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攻撃: 「サバイバルマシン」の宿命。#AGGR ⑴|エボサイマガジン


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あらゆる人間が、あらゆる人間にとっての敵であるという戦争状態のときには、あらゆることが、その結果として生じる。:また人びとが自分自身のもつ力と自分自身の発明によって自給自足したもの以外には、何の保証もなく生活している状態のときにも、同じことが起こる。そのような状況では、産業の場はない。農業、芸術、社会もそこには無い。そして最も悪いことには、そこには絶え間ない恐怖と暴力的な死の危険が存在し、人間の暮らしは、孤独で、貧しく、意地悪く、残忍で、短命なものになってしまうということだ。“
───トマス‪·‬ホッブズ『Leviathan or The Matter, Forme and Power of a Commonwealth Ecclesiasticall and Civil / リヴァイアサン』“
ホッブズの主張するところでは、人間は本来大胆で、攻撃し、戦うことしか求めない。だがある有名な哲学者は逆に考えており、カムバーランドやプーフェンドルフも同じことを断言する。自然状態の人間ほど臆病なものはなく、いつも震えており、少しの物音が不意に聞こえても、少しの動きに気づいても逃げ出そうとしているという。“ ───ジャン‪·‬ジャック‪·‬ルソー『Discours sur I'origine et les fondements de I'ine'galite' parmi les hommers/人間不平等起源論』


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オーストリアの動物行動学者・コンラッド=ローレンツは、マクロ生物学の研究で史上唯一ノーベル賞を受賞した人物だ(ティンバーゲン、フォン=フリッシュとの同時受賞だが)。

動物行動学の教科書も書いているC.ローレンツは、「攻撃」は動物の社会行動の必然的要素なのだと主張した。

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────ローレンツによれば、動物が本能的に持っている「攻撃的に振る舞いたいという衝動」は、発散せずにいるとタンクに液体が溜まっていくように身体の中に充満し、やがて爆発してしまう。*1

われわれ人間もその例外ではなく、スポーツなどによって発散することが欠かせないのだと言う。


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────いまでは、このローレンツの「攻撃タンク」の主張に賛同する動物学者はほとんどいないが、「攻撃的な振る舞い」が動物の社会行動の必然の要素という彼の見立ては正しかった。

ドキュメンタリー番組で知るよりも、自然界はずっと野蛮だ。


自然界の獣たちは、容赦なく獲物の首元に噛みつき、皮膚を引き裂き、内臓を抉り出し、骨をしゃぶる。NHKの教育チャンネルはキッズたちも見ているから、放送コード上どうしても映せない舞台裏がある。

残酷なシーンは編集されカットされる。だからテレビで自然界を知る視聴者にはバイアスがかかる。イヌを飼ったことがない人が、イヌの飼い主はウンコ処理係を兼ねているなどとは思いも寄らないのと同じだ。

ぬいぐるみのように白くてモフモフの可愛いトイプードルを飼うあのマダムは、べちゃべちゃの糞を強烈な臭いに耐えながら袋越しに手掴みで取り家に持ち帰るという、過酷な労働を日々強いられている────ペット番組ではほとんど例外なくカットされる部分だが、そこに生き物を飼うことの本質がある。穏当な世界ではないのだ。

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