オリックス、タイラー・ヒギンスはなぜランナーを出すのに抑えられるのか
どうも、yoです。2月の引っ越し・試験といった試練も終わり、やっとnoteを書ける環境に回帰しました。
3月初めてのnoteはオリックスのセットアッパーであるタイラー・ヒギンス選手がランナーを出すのになぜ抑えられるのかについて書きたいと思います。オリックスファンの方はヒギンス選手について「劇場型」というイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。今回は、実際にヒギンス選手は劇場をしているのか、そしてなぜ抑えられるのかについて書いていこうと思います。
1.2020シーズンのヒギンス選手の成績・指標
まず、ヒギンス選手の昨シーズンの成績について振り返ります。ヒギンス選手の成績は41試合に登板し、3勝3敗19ホールド防御率2.40となっています。登板数はチーム2位、ホールド数はチーム1位という成績です。開幕こそ2軍スタートでしたが、山岡選手の負傷の影響で緊急昇格し、初登板のロッテ戦でノーアウト満塁のピンチを無失点で切り抜けたことは印象に残っている方も多いのではないでしょうか。
そのままセットアッパーに定着して1年を完走しました。今季は1月中旬に来日し、その後大阪で調整中に新型コロナウイルスに感染してしまいましたが、無事に回復し2月末に宮崎に合流しました。そして、3月10日のオープン戦で実戦復帰するなど開幕に間に合いそうなペースで調整しています。
そんなヒギンス選手の詳細な指標は以下のようになります。
今回注目するポイントはWHIPとLOB%です。
WHIP(1イニングに平均何人ランナーを出しているのか)は1.38となっています。他のチームで近いWHIPの選手はE津留崎選手、T望月選手が挙げられます。防御率と比較するとヒギンス選手の数値は少し高いのかな?と感じました。
一方で、LOB%(出したランナーの内、ベースに残ったランナーの割合)は84.9%となっています。小夏日和さんのサイトによると、LOB%の平均値は70%程度になると言われているので平均値と比較すると10%高い数値になります。奪三振が多い選手はLOB%が高く出やすいので、ヒギンス選手の割合が高いことも納得がいきます。実際、他の選手ではSBモイネロ選手やDマルティネス選手もヒギンス選手と近い数値となっています。しかし、両選手のWHIPは1.00近くとなっていて、WHIPが1.38のヒギンス選手がいかにランナーを出しながら抑えているのかがわかります。
ちなみに、LOB%の計算方法はこのようになります。
LOB%=(安打+与四死球-失点)/(安打+与四死球-1.4×本塁打)
最後に、ヒギンス選手のランナーがいる時の成績とランナーがいない時の成績をまとめると以下のようになります。
まず、ランナーがいる時の成績です。
次にランナーがいない時の成績です。
差が歴然ですね笑。ここからは、ここまで大きな差がなぜ生まれるのかについて考えていきます。
2.全体の投球成績について
ここでは、ヒギンス選手のピッチングの具体的な内容について見ていきます。
まず、全投球成績です。
ヒギンス選手のピッチングはストレート、チェンジアップ、カーブの3球種で成立しています。そして、基本的にはストレートとチェンジアップがピッチングの中心となっています。また、カーブは相手バッターのタイミングを崩す際に投じることが多く、カウント別投球割合を見ても初球に投げることはほとんどないです。
中でも、チェンジアップは魔球とも言われており、特徴として「落ちない」チェンジアップであると思います。
こちらの動画の0:40〜で近藤選手から空振りを取っているシーンがわかりやすいです。球が「落ちている」というよりは「ブレーキが効いている」印象を受けます。球質としてはF金子弐大選手のチェンジアップと似ているでしょう。
また、コントロールを配球ヒートマップから見ていきます。ストレートはバッターのアウトハイに、変化球は右バッターのアウトローの場所に決まっていることが多いですが、真ん中付近の球も全体としてはそれなりにあることがわかります。コントロールに関しては、可もなく不可もなく。と言えるでしょう。
3.ランナー有無での投球内容の違い
ここからはランナーがいる時とランナーがいない時のヒギンス選手のピッチング内容の違いについて見ていきます。
はじめにランナーがいない時の投球内容について見ていきます。
投球割合などを細かく見るとカーブの割合が全体と比べて高くなっています。指標を見てもあまりいい成績とは言えないので、危険性が低い時にカウントを整えるor打者のタイミングを崩すために投げていることが多いと考えられるでしょう。
全体成績とランナーがいない時の差で注目した球種が、対右打者のチェンジアップと対左打者のストレートです。
対右打者のチェンジアップは投球箇所としてはアウトローに投げることが多くなっているのですが、多くはストライクゾーン内にボールが集中しています。そのため、ボールがストライク→ストライクとなるために捉えられることは多くなるのでしょう。被OPSも.800を超えるなど高い値となってしまっています。
対左打者のストレートは全体の投球マップと比べて、真ん中と真ん中に近い低めに集中しています。そのため、甘いコースに投げてしまうため、3割近い被打率になっていると考えられます。
この動画は抑えたシーンになっていますが、2打者目の近藤選手のボールは空振りとはいえ、ストレートがど真ん中に入っています笑
次にランナーがいるときの投球内容です。
ランナーがいる時はストレートとチェンジアップのほぼ2ピッチとなっています。3つの球種で抑えている。とヒギンス選手は紹介されることもありますが、ほぼ2球種で抑えていますね笑
今回見ていただきたいのが、ストレートとチェンジアップの配球ヒートマップです。ストレートは対右・対左ともに真ん中高めから外角高めに、チェンジアップも対右・対左で共通して低めのストライクとボールの境目付近に集中しています。
ランナーがいない時に高めのストレートを多投している理由は主に2つ考えられます。
1つはフライピッチャーであるヒギンス選手の特性を活かし、球威のあるストレートで内野フライを打たせること。もう1つは、高めのストレートを投げることでバッターに高めを意識させ、低めに落ちるチェンジアップを有効活用しようとしていることです。
その結果として、チェンジアップの被OPSは対右打者・対左打者ともに.450以下となっていて、全体でも.419と絶大な威力を発揮しています。
また、ストレートもランナーがいない時と比べて甘いゾーンに投じることが激減しています。多くが真ん中高めから外角高めいっぱいのところに決まっています。コースが厳しいため、被OPSもランナー無しの時と比べて.100以上低くなっています。
最後に、なぜランナーがいる時に抑えられるのかを簡潔にまとめます。
ランナーの有無でのヒギンス選手の投球の差
→高めのストレートと低めのチェンジアップによるスピード・高低の差を活かしたピッチングによって打ち取ることができる。
また、コントロールが異常に良くなる。
4.なぜランナーが出るとコントロールが良くなるのか
ランナーがいる際にヒギンス選手が抑えられる理由はわかりました。しかし、なぜヒギンス選手はピンチの時にコントロールが良くなるのでしょうか。ここからは細かい検証などはできないので、推測が中心になります。
そして、そのヒントは初登板の0アウト満塁を抑えた時のインタビューにあります。
「割り切ってアドレナリンを感じて投げた。呼ばれたところで投げられるようにしたい」(2020年6月27日付日刊スポーツ)
ここで気になったのが「割り切って」と「アドレナリン」という語句です。アドレナリンとは、極限状態に追い込まれると分泌される成分であり、常に身体にかけられているリミッターが解除される状況です。簡単に言うと「火事場の馬鹿力」です。
アドレナリンが分泌されることで運動能力が向上し、結果としてコントロールが良くなるのではないでしょうか。しかし、アドレナリンは過剰に分泌されると怒りっぽくなったり攻撃的になると言われています。
そこで重要になってくるのが「割り切って」という言葉です。終盤に出てくるセットアッパーやクローザーは大きなプレッシャーを感じると言われています。広島のケムナ選手はインタビューで次のように語っています。
自分はシーズン終盤に八回のマウンドで投げるようになり、そこでの重圧をすごく感じた。こういう場面で塹江は投げていて、結果を出してきたのはすごい。七回と八回。1イニングしか変わらないが、七回は中盤、八回は終盤で、ほぼほぼ勝負が決まってしまう。その怖さがある。
そのような重圧が強い場面で気負いすぎるとアドレナリンが過剰分泌されてしまい、攻撃的になってしまうことが考えられます。結果、コントロールを崩して打たれてしまう。といったパターンが考えられます。
しかし、割り切って気楽に投げることができれば適切な量のアドレナリンが分泌され、「火事場の馬鹿力」が発揮されます。元千葉ロッテ・巨人・オリックスに所属し、大リーグでも活躍した小林雅英さんはインタビューでピンチの心境について西武や巨人、広島で活躍し、現在は西武で一軍投手コーチを務めている豊田清さんの考えも含めて次のように語っています。
「1点リードで9回裏2死満塁のピンチ。打者は松井秀喜。さて、どう攻める?」と質問され、図らずも2人の回答が一致した。その答えはなんと「四球でいいんじゃない?」。言うまでもなく、四球なら押し出しで同点である。「敬遠をするわけではないですが、僕ならワンバウンドになるスライダーを“永遠に”投げ続けますね。空振りを取れればラッキー。見極められて押し出しになっても、まだ同点ですから。ポンとストライクを取りにいって、長打を打たれてサヨナラ負けするよりはいい。僕らが優先すべきことは、逆転されずにイニングを終わらせることです」と小林氏。「豊田さんも、ストライクからボールになる球を投げる、と言っていましたよ」と付け加えた。
(2020年8月30日付フルカウント)
「優先するべきことは逆転されずにイニングを終わらせること」と語るように、気負いすぎずに割り切って投げていることがよくわかります。その結果、小林さん、豊田さんともに長年クローザーで活躍していました。このように「追いつかれても仕方がない」という割り切った心理がヒギンス選手を(いい意味で)楽にしているのではないでしょうか。
実際、ヒギンス選手が昨シーズンでリード時に登板して同点に追いつかれた試合は1試合、逆転された試合は1試合のみとほぼ完璧と言える結果を残しています。(同点時に投げて決勝点を取られた試合は2試合あります)
このようにピンチでも「割り切って」投げて、アドレナリンを分泌することでハイになり、コントロールが向上してランナーが出ても問題なく抑えることができるのではないでしょうか。
最後にまとめます。
「割り切って」投げることでアドレナリンを分泌し、コントロールが向上すると推測できる。
5.最後に
ここまで読んでいただきありがとうございました。最初からピンチでの投球をしてくれと言いたくもなりますが、ピンチでも動揺せずにピッチングをするヒギンス選手が個人的にはとても好きです。笑
新型コロナウイルスに感染した影響で調整の遅れが心配されていたヒギンス選手ですが、3月10日のオープン戦で復帰し、1イニングを投げました。
村上選手にホームランを打たれて2失点という結果でしたが、本人は笑顔でインタビューに答えているなどまずは安心している様子です。開幕までにはしっかりと調整してくれるでしょう。
ディクソン選手の先発再転向や澤田選手・比嘉選手の負傷離脱などの状況でヒギンス選手は平野佳寿選手とともに活躍が期待されているでしょう。本人もピッチングでの活躍に加え、「Bsガールズとしても踊れと言われたら踊る」と語るなどフル回転する意欲を示しています。
2021シーズンもランナーを出しながらもしっかりとアドレナリンを出し、ピンチを抑えてくれる「ヒギンス神」に期待しましょう!
・出典
本note内の投球割合や配球ホットスポット、投球成績などは全て上の出典にある悟さんのデータを使わせていただきました。
また、所属しているサークル「ロバートさんのネクストバッターズサークル」においてシュバルベさんや悟さん、ロバートさんから多くの勉強になるアドバイスを頂きました。ありがとうございます。
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