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きみは短歌だった

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2017年12月の記事一覧

【ない昼・ある夜①】 薄っぺらいビルの中にも人がいる いるんだわ しっかりしなければ/雪舟えま

幼い頃から「しっかりした子だ」と言われてきた。「大人しい」とも「やんちゃだ」とも言われなかった。「天才だ」とも「馬鹿だ」とも言われなかった。言い方を変えれば、どことなくしっかりしている以外の特徴がなかったんだと思う。私はそういう子供だった。そして、そういう大人になった。 この街のビルはどれも同じように見えるけれど、あなたが入ることを許されているビルは意外と少ない。昼休み、少し遅れてコンビニへ行き、てりやきチキン卵サンドとブラックサンダーを買い、ベンチで食べ、特にやることもな

【鍵を返す②】 人身と雨が重なる電車かな私よりつらいひとばかりだよ/柴田葵

  さよなら毛布 『ばぶぅケバブたべたいんでちゅ』秋葉原こんなに肥えたたましいがある 雨くさい客で溢れるカフェにいる雨宿りじゃない理由できみと こたつ買う買わない議論のうやむやは去年の今ごろ 買わなかった 悪い子じゃないです酷い大人です 自分で自分になまはげをして 人身と雨が重なる電車かな私よりつらいひとばかりだよ 褪せた桃いろの毛布とはじめからそんな感じの空いろの毛布 冬コスメばら撒きましょう今夜から大好きなものとひとりで暮らす ◇短歌七首連作◇ 柴田葵「

【鍵を返す①】 カフェラテの泡へばりつく内側が浜辺めいてもドトールここは/千種創一

恋人だった人は短歌が好きだったらしい。 あの人は短歌の本を何十冊も持っていたから、共に暮らした一年半のうちに三冊ぐらい僕も読んだ。教科書で習ったことのある俵万智と、エッセイを目にしたことのある穂村弘の本。そして、やたら格好良い装丁だった、千種創一という人の短歌の本だ。不思議な本で、厚さの割に妙に軽かった。ざらざらした薄灰の紙が束ねられているようなつくりで、遠い記憶や遠い土地からひっそり持ち帰ってきたもののようだった。 僕が大阪への転勤することが決まったのは先月だ。そして僕

【篠さんと鯵②】 あの友は私の心に生きていて実際小田原でも生きている/柴田葵

篠さんからメールが来て、返信できずに三ヶ月が経った。 篠さんは高校のころの同級生で、私たちは同じ美術部だった。二年生のときの文化祭では「私たちは永遠に大きなものを作らねばならない」「これは大きさへの挑戦である」と言って、ふたりで大きな鯵をつくった。大きな鯵は大変場所を取るので、立てて展示することになり、美術室のベランダから空に向けて屹立する鯵が完成した。私の夢のなかでときどき泳いでくる鯵は、たぶんあのときのあれなんだと思う。 篠さんは篠原さんという苗字で、みんなに「しの」