腸内細菌で過敏性腸症候群を治す

過敏性腸症候群(IBS:irritable bowel syndrome)は10人に1人がなる病気です。お腹の痛みや調子がわるく、それと関連して便秘や下痢などのお通じの異常(排便回数や便の形の異常)が数ヵ月以上続く状態のときに最も考えられる病気です。

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原因はストレスと粘膜の荒れ
はっきりとした原因はわかっていませんが、腸の動きを支配する自律神経の不調で腸の収縮運動と腸の変化を感じとる知覚機能が共に過剰になっている事がわかっています。その原因としてストレスが考えられます。

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もう一つが粘膜の荒れです。細菌やウイルスによって感染性腸炎になってしまった場合、過敏性腸症候群になる確率は6〜7倍になってしまいます。腸炎によって粘膜の状態が悪化している事が原因である事が推定されます。

良い腸内細菌叢を育てる事が治療になる
治療は2つの方向からアプローチします。一つはストレスに対処する事。ストレスの原因(職場の人間関係など)を除去する事が良いですが、実際には難しい事もしばしばです。せめて体へのストレスを減らすために規則正しい生活や飲酒・喫煙を控える事が推奨されますがそれでも足りないでしょう。もう一つのアプローチが良い腸内細菌叢を育てる事です。

食物繊維は水溶性繊維を取る
腸内細菌叢を育てる代表的な方法は食物繊維を摂取する事です。食物繊維には2種類あり水溶性食物繊維(昆布、わかめ、こんにゃく、果物、里いも、大麦、オーツ麦)と不溶性食物繊維(穀類、野菜、豆類、キノコ類、果実、海藻、甲殻類の殻)があります。腸内細菌を育てる力があるのは水溶性食物繊維であり、これの摂取により腹痛や便通異常が改善された事が示されました(研究で示された水溶性食物繊維はオオバコ)。不溶性繊維では便秘に関しては有効性を示す事ができましたが腹痛などは増悪したとの報告もあります。

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過敏性腸症候群の腸内細菌で減っている菌を補う
過敏性腸症候群の患者の腸内で繁殖している菌も健常な人とは異なっている。中でも善玉菌であるFaecalibacterium(フィーカリバクテリウム:写真上)やBifidobacterium(俗に言うビフィズス菌:写真下)が減少している事がわかっています。このビフィズス菌を口から摂取する事(プロバイオティクス)で過敏性腸症候群の症状が和らぐ事が報告されています。

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無理せず医師にかかる事も大事
過敏性腸症候群に対しては上記以外でも対応する治療薬は多くあります。便秘方、下痢型に合わせた治療方法がありますので食物繊維+プロバイオティクスを1ヶ月試しても奏功が見られなかったり、一刻も早く症状を和らげたい場合は無理せず医師の診察を受ける事をお勧めします。以下のように症状に合わせて治療薬を選びます。(IBS:過敏性腸症候群)

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最後の裏技、糞便移植
善玉の腸内細菌が居ついてくれない場合は、最後の手段で他人の便を自分の腸内に移植する糞便移植があります。日本でも過敏性腸症候群の患者10名(このうち下痢型が8名)に対し6名の便形状が正常化し、腹部症状も改善を認めた一方で、有害事象は報告されませんでした。また他の報告でも糞便移植の有効性が報告されていますが、まだまだ研究途上で、1000種類もある腸内細菌でどの細菌にどの効果が見込まれるかははっきりわかっているものは少なく、また良い組み合わせもはっきりわかっていないためまだ保険適用にはなっていません。また、一部では逆に感染症の引き金になる菌を移植してしまった例も報告されています。ただ、下部内視鏡(大腸カメラ)で直接他人の糞便を移植する方法が従来の方法ですが、最近ではカプセル型にして内服をする経口カプセル(うんちカプセルor便カプセル)を使用しても治療効果が変わらないのではないかという報告もあり今後が楽しみな領域でもあります。


参考
機能性消化管疾患診療ガイドライン2020:過敏性腸症候群
引用
日本消化器病学会ガイドライン:過敏性腸症候群(IBS)
https://www.jsge.or.jp/guideline/disease/ibs.html#q1
ヤクルト中央研究所
https://institute.yakult.co.jp/bacteria/4269/


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