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[CRYAMY全曲考察]世界

「世界」
「#3」2019/12/25発売に収録。

はじめに

#3

CRYAMYの記念すべき初の店舗流通盤。そして、CRYAMYのファンの間でも最重要盤としての立ち位置にあるものだと思います。ライブでの演奏率も高めで、(流通盤としては)デビュー盤であるのに六分を超える長尺の曲が二つと、その二つでミュージックビデオ(「世界」に関してはカワノさんの長いMCも含めた十分越えの大作ライブMVになっています。)が作成…と、なかなか尖ったつくりをしています。当時は主要都市のタワーレコード限定で流通された一枚となっていました。この時点ではまだ全国流通まではしていないですね。(全国流通は1st Full albumから。)
「#3」に関しては個別の記事にて詳しく述べていきたいと思いますが、この楽曲に関するテキストが膨大な量になってしまったのと、この楽曲はCRYAMYの歴史においても、CRYAMYというバンドを表す意味でも最重要の曲と位置づけられると考えられますので、あえて個別記事で深く語っていこうと思っています。

この楽曲について

ネット上ではCD収録の音源を用いたビデオではなく、ライブ映像がMVになっています。いつ見ても素晴らしいビデオです。ここで語られるカワノさんの言葉でいったいどれほどの人間が自分の中に光を見出したんでしょうか。僕は実際この場にいたのですが、渋谷クアトロの優れたスピーカーのおかげで、普段はギターのハウリングがやかましくて聴こえないこともあるほどのカワノさんのMCが、ノイズにまみれながらもしっかりとマイクを通して聴こえてきて、涙を流しながらこの曲を聴いていました。

この「世界」という楽曲はCRYAMYにとっても(というよりカワノさんにとって?)、我々リスナーにとっても、重要な曲であることは疑いようのない事実だと思っています。普段のライブではあまりやらない(人気の曲なのに、長尺曲なので、時間に限りのあるイベントではやりづらいんだろうな…。)んですけど、主催公演やツアー、ワンマンライブ、大会場でのライブなどの、重要と目されるライブでは本当に一番最後に演奏されてきた曲で、残った力を振り絞るかのように万感の思いを持ってかき鳴らされる曲であることからも、この曲がCRYAMYを象徴する楽曲であることが伝わってきます。
一リスナーとしても、ライブの最後にこの曲を聴くと大団円で終われるので、イントロが鳴った瞬間堰を切ったようにすべての感情があふれ出てしまいますね…。間違いなく大名曲だと思っています。

歌われているのはシンプルかつ強烈な「人間賛歌」。自分のこと(ここではカワノさん自身)を救ってくれた人間の生存を願うようでもあり、反対にカワノさん自身がほかの人間の生涯を肯定して救うようでもある、そんな歌詞になっていますね。歌詞についても、後ほど詳しく記していきます。
白眉は大きくゆったりととったブレイク明けの爆発するサビの四文字。たった四文字「あなたが」と、メロディというよりはただ怒鳴るような絶叫で繰り返し、ひたすら疾走します。やけくそ気味の喉を絞ったような割れた声で叫ばれるこの四文字に、ここに至るまでに描かれてきたカワノさんの思いが一気に集約して放たれます。

ライブでは本当に一番最後に演奏されることが多いのもあって、大団円めがけてフロアがとてつもない盛り上がりを見せる曲でもあります。僕はライブでは整理番号にかかわらず結構後ろの方で見るのですが、この楽曲のサビで一気にファンの皆さんの手が上がる光景は圧巻です。この間のリキッドルームでのワンマンはPAセット付近の後方の一段階段で上がっているところから見ていたのですが、フロアに満員の人間が一斉に手を挙げるところを上から眺めるのはかなりすごかったです。(この日のライブの様子もいつか推敲して記事にできれば、と思っています。)
付け加えると、この日は後方も人でいっぱいだったのですが、周りでは号泣する若い女の子、真剣なまなざしで見つめている若いバンドマンらしき青年、肩を震わせているスーツのサラリーマンらしき男の人など、感情は表に出さずとも、感極まっている人たちの姿も印象的でした。あと、横で僕よりもずいぶんと年上の中年のおじさんがものすごいテンションで手を挙げていたのも印象的でした。僕は世代関係なく刺さるロックが正解だと思っているので、勝手にうれしかったです。
カワノさんはインタビューや日記などで見るに、あまり大きなところでやるのに積極的ではない様子が見られますけど、年に一度くらいの機会でいいから、こういう大きいところで大勢集めてワンマンライブやってほしいな…と思っています。すごくいい光景だったので。

余談ですが、僕はこの「世界」という楽曲がCRYAMYの中で一番好きなんですけど、不思議なもので、彼らを好きな人と会話するとみんながみんな違う曲を挙げるんですね。僕が勝手に代表曲だと思っているだけで、実際はそれぞれが代表曲だと思っている楽曲があるのかも…。
かくいう「世界」も、別にYouTubeの中でもとびぬけて再生されているわけではないですし(そもそもCRYAMY自体が「バズ」とは全く無縁…。)、CD収録の音源はCDを買わない限り聴けないですしね。各々が思い入れを抱える曲があるんだと思いますが、こうしてそれぞれの思う代表曲がわかれるのもこのバンドの特徴であり、いいところでもある気がします。

楽曲考察

「イントロ」

イントロからすべての楽器がたたきつけられるように演奏されて、徐々に盛り上がってからブレイクを挟んでファズギターのオクターブフレーズとドライブするリズム隊で疾走していきます。ライブでは大概ここの演奏で感極まったフジタレイさんが右手から大量に血を吹き出しながらギターを力いっぱい掻きむしってますね…。
CRYAMYの楽曲はほとんどの曲でイントロがしっかり作られてることが多いです。この傾向は「#2」から現在まで、彼らの楽曲で見られる特徴ですね。
この曲は中でも、イントロの進行に合わせてしっかりと展開が作られています。3ないし4コードのパワーコードに速いエイトビートの非常にシンプルなロックサウンドの中でも緩急をつけて楽曲を構成していることがイントロを聴くだけでもわかります。

「1番Aメロ」

優しいあなたの正体は
ありふれた言葉たちだった

「世界」

冒頭の一節でもうすでに強烈。ここで断言された「優しさの正体」に、カワノさんの、「人間の言葉には意味がある」という思想が込められている気がします。ライブで精いっぱいに言葉を尽くす彼が、これまでも、そしておそらくこれからもそうするであろう理由でもあるのかもしれませんね。
決して難解な言い回しではないのに、「正体」や「言葉たち」というさりげなく用いられる絶妙な言葉選びが、ストレートな一節を詩的に彩っています。カワノさんの作詞は作詞における技術、みたいなものを一切排して作ろう、と試みて作品を作っていることが各所での発言からも読み取れるんですけど、確かに、キャリア通して彼の歌詞は、小難しい言い回しも、わざとらしい文学的表現も、韻を踏みまくることもないんですよね。
前回の導入の記事にも書いた内容にも近いんですけど、カワノさんの歌詞はこうして読み解いていくと、良くも悪くも「素朴」なんですよね。パッと目を引く個性や派手さはないんだけれど、自然と胸にすとんと落ちるというか。説得力もある気がします。
いや、本当に歌詞を書くのがとてもうまいんですよね…。最近のアーティスト…特にバンドに限ると、みんな同じようなものに影響を受けた歌詞だったり、逆に個性を出そうとしていろいろやったはいいけど何の感情も伝わってこなかったりなんですけど、本当にこの一節だけで彼が別格なのがわかる気がします。

「優しいあなた」というのはのちにリリースされる「red album」の中の一曲、「優しい君ならなんていっただろうね」を想起された方も多いかと思います。明言されたことはないですが、カワノさんの楽曲はひとつひとつがつながっているのでは?と感じられるものも多いんですけど、この二曲もそうなのかなぁと個人的には思っています。
「世界」は「のぼる太陽の朝焼け」が一つのシンボルとして用いられてますけど、「優しい~」は「沈む夕日の繰り返し」がそれなんですね。その対比構造から、この二曲のテーマが全く反対を向いていて、もっと言えば、「#3」と「red album」のテーマが根本的に異なっていることが想像できます。
「沈む夕日」をシンボルにした「優しい~」は、大事な人(「世界」よりも、より特定の人を思っていると思います。)から受け取った優しさと、それに対して何もできなかった無力感がないまぜになった心情を察することができます。「優しさ」や「優しい人」を失うことを、「日が沈む」と表しているのではないでしょうか。冒頭の歌詞に「優しい気持ち」や「朝焼けの色」というワードが出ていることからも、逆説的に「世界」で用いられている「朝焼け」は、「人間の愛情」とか「人を慈しむこと」のシンボルなのではないでしょうか。
長くなりそうなので続きは「red album」の記事でまとめようと思っています。「優しい~」はほかにもさまざまな意味を内包しているように見えますし、個人的に、衝撃的だったカワノさんの「red album」における「敗北宣言」にも通ずるものがあると思っていますので、そのあたりも掬ってまとめるべきだと思っています。
この二曲を比べてひとついえるのは、カワノさんほど逃げずに「絶望」と向き合ったうえで理想の世界に思いをはせる歌詞を書く人って、2010年代以降に現れたミュージシャンの中にはあまりいなんじゃないかということです。僕は個人的に2010年代以降のギターロックに漂う退屈さって、この「絶望」に対して向き合うっていう視点の欠如なんじゃないかと思ったりすることも多くて、だからこそCRYAMYの曲は異質だと感じることが多くありました。
カワノさんのあげるフェイバリットミュージックは、特に邦楽は割と2000代以前であることが多いですし、カワノさん、シティポップとか嫌ってそうだし…。サブカルに逃げてたり、シリアスなことを虚飾でかわしたり、(逆にそこまで深刻じゃない人間が深刻ぶったり?)フワフワしてたりするものとは真反対というか。

そして、これも大事なことなんですけど、カワノさんの歌詞って時たまこういう断言するような歌詞が入るんですけど、これも特徴の一つかなぁと思っています。カワノさんはインスタグラムの日記でも「何かを言い切ること」に対しての強い矜持のようなものを語っていることもありましたし。
直近の「音楽と人」でのインタビューでも言及されていましたが、カワノさんは自分が正しいと思っている世界へのあこがれや、そうであるべきだと思っている世界を目指すことへの徹底した意志のようなものを持って、歌詞を書いているんだろうなぁと想像できます。だからこそ、カワノさんの世界を見つめるまなざしは時にものすごい説得力を持って聴く人に迫ってくるのかな。

「1番Bメロ」

ここでドラムのリズムが変わってわかりやすく展開が移ります。リードギターもメロディアスになって、歌メロのカウンターメロディになっていますね。

あたたかい光はあなた
だからあなたが世界よりもだった

世界

ここの断定もさりげなく物凄いことを言っています。この楽曲の「あなた」は、恋人なのか、友人なのか、それとも我々リスナーのことなのか、人それぞれの解釈にゆだねられますけど、その人たちは今カワノさんが見つめている世界以上の存在だ、と言ってるんですね…。
これまでにも繰り返し、カワノさんが世界と対峙して曲を書いている、というようなことを書いてきましたが、世界と対峙して、絶望を見つめて、カワノさん自身もあたたかいものに触れて、その末に導き出した結論が、「あなたが世界よりもだ」という言葉なのは、実はものすごく重みがあって、真実に近い、真心からの思いなのだと思います。

CRYAMYの楽曲は、これから詳しく書いていきますが、時には目を覆いたくなるような曲もあるし、徹底的に心の沈んだ曲も多くあります。(むしろ希望的な意味合いを含む曲は少ないのでは?)その楽曲群の中にあるこの曲は、ライブの最後に演奏されることが多いです。カワノさんがこれまで味わってきた絶望や悲しみと対峙した末に生まれた暗い曲を連発した末に、演奏の最後、この暖かい言葉を結論として断言することは、この楽曲が安易な希望の歌ではないことに説得力を持たせるし、同時に世を覆う悲しみや絶望から誰かを救い出す大きな光として最後に我々に手渡されて、誰かの人生に光をさす結果を生み出しているのではないでしょうか。

「サビ」

あなたが

世界

長いブレイクが明けて、一気に最高潮のテンションでやけくそ気味に絶叫します。音源だと聴きとりづらいですが、サビの裏でリードギターがイントロのオクターブフレーズをアレンジした別のフレーズをファズギターで鳴らしていますね。シンプルな歌メロを縫うようにして楽曲に色を付けています。

サビは四文字だけをひたすら絶叫。音源でも鬼気迫るものがありますが、ライブではさらにそれを上回る迫力があります。楽器隊のつんのめり具合も異常なテンションでそれを後押ししてますね。
ライブではカワノさんがサビを歌う前のタイミングで両腕を振り上げて抱きしめるようなジェスチャーをするんですけど、あれを見ると本当に自分めがけて歌われるような気持になってしまって、ほんとに気持ち悪いんですけど、泣いてしまいます…。同じような気持ちの人いないかな…。

余談ですが、個人的に「#3」は後発のアルバムに比べて音像やアレンジも粗削りな印象ですけど、ボーカルの歌声の録音は実は一番好きなんですよね。カワノさんが絶叫したり声が割れていたりもするんですけど、一番丁寧に歌われている気がします。これ以降の作品は、歌声に限っては割とライブのテンションのままの録音が多い印象(勝手な想像です)なんですよね。CDの音源として聴く分にはこれぐらいのバランスが個人的には一番好きです。それともこのころはしっかり歌を補正していたりするんでしょうか?

「2番Aメロ」

たった100円出すだけで買えるようなコーヒーや
何億円もするビルがどこにでもあるようにあなたも
どうせ探せばいるようなどこにでもいるような人さ
それでも生きてて欲しいからあなたは生きていてね

世界

名文です。それ以上に言う言葉が見つからないです。
前半二行で突飛な対比が出てくるんですけど、これによってお金や数などの表面的で資本主義的な価値観にとらわれないで、目の前の「あなた」を見つめていることを表しているんですね。加えて、三行目のように、そんな価値観で測れば人間は等しく無価値と言わざるを得ないだろう、という平等で残酷な現実も突き付けることで、綺麗ごとのようには響かせない。
数や値段の価値基準で仮に何の価値もない人間であっても、自分にとっては「あたたかい光」で、そんなあなたに、「あなたは生きて」と告げる。ここに端的にカワノさんなりの「自分の基準に基づいた正しさ」の美学を見出すことができますね。

いつかまとめたいんですけど、カワノさんはSoundCloud上にでも音源をこまめに残しています。その中にある「天国」って曲のデモが僕はものすごく好きなんですけど、そこでも似たようなことを歌っていますね。「資本主義」というワードもそこから連想しましたし、「天国」は「世界」よりももっと残酷な部分にフォーカスしているようにも感じます。
やっぱりカワノさんの楽曲は一曲一曲がリンクしているように思えますね…。同じ出来事や人を違った目線や結末を持って描くという…。作詞家としての才能は言わずもがなですが、物語を構築する力もずば抜けたものがあるんじゃないかなぁと思っています。

「ギターソロ」

Bメロにはいかず(というかこれ以降BメロはDメロに組み込まれて登場しないですね)長いギターソロへ。CD音源だと出だしのフレーズがなんとなくレディオヘッドの「just」のギターソロっぽいですね。イントロの過激なオクターブフレーズも、そう考えるとここから着想を得たりしてるんでしょうか。カワノさんは初期radioheadが好きだ、ということもおっしゃっていましたし、フジタさんに関してはあまりうかがい知れないのですが、ひょっとしたら影響を受けているのかもしれませんね。

リズムが変わってハーフテンポになって重たくなった後、最後は一気にはじけたようにギターノイズをまき散らして着地点を見失ったままギターソロは終了します。なんなら、ここの曲展開は曲が終了したかのような感じさえありますね。初見の人はこれで終わりだと思ってしまうんじゃないでしょうか…。
このあと、テンポが遅くなって、三拍子のリズムになってCメロへと続いていきます。

「Cメロ」

前半はギターと歌の弾き語り、後半からワルツ調のバンドサウンドが参加してきます。繰り返されるベースラインが印象的ですね。ギターのサウンドも空間系のエフェクトが効いていてより幻想的な空気を演出しています。
CRYAMYのギターサウンドは強烈に歪ませる以外はエフェクターを使用することがあまりない印象です。あってもグランジロック的なコーラスエフェクターくらいでしょうか。ここで部分的に用いられている空間系処理は結構新鮮だったりします。

街を照らすボロいパチンコの明かりが
夕焼けを喰って空を塗りつぶすのならば
そこで踊ってほしい ただ踊ってほしい
ドレスじゃなくたって ジャージを着てたって

世界

ここで注目する点は二つ。
一つは、パチンコ屋の明かりが夕方から光りだして夜を迎えようとする街の風景を描いている点ですね。
一番で繰り返し「朝焼け」がシンボルとして登場しましたが、その朝焼けは悲しみや苦しみからの「救済」の意味合いを持っています。そことの対立構造として、Cメロで夜がやってくるんですね。カワノさんの歌詞世界での泣いている誰かは、朝焼けが照らしてくれるまで、夜に泣いているんです。
また、「パチンコ屋の光」と「朝焼け」の対比とも考えられるかと思います。「パチンコの光」は、欲望とか俗世とか、そういったものの象徴ととらえられなくもないですね。夜の街で空虚に時間を消費してしまう悲しい誰かを照らす光です。
でも最後2行の歌詞で、その状況にある人間が翻弄されることも「踊る」と描写して許しを与えてるんですね。そこから連れ出そうとするわけでもなく、責めるでもなく。朝焼けは誰にでも平等に授けられるのだから。ファイトソングのような曲であれば、良くも悪くもその甘えた状況を批判するものなんですが、そうではないところにもカワノさんなりの「優しさ」や、もっと言えば慰めのようなものを感じることができます。

泣いたっていいよ
泣いたって綺麗だ あなたは

世界

この最後の歌詞がそれを象徴しているのではないでしょうか。

「Dメロ」

ここでカワノさんのディストーションギターと歌だけのセクションへ。ライブだとテンポも一気に加速して最後まで走り切ります。

透明な灰皿に潰した二本のタバコにかかる月あかり
セーラームーンなんて助けちゃくれない

世界

急にここでなんだかかわいらしくなりますね(笑)。カワノさん、「セーラームーン」とか見てるんだ…。それとも、何か意味があって登場してるんでしょうか。わかりません…。
ここから最後のサビに向かっていく過程が、「月明り」の描写と相まって夜明けに向けて加速していく様子を描いているように見えますね。夜を突き破った先の朝焼けに見出した救いを「あなた」へと歌う…。
「月明り」は夜を表現しているものと思われますが、同じCDに収録されている「月面旅行」という曲と何か関係があったりするんでしょうか。いろいろ考えていくと、「セーラームーン」にも意味があるような…。
でも「月面旅行」って、「#3」の記事でも書きますけど、歌詞の中に「月」に関する描写や比喩表現が一切ないんですよ。カワノさんは楽曲のタイトルのつけ方が本当に独特なので、意味があるのか、それとも適当につけているのか…。
「#4」に収録される予定の「待月」という曲もありますし、何かつながりがあるのかもしれませんね。

肩を抱く人がいなくたって 結婚指輪がなくたって
誰にも愛されなくたって あなたが生きてて欲しい

世界

これがこの曲の主題でしょう。かつてなにも持ち合わせていなかった、何の価値もなかった自分が誰かの根拠のない無償の愛で救われたように、またほかの誰かも救われるべきで、そのための願いを言葉と歌にして託す…。「あなたが世界以上だ」であり、「あなたが生きていてほしい」である、そういう願いの歌ですね。

僕は年を取っていろんなものに失望してくることで気づいたんですけど、別に人間って何らかの価値に依存しなくても生きていけるんですね。周りと自分を比べたり、相対的に自分より出来のいい人を見て悲しくなったり、そうするとどうしても自分の人生に納得も自信もできなくなってしまうんですけど、意外とそんな時に手を差し伸べてくる人や物に出会うことはある。そして、そのおかげで、その悲しみも和らいで、なんだかんだと生きながらえていくもんです。
別にCRYAMYの曲に限らずですけど、そういう、人生において出会えるあたたかさが誰かの無価値で意味のない人生を支えることでこの世界は成り立っているのかなぁと。だから案外、世の中は暗いことばかりじゃないし、その証拠に、CRYAMYがこうして歌を歌って届けてくれる世界じゃないですか。
ほとんどまとめのようになってしまいますけど、この楽曲は、世にあふれかえる悲しい人たちへ向けてのそういう「あたたかさそのもの」を描いた楽曲のように僕は受け取りました。
この楽曲を聴いて人生のつらい局面を乗り越えた僕もいますし、きっとこれから先もこの曲とともに乗り越えていく僕もいると思います。そう思えるからこそ、この曲は僕にとって「CRYAMYそのもの」なのです。

余談ですが、僕の友達の女性もCRYAMYが好きなのですが、「結婚指輪がなくたって」の部分で本当に救われた、と言っていました。当時結婚を前提に交際していた恋人と別れて、もう誰とも結婚することもなく一人で悲しく死んでいくんだろう、と悲嘆に暮れていた彼女はこの曲を聴いて、今では元気に日々を過ごし、新しい恋人もできた、と教えてくれました。ささやかなことかもしれませんが、僕の身の回りの一人の人間の人生をこの曲が救いました。また彼女とライブに行って、この曲を聴きながら、お互いにいろんな思いを感じて、ライブを目に焼き付けようと思っています。

「ラストサビ」

最後の一滴まで絞りつくすほどの勢いで疾走して、ノイズとともにこの楽曲は終了します。ライブでは最後の方のシャウトでカワノさんは音程を無視してとにかくめちゃくちゃに叫び倒します。ほそい首に青筋が走るほど絶叫するカワノさんの姿は胸を打ちますね。
サビの後半から掻きむしるフジタさんのギターも圧巻です。時には指先から血をまき散らしながら必死に演奏していて少し心配になりますが、この曲を全力で演奏している証拠でもあると思います。

最後のハウリングを鳴らし切って、六分以上にわたった「世界」という楽曲は終了します。ボリューム満点であり、それ以上に歌に込められた感情の迫力は今のところCRYAMY史上で一、二を争うものではないでしょうか。

おわりに

書き終わってみて、正直ここまでのボリュームになるとは思っていませんでした…。本当はアルバムごとに一つの記事にする予定だったのですが…。次回以降は書くことも絞りこみつつ、一つにまとめられるように努力します。

現状各アルバムについて少しずつ書き進めていますが、この勢いに乗じて、次は「WASTAR」単独についての記事を挙げたいと思います。こちらも相当の文字数になってしまうかもしれませんが…。

とにかく、こんな感じで書き進めていきますので、よろしくお願いします!

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