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きみは短歌だった

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2023年12月の記事一覧

【作者解説】短歌50首連作「母の愛、僕のラブ」

本記事を書くことにした経緯はこちら→ 笹井宏之賞は50首の連作で応募する形式だ。短歌の「連作」という形式はあまり、というか、まったく世間一般からの認知度がない。教科書に掲載されている短歌も1首ずつであるし、町おこしや啓蒙活動の一環で開催される短歌コンテストも1首単位の募集がほとんどだ。 連作という形式を理解しているのはそれこそ「短歌に親しみ、取り組んでいる人」くらいだろう。最近は少しずつ変化があるのかもしれないけれど。 50首連作は50首の短歌でもって1作品とする。前回記

【作者解説】短歌20首連作「ぺらぺらなおでん」

本記事を書くことにした経緯はこちら→ 柴田葵(私)の歌集『母の愛、僕のラブ』(書肆侃侃房 2019年)の冒頭に収録されているのが、短歌20首連作「ぺらぺらなおでん」だ。Amazonの試し読みから20首すべて読める。 これは第2回石井僚一短歌賞に応募し、次席(2位)になったものだ。なお、第1回石井僚一短歌賞に応募したのが、同歌集に収録されている別の連作「より良い世界」である。第1回石井賞は「20首以下」というめずらしい規定だったため、一首とでもどうとでも解釈できる「うん」だ

第1回笹井宏之賞大賞受賞から今までの話

2018年のある日、見たことのない電話番号から着信があった。一瞬、ある心当たりが頭をよぎったけれど、いや、そんなことはないだろう、と思いなおす。折り返すと、書肆侃侃房の藤枝さんという人が出た。 「第1回笹井宏之賞にご応募いただいた件なのですが」 と藤枝さんが言う。 「はい」 はい、としか言いようがない。否定した心当たりが踵を返して戻ってくる。もしかして、候補になったけれど不備があったのだろうか、まさか個人賞だろうか。 「柴田葵さんの『母の愛、僕のラブ』がこのたび、大賞に選