奴をぶっ倒せ!

道場の稽古の終わり時間に合わせ、駐車場に車を停め、少し早めに着いたので外から覗く。
ラストのスパーリングの最中だったが・・・

やはり特定の子にボディーブローを浴び、お腹を押さえながら泣く息子。
しかし執拗に、笑いながら腹を殴り続けるR少年。
先生は止めない。見ない。注意しない。

遂に膝から崩れ落ち号泣する息子。

「コイツ病気だよ(笑)病気!病気!」
そう笑いながら息子を見下ろすR少年。
奇しくも息子と同い年。
兄弟3人で通う、道場にとっては上客で、しかも才能溢れる子供だから、先生は怒る訳にはいかない。
怒ってヘソを曲げられ、兄弟ごと辞められたら、損害は3人分だから。

しかも泣きながら車に乗り込もうとする息子に向かって、R少年が放った一言は・・・
「泣き虫!」
虐めてる子の親が居る前でも、堂々と侮辱の言葉を口にし、ヘラヘラ笑い、R少年の親も何も言わない。
強い奴は何をしてもいいと言わんばかりの横暴な態度。

ワナワナと震え、今にも飛び掛かりたい気持ちを押さえながら、帰宅後に息子と話し合いを。

奴はスパーリングの度に、わざわざ指名して来る事。
先生も泣かせる事が目的で指名してるのを解っていて止めない事。
奴を目の前にすると、膝が震えて恐くて仕方ない事。
とてもじゃないけど、奴に勝つなんて考えられない事。

沢山話し合い、沢山涙を流し、二人で沢山悩んだ。
「後にも先にも、今回で終わりだ。震える位に怖い相手に勝ってみよう。練習メニューは父ちゃんが考える!父ちゃんが勝たせてやる!奴をぶっ倒そう!」

泣きながら、下を向いて、絶望の淵で座り込みながら息子は小さく頷きました。

そして、車で10分のお寺の階段をダッシュで駆け上がる。フリーハンドでの筋トレ。そして、まずはシッカリ蹴る、殴ることの練習を、

日はすっかり暮れて、真っ暗になり、練習を始めてから三時間が経過してました。
まだ小学一年生・・・しかし。
バカにされたままで逃げ回る弱虫にはなって欲しくない。泣き虫でもいい。
臆病でもいい。臆病でも泣き虫でも、頑張れば勝てるかもしれない。
父ちゃんは「勝てるかも」そう思った。

なぜなら・・・君は泣き虫だけど、臆病者だけど・・・弱虫じゃないから。
そうじゃなきゃ、数人を相手に文句も言わない。
小さな身体で三時間もキツイ練習をこなさない。
例えそれが「やらされてる」としても、何を恥じる事がある?
まだ分別のつかない子供に、「やらされてるなら、やらない方が良い」とか、「やらされてる内は甘い」とか・・・そんな理屈は大人のエゴで、それこそ子供の好きにさせたら毎日遊ぶだけで、中身は空っぽの日々になる。

放置主義とゆう名の「放任主義」を正当化したい親には都合の良いエゴなど、聞く耳を持たない父ちゃんと、泣き虫坊主の息子は、毎日の様に、母ちゃんに「普通じゃない!キチガイだ!」
と言われるほど練習に明け暮れたのです。
合言葉は「思い知らせてやれ!」「奴をぶっ倒せ!」
毎日その言葉を胸に。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?