魔女の秘密〜魔女は急の事態に戸惑う。2

 咲良は、家に着くと居間には寄らずに自分の部屋に戻った。
理由は、玄関に見知らぬ男性用の革靴があったからだ。
 咲良は、誰か来ているんでしょうかと思ったが、すぐに閃いた。
 それは葵の彼氏さんが来ているんでしょうと。
 何故なら、男の人を家に連れて来るのはお父さんが葵しかいないからだ。
 そんな所に行くと姉カップルの邪魔になってしまう。
 そう判断し、速やかに自分の部屋に戻った。


 咲良は、自分の部屋に戻ると、鞄を机の上に置いて、制服から私服に着替えた。

 咲良は、暇になったので夕食まで読みかけの小説を読むことにし、ベッドの上に横になる。
そして、そのまま読みかけのページを開くと読み始めた。

 しばらくすると、急にドアを叩く音が聞こえた。

 なので、咲良は読んでいるページに素早く栞を挟むと口を開いた。
「どうぞ」
 ドアが開いた。
そして表れたのは私の姉である飛龍葵ひりゅうあおいだった。
「咲良、お母さんが呼んでるよ。」
 と言われて咲良は内心、何でしょうか?と思いつつ慌てて起き上がると立ち上がった。
「はい。行きましょう。」
 そして、葵と一緒に自分の部屋から出た。



 葵に付いて行くと一階の居間に着いた。
 中に入って見ると、テレビの前に母と、ここにいるはずのない人物が座っていた。
その人物は目を見開いて咲良をガン見している。
 が、一方の咲良はというと、目の前の光景が信じられなくて目を擦っていた。
 目を開くと幻のように消えていることを願って。
 だが、咲良が目を開いても、彼女の意思に反してその人物───────高瓦火夏たかがわらひなつは、今も目を見開いて咲良をガン見していた。
「高瓦君、どうしてここにいるんですか?」
 ガン見されていることの居心地の悪さに咲良は、思わず聞いてしまうと火夏はやっと目を見開いてガン見するという行為を止めると言いにくそうに口を開く。
「あ、ああ。実は母が家出した。それで今日からこの家にでお世話になることになった。」
 彼の言葉に咲良は驚いて、お母さんを見た。
「お母さん、どういうことですか?」
 すると、お母さんはニッコリと微笑むと説明を始めた。
「咲良、火夏君はね、直子ちゃんの息子さんなのよ。」
 そう言われて咲良は微笑んだ。
「そうだったんですか。高瓦君は直子さんの息子さんだったんですね。で、直子さんが家出を・・・。けど、何でここで預かるんですか?」
 と聞くとお母さんは当たり前のように
「それはね、直子ちゃんに頼まれたからよ。」    と、言われたので咲良は葵に止めて貰うようにすがる視線を送る。
 だが、葵は、咲良のすがる視線に気付かなかったのか
「私は大丈夫だよ。」
 と、答えてしまった。
 なので、咲良は手を挙げて本音を口にした。
「・・・。あのぅ、私は大丈夫じゃないです。だって、間違いがあるかも知れませんし。」
 と、言うとお母さんは、
「誰と誰が間違えるの?」
 と、ニヤニヤして聞いて来たので咲良は真面目な顔で答えた。
「えっ、それは、お姉ちゃんと高瓦君です。」
 それを聞いた火夏はすぐに否定した。
 「それはない。」
 火夏としては、葵には手を出す気は無い。
 ただ、手を出したい相手には、こちらの気持ちを伝えていないので手を出せないので否定したのだが、肝心の好きな人はこちらを睨んできた。
 何故、睨まれたのだろうと内心困惑する火夏に、咲良は予想外のことを口にした。
「・・・高瓦君。言って置きますが、お姉ちゃんは美人で性格も良いのでとてつもなくモテるんですよ。そんなお姉ちゃんに何の不満があるんですか!」
 と、まさかの好きな人に姉をすすめられて火夏は、内心ショックを受けながら、慌てて口を開く。
「不満はない。だが、俺には、好きな人がいる。だから、葵さんとは間違いを起こさない。」
 これで大丈夫かと思われたが咲良は、納得出来なかったのかまだ睨んでいた。
 一方の咲良は、表面上、淡々と告げられたことに好奇心が湧いた。
 学校の人気者に、それも女に興味が無いといわれている人物の想い人がかなり気になった。
「好きな人って誰ですか?」
 と、思わず聞いてしまうとお母さんに止められた。
「咲良、これ以上はやめてあげて。」
 お母さんは、あまりにも火夏が狼狽えて可愛そうだと思ったので止めたのだが、下の子は、感情的になって狼狽える火夏の様子に気付いていない。
「何でですか?・・・、はっ、ご、ごめんなさい。確かに、あまり仲良くない女に言いたくないですよね。」
 と咲良に謝られた火夏は、内心さらに落ち込んでしまったので、火夏が咲良に抱く恋心を大親友から聞いていたお母さんは助け舟を出すことにした。
「とにかく、今日からしばらく一緒に住むから、仲良くしなさいよ。」
 と、お母さんに言われて咲良は渋々頷いた。
「ハァー。・・・分かりました。高瓦君、今晩からよろしくお願いします。」
 下の子の態度の悪さに内心頭を抱えつつも見守っていると、
「あ、ああ。よろしく。」
 と火夏は狼狽えていたのでお母さんは、火夏に罪悪感を抱いた。


 しばらくすると、お父さんが帰って来たので夕食を食べることにした。
 咲良はさっきのことで腹を立ってている為、無言で食べ進めていると、見兼ねたお母さんは、下の子と話すことにした。
「咲良、ちょっとこっちに来なさい。」
 と、呼ばれた咲良は、お母さんを見るとお母さんは笑顔でしたが、目は笑っていなかった。
 なので、咲良は少し怯えながら
「は、はい。今行きます。」
 と、返事をするとお母さんが席をたったので咲良はお母さんの後を付いて行った。



 お母さんの後を付いて行くと、お母さんの部屋に着いた。
 そして、咲良がお母さんの部屋の中に入ると、お母さんはドアを閉めると、
「咲良、そんなに嫌なの?」
 と聞かれたので、咲良は少し考えて口を開いた。
「い、嫌とかではなく、私はお姉ちゃんのことを馬鹿にされたことに怒っているだけです。だって、自慢のお姉ちゃんですから。」
 と言われ、お母さんは納得して解説することにした。
「咲良は、相変わらずお姉ちゃん子ね。・・・とりあえず火夏君は葵のことを馬鹿にした訳じゃなくて、咲良を安心させようとしたんじゃないかしら。火夏君だって、直子ちゃんの家出で、急に家を出ることになったんだから、不満もあるでしょうし、今頃、"自分はここに居ても良いのだろうか?"って不安になってると思うわよ。咲良、火夏君にそんな態度で良いの?」
 と、伝えると、やっと意味が分かってくれた咲良は首を横に振ると、口を開いた。
「駄目です。・・・分かりました。高瓦君と、仲良くなれるように頑張ります。」
 と、言うとお母さんの部屋から、出て行った。
 お母さんは、部屋から出て行く咲良を見送ると、内心で大親友に謝った。
 

 居間に戻ると火夏はいなかった。
 なので、葵に火夏の居場所を聞くと火夏、は自分の部屋に戻っていることが判明した。
なので咲良はすぐに火夏の部屋(咲良の部屋の隣の部屋)に行った。
「高瓦君、話があるので入っても良いですか?」
 と、ドア越しに話かけると中から、
「あ、ああ。別に構わない。」
 と、言ってくれたので、咲良は火夏の部屋の中に入った。
 そして、火夏の近くに行くと、話しかけた。
「高瓦君、さっきまで怒って態度が悪くなってしまってごめんなさい。あと、高瓦君も大変なのに自分のことしか考えてなくてごめんなさい。」
 と、謝ると火夏は
「お前は悪くない。俺もお前の立場ならそうすると思うから、気にしなくても良い。
・・・俺は出来たらお前と仲良くしたい。・・・駄目か?」
と、言ってくれたので、咲良はホッとして思わず微笑むと首を横に振って言った。
「駄目じゃないです。私も高瓦君と仲良くなりたいです。」
「今の言葉は本当か?・・・・・・ありがとう。これからよろしく。」
 と好きな人との関係の変化に火夏は嬉しかった。
「はい。よろしくお願いします。」
 と、言うと彼は小さく微笑むと口を開いた。
「では、居間に戻ろう。」
「はい。戻りましょう。」
 と、言って居間に戻った。


 居間に戻るとお母さんが、
「火夏君に謝ったの?」
 と聞かれたので咲良は
「はい。謝りましたよ。」
 と、いた。
 それから、自分の席に座ると食事を再開した。
 そして、咲良は、ふと気になったことがあったので火夏に聞くとにした。
「高瓦君って家事とかするんですか?」
「ああ。一応、一通り出来る。」
それを聞いて咲良はニッコリと微笑んだ。
「なら、お手伝いも出来ますよね。」
「ああ。元からそのつもりだ。」
 と、当たり前のように言われて咲良は、
「頼りにしてますね。」
 と言うと火夏は、
「そういう飛龍はどうなんだ?」
 と、聞かれたが葵にも聞いているのかが分からなくて咲良は、火夏を見た。
 そのリアクションに火夏は、はっとあることに気づいた。
 この人達は、皆飛龍だと。
 火夏は自分の失言に溜息をこぼした。
「・・・すみません。妹の方に聞きました。」
 と言われた咲良は口をいた。
「えっと、わ、私も一応・・・。」
 と、答えるとずっと傍観していた葵が、
「そうそう、咲良はもう花嫁修行してるもんね。」
といきなり変なことを言いだした。
「「えっ!」」
 咲良は、急に言われた自分も知らないことに「えっ!」と驚いて聞いたと同時に何故か火夏も咲良の顔を見ながら同じことを言った。
 そのリアクションに葵は慌てて言い訳をし出した。
「だ、だって咲良、料理とか凄く頑張ってるから」
と言われ、咲良は当たり前のように答た。
「そりゃあ、頑張りますよ。将来の為に。」
 すると火夏は咲良に聞こえないように
「以外だな。」
 と呟いた。
 一方の咲良は火夏が何かを呟くとそのまま黙り込んでしまったので疑問に思い、
「高瓦君、どうされたんですか?」
 と、聞くと火夏は慌てた様子で、
「あ、ああ。別にどうもしないが・・・。」
 と、口ごもった彼に、咲良は笑顔で話しかけた。
「ところで、笙の楽譜ってどうなっているんですか?」
「ああ。そうだな。・・・また今度見てみるか?」
 と、言ってくれたので、咲良は頷いた。
「はい。お願いします。」
 さっき咲良が火夏に振った話題は、咲良と火夏が所属している〈雅楽部活ががくぶ〉という部活動の話しである。
 因みに火夏は笙を担当して咲良は舞(白拍子)を担当している。
「そういえば、咲良と火夏君は同じ雅楽部だったわね。」
と、いきなり会話に入って来たお母さんに咲良は頷いた。
「はい。そうですよ。・・・ね?」
「あ、ああ。そうです。」
 と言いつつも、彼の顔が赤かったので、咲良は首を傾げて聞いた。
「えっ?ど、どうされたんですか?顔、赤いですよ?」
「別に、どうもしない。」
 と言われ、咲良はキョトンとした。
(どうして私だけタメ口何でしょうか?)
 多分、咲良は知っている人だからタメ口なんでしょう。
 そう結論を下すと、ご飯が無くなるまで食べ続けた。


 長かった夕ごはんが終わってお風呂に入ることになったのだが、お風呂に入る順番を決めていなかった為咲良は葵と火夏にとある提案をしてみた。
「じゃんけんでお風呂に入る順番を決めませんか?」
「ああ。別に構わない。」
「うん。良いよ。」
 と2人が頷いたので、じゃんけんを始めた。
「「「最初はグー、じゃんけん、ポン!」」」
 そして、じゃんけんをして決まった順番は、1番、葵、2番、咲良、3番目は火夏になった。


 咲良は洗面所から出ると火夏の部屋に行くとドアをノックした。
 咲良が部屋の様子を窺っていると、部屋の中からドアが開いて火夏が、顔を覗かせた。
「高瓦君、お風呂上がりました。お次どうぞ。」
「ああ。分かった。今行く。・・・・・・あと、俺のことは火夏で良い。苗字で呼ばれると落ち着かない。」
 と言われた咲良は、キョトンとして口を開いて、彼に聞いた。
「えっ?落ち着かないんですか?・・・・・・わ、分かりました。それなら、私のことも咲良と、呼んで下さい。飛龍だと、皆も反応しますからね。」
「ああ。そうさせて貰う。・・・・・・あと、俺がここで預かって貰っていることは、桜咲以外には言うな。俺も花崗には言うから。」
 と言われ咲良は笑顔で、
「はい。分かりました。詩乃には明日言って置きますね。・・・で、では、おやすみなさい。」
 と、一方的に伝えると自分の部屋に戻って読みかけの小説を読み始めた。