CRYAMY第一期全CD簡易ディスクレビュー
・はじめに
現在、目下制作中のアルバム個別記事を少しずつ進めているのですが、それらを公開しようと思うとはたしていつになってしまうのやら…という不安がありましたので、せめて「#4」発売前に出せるものはないか…と考えた末、これまでのCDの簡易的なレビューをまとめた記事を作成することにしました。
CRYAMYの物販で販売されている新聞があるのですが、こちらのコーナーに「ディスコグラフィー」というものがあります。こちらではCRYAMYと親交のある方々が各CD一枚につき一名、短いコメントを寄稿されていて、この記事ではそれを参考に、各CDへの所感、与太話、あと、勝手に僕個人のおすすめ度を記載させていただこうかと思っています。(持っていない#1は今回は省かせていただきます。)
・「#2」
テリトリアル
普通
twisted
雨
ディスタンス
おすすめ度:★☆☆☆☆
おすすめ曲:ディスタンス
CRYAMY最初期の作品の1stEPです。歌詞カードは見開き一ページの非常に簡素なものになっています。ジャケットは「#シリーズ」では恒例となっている写真を加工した抽象的なものとなっています。
収録曲は五曲。当時は1000円で物販とオフィシャルサイトの通販で購入が可能でした。
最終的には半年ほどで廃盤になりましたが、ここでの収録曲はすべてブラッシュアップされて再録され、1st Full Albumに再録されています。
初の正規音源となった今作ですが、音は後発の作品よりも荒く、全体的にローファイな質感です。またギターのサウンドが少し丸みを帯びていて、現在のCRYAMYの硬質なギターサウンドとは少しキャラクターを異にしていますが、これはこれでかっこいいサウンドをしています。ドラムのサウンドもデッドですね。現在にみられるパワフルで生感の強いドラムというよりは、ペタペタとしたかわいらしい響きになっている印象です。
あと、カワノさんの声が若々しく、喉をつぶさんばかりの絶叫は見られません。少しかわいらしさがあるほどです。また、この時期は怒鳴るような歌い方は全く見られませんね。丁寧に歌われていますし、しっかりと補正された印象です。
ですが録音自体はこだわりがあったのか、ボーカルのトラックに少し歪みが加えられているのがわかります。歌の録音の生々しさという、現在まで続くCRYAMYの特徴はこの時期ではまだ獲得されていないのがわかりますね。
歌詞性の面では、未流通盤の初期作品にみられる特徴でもあるのですが、若干難解で詩的な表現が多く、また、カワノさん自身のことを歌っているなぁと強く感じられるのは「ディスタンス」くらいで、主体となる人物(大部分の楽曲ではカワノさんですが。)が明確に見えない、良くも悪くも抽象的な歌詞の楽曲が多いです。
歌の内容自体は現在まで一貫して貫かれた美学をこの時期にも感じることができる深刻な楽曲だけで構成されているんですけど、後発の作品以降にみられるような生々しさは、録音面でも歌詞面でもこちらでは正直薄いかなぁといった印象です。
ただこの印象は「red album」の一連の流れを聴いて、「テリトリアル」のみ覆った部分があります。支離滅裂なカットアップ調の歌詞も、あれはものすごい内容を歌にしたんだ…と、アルバムの流れの中で再発見がありました。
しかし、最終曲であり、現在までCRYAMYを代表するアンセムの一つとなった「ディスタンス」は圧巻。この歌詞の深刻で鋭い言葉の羅列が、最初期の作品ながらいまだにCRYAMYの歌う「負」の側面を象徴しているのではないでしょうか。
余談ですが、この作品のリリース当時にライブハウスで見かけた方、もう三年も経過してるのに、何人もいまだにライブハウスでお見掛けするんですね。最近では若いお客さんも増えて数人で連れ合ってライブに参加されているお客さんも増えましたけど、当時彼らを見に来ていたであろう皆さん、あの時と変わらず、自分の世界に入り込んで静かにライブを見守ってて(時々手をあげたりもしながら)、なんだか僕も安心するし、同じような気持ちの人がいる、とうれしくなったりします。別に話しかけたりはしないですけど…。(そもそもあまりライブで人と会話したり、一緒に盛り上がったりが得意じゃないので…。)
総括して、この時期に描かれた楽曲は現在のCRYAMYの特徴(と、僕が思っている)はまだその姿を見せていないことがわかります。しかし、のちに再録されたこともあり、ここに収録されている楽曲はライブでの演奏率の高い楽曲も多く、また再録版で、これまでのキャリアで獲得した個性をいかんなく発揮して奏でられていますので、現在もバンド、ファン双方にとって大切にされているCD、楽曲群のひとつであることがわかります。
現在は少し高いお金を払って、メルカリなどで入手しようと思えばできます。(今はましになりましたが、再録されたアルバムがリリースされるまでは2万~4万という値段で、中にはカワノさんの直筆メッセージ入りで、取引されていたりしましたね…。)個人的には再録版のブラッシュアップされた音源の方が好きなのでそちらをお勧めしたいのですが、たまに当時を懐かしんで、ノスタルジーからこちらを再生することもあります。興味のある方は手を出してみるのもいいのではないでしょうか。
・「crybaby」
pink
物臭
crybaby
ten(acoustic version)
おすすめ度:★★☆☆☆
おすすめ曲:pink
「#2」リリースから半年ほど後にリリースされた1st single。こちらは物販や通販のほか、東京大阪名古屋の主要都市のタワレコの未流通コーナー限定でのちに発売されていたりしましたので、廃盤とはなっていますが、入手は比較的容易であったのではないでしょうか。
サウンドプロダクションは若干前作よりも整った印象です。特にドラムのサウンドが(前作の個性的な感じも嫌いではありませんが)クリアになりましたね。ただ今作も現在に通ずるサウンドにはまだ到達していない印象です。良くも悪くも整った、オーソドックスなギターサウンド、というニュアンスでしょうか。
けれど、そうは言いますが、「pink」で聴けるレイさんのファズギターのサウンドはかっこいいですね。実は結成初期から一番ぶれずに一貫したサウンドを貫いているのはフジタさんのギターなのかもしれません。
「pink」は現在もライブでの演奏率が新しめの楽曲を抑えて高い曲で、ベースのタカハシさんの音源にはないコーラスもライブでは聞くことができます。
歌詞面では「#2」期同様、抽象的な表現の楽曲(「pink」「crybaby」)もはさんではいるのですが、今作では「物臭」のように個人の体験や人間との交流をストレートに描き出した楽曲が生まれたりしています。とはいえ、「#3」でようやく明らかになるようなカワノさんの本心をはっきりと垣間見ることのできる楽曲はまだありませんね。主張されている感情は怒りやいら立ちが先行したもので、そういった楽曲群で構成された一枚、と受け取れると思います。
余談ですが、そんな2作品をリリースしたこの時期ぐらいからカワノさんはステージ上でめちゃくちゃしゃべるようになりました。そして、そこではこの時期の楽曲には落とし込まれていませんが、いまにも貫かれているカワノさんなりの愛や誠実さを(時に支離滅裂で意味不明でしたが(笑))ステージから懸命に言葉で伝えてくれようとしてくれていました。そして、そんなMCから、「crybaby」リリースパーティーで演奏されたのが、現在でもCRYAMYを代表する曲の一つである「月面旅行」でした。懐かしい…。
あと忘れてはいけないですけど、「ten」のアコースティックバージョンが収録されていますね。この時期はライブでは必ず演奏されていたのではないか、というほどに登場していた楽曲でしたが、正規音源としてのCD収録はされていませんでした。結局「red album」収録までかかってしまったのですが、当時は僕も含め、いつCDで聴けるのだろうか…と待ち遠しかったです。
全体として、どちらかと言えば「#2」期のCRYAMYと強く地続きのような作品です。このころからサウンドのつくり方の質が向上していったような印象を受けます。
欠点を挙げるとすれば、収録曲はどれも小粒な印象がある、といったところでしょうか。CRYAMYの楽曲の良さは楽曲中にもたらされるカタルシスや、直接突き刺してくるような感情の乗った歌だと思っているのですが、収録曲はどちらかといえば内向的で、かつアレンジも非常にシンプルなパンクロック然とした楽曲が多いです。前作の方がむしろ楽曲の幅は広いかと。あと、収録曲のほとんどはYouTubeで聴くことができるし、「pink」を聴くために手を出すかどうか…という感じなのかなぁと個人的には思います。
とはいえ、逆にシンプルなアレンジだからこそライブ映えする曲が多く、「物臭」以外は今もライブで頻繁に演奏されます。ですから、重要なCDのひとつであることには変わりないですね。
あと、「物臭」の演奏頻度のあまりの低さについては、カワノさんの語る様々な理由もありますので個別記事で書きたいと思ってますが…、僕もライブで聴きたいですけど、あまり期待はできないなぁと思っている次第です。と思ったら気分でたまにやってくれる日もある様子なので、その日がやってくるのを気長に待ちたいと思います。
・「#3」
世界
sonic pop
easily
正常位
月面旅行
プラネタリウム
おすすめ度:★★★★★
おすすめ曲:世界
個人的にCRYAMYのマスターピースです。この作品から一気にバンドとしてのクオリティが上がったし、なによりカワノさんが音源、ライブともに化けました。今作で示した彼らの姿勢が、一つの到達点であり、完成形である、と思っています。
ジャケットは「世界」で描かれた「朝焼け」を表現したものなのか、それとも「月面旅行」の「月」をイメージしたのか、黄色をあしらった写真になっています。また、本作から初めて流通盤に切り替わって、当時渋谷のタワーレコードで大きく展開されていました。調べてみたところ、全国店舗への流通とはならず(のちに全国販売に切り替わったようです。)店舗限定でのリリースだったようですが、それでも当時僕は「CRYAMYがタワレコで展開されているなんて!」と一人、感動していました。
今作からいわゆるCRYAMYのサウンドというものが前面に出てきたように思います。聴き返していて、今作が現在まで続く彼らのサウンドの出発地点になっていることは事実としてあると思います。
楽器隊のサウンドのレベルアップもそうですが、なにより今作からボーカルの存在感が強まりました。前作、前々作とは打って変わってカワノさんのあのシャウトが(とはいえ以前にも書きましたが今作はかなり整った方ですが)聴けますし、歪んだ質感ではなく非常に歌声の再現性が高い、生々しい響きになっています。
演奏力も向上しているのか、アンサンブルもアレンジ段階から工夫を凝らしていて、音像も細かく使い分けていたりと、全六曲幅広い楽曲を聴くことができます。
何よりも進化として挙げられるのが、個人的には「月面旅行」です。これまでの楽曲ではここまでしっかり歌を聴かせるバラード調の楽曲はありませんでしたし、はじめてこのタイプの曲をリリースしたのにもかかわらず、現在まで通用する高いクオリティで仕上がっていることがわかります。
冒頭の「世界」から「プラネタリウム」まで、一分の隙もない見事なアルバム構成も素晴らしいです。
歌詞面ですが、多くは「世界」の個別記事に書いてしまったのですが、カワノさんの作詞の次元が一段上がったような歌詞になっています。単純にこの時期から、カワノさんは自分のことを歌うようになりましたし、曲によっては人間の命や行いを率直に賛美する楽曲を作るようになりました。そして、よりカワノさんの意志や思想を強い歌で反映した楽曲群は鋭さもあたたかさも増して、よりリスナーの胸に迫るものがあります。
僕はCRYAMYは精神のバンドだ、と書きましたが、「#3」によってそのバンドの方向性が固まったのではないかと思います。
当時の日記やインタビューでもカワノさん自身、制作に大いに苦しんだことを語ってらっしゃいますけど、その苦しみに見合った素晴らしい楽曲が6曲並んでいます。個人的には、はじめて彼らの音楽に触れる入り口としては、僕は1st full albumよりもこちらをお勧めしたい気持ちです。
CRYAMYの転換点や過渡期にあたる重要な一枚ですし、楽曲のクオリティやカワノさんによって一番重要な視点や感情が込められた歌詞、現在までリスナーの間で人気を誇る「世界」と「月面旅行」の2曲が収録…と理由はきりがないのですが、僕自身も一番好きなCDなので、ここでは一番にお勧めさせていただきたいです。
ちなみに、今作はCRYAMYが自主レーベルを設立する前の、地味に最後の作品なんですね。CDラインナップの品番で言うと次作の「GUIDE」が一番最初の作品、ということになっています。そういう意味でも彼らの転換点のような作品になっていますね。
・「GUIDE」
ディスタンス
誰そ彼
delay
戦争(cheap version)
おすすめ度:★★★☆☆
おすすめ曲:delay
自主レーベル設立後、初のリリースとなったシングル作品。今作は前作と打って変わって、通販と手売りのみという原点回帰的な手法で販売されています。コロナウイルスが猛威を振るう中でリリースされた作品で、今作のリリースツアーは紆余曲折を経て一年間を要して完結することになりました。
ジャケットは「crybaby」から打って変わって洗練された表情になりました。夜景をバックにたたずむメンバー四人の写真がシックな質感のジャケットにマッチしていてとてもクールです。
今作で廃盤となっていた「ディスタンス」が再録。MVもリメイクされて公開されました。自主レーベル設立から一発目の楽曲が「ディスタンス」であることから、カワノさんなりの決意表明というか、自身の音楽家としてのアティチュードを感じることができます。
初期作品でありながら生々しさと鋭い視線を伴った「ディスタンス」という楽曲はさらにたくましく、激しいサウンドで再録され、カワノさん個人の感情や感傷という趣以上に、この先のCRYAMYの行く末を示すような役割を担うように鳴り響きます。
そして今作では、結成当初から演奏されていた「delay」がようやく収録。隠れた名曲としてライブで鳴らされていた楽曲がついにCDでも聴けるようになったことはうれしかったですね。
そして、有名な話ですが、「delay」は「物臭」とリンクした楽曲で、「物臭」の続編のような歌詞になっています。この辺りを意識して聴いてみることも面白いのではないでしょうか。
また、カワノさんの楽曲には珍しい失恋を歌った「誰そ彼」も収録。ここまで明確に男女の別れを歌った楽曲は現在でも珍しいのではないでしょうか。「物臭」や「ギロチン」も、聴きようによっては男女の別れのように響きますが、「誰そ彼」は明確に同じ部屋で過ごした男女の離別が描かれていて胸を打ちます。そんな世界観ですので、CRYAMYで唯一若い女の子とかが好きそうな楽曲じゃないでしょうか。実際、YouTubeでの再生回数を見るに、人気の楽曲のようですし…。
総括して、こちらもはじめて彼らに触れる人にはお勧めしやすい一枚のように思いますが、曲数が少ないので、「#3」の次点としては少し違うかな、とこのようなランク付けです。
また、今作に収録された「別れ」や「挫折」を描いた楽曲の空気は前作の空気感とも異なって、どちらかと言えば「red album」の世界観に近いですね。「ディスタンス」は引き続きアルバムへ収録されていますし、個人的にはアルバムを聴いたうえで次に手を出すべき一枚かな、と感じています。
・「YOUR SONG」
HAVEN(single version)
N.H.K.
くらし
死体(feat.SuU)
まほろば
おすすめ度:★★☆☆☆
おすすめ曲:くらし
前作から間を置くことなくリリースされたシングルです。おそらくアルバムレコーディングの合間を縫って制作されたものなのだと思います。「まほろば」はアルバムへと収録されていますね。
ジャケットは前作と対照的に白と青で対になったような作りに。冒頭楽曲が弾き語りでスタートしたり、個別記事で書きたいのですが、歌詞の世界も「別れ」とは逆に、「人間との交流で負う痛みや苦しみ」を描いたものが多く収録されています。
また、今作のジャケットはかなり示唆に富んだアートワークになっています。ジャケット写真は黒い袋をかぶせられたカワノさん?の横顔ですし、ジャケット下部に収録曲にこめられたメッセージを英訳したものが載せられています。タイトルの配置も斬新ですね。明確な意図を感じます。
これまでのCRYAMYらしくない、知的なジャケットですが、個人的にはこう言ったアートワークはすごく好みですので、またいつかやってほしいなぁと思っています。
サウンド面は今作はヘビーで太いギターサウンドが主軸になっていて、前作で感じられたエッジの立ち方とはまた違った空気を醸し出しています。ギターの音像も強く歪んでいて、しかし決してノイジーには振り切り過ぎずに楽曲として成り立たせています。
あと、このシングルラッシュぐらいから、CRYAMYのサウンドに過剰にフィードバックノイズがフィーチャーされることはなくなったのではないでしょうか。衝動の前面に出たノイジーな演奏も好きだったので少し寂しく思った記憶があります。おそらくほかのリスナーの皆さんも、「ん?」と思ったのではないでしょうか。
とはいえ、「#3」からのカワノさんの変化や、そのメッセージ性の変遷からも、むやみやたらにガチャガチャ鳴らす演奏からは離れるのは必然であったようにも、今では思えます。またやってほしいですけど。
そしてライブじゃいまだに激しいです。むしろ音源とのギャップが広がったと感じるほどに。(カワノさんもおしゃべりだし。)
そして、今作の歌詞世界ですが、前作で明確に「別れ」を歌ってきたのとは対照的に、「人と生きる痛み」を描き出しています。むしろ、このテーマ性で描かれた鋭い視線の方がより重く、冷酷に突き刺さってきますね…。
1~3曲目の流れは徐々に殺傷能力を増していって、「くらし」で最後にとどめを打たれます。詳しくは個別記事で書きますが、カワノさんって「死にたい」っていう能動的な感情ではなくて、「(上手に)生きられない」というものすごく受動的な痛みを抱えてる人だと思うんですね。それが非常に色濃く出たこの三曲の流れなのではないでしょうか。
四曲目では客演としてSuUのすずきたくまさんが(ブックレットを見るとオレンジスパイニクラブの鈴木ナオトさんもひっそりとギターで参加してるようですね。)参加しています。驚くほど彼のソロプロジェクトにあるような宅録チックで靄のかかったサウンドがカワノさんの楽曲にマッチしていて、もう一つベストトラックを挙げるならば「死体」です。
個人的にCRYAMYと近しい同期のバンドはちゃんと聴いてみても正直全然好きになれないのですが(好きな方いらっしゃったらすみません…。)、SuUだけは例外で、このシングルから存在を知ってから本当に大好きなんですよね。ライブも先日CRYAMYとオレンジスパイニクラブのスリーマンを見たのですが、ものすごくかっこよかったです。またコラボしてほしいなぁとひそかに期待しています。
余談ですが、アルバム収録の「兄弟」という楽曲はSuUとオレンジスパイニクラブの楽曲から歌詞をサンプリングしているようです。友人から教えてもらいました。「兄弟」というタイトルからも、カワノさんにとって2バンドが特別な関係であることがわかりますね。
まとめ。今作は僕個人としては最初に進めるにはハードルの高い一枚かなぁという印象です。曲の多様性は広く、クオリティの高い一枚であることは間違いない半面、音楽として無心で楽しめるものか、と言われると、歌詞曲調どちらもそうではないのかなぁと思います。
最終曲の「まほろば」は個別記事で深く読み解きますが、歌詞の面でCRYAMYの中でも重要な一曲で、疾走感ある王道なロックサウンドなのですが、この楽曲にたどり着くまでの四曲の流れは非常に重苦しく、アレンジもメロディラインもポップというには少しひねくれていて、ある意味でCRYAMYを象徴している半面、彼らを聴きこんできたリスナーすらも困惑させる作りになっています。
ここを乗り越えられるかどうか、がこのCDを聴きこむ上での一戸のハードルなのかなぁと個人的には思います。僕自身、発売当初はかなり困惑して、しっかり聴きこめなかった自分がいましたし…。
・「CRYAMY-red album-」
ten
ディスタンス
変身
鼻で笑うぜ
普通
ギロチン
雨
やってらんねー
twisted
兄弟
HAVEN
まほろば
完璧な国
戦争
優しい君ならなんて言っただろうね
テリトリアル
おすすめ度:★★★★☆
おすすめ曲:完璧な国、テリトリアル
ファンの間でも長らく待望された1st full album。そして今作が初めてにしてようやくの全国流通盤となりました。廃盤音源の「#2」全曲の再録と、「ten」の初の音源化、シングル収録されたアコースティック曲のバンドアレンジでの収録、曲数は16曲の大ボリュームと、CDショップでは「1stにしてベスト盤」との触れ込みで売られたりしていました。
ジャケットはビートルズのベスト盤のオマージュですね。鮮やかな色彩が目を引く、素朴ながらナイスなジャケットですね。ブックレットもすごく充実していました。歌詞のページの合間にCRYAMYにゆかりのある風景や人の写真が収められているのですが、このページはsyrup16gの「free throw」のオマージュだと思われます。
曲数もさることながら、フルアルバムらしくモノとしてもこだわってつくられたことがわかる大作です。
全収録曲は16曲というボリュームながら、曲のバラエティは豊富で多様な表情を見せるアルバムです。徹底されているのは歌詞で紡がれるカワノさん自身の悲劇とそれに対峙する姿勢、そして、悲しいことにこのアルバムは何も報われることはなく終わってしまいます。
こうやって書いてますけど、正直僕も最初はこのアルバムの意図を正確にはつかめていませんでした。応援していたバンドの初のアルバムに浮かれてもいましたし、ここに描かれる悲しみの本質を深いところまでキャッチする姿勢も足りなかったんですね。ツアーも良くも悪くもいつも通りの四人でしたし。
ですから、ツアーファイナルで吐露されたカワノさんの「敗北宣言」と「CRYAMY第一期終了のお知らせ」を聞いて、「もしかして解散するのでは…」と恵比寿でのワンマンを終えるまで気が気じゃありませんでした。クアトロのライブの終演後、楽しそうに笑いあいながら感想を言い合う若い女の子たちに「そういうバンド、ライブじゃないだろう」「頼むから黙ってくれ」と言ってしまいそうになるぐらい苛立つほどに…。実際解散を考えたというようなことを最新のインタビューでも言ってましたし…。
ツアーでのライブ、ツアーファイナル、その後のワンマン、それを経た彼らの様々なライブ…とライブを重ねていって、ようやくこのアルバムを正しく解釈できるような気がしています。詳しくは個別の記事にて、丁寧に書きたいと思っています。
再録曲はアレンジを崩すことなく、今の演奏力とテンションでブラッシュアップした、という印象です。新曲群は再録曲やシングル曲のシンプルな作りと対照的に非常によく練ったアレンジで展開されているものが多いです。ですから、1st full albumではあるんですけど、まっすぐストレートなアルバム、というよりは、よく言えばバラエティ豊富な、悪く言えば雑多なアルバムに結果的に仕上がっています。
僕はバンドのファーストフルアルバムは大別して2パターンだと思っていて、「衝動的に作られていて全曲ストレートで分かりやすい半面、粗目立ちして金太郎飴みたいになったアルバム」と、「アイディアを詰めこんで多様性に富んだ半面、ストレートなっポップソング集にはならず理解に時間がかかるアルバム」の二種類だと思っていて、CRYAMYは結構、この二つの中間の、ちょうどいいバランスを保っていると思っています。(どちらかと言えば後者よりですが…。)1stアルバムとしては申し分ない出来だと思いますし、僕自身、今もずっと愛聴しているアルバムですね。
まさに第一期CRYAMY(というか、悲しみや絶望を切り取ってきたある時期のCRYAMYというべきでしょうか。)の集大成といった作品です。ボリューム感や値段、曲のポップさや聴きやすさなどを考慮しても、最初に手を出す一枚としては申し分ないのではないでしょうか。ボリュームや値段のコンパクトさや楽曲のバランス感、ポップソングとしての強度、カワノさんの強く出た精神性、あと単純に好みで、僕は「#3」をお勧めしましたが、このアルバムはCRYAMYを正当に解釈して理解する上では避けて通れないアルバムであることは間違いありません。
今作を持ってCRYAMYの一つの時代が終わることが示されて、次作の「#4」へとつながっていきます。全貌は明かされていないですが、いったいどのようなアルバムになるんでしょうか…。カワノさんも、僕たちリスナーも、4/20を楽しみに(正直少し緊張しながら…。)待っています。
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