【日記】悪役の書き方について

『ライアー』の次の話について考えている時、ふと「僕は魅力的な悪役をちゃんと書けているのだろうか」と思いました。面白い作品は悪役が魅力的だというのはもう散々言われてきたことですが、じゃあ実際自分はそれを実践できているのだろうか、と。そういうわけで、今回の記事では悪役の書き方について考えたいと思います。ついでに今まで僕が書いてきた悪役のことも振り返ろう。これは創作論の記事じゃなくて日記だから、こういうことをしたっていい。


悪とは何か?

いきなり難しい問題にぶち当たってしまいました。こうなっては、おしまいです。あまり哲学的なことを考えるつもりはありませんが、まあできる限り頑張って考えてみましょう。
大抵の場合、悪役は自身の信念のもとに悪をなしている。つまり、悪は「信念」と「行動」の二つに大きく分けて考えることができます。悪に限らず大抵の行為はそうだけども。
形として現れている悪にはある程度の形式があると思います。破壊、侵略・略奪・権力の強奪、洗脳・マインドコントロール、いじめ、殺人……まあ、こんなところか。少な!! でも、ファンタジーとかだと世界設定とかで手口をややこしくしているだけで、それをバラして行為の内容自体を見ると実際こんなもんだと思う。そうじゃないですか?(開き直り)
とはいえ、やっていること自体にはそれほど意味がないんじゃないかなと思います。信念を実現するための手段として適切であれば、ここが単純でも面白い作品にはなるでしょう。例えば、そうだな……『呪術廻戦』の夏油傑とかも「呪術師ではない人間をこの世から消し、呪術師だけの世界を作る」→呪霊を用いた大量虐殺を行う、みたいな感じで行為の内容自体は単純ですよね。だから、重要なのは信念の方だと僕は考えています。魅力的な悪役には、多くの人間が共感できる動機がある。しかし、その認知やそれを実現するための手段が致命的に歪んでいる。そういうものなんじゃないでしょうか。
もちろん理性を失って暴れまくる怪物みたいなパターンもあると思いますが、それは倒す側も確固たる信念や主張で打破するというよりは力や戦略で押さえ込む形になるだろうから、ここでは割愛します。

信念の生み出し方①:行為から考える

では、そういう悪役の「信念」はどうやって生み出せば良いのでしょうか。ここが一番大事だと思うし、皆さんも知りたいところですよね。僕も知りたいです。これが上手くいくかは分かりませんが、今回は試しに行為から信念を考えてみたいと思います。信念をもとに悪をなす悪役とは逆のルートを辿っていくわけです。例えば「破壊」の場合、自身の力を誇示することができる。それが目的だとすれば、悪役は自身が力を持っていることを重視していることになる。そうなった動機として、自身が力を持っていないせいで防げなかった悲劇が背景に存在する……という具合。
なんか上手くいきそうな気がするね。もちろん、同じ行為から別の側面を見出すこともできるでしょう。行為としては同じ「破壊」でも、「新しい世界を創るために今の世界を壊す」みたいなこともあるだろうし。ここは書き手の腕の見せ所でしょうね。
さて、上手くいきそうな見通しが立ったので一丁前に結論をまとめてみましょう。悪役の信念を考える方法の一つとして、「行為」から辿るという方法がありそうです。悪役に何をさせたいかということから考え、その動機としてふさわしいバックボーンを作り出す。こうすると、手段と目的が綺麗に結びついた悪役ができるのではないでしょうか。

信念の生み出し方②:正義から考える

正義の反対はまた別の正義。インターネットの各所で野原ひろしが言ったことにされてるこの言葉、見覚えのある方も少なくないと思います。主人公はもちろん、悪役の言うことも否定できない。そういう状況になったら大抵面白いわけだし、是非ともそういう状況を作りたいものです。
で、これを考える上で気を付けたいのは「主人公側のバイアス」です。読み手は主人公の物語を中心に追いかけていくことになるので、どうしても主人公側に肩入れしやすい。よっぽど変なことを言ってない限り、何か主人公側が正しく見えてしまう。ブルアカの「時計仕掛けの花のパヴァーヌ編」一章とか特に顕著だと思います。冷静になってみたらどう考えてもユウカが正しいのに、何か知らないけどゲーム開発部の方に肩入れしてしまう。そういうことを加味すると、悪役は最初から否定されやすい存在であることを念頭に置いた上で作る必要がありそうです
だから、信念を作るのは主人公よりも悪役を先にした方が良いと思います。僕は今のところやってないんだけど、考えてみればそうだと思う。まず悪役の方に自身の思う正義を掲げさせて、主人公にはそれを止めるようなキャラ付けを行うこと。もちろんその説得力を高めるための主人公側の背景も必要になりますが、そうやって作ると悪役の否定はしにくくなるんじゃないかと思います。だって正論だから。主人公側には先述したバイアスの他に「行為の正当性」という大きな武器がある(あるいは悪役側に行為の不当性という大きな弱点がある)ので、ここまでしてようやくイーブンに持ち込めるって感じなんでしょうね。有名な作家や漫画家にも「主人公より悪役の方が好き」という方は多くいらっしゃいますが、先に悪役から作ってるとしたら確かにそうなりやすいだろうなって感じです。

終わりに

そういうわけで、今回は悪役の書き方についてあれこれ考えてみました。とりあえず出た話をまとめてみましょう。

・悪は「信念」と「行動」に分けることができ、魅力を出しやすいのは「信念」の方
・信念の作り方の一つとして、行為から逆算して動機を作るという方法がありそう
・主人公にはバイアスや行為の正当性という武器があるので、悪役は否定されやすい。そのため、逆境を跳ね返すほどの説得力があるのが望ましい。悪役を先に作り、正義を掲げさせることで、その説得力を持たせることができそう

こんなところか? まあ一晩で考えたのでこんなもんでしょう。これが正しいのかどうかは分かりませんが、実際僕自身も今後書く上で参考にできそうなので考えてみて良かったと思います。

おまけ:自分が書いてきた悪役を振り返る

ここまでつらつらと理屈を並べて来ましたが、そういう己はどうなんだという話。作品の宣伝も兼ねて、これまで書いてきた悪役をざっと振り返ってみましょう。サンプルとして参考になるかどうかは分かりませんが、参考になれば幸いです。読む時にいちいちリンクがあると邪魔だろうから途中で作品のURLは貼りませんが、『ライアー』だけ最後に貼っておきます。他の作品についてはTwitterのプロフィールとかに置いてあるので興味を持ってくださった方は是非そこから覗いてみてください。『ライアー』だけは連載中なので、なるべくネタバレしないようにします。物書き用のTwitterアカウントではもう中身に触れまくっているので今更という感じがしないでもありませんが。

『言の葉の騎士』

高校生の頃に書いた長編。マジで拙いし、文章作法も全無視している(当時はLINEのステータスメッセージで連載していたから。信じられない話ですよね)ので、読まない方が良いです。読まない方が良いから、普通に終章の展開も載せてます。この項目書くためにざっと見返したけど、ヘシオドス『神統記』ぐらい読みづらかった。これはすごいことですよ。

・ゴウ
主人公、騎士ローランの宿敵。彼の故郷を滅ぼし、幼馴染を瀕死まで追い詰めた。死のない国を作り出すという野望のために命を司る神を喚び出したり、神と一体化して蘇らせた死人の軍勢をローランに差し向けたり、色々やったが何やかんやでローランに敗れる。

・クオン
ローランの主君を殺した張本人。その殺害により、かつてローラン達が身を置いていた争いを終わらせたので英雄視されている。コインやビリヤードのキューを使って戦ったが、何やかんやでローランに敗れる。

・ローランの影
旅路の果てに待ち受けていたのは、ローラン自身の影。自分がこれまで犯してきた罪をローランに突きつけ、彼を直接倒すことで裁こうとする。何やかんやでローランに敗れる。

まあキャラ作りとか以前の問題なので特に言うこともないですが、こんな感じのキャラクターを作っていました。こうして見ると、ゴウは今回話した内容に結構近いかもしれませんね。死のない国を作ろうと思った動機とかを全然語ってないからアレですけど。

『水月』

以前書いた短編。月が大好きな女性「太田千陽」と、月が嫌いな青年「月島美月」のお話。僕の短編は「キャラ紹介→事件発生→戦闘シーン→事件解決」って大枠に当てはまることが多いんですが、これはまさにその典型みたいな感じのストーリーラインになっています。

・人さらいの犯人
街で起こっていた人さらいの犯人。実際の目的は人さらいそれ自体ではなく、悪魔に契約を持ちかけられ、病死した娘を生き返らせるために生贄となる少女を集めていたのだった。

短編ということもあって悪としての規模は比較的小さいし、本編のメインは二人のメインキャラクターの掛け合いなので別に悪役を魅力的に描こうとしたわけでもないんですけど、まあ悪役の書き方自体は悪くなかったかなと思います。動機もちゃんとあるし、それと手段がちぐはぐになってもいない。ただ、この人物に対して想定されるリアクションは「哀れみ」であって「賛同」ではないだろうなって感じです。今回こんな話をしておいてなんですが、信念がちゃんとあるからといって必ずしも「魅力」が生まれるわけではないみたいですね。難しい問題だ……

『逢魔が刻に君に逢う』

それぞれに与えられた特殊な能力を使うことができる黒龍「スタンダール」と、特殊能力を持たないが身体能力に優れる白竜「メルヴィル」の争いに巻き込まれた少女、野田蔵いのりの物語。頑張って書いたけど、今見返すと拙い部分も多そう。多そうなので、見返さない。思い出の中で、じっとしていてくれ。

・ヴァイス
メルヴィルの王にして、主人公ノワールの宿敵。当初は正々堂々ノワールとの一騎討ちで争いを終わらせることを望んでいたが、ある事件で大事な存在を失ってからは復讐に狂って力を求め、禁忌とされている「竜の肉を喰らい、その力を貰い受ける」という行為にも踏み切る。僕はこいつが一番好きだ。

・野田蔵かなえ
いのりの姉。彼女と同様に、龍の世界に迷い込んできた人間。文武両道、万能の天才だったが、いのりの「願いを叶える」という規格外の力に両親が気付いてからはネグレクトを受け、その才能が日の目を見ることはなくなった。自身の才能を奪い、家族までも狂わせたいのりを強く恨んでいる。

・イチカ
スタンダール随一の実力を持つ遊撃部隊"朧"の隊長。視界に捉えた相手の動きを封じる『拘束』の力を持つが、そのせいで周囲から恐れられ、疎まれてきた。その力を恐れず、彼が目を開けずに生活できるようになるまで献身的に接してきた龍と結婚の約束をしていたが、その直前にメルヴィルの襲撃を受けて村が壊滅。自分以外の全員が殺され、彼は果てしない復讐心を抱いて村を去った。その後、戦いの中でヴァイスにとって大事な存在を奪い、彼と一騎討ちで戦うこととなる。僕はこいつが一番好きだ(浮気)。

・クロガネ
ノワールの兄で、スタンダールの先王。スタンダールでありながら、ヴァイスの姉であるエイスと愛し合っていた。王族の風紀はもうめちゃくちゃ。エイスの死がきっかけとなり、スタンダールを裏切ってノワールと敵対する。「君主は強く、そして狡猾でなければならない」と考えており、力を得るために禁忌を犯し、それを自らが持って生まれた能力であると偽っていた。

・ミドナ
龍の世界の創造主にして、世界を支配する「純血種」。長く続く戦争によって文明を発展させ、やがて人間の世界にも侵略して自身の世界を広げようと目論む。

まだ他にもいるにはいるけど、思ったより長くなったのでとりあえずこれだけ。こうして書くとそれっぽいですけど、本編だと描写不足を感じる面が少なからずありますね……かなえとかは特に物語中盤で、僕自身の物書きとしての実力が足りなかった部分もある。本当に惜しいことをした。
あと当時は「宿敵との因縁に決着をつけた後にポッと出のラスボスを倒す」って展開が良いと思っていたので(今も悪いとは思いませんが)、ミドナはあえて動機を単純に、規模を大きくしています。「人間ドラマ(龍だけど)はもうそれまでで十分に見せたから、後は純粋な悪を力でねじ伏せてスカッとして終わろうよ!」って魂胆ですね。今回は悪役のキャラ付け単体の話をしましたが、物語上の展開との噛み合いも考えて悪役を作るとより効果的な見せ方ができると思います。僕はこの時そこまで考えてなかったけど。

『ライアー』

現在連載中の長編。嘘が大好きな少女探偵「空言来亜」が、抜群の身体能力を誇る助手「江寺奈緒」とともに街で起こる怪事件を解決してゆくお話。

・炎の魔女
突如死亡した幼馴染「白雪美姫」との最後のやり取りから、彼女の死はいじめを苦にした自殺だと判断して復讐に走る。悪魔フラウロスを従え、七人のグループにいた女子生徒を一日に一人ずつ焼き殺していった。

・生霊
「眠り姫事件」の元凶。学校内の生徒や教員を眠らせ、そのまま衰弱死させようとする。生霊の発生源である生徒は競争の苦しみに疲れ、眠りという安息の中にずっといたいと考えていた。そう願う人間は他にも多くいるため、周囲の人間を巻き込んで事件を起こした。

・雪女
強力な冷気を操り、真夏の街に大雪を降らせた。しかし、それは彼女の目的ではない。彼女はずっと何かを探すように歩き回っている。ただ、それだけのために歩き続けている。

・おいてけぼり
神土高校のプールに出没すると噂された怪異。噂が広まってからは皆がプールに近づくことを恐れるようになった。それこそが、おいてけぼりの狙いだった。

・虎嶋 統一郎
誘拐から魔物狩りまで、幅広い悪事を行う組織"天狼"の長。彼の指示によって、幼い奈緒は壮絶な経験をすることとなる。
その本来の目的は「神に代わる絶対的な存在、すなわち英雄を生み出し、世界に通ずる新たな正義を創り出すこと」。そのためには英雄が打ち破る巨悪が必要であり、彼は自らその役目を請け負った。なので、彼は"天狼"の活動の果てには正義があると信じている。

ネタバレできないから全部は語れないけど、大体こんな感じです。気になったら是非本編を読んでください。noteにはおいてけぼりの前日譚があるので、よろしければそれも。
章としてはこれといった強みがないなーと思ってたんですけど、生霊は結構悪役の信念として幅広い層に通用しそうですね。生きているだけで競争に参加せざるを得なくて、生きていることが苦しい。そこから逃れるために眠り続けていたいということ。この生霊は七つの大罪の「怠惰」がモチーフになっている話ですが、ただ怠けているわけではなく、いわばエネルギー切れを起こしているわけです。こういう人、結構多いと思う。「こいつ、怠惰だな」と思った時に、「疲れてるのかもしれない」と気遣えるようになりたいものですね。それでもし本当にただ怠けているだけだったら余計に怒りが増しそうですが。

以上が僕が書いてきた悪役の7,8割ぐらいです。長かった……
『ライアー』の悪役に関してはまだ語れないことが多いので、完結したら舞台裏ツイートとか別の記事とかで話していこうと思います。それを楽しみに、まずは次の話を頑張って書きます。卒業に間に合わなくても必ず完結させるので、信じて待っていてください……

『ライアー』
https://kakuyomu.jp/works/16817330649155404003

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