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[CRYAMY全曲考察]#3

「#3」
2109年12月25日発売。

#3

はじめに

CRYAMY初の店舗流通盤。かつ、ファンの間でもCRYAMY最重要盤として挙げられることの多い作品です。個人的にも今作はCRYAMYを通るうえで最も重要な作品と言っても過言ではないと思っています。
この作品以降、根本は変わらずともCRYAMYの歌詞性は大きく進化した、と以前の記事でも書いていますが、そういった意味でも現在のCRYAMYの音楽表現の根幹をなすような一枚とも取れると思っています。今作からカワノさんは自分のことをはっきりと歌うような歌詞に変貌して、さらに他人や自分の生きる世の中のことについて歌うスタンスを見せ始めました。
もっとわかりやすくいうと、カワノさんが日ごろMCで僕らに伝えようと懸命に吐き出す言葉がようやく歌としてパッケージングされた、という印象を個人的には抱きました。この時期までのカワノさんは楽曲では悲しいことを(今でも基本的にはそうですが。)歌にしながら、MCではその悲しみを歌で取り除こうとする姿勢が反対にみられていました。ようやくカワノさん自身の思いと歌のベクトルが一致した作品になったからこそ、ここまでの熱量と説得力を獲得したのでしょう。

本作については現在ライブ物販で販売されている「CRYAMY新聞」での1コーナーでは本作について、活動初期から彼らの活動をおい続けている「音楽と人」の編集長の金光さん(学生時代金光さんのインタビューを読む機会も多く、syrup16gなど、カワノさんが影響を受けたバンドのインタビューも担当されています。)がコメントを寄せてらっしゃるんですけど、彼らの歌の視線が外に向き始めたことに言及されていらっしゃいました。他の方のコメントも面白いので、ライブ会場に足を運んだ際は是非一読してみることをお勧めします。

全六曲という構成ですけど、再生時間が六分を超す大作が2曲も入っているので思ったよりもボリューミーな内容になっています。そして驚くべきは実質のリードトラックがその大作2曲だということ。
昨今ストリーミングサービスやティックトックの普及に伴って音楽の作り手側にも変化が見られる、というような評論も数多く目にします。具体的にはイントロの省略、サビへの突入までの時間の短縮、曲全体を三分以内に収める…など。日本だけではなく海外もその空気があるようです。
ですが本作の「世界」と「月面旅行」はそのセオリーと全く反対の曲構造をしています。展開の多いイントロ、ブリッジとなるBメロの存在、長尺のギターソロなど、これでもかとギターロックの王道を盛り込んだ楽曲ですね。

曲の多様性も実に幅広いです。「世界」「sonic pop」などの王道の疾走感あるエモパンク風のロックから、「easily」のようにオルタナ、グランジの影響を感じさせるミドルテンポの楽曲、三拍子にJPOPライクなメロディを乗せた「プラネタリウム」と、アルバムとして通して聴いてもバラエティ豊富な一枚になっています。
本作の制作はかなり難しいものだったとカワノさんは語っておられましたが、その甲斐あって、名盤が完成したのではないでしょうか。歌詞の変貌や楽曲の進化など、名盤であると同時にCRYAMYの根幹をなす、(流通盤として)デビュー作にふさわしい一枚であると言えると思います。

1.世界

詳しくは個別記事で書いていますのでそちらを参照ください。

第一曲目を飾るにふさわしい疾走感のあるロックサウンドでこのアルバムは幕を開けます。CRYAMYのCDは序盤速くてノイジーな楽曲で一気に畳みかけて、後半のドラマチックなバラードを経て、再び激しいロックに回帰する…という構造のものが多いですね。今作もそれにのっとったつくりをしていると思います。
また、カワノさんいわく、今作は一曲目から六曲目まで再生して、ループで一曲目に戻った際にまた再びテーマがつながるように作られている、とのこと。いつかの日記で言及されていました。そう考えると今楽曲の中盤を飾る印象的な三拍子の展開が最終曲につながっているとも読み取れますし、「プラネタリウム」で描かれる「願い」の正体は今楽曲で描かれた世界である、ともとれますね。以前の記事でカワノさんの作詞でのストーリーテラーとしての才能について書いたんですけど、今作からこのようにCRYAMYの各楽曲がリンクしていくような作詞が垣間見えるようになったことも特徴かもしれません。

2.Sonic Pop

一曲目に続き疾走曲。開放弦とノイズをバーンとならして始まるスピード感のあるエモーショナルな楽曲ですね。疾走しながらも重さを持った「世界」と比べて、こちらはメロディのイメージも相まってビートが軽快です。
タイトルになっている「Sonic Pop」ってどういう意味なんでしょうか…。「sonic」は「音」とか「音速」とかそういう意味ですし、今楽曲の歌詞は「ただれた若き日々」とか「現在地から離れること」を一個のテーマとして作詞されていそうなので、「早くここから離れたい」みたいな意味なんでしょうか?

楽曲考察

「イントロ」

印象的に上昇するカワノさんのパワーコードがこのイントロのテーマになっていますね。このリフは「ART-SCHOOL」の「OUTSIDER」という楽曲に似ています。カワノさん自身影響を受けた音楽として名前を挙げていますし、サウンド面でもsyrup16gと並んで大きな影響を受けたバンドなんだと思います。


Aメロ

低い音程の起伏の少ないメロディを吐き捨てるように歌い始めます。ここのメロディ、少しハードコアっぽく感じなくもない…?アンサンブルはイントロから徹底してパンキッシュなまま進行していきます。

今作の中でも最も抽象的な歌詞の中で歌われているのは何か思いつめたような人間の姿のような印象を受けます。これ以前のCRYAMYの作品ではこういうかなり抽象的な歌詞の楽曲の方がむしろ多かったのですが、いま改めて聞くとむしろ新鮮に感じますね…。このブログでは推測や想像もはさみつつも、できるだけ事実として述べられている歌詞にフォーカスしていろいろ書いていけたらいいなぁと思っています。

乾いた肌の色 乞うように 這うように

Sonic Pop

砕いた錠剤で眠りを突き刺した

Sonic Pop

個人的な感想なのですが、カワノさんの曲には直接的ではないものの、結構こういう薬物やセックスを描写したと思われるワードが出てきます。CRYAMYの楽曲で恋愛や男女の関係を主題に描いた楽曲って本当に少ないんですけど、歌詞のいくつかにはこういう性的な光景なのでは?向精神薬や睡眠薬を飲んでいるのでは?という部分がカットインしてくることがあるんですね。

CRYAMYって個人的にジャンル分けの難しいバンドなんじゃないかと思っていて、そういうのもあって、彼らをいわゆる「青春パンク」的な分類をしているものにも出会ったことがあります。事実、疾走感のある曲も多いですし、ノイジーなギターも相まって、あとカワノさんは銀杏ボーイズ普通に好きですし、そういう見方をされても仕方がないのかなぁとは思うんですけど、僕的にあんまりぴんと来なかったんですね。
その違和感が間違ってないと思うのが、今楽曲で描かれる「ただれた青春」「メンヘラロックとは毛色の違うセックスや薬」の描写だと思っています。どちらの世界観もどちらかと言えばsyrupやtheピーズライクな、身もふたもなさをもって作られていますし、そもそもカワノさん、どっちも想像ですけど、青春パンク的な仲間たちと過ごす!的な明るい青春と無縁そうですし(ろくに学校にも行ってなさそう…。)、女性にモテなかった経験もなさそうですし…。
青春パンクの楽曲って、曲の主体となる人物が(幻想やロマンチックな世界を志向したり、現実に敗れたりしつつも)何かしらの出来事の渦中にいることが多いんですよね。でもカワノさんの楽曲って、割と俯瞰的に物事を見ていたり、渦中というよりは過去を振り返ってる視点の楽曲の方が多い気がします。特にこういった湿度の高い歌詞世界を軸とした曲ではそれが顕著ではないでしょうか。
なんか長くなってしまいましたが、僕の中でずっと引っかかっていたことだったので書いてしまいました…。僕はどちらのジャンルも好きな曲は多いですので、決して片方を否定してるわけではないんですけど、なんとなくずっと違和感だったので…。
余談ですが、カワノさんの世代に近しいバンドだと、SUCHMOS以降のシティポップから影響を受けたおしゃれなバンドや、逆に、銀杏ボーイズやtetoといった青春パンク直系のサウンドを鳴らすバンドのフォロワーの二大巨頭が多くて、あとは無難に歌ものやマイヘアフォロワーがいて…というシーンの構成のされ方のように思うんです。むしろCRYAMYとかは珍しい方で、BUMPやsyrupに代表される下北ギターロックの影響の濃いバンドだなぁと、僕は個人的にみていて思っていました。

この楽曲はAメロが二段構えになっていて、ブレイクを挟んで激しくなった後半の展開ではリードギターがカウンターでメロディを刻みつつ、メロディがよりメロディアスになります。歌詞もより抽象性を増していきますね。

唇の火傷が綺麗な 綺麗な桃色をしていた
計算違いだった カルキの味は嫌いだった
噴水に浮かんだ綺麗な色をした蝶の羽も
血が出るまで握っていた右手の感触も

Sonic Pop

ちょっぴり村上春樹っぽくもあるリズミカルな歌詞。冒頭の唇の描写が詩的ですね。後半の歌詞はサビにつながっていくものですね。
この歌詞が一体何を表した語句なのか…。正直、各々が推測していくしかないのではないかと思います。今書いていて、「カワノさん昔はこういう歌詞多かったな…。」と、本当に新鮮ですね…。今のカワノさんならこういう部分もズバリ言いきったり、生々しい表現でたたきつけてきそうな感じもします。
そう思う一方で、過去にカワノさんが発言していた言葉でこの楽曲にかかわりそうで印象的だったものが二つあります。
一つはこの作品をリリースしたときぐらいに、「残酷な物事やつらい出来事は直接的には書かない」というニュアンスのようなことを言っていたことです。この理論を当てはめると、この「Sonic Pop」という楽曲は、実は相当な悲劇を歌にしていることになります。前半の歌詞でも読み取れるように、セックスや薬物の描写があることからも、なんとなく何か暗い出来事を想像してしまいます。
でもそういった意味だと、「鼻で笑うぜ」とか「やってらんねー」とかは(薬やセックスほどショッキングではなくとも。)かなり暗い出来事を歌にしている気がするんですが…。まぁアルバム発売はこの一年後と考えると、カワノさんの心境に何等か変化があって、その主義が変わることも考えられますが…。
もう一つはライブ中の発言なのですが、「統合失調症の奴の歌」と発言してこの曲をスタートさせたことがあります。これは一体カワノさんとどんな関係の人をさすのかわからないのですが、「red album」でも「やってらんねー」の中に統合失調症の治療薬である「セロクエル」の名称が登場します。
嫌な勘繰りですが、「やってらんねー」はカワノさん自身のことを明らかに歌っている曲ですし、ひょっとしたらこの発言はカワノさんに向けられていて、「やってらんねー」とはまた違った視点から自身のことを歌った曲なのかもしれない、とも考えることができると思います。
あちらがこの楽曲よりも直接的な曲ですけど、逆にぼかされているからこそ感じる不気味さや重さは、リズミカルでアッパーな曲調と対照的に、この楽曲の方が持ち合わせている感じがしますね…。

「サビ」

ブレイクを挟んでサビの展開へ。一気にコード進行とリードギターのフレーズが開けた印象になって、メロディも音程が上がり、より起伏に富んだメロディアスなメロディへと展開します。

「どこにでも連れていけるよ」なんてそんな嘘をついてまで
「大事に持ってるよ」そう言って笑ったあなたを大事に思ってるよ

Sonic Pop

ここの歌詞、切ないですね…。徹底的に絶望的な状況(と推測される)を描写した歌詞を並べながら、その状況から「どこにでも連れていける」と、たとえ嘘でも言い切る誰かのことを思い浮かべて、今でも大切な存在として思いをはせているという…。
前作の「物臭」ではカワノさん側が大切な人へ思いを寄せる歌詞になっているんですが、こちらはサビの一部の短い歌詞ながら明確に他者がカワノさんへ思いを寄せています。あちらは「二人の些細な日常の崩壊の末の離別」が一つのテーマでしたけど、こちらはカワノさんだけの日常の崩壊がテーマになっている分、この他者の存在は深くは介入してこないんですけど、それに対してカワノさんはぽつりと感情をこぼすような歌詞ですね。
「心を落とす」という表現からも、抽象的ながら人間の精神がもろく崩れていく様子を描いてますし、同時に、「心を落とすまで」と、心が壊れてしまって以降は正気を保っていられる確信がないことも記されています。

「間奏~アウトロ」

間奏ではギターソロがさく裂しますが、こちらはCRYAMYには珍しくワウのエフェクトがかかったソロになっています。ライブでは特にエフェクトはかけずに弾いていますね。ソロ明けは静かな展開になって、サビへのブリッジのメロディを挟みながら、再びサビへ突入します。
サビの歌詞は一番と同様。これもカワノさんの作詞の特徴ですが、サビの歌詞は(メロディは変わることがあるのですが)楽曲中で変わることなく一貫している楽曲が大多数ですね。多くの楽曲でカワノさんはサビに明確に強く主張する歌詞を持ってくる人ですから、それを繰り返して歌うことにも説得力があります。
アウトロは曲中で一貫されていたコード進行からより明るく、開けたコード進行になってアウトロのギターソロへ。そして、コード進行は変わりながらもメロディは変わらずサビのメロディを歌って、最後はイントロと同様のリフに回帰して楽曲は終了します。

全体としてアッパーな曲調に激しいギターサウンドが乗る明快なロックナンバーながら、楽曲の歌詞は徹底的に絶望を描写した様な楽曲だなぁと思いました。二曲目にこれが配置された意味を考えてみると、「世界」で歌われたカワノさんのメッセージはこの楽曲で描かれた人物(カワノさん自身?)に歌われるものだ、という風にも、そのメッセージが届かなかった、意味をなさなかった人間のなれの果てである、という風にもとれます。
個人的に推す説は、アルバムの最初の曲と最後の曲がリンクする、という構造から考えると、実はこの曲が一曲目で、「世界」が所謂最終曲としての役割を果たしているのではないか、というものです。個人的にはこの聴き方をするのが一番腑に落ちました。「世界」とこの楽曲のリンクがいまいち想像できなかったんですよね…。

3.easily

ミドルテンポのすっきりしたアレンジと音作りなシンプルなギターロックですね。メロディやアレンジがなんだかかわいらしく、とてもポップです。MVもないですし、ライブでの演奏頻度も最近では高くありませんが、割とこの曲をお気に入りに挙げる人も多く、CRYAMYの楽曲の中でも隠れた人気の曲なのではないでしょうか。
ただ歌詞の内容はカワノさんの生活や考えに基づいたもので、こちらも結構暗いですね。暗いというか、投げやりというか、やけくそというか。今に始まったことではないですが、カワノさんの歌詞世界で最も多く描かれる光景が繰り広げられています。

「Aメロ」

少し歪んだベースから楽曲はスタートします。参考にしたのはおそらくピクシーズの「debaser」だと思います。ギターリフも似せているような気がしますね。

この楽曲もメロディラインこそないですけど、サビのコーラスだったり、サウンドやフレーズだったり、今になってみるとポップでかわいらしいつくりをしていますね。「easily」の方がよりパワーポップっぽいキメを多用していますけど、音像としては決して分厚くはない、このオルタナっぽいレンジの狭い少し枯れた音に近いです。

甘い文句は信じない だっていつだって優しくはないでしょう
愛想振り撒く姿をどうか信じさせてほしいよ

easily

開幕の歌詞から人間不信気味な文句…。けど相手のことは信じたい心境を描いています。カワノさんの歌詞には「人間の交流で生まれる痛み」を描いたものが多いですけど、この楽曲はその中でも「信頼」についてがテーマであることがわかります。

あんまり人に期待しない だっていつかはどっか行っちゃうでしょう
安心してる間に横取りがいつだって人間だよ

easily

ここの歌詞結構キーワードじゃないでしょうか。まず、カワノさんの寂しがり屋な一面がうかがえるんですけど、「どこかに行く」のを「裏切り」だととらえている様子がうかがえます。逆に言えばそばにいてくれればそれでいい、と思っているとも取れますね。前半の歌詞と照らし合わせてみるに、この歌詞の主人公から離れた人物は八方美人で人間を利用するような人だったのではないでしょうか。それでも一緒に入れればよかったのに、用済みとあらば離れていくような人…。
逆を言えば、カワノさんの他の楽曲で歌われているテーマですけど、カワノさんって決して多くを望んだり求めたりすることを描く歌詞ってない気がします。ただそばにいることに重きを置いているというか。
最後の「横取り」ってワードが引っ掛かりますね…。誰かにその人を奪われてしまった、っていうことなんでしょうか。断定はできないですけど、この相手っていうのは女性で、カワノさん、捨てられちゃったんでしょうかね…。

「間奏」

オーバードライブぐらいの乾いた音のギターリフが印象的です。個人的にはレイさんのこういうシンプルに寄り添うフレーズこそ真骨頂だと思ったりもします。特に歌中のギターメロディやアルペジオのつくりのうまさとか。

「Aメロ2」

ここでの歌詞は他人の姿が出てこなくて、曲の主人公の独白のような構成。テレビ見て落ち込んだり、ギャンブルでお金なくしたり、酒飲んでたり…。最近はあまりないですが、こういう情景として生々しい描写も最初期CRYAMYの楽曲の特徴ですね。近頃の作品ではよりメッセージ性や思想の面でのリアリティを追求した作詞になっていると個人的には思っています。たまにはこういう曲もあると嬉しいです。

水で湿った服を干したって誰も誉めちゃくれないでしょう

easily

このラインでは他の誰かの姿が見え隠れします。個人的には「洗濯」っていう、同棲生活で喧嘩の原因としてよく上がるテーマで誰かの姿が見えるところに胸が痛くなります。それをしたところでそれをほめたり、感謝する人はいないということがさりげなく示されていますね。

「サビ」

サビは直線的なリズムから一転してキメを多用した印象的なリズムで進みます。CRYAMYの楽曲では珍しいタイプではないでしょうか。
シンプルな歌詞ですが、自分を甘やかす言葉を思い返して、それを無責任だった、と断じています。曲の主人公は「甘い文句」で誰にでもいい顔をする他者の性質を見抜いていた、もしくは、それを突っぱねていたことがわかります。それゆえの別れだったのか、それとも、そういう人だったから突っぱねてきたけど結局相手の方から離れていってしまったのか…。

「Aメロ3」

あなたが仮に不幸になったって実際マジで構わないし
あなたが仮に不幸になったって私がいる保証はないし

easily

強烈に投げやりな文言ですね。でも口調がちょっと女性っぽくてなんだかかわいらしくも感じるアンバランス具合が癖になります。
一見完全に吹っ切れたものいいかと思われますけど、冒頭で別れをいまだに嘆いている主人公の様子を見るに、少し未練ったらしくも響きますね。続く歌詞で、

私が仮に不幸になったって絶対あなた要らないし
私が仮に一人になったって絶対あなた要らないし

easily

って断言する様子も、少し強がりのようにも響きます。仮に主人公が男性で、カワノさんだと仮定するなら、結構女々しいですね。カワノさん、尋常ではなく神経質ではあるけどそこまで繊細なイメージはないので、こういう一面を見ると意外です。

「サビ2~Cメロ」

サビ2は同様の歌詞を繰り返して、Cメロへ突入します。サビ2はそもそも歌詞は同じですけど意味合いが変わって聞こえますね。先述の歌詞を踏まえて、「それでいい」とささやいているような…。そう考えると、これすらも「甘え」「無責任」と言い切っていることから、主人公の苦悩が見て取れます。
続くCメロは詩的な表現で結局別れを惜しんだり、そんな自分を自嘲する描写でこの曲を負えます。

「「細やか」って綺麗よね」って君が笑っている

easily

美しい言葉だなぁと思いました。これまでの歌詞でぼろくそに貶してきた別れた相手も、こういう言葉を言える感性の持ち主だったんですね。だから惚れたのかもしれないですが…。
先日公開された藤本タツキ先生の読み切り漫画に「さよなら絵梨」という作品があるんですけど、あの作品の中で主人公の父が主人公に語った「人を自分の思い通りに思い出す力」についての言葉をなんとなく思い出しました。僕だったらこんな風に別れた相手の素敵な側面を思い出すこともなく記憶の奥底にしまってしまうでしょうし。

まとめ。ミドルテンポでメロディがポップな聴きなじみのいい(歌詞もダークさ控えめ。)楽曲なので、人気が高い楽曲であることにもうなづけますね。テーマ的にも男女の関係を描いていると思われる楽曲ですし、マイヘアとかyonigeが好きな人たちにもウケそう…。
こういう感想を思い浮かべるたびに、CRYAMYがもしサブスクやってたらいい線行ってるんじゃないか…とか思っちゃいますね…。カワノさんがサブスクをやりたがらない理由は各所で語ってますし、カワノさん自身たくさん語ってらっしゃいますが、「音楽は個人の体験として大切にされるべき」という哲学もあってなのか、仮に解禁されるとしてもまだまだ先の話になりそうですが…。

4.正常位

タイトルがいきなりぶっ飛んでますが、この楽曲に性的な描写は意外とあんまりないですね。歌詞から読みとくに、「正常」な「位置」って意味なんでしょうか。タイトルの「正常」や歌詞中に出てくる「翌日」というワード、少し複雑なリズムでベースラインが主人公である楽曲構造からsyrup16gを連想してしまいますね。
こちらは「easily」と打って変わって、カワノさん自身が人間関係を雑に扱っているような楽曲ですね。「約束を破る」ことがテーマになっています。そして最後の歌詞で彼から振り回される人のあきれているのか、思いやりがあるのかわからないような一言で楽曲が終わります。

「イントロ」

この楽曲は使われているコードがサビ以外は2コードだけですね。基本が3~4のコード(しかも結構使いまわし多め)という、あまりコード進行にこだわりを見せないCRYAMYというバンドにおいては逆に新鮮ですね。そこを縫うように動くもったりとしたベースのリフレインがこの楽曲の核になっています。リズムも単純なビートではなくて少し凝ったフレーズをたたいていますね。

「Aメロ」

非常に抽象的な歌詞ですが、とにかくここで繰り返されている「誠実な距離感」を大事にしていながらも、それを取り戻すには至っていないことが描写されています。

ゴミ箱を空にする そんな風にできたらいいよね

正常位

のちの歌詞で記されるのですが、曲中で怠惰から約束を果たせない人間の姿を描いています。その人間の、ちょっとめんどくさくなって人間関係を雑にリセットしたがっている様子がここから見て取れますね。
で、なんでこういう解釈の仕方になったかというと、カワノさん、日記でよく人と会う約束バックレて家に引きこもっていることをよく書いてらっしゃるんですね(笑)出不精の僕も気持ちはわかりますけど、何もそこまでではないのであまり共感できませんが…。そういうのもあって、解釈としては冒頭述べたような風で進めていきたいと思います。

「サビ」

リズムが頭打ちになって、リードギターもシンプルに味付けをする直線的なサビへ。ここでは曲の主人公が自問するような歌詞で進んでいきますね。

いつから翌日の予定は空いている?

正常位

それを決めてるのお前だろ!って感じですが(笑)この後、一応風呂に入ったり、出かける準備のほんのさわりぐらいはやってるのが示されてたりはするんですが、約束を放棄しているのは自分自身であって、この問いかけも結局は無意味という…。
カワノさんの歌詞って自己否定や自分を強烈に批判するものはあるんですけど、ダメ人間ぶりや情けなさを売りにする歌詞ってあんまり出てこないんですよね。同情を買おうっていう姿勢がなくてそこが僕の好きなところでもあるんですけど、この歌詞は唯一カワノさんの人間の怠惰な部分が克明に出ている歌詞ですね。それもそういう姿を歌詞の一環として表明してキャラ付けする、って感じではなくて、あくまで描写としてはさらっと流した感じで。あまりいやらしさを感じません。
余談ですが、名前は出さないですけど、カワノさんの世代のバンドってそういう「ナードだった自分」を売りにした歌詞の人多いですよね…。自己批判や自責の念っていうのが全く感じられない、「俺ってこういうキャラで、こういう人生だったんだぜ!」って主張する悪い意味での青臭さって僕は苦手です…。やっぱり彼ら周りであんまり好きなバンドいないんですよね…。好きな人いたら申し訳ないですけど…。

「Aメロ2」

ここら辺は読み解くのがわかりやすいかと。前々からの口約束や、具体的に旅行の計画など、そういうものを一切放棄して、最後は

今日も漫画読んで寝ていたら終わったんだよ

正常位

ですからね…。どれだけ出不精なんでしょうか…。カワノさんってちゃんとまめに打ち上げに出たりするタイプだと日記からは伝わってくるんですけど、多分休日とか、バンド関係なく誰かと会うことってもしかしたら好きじゃないんでしょうね…。確かに僕の想像のカワノさん像って部屋で寝転がって電気つけないで漫画読んでたり映画見てるイメージ…。

「Cメロ~アウトロ」

Cメロは「テリトリアル」にみられたようなカットアップチックな単語を羅列するパートを含む歌詞ですね。「12月の雨」は「twisted」に「師走の雨」の歌詞が出てきてますが、関係があるんでしょうか…。あちらもテーマとしては人間関係で、むしろ交流を失った主人公が拗ねていく様子が描かれていますが…。関連は今のところこの一節だけで、関連ありと断定するのは難しいですね。
最後の、「嘘」っていうのはなんなんでしょうか。割とすんなり考えると、約束自体を嘘と断じている、って意味で通じそうです。

そして最終節で、歌詞はサビとも共通しますが、こちらは「?」マークが外れているし、「いいんだよ」というワードからも、彼の怠惰を許す他人のかけた言葉だと読み取れます。「気にしないでいてね」という言葉をわざわざ入れてくるあたり、罪悪感はありそうですね…。

まとめると、この楽曲は曲の主人公の怠惰ゆえの人間関係の齟齬、がテーマの楽曲ですね。でも取り扱っているテーマが(軽くはないですけど。)CRYAMYにしてはそこまで重くないので、相対的に暗いムードが漂う楽曲なのにそこまで重い感じには感じないですね。ほかがどれだけヘビーなんだ…って話ですけど。
アレンジもベースメロディが主軸で面白いです。タカハシさんはグルーブ感重視というより、リードギターと同じくメロディフレーズを奏でるのに徹している印象があるんですけど、この楽曲はそのフレーズ自体が主役になっている珍しい一曲だと思います。

5.月面旅行

今作のリード曲でもあり、おそらくパブリックイメージとしてはCRYAMYの代表曲という扱いになっているであろう楽曲ですね。ライブでもここぞ、というときにいまだに演奏されている楽曲ですし、この楽曲が演奏されだした当時、カワノさん自身も大切に扱っている楽曲であることをMCなどで折に触れて言っていたりしました。

MVでは砂場で演奏するバンドシーンと、放浪するカワノさんの姿を追いかけたもの。それまでの手作り感のあったものとは違って本格的なMVとして世に出たのは今作が初ではないでしょうか。
カワノさんが砂場を全力疾走したり、峯田和伸さんが当時ライブで着てたようなジャージ(カワノさんいわく、サチモスのYONCEさんっぽいのが欲しかったけど高かったから峯田さんも好きだしこっちにした、とのこと。)を着ていたり、少し挙動や服装が幼いのも今見ると面白いですね。おそらくこの時期、カワノさんは22歳~23歳と、歳で言うと大学を卒業したぐらいの年齢ですから、まだ元気さや活力が見て取れます。今もないとは言いませんけど、歳を取ったからかもう少し落ち着いて、エネルギッシュってよりは鋭くなった印象がライブだとあります。服装もシンプルにTシャツ一枚とかのことが増えましたし。

今でこそミドルテンポのバラードナンバーも増えてきたCRYAMYですが、この楽曲が出るまでは、どちらかと言えば疾走感のある楽曲やノイジーな重たい曲を連発するようなライブをするバンドでした。この楽曲ができたことで、ライブにドラマチックさが加わってよりカタルシスのあるライブ運びをするバンドに進化した印象です。
そして特筆点ですが、こういうタイプのCRYAMYのミドルナンバーってどれもアレンジにひねりのあるものになってるんですね。この曲もギターはシンプルですけど、Bメロでフックになる複雑な刻みのドラムパートがあったりしてます。たしかにミドルテンポのバラードってバンドによっては過去の焼き回しや、似たり寄ったりの「とりあえずテンポ遅くしただけの楽曲です」風のものが占めることが多い(インディーズバンドだと特に。)んですけど、CRYAMYは楽曲ごとにちゃんとすみわけを考えて作っている印象です。
そして、今でこそ歌ものバンドが流行っているシーンの特性上、ミドルテンポ~ローテンポのバラードを売りにしたバンドは少なくないですが、CRYAMYは速くて破壊的な楽曲にこうした曲を挟み込んでくることで、ライブの表情を一変させてくるバンドですね。ライブの強みって演奏力とかパフォーマンス以前に楽曲の見せ方があると思うんですけど、そこがCRYAMYって強いです。っていうかセットリストの組み方もうまいなぁと毎度見ながら思ってます。
そんな彼らのミドルテンポの曲の中では「月面旅行」は割と素直なアレンジがなされた楽曲ですね。だからこそ今でも広く多くの人たちに周知された楽曲になっているのだと思います。

この楽曲は「crybaby」のリリースパーティーで、新譜に収録されていないにもかかわらず突如ライブの最終盤で演奏された楽曲でした。僕は仕事終わりに駆けつけて彼らの出番に何とか間に合ったので後方の方で聴いていたのですが、それまで荒れ狂っていたフロアが一気に緊張感ある空気になって、一人一人が浸るように聴いていたのが今でも印象的です。
おそらくこの楽曲を一個のテーマとして出来上がっていったのが今作「#3」なのではないでしょうか。

あと、ライブ中明言を連発するカワノさんですが、この「月面旅行」前のMCはどのライブでも彼の心情を上手に伝えられていることが多くて、そういう意味でも、彼の心の内を代弁するような楽曲なのかなぁと、勝手に思ったりもしています。

「イントロ」

ゆったりとカワノさんの歌とギターで楽曲がスタートします。音源だとわかりにくいですが、ここの部分、ライブで聴くと本当に迫力があるんですよね。声とギターだけなんですけどなにかせまってくるものをいつも感じます。また、最近ではここのギターにエフェクトがかかっているのか、音源よりもより空間っぽい音作りで鳴らしていたり、単純にカワノさん自身歌唱力が鍛えられていて、個人的にはライブで聴く方が好きな曲ではあります。

サビをまるっと歌い終えて、バンドが合流します。リードギターはサビでもAメロでもなく、印象的なBメロのメロディをなぞったフレーズを弾いていますね。音階の話なんですけど、このBメロのメロディはギターで言うところのペンタトニックスケールという、わかりやすく言うと、ものすごく王道な音えらびの範囲内で作られていて、そこで作られたフレーズやメロディは、なんとも懐かしい響きというか、古臭い響きというか、そういう趣を持った属性の音階で構成されてるんですね。ギターでは真っ先に習得をお勧めされるスケールだったりします。そして、これはギターでなぞることが多いスケールなんですけど、カワノさんはこれをメロディ内でなぞる楽曲が多いです。だからこうした印象的なメロディになるのかなぁと、素人ながら分析しています。
あと、地味にドラムが難しいビートを刻んでいますね。個人的にはギターの絡み方も含め、ハヌマーンの「トラベルプランナー」を想起しました。

「Aメロ」

個人的に「月面旅行」はCRYAMYの楽曲の中で一番「詩」と「メッセージ性」のバランスが良く高次元で完成された歌詞だと思っています。
というのも、カワノさんの歌詞ってどちらかに振り切った楽曲がほとんどなんですね。カワノさん自身の明確に伝えたいメッセージを100パーセントでたたきつけてくる楽曲と、詩情を大切にして構築された楽曲の2パターンが、どちらかに振り切り気味に作られていることが多いです。
しかし「月面旅行」はその両端に振り切れることなく、実にバランスよく作られているのが歌詞からも読み取れます。どちらが優れているとかそういう話ではないのですが、CRYAMYの作品の中でも詩の完成度として高次元に位置する楽曲の一つではないでしょうか。

三年おきの後悔と逃した二年の歳月で
曲がった背筋の分だけ見つめた屑が舞っている

月面旅行

カワノさんは17~18歳で上京後、22歳までバンドが組めなかったことを明かしています。以前バンドを組んでいたことも語っておられますが、そこからCRYAMYを組むまでに実に四年から五年の月日を要したことがわかります。これはそのことを歌っているのではないでしょうか。
冒頭の「最終的な計画」がカワノさんの夢の終着点だとすれば、そこにたどり着くまでの第一歩を踏み出すまでの決して短くはない(特に十代後半から二十代前半までの青春と呼べる貴重な時間です。)歳月をこのように描写していると考えると、この曲はカワノさん自身の孤独に過ごした青春時代と、その時間で味わった虚しさを主題とした楽曲のように思えますね。
また、カワノさんの楽曲の…というか、ライブでもそうなんですけど、彼のスタンスは、こうした個人の経験に基づく絶望を決して「個人の経験」の範疇に押しとどめることなく、リスナーの人生まで拡大して歌を届けようとするところに特徴を見出せます。
この楽曲を演奏する前のMCでは、「人間の孤独」や「理想を追うことの苦悩」、「誰も救ってはくれない現状」を思う発言を毎ライブしています。この発言からも、カワノさん自身の楽曲が個人のドラマで完結することなく、個人個人にゆだねられて意味を持ってほしい、という彼の思いを感じることができると思います。
だからこそリスナーは一人一人が楽曲に自分の心を重ね合わせることができて、そこに説得力や真実味を見出せるのではないでしょうか。ここに、詩の内容が普遍的であったり、誰にでも当てはまる表現をせずとも、非常に尖った世界観の楽曲でも誰かの人生の一端に入り込んでくるような、CRYAMYが「人間」のバンドであるという証拠がある気がします。

「Bメロ」

印象的なメロディとこの楽曲のフックになっているリズムパターンで進むBメロですね。よく言及されますが、ここのメロディはGOING STEADYの「銀河鉄道の夜」のオマージュととる向きもありますが、個人的には出だしのメロディ以外はそんなに…って感じなんですよね。
どちらかといえばfoo fightersの「everlong」っぽさを感じます。まぁカワノさんは随所にこういうオマージュを仕込みますし、この楽曲の服装は完全に峯田さんですから、おそらく「銀河鉄道の夜」もイメージしたのかもしれませんね。タイトルも近いテーマですし。

メロディはリズミカルに単語を刻んだ進行をします。歌詞は詩的ですが、ここで描かれていくのは夢や理想を追求する過程で摩耗していったカワノさん自身の情熱を表現した、とみていいと思います。
そして、ここでドカンとサビに入ってもいい展開を見せていますが、さらにここで間奏を挟みます。ここで安易にサビに行かない展開が後半のサビの爆発力につながっていく重要な一因ですね。

「Aメロ2」

案外浮かぶ他愛のない味気ないそれをあなたに向かって
後で言うのはちょっとずるいよな

月面旅行

ここで登場する「あなた」は、特定の個人に向けて、というよりは、カワノさんの描く「理想そのもの」に対するもの、と個人的には解釈します。
夢を追う過程で疲れ切った人間はだれしも「こんなはずではなかった」と不平を漏らしてしまうものです。時には夢を見るという行為を後悔することもあるでしょう。カワノさんはそれを「他愛ない」と言い切って、そんなことを後から文句のように言う行為を「ずるい」としています。
これはカワノさん自身の強さでもあり、同時に同じ状況に置かれている「強くない人」にはない視線で描かれた歌詞ですね。共感をする、というよりは、それを「他愛ない」と断言するほどに(文句を言うほどの期待もしなくなってしまったほどに)摩耗した人間の姿を見て胸が痛くなる、そんな聴き方をしてしまいます。

「Bメロ2」

繰り返しの歌詞で、ビートはシンプルに回帰し、サビへの疾走感を強めていきます。
余談ですが、カワノさんの楽曲はBメロの存在感がある楽曲が多いですが、二回目のBメロが登場する歌ってあんまりない気がします。というか平歌を省いてCメロ、Dメロと新しいメロディを出してどんどん畳みかける展開を彼は好んで使いますね。繰り返しのメロディっていうのはサビぐらいで、あとはどんどん贅沢にメロディを並べていくという。カワノさんってdemoなんかの投下頻度を見るに作曲のスピードが尋常ではないんですが、多分メロディを作り出す才能にずば抜けているんだろうなぁと思います。

「サビ」

よほどのことではない限り誰も死なずに済んでいる

月面旅行

サビで繰り返されるこの言葉にこの楽曲のメッセージは込められているんだと思います。そして、同時にこの前提を覆す最後の一節こそが結論というか。
先ほどから理想の追求の果てにどんどん疲弊していく姿を描いた歌詞だ、という風な書き方をしていますが、このサビの歌詞はそんな状況すらも冷酷な見方をしていて、「どれだけ傷つき追い詰められても人間は生きながらえる」と断言しているんですね。鋭い視線です。
っていうか、カワノさん、自分に厳しすぎやしませんか…。厳しいというかもはや自分を責めたり批判するのに過剰なほど執着しているとも思えます。それも鬱ロッカーを気取った浅いものではなくて、どの楽曲でも徹底して自分の逃げ場や言い訳を封殺して(この楽曲ではBメロ2が顕著。)やりこめるあたりに狂気すら感じます。「ずるい」という言葉まで使っているし。
裏を返せば、カワノさんは先ほど述べた通り歌詞の解釈を拡大して届ける信念のあるボーカリストですけど、この歌詞のように「生き延びてきた人間」に対して自己開示をして、その状況を事実として突き付けている、ともこの楽曲ではうけ取れます。
そして自己開示をしたうえで、「そんな生涯も肯定する」というニュアンスというか。これは歌詞が、というよりもMCであったり、そもそも他人には攻撃性を見せないカワノさんの歌詞の特徴であったりから考えることですが。
ともかく、リスナーは彼のそんなメッセージをサビで明確に突き付けられるわけですね。そして、それを受け取ることで人それぞれが様々な感情を抱く…。ある人は自分のこれまでの生を肯定するきっかけとなったり、ある人はこれまでの生からこれからの未来が続くことを示されたようで励まされたり…。僕はそうでした。
物凄く不思議なのが、僕個人としてはこのサビのラインはカワノさんが自身を責めているように感じ取ったのですが、これを自分に拡大したときに、なんだか自分のみじめに思えていた時間とそれでも生き延びてしまった申し訳なさを許された感覚だったんですね。カワノさんの拡大した楽曲の持つメッセージはシンプルに言うのなら「生き延びちゃった」っていうことに収束していくのですが、その結論は自分を責めていたとしても、時として人を許す表現にもなりうるというか…。
改めてすごい楽曲ですし、カワノさんの作詞の中ではこういう「意味の変容の余地」を残すものっていうのは珍しいですし、「月面旅行」は彼らの代表曲と言われていますが、決して衝動的にストレートに出来上がった曲ではないことがわかりますね。

「間奏」

ここで間奏に入って、長いギターソロが演奏されます。ライブでは結構アレンジを利かせたソロになっていたりもしますね。あと音源よりももっとノイジーな音像をしていて、迫力があります。
ギターソロが明けると静かにその余韻が減衰していくような感想を挟んで、Cメロへ。豪華に時間を使った感想ですね。CRYAMYはイントロや間奏にもしっかりアンサンブルで展開を作った楽曲が多いです。

「Cメロ」

印象的な歌詞が紡がれますが、最終節の

愛されちゃいたいと思っちゃって
馬鹿なくせに笑って息してたら良かったのに

月面旅行

この歌詞は強烈です。理想というものに対して高望みをしてしまっていた自分、妥協してあらゆる苦悩をかわすことができたかもしれない自分を見事に描写しきっています。
しかも辛辣ですね。茶化したような歌詞が鋭いです。カワノさんって他人に対しては笑いやおふざけに絶対逃げないしものすごく真剣な人間だということが伝わってくるんですけど、こと自分に対象が向くと、こうやってちゃかしたり、面白おかしくして馬鹿にしたり、残酷性をむき出しにした歌詞が頻出です。
カワノさん(というかCRYAMY。)を「怖い」「近寄りがたい」という人が一定数多くいる理由は、外見や目つきの恐ろしさとか、ライブでのパフォーマンスの激しさや気難しそうな印象の人間性とかももちろんあるとおもうんですけど(なれてくると、まぁたしかに怖いですけどかわいらしいところもあるし、ちょっと口数多い変な兄ちゃんなんですけどね。)、個人的に「怖い」と感じる要素があるとすれば、さらっとごく自然に見せるこういう狂気じみた「自傷に近い歌詞」なんですね。いつも、何もここまで言うことないだろう、という歌詞を入れ込んでくる感じと言いますか。
そして、このように自己を徹底的に痛めつけたうえで、最後のサビに接続します。ここまで徹底的に痛めつけた自分ですら結局は「生きること」を選ぶんだ、という宣告のようであり、「生存や実存」というカワノさんの歌詞のテーマをより生々しくリスナーにぶつけてくるようでもあります。

「ラストサビ~アウトロ」

最後のサビを歌い終えて、Dメロへと流れます。ここでの歌詞は最後を飾る重要な一節でもあり、この歌詞の前提を覆す強烈なものとしても機能していますね。

消えるのなら後は追わせてね

月面旅行

さんざん、人間は傷ついても追い詰められても、結局は生を選ぶんだ、と突き付けたうえで、それでもその命を失うというのなら、そこには自分も連れ添っていくよ、という、この楽曲のメッセージを根本からひっくり返す言葉であり、はじめてこの楽曲中でリスナー(というか自己の世界から見た外界。)に矛先の向く歌詞であり、そして他人に究極に寄り添うように響く、そんな歌詞ですね。この歌詞があるからこそ、サビの強烈な文言が意味合いを変えてリスナーを救う歌詞になりえているのかな、と、ここまで書いて思った次第です。

そして、人それぞれの解釈によるし、これは僕個人の思いなのですが、これって恋人の心中みたいに共倒れしてしまう結末を思い描く人もいると思うのですが、ライブでのカワノさんのスタンスから、この「後を追う」っていうのは、「後を追って連れ戻す」っていうニュアンスにもとれると思うんですね。
そもそも冒頭の「世界」がそうですし、カワノさんのライブでの発言も、「人間の実存や生存」に訴えかける言葉が核になっています。そしてそれは時に「あなたが生きていてほしい」という言葉で我々に投げかけられるんですね。
そういった姿勢や思想を持った人間のバンドだということから、これは新たな解釈となるかもしれないのですが、決して悲しい結末を描き切った曲ではなく、その「命」を追って、つなぎ留めたい、という曲なのではないでしょうか。

最後は勝手な解釈になってしまいましたが、「月面旅行」の考察を終わります。繰り返しになりますが、CRYAMYの代表曲であり、それにふさわしく非常に高次元に構成された歌詞と、六分もの長さの曲を聴かせきる優れたアレンジが共存した一曲になっています。
この楽曲から彼らの楽曲を知った方が多くいると思いますが、この文章が少しでも彼らを知っていくうえでの助けになれば、これほどうれしいことはありません。長い文章ですが、この「月面旅行」の部分だけでもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。

6.プラネタリウム

ノイズが徐々にフェードインしてスタートする、本作品の最終曲になります。ライブだと長いセッションのような展開を挟んでから楽曲に突入する展開を最近では披露していますね。
CRYAMYの楽曲で現状唯一の三拍子の印象的なリズムで進行していく楽曲です。本作で一番純粋なポップソングですね。ラストを飾るにふさわしい楽曲です。
MVはカワノさんが室内でギターを演奏する姿をメインにした、少し幻想的な雰囲気で描かれたものです。映像の質感や花瓶に添えられた花など、これまでのMVとは少し異質なタッチの作品になっていますね。

「イントロ~サビ」

この楽曲はサビ(という認識でいいのでしょうか。)からスタートします。しっかりと展開を刻んでいくCRYAMYの楽曲では珍しいですね。また、歌からスタートするという楽曲も数多くはないので、リズムの特異さもあって印象的な楽曲です。ギターをアルペジオで反復させる単純ながら美しいギターのリフが楽曲に切なさを加えていますね。

願っているよ 叶うように

プラネタリウム

サビのメロディで繰り返されるこのワード。何を願っているのか、というのは明記されてはいないですが、これが「世界」につながっていくと解釈すると、「世界」で繰り返し述べられている「あなた」の生存、といった解釈で構わないと思います。

祈った言葉が空に星と溶けてゆく

プラネタリウム

詩的ではかない表現ですね。「言葉が溶ける」という表現はポジティブにもネガティブにもとれる絶妙な表現かと。「月面旅行」に繋げるなら願ってきた思いが成就することなく溶け出していくと取れますし、「世界」への接続を考えると願いを空に託して祈り続ける姿を思い浮かべることができます。どちらの楽曲も「空」をモチーフにした歌詞が登場しますし、これはどちらとも取れる歌詞となっているのではないでしょうか。

「Aメロ~ギターソロ」

間奏を挟んでAメロへ。「プラネタリウム」は解説や考察を挟むのも野暮なくらいまっすぐ心情が綴られている楽曲なので、わざわざ僕が書くことって意外と少ないなぁと思ったりしています。

悲しい思いをさせたくないだけ

プラネタリウム

以前の記事にも書きましたが、カワノさんは悲しいことを本気で悲しんでいる人だ、というのは楽曲を通して伝わってくるかと思いますが、同時に他人が悲しい思いをすることも拒む思いも持ち合わせているのがこの歌詞に反映されています。彼らの楽曲からは「悲しみからの脱出」というメッセージを感じるのと同時に、「悲しみとまっとうに向き合う」という視線も外すことはできない要素ですね。

二度目のサビを経て、ギターソロへと展開していきます。サビのメロディをまっすぐなぞったギターソロですね。

「Cメロ~アウトロ」

あなただけ 私とあなただけ

プラネタリウム

最後のメロディです。この短い歌詞の反復でこの楽曲はアウトロに流れていき、最後はサビの最後の歌詞で楽曲が終了します。
カワノさんは先日の日記でも言及していましたが、音楽体験(というよりもCRYAMYの楽曲、でしょうか?)を個人的なものとしてとらえることを大事に思っていることがうかがえます。そんな思いをこの歌詞からも感じ取ることができますね。
CRYAMYのワンマンライブで恒例の「CRYAMYとわたし。」というタイトルも、この楽曲とのリンクを感じます。彼らの音楽やライブでの感動はリスナー一人一人のものであるべし、というメッセージでしょうか。もしくはカワノさんがフロアの人間に対して向き合うときの姿勢というか。
また、最終曲にこうした作曲者の基本的な創作スタンスを示した楽曲を配置していることや、そもそも今楽曲が切なくもさわやかなメロディラインのポップソングであることから、このCDを通して再生し終えたたとき、清々しい感覚を覚えます。非常にバランスよくまとめられた作品ですね。結構他の作品では、最後の曲で激しく疾走する楽曲で作品を閉じる傾向にあるので、その点では非常に新鮮です。

・おわりに

以上、「#3」全曲考察でした。コツコツと書き進めてきましたけど、結果的に文字数2万字オーバーの文章になってしまいました…。次回以降はもっとコンパクトにまとめようと思います…。
当初の予定ではもう少し客観的な文章が書ければ、と思っていたのですが、書き進めていくうちにだんだんと個人の考えや思い入れが強い文章になっていってしまいました…。個人的な解釈が多分に含まれてしまったり、深読みしたような記述がみられるのはご容赦いただければ嬉しいです…。

気づけば「#4」発売まであと少し。ひっそりとこのブログも続けつつ、発売を楽しみに待ちたいと思います。それでは。


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