも圧巻。おそらく五分以上にわたるアドリブでのツインギターの掛け合いと、それが進むにつれてアクションが増していくフロア…。この楽曲はまだ進化するという確信は誰もが感じたところではないでしょうか。
長い間奏パートがあけて、これだけ絶叫してきたのにファルセットでのびやかに歌われる三拍子のパートを切り裂くように、一気に加速して最後の叫びへ向けて楽曲は進んでいきます。カワノさんは最後のサビの前に、

この歌の中で生きろ

と絶叫。そして、最後の「あなたが」に呼応するように、演奏と、観客の無数の手と涙と、照明のまぶしい光が加わりました。おそらく誰も聞いたことがないであろう程の轟音はそれらすべてを乗せて、このツアーの最後を飾り、カワノさんの絶叫でこの楽曲は砕け散りました。めちゃくちゃにドラムをたたいて煽り立てるオオモリさん、口を大きく開けて肩で息をしながらベースを殴るタカハシさん、どうやってそんな音出してるんだっていう歪んだフィードバックを振り撒いてギターを投げ捨てたフジタさんを置いて、カワノさんはギターのシールドを引っこ抜いて、ジャガーを抱えたままステージ袖に消えていきました。最後の1音が鳴って、遅れて三人も退場。大勢の拍手で、この日のライブは、もう四人が出てくることはありませんでした。

おわりに

終演後、すれ違う人がみんな、抜け殻のような表情で「やばい」とつぶやきながらぞろぞろと出口に向けて歩いて行ったのが印象的でした。年齢や性別問わずいろんな方が来ていて、よくある若いロックバンドのコンサートとは質を異にするこのCRYAMY独特のフロアの人間たちの姿を見て、彼らを信じて、彼らの音楽を求めてきた人たちのことがまたいとおしく感じられた日でもありました。
トリプルアンコールを求める拍手も起こっていましたが、この日はなし。カワノさんも「次まで取っておけ」とインスタでおっしゃってましたから、そうしたいと思います。思い返しても聴けなかった曲も多々あり(「ディスタンス」はやはり最後まで封印されていましたし、「ten」や「完璧な国」なども都内では演奏されることはなかったようです。)、いつになるのかはわからないですが(カワノさんはワンマンを好んでないみたいですし…。)、次回のワンマンは新曲も込みで、この日を上回る演奏とボリュームを期待して待っていようと思います。

僕は離れてみていた友人とライブハウスの外で合流してともに帰宅しました。お互い、耳鳴りがすごくて、一生懸命話すんですけど、二人とも声が小さいからよく聞こえなくて、笑ってしまいました。あの日、彼と小さなライブハウスで見たCRYAMYは、もうこんなライブをして、これだけの人を愛することができる強さを身に着けて、そして、これから先、もっと多くの人を救っていくんだと思います。ライブ後、涙で頬にあとの残った友人の顔を見て、本気でそう思いました。

次回のワンマン、本当に本当に心から期待しています。そして、その日はCRYAMYが好きなすべての人と一緒にみることができたら、それ以上にうれしいことはないと思っています。

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