第1回笹井宏之賞大賞受賞から今までの話
2018年のある日、見たことのない電話番号から着信があった。一瞬、ある心当たりが頭をよぎったけれど、いや、そんなことはないだろう、と思いなおす。折り返すと、書肆侃侃房の藤枝さんという人が出た。
「第1回笹井宏之賞にご応募いただいた件なのですが」
と藤枝さんが言う。
「はい」
はい、としか言いようがない。否定した心当たりが踵を返して戻ってくる。もしかして、候補になったけれど不備があったのだろうか、まさか個人賞だろうか。
「柴田葵さんの『母の愛、僕のラブ』がこのたび、大賞に選