新護憲神奈川 主体的平和戦略 ④ 

–世界的平和構築のための基本理念–

『輝け!九条』新護憲神奈川・市民の会 代表  松原 博

1. 軍事力対軍事力のエスカレートを止める日本の役割


 
人類の滅亡すら危惧される数千発の原水爆を保有する国が、それでも自国の軍事力に満足せず更なる強化を目指している。当然、想定される敵国の軍事力を上回るための努力である。
例えば、ミサイル。この間の飛躍的な発展の前は、「核弾頭が装着されていない、楕円軌道を飛ぶ弾道ミサイル」が暗然の前提とされていたが、中国・ロシア・朝鮮民主主義人民共和国が主敵となったアメリカの軍事態勢は核ミサイル防衛に変質した。中国・ロシアはマッハ5(時速6170㎞)以上で、くねくねとした進路を進み、低空を自在に滑空でき、さらに人工衛星や宇宙航空機にも変身できる「極超音速ミサイル」を開発した。これはイージス・システムでは迎撃が難しい。さらに中国は宇宙空間を利用した衛星ミサイルの開発(?)に進んでいるという。
トランプ前米大統領は、コストが暴騰しようとも、敵を圧倒する態勢を再建し、核戦争となっても米国が完勝できる態勢を作ろうとした。遠からず米国も極超音速ミサイルを配備することになる。そうなれば、核の槍だけをかざし、盾なしでデスマッチを行う事態となる。つまり、核戦争になれば勝者はいない(ここまでは、「世界」2023年1月号の世界の潮:極超音速ミサイルの衝撃—宇宙戦争に勝者はいるか  藤岡惇氏の文章を参考にさせていただいた)。
このような状況の中、2021年6月16日、バイデンとプーチンが首脳会談の「米ロ共同声明」で、「核戦争に勝者はなく、核戦争は決して行われてはならない」と表明したが…。
 
 いずれにせよ、このまま軍拡競争を続けることは人類の破局へと向かう、ということは確かである。
その軍事力対軍事力のエスカレートを止めるために、私たちがどのように、日本政府や日本の社会に訴えていくべきか。
とりわけ、日本の中で、「集団的自衛権行使容認、敵基地攻撃論、軍事費2倍、核共有論」などを口走る政治家たちには、鋭い批判を展開すべきである。アメリカ従属路線を是とする人たちに、その行き着く先についての想像力を喚起するする必要がある。
と同時にアメリカ一極支配が安定的に進行していない状況も伝える必要がある。
世界各地で民衆の声は多くの政局的波乱を引き起こしている。国と国との関係も揺れている。BRICSは、インド外交が中国を牽制しつつも、中南米の左派台頭と連動してその拡大の機運が出てきている。ジョンソン英首相辞任後のトラス外相、スナク前財務相の40代の後継者争いも新しい流れである。イタリアのドラギ首相は物価高騰対策を批判され、左派「五つ星運動」などから不信任を突きつけられている。
 
 アメリカに従属したままの体制が日本の唯一の道ではない。まずは、日本としての独自の道を模索する時代になっていることを自覚すべきである。
日本がとるべき道は、地政学的な条件を踏まえて、アメリカ、中国(香港も含めて)、ロシア、朝鮮民主主義人民共和国、台湾、そして東アジア諸国との平和友好条約に基づく安定的な平和体制づくりである。そのためには、各国から正当に認められるような政治状況を創り出すことが必要である。
 
 30年以上前だが、「戦争屋に騙されない厭戦庶民の会」代表の故信太正道さんが次のようなことを語っていたことが私の脳裏から離れない。
「韓国の民主的な集会で講演した時に、9条そのものが、日本そのものだ!と批判された。9条という立派な憲法をもつ立派な国という意味では全くなく、日本人の歴史的犯罪性を振り返れば、本音と建て前を使った平気で嘘をつく体質が表れている、という厳しい批判だった。」
陸海空軍をもち、アメリカの膨大な基地を容認し、思いやり予算で多額の費用負担をして、軍事的強化を進めている現実からは、その韓国の活動家の批判を認めざるを得ない。
 
安定的な平和外交を目指すには、私たちが、9条実現に向け努力している姿を、諸外国の政府・国民(民衆)に示さなければならない。
具体的には米軍従属からの離脱であり、自衛隊を専守防衛の最小の「実力」に止め軍備縮小の方向を示すことであり、近隣諸国との平和友好条約の実質的な実現に向けて努力していくことである。
 

2. 国連の実力を向上させるための日本の努力


 
2023年8月19日発売の「週刊金曜日」に植村隆氏の「ユネスコの『記憶遺産』問題の中で『慰安婦問題』資料の登録問題は、日本の市民団体なども加わり、8カ国・地域の団体などの申請となった。それに対して、安倍政権はユネスコへの分担金の拠出を留保するなど圧力をかけた」という指摘があった。
同じような指摘があったことを思い出して調べた。
「日本の外交は国民に何を隠しているのか」(集英社新書)で河辺一郎氏が、第一章「国連分担金滞納国・日本」:国連分担金22%の米国と約19.5%の日本が自国の都合で慢性的に滞納している。その事実すら知らない閣僚がいる、と指摘していた。
このことは、目先のわずかな利益をのみを追及し、国際的信用を傷つけている。
日本国憲法前文で、「われらは、いづれの国家も、自国の事のみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信じる。日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓う」と宣言している。
そういう態度が全く貫かれていない。そして、「日本国民」たる私たちはその事実をほとんど知らされていない。
  
国連は、第2次世界大戦後、戦勝国が中心になって設立した世界規模の組織である。
基本的には、戦争を否定し、平和な世界を創ることを目的に、人権宣言をはじめ、多くの宣言を発し、それぞれの概念規定、人類の平和の構築に貢献することを目指している。
しかし、5カ国が安全保障常任理事国として特権を持ち、戦後にも数多くの戦争を引き起こしてきた。 
とりわけ、トンキン湾における自作自演による自衛権行使や、イラク大量破壊兵器保持というフェイクによる集団的自衛権行使などの自国勝手の戦争を阻止するだけの機能を持ちえなかった。今も、ロシアの集団的自衛権行使を理由とした戦争を目の当たりにしている。それらを何故阻止できないのか。国連にはそれだけの実力がないという証しではある。
分担金の問題は、部分的なことだが、理念を掲げ、人類の平和を希求していても、その実態は、各国の利害関係に大きく左右されている。
 
現代の最大の課題の一つは、核兵器禁止条約と核拡散防止条約(NPT)の関係だろう。
核拡散防止条約は、1970年核保有国5カ国(米ロ英仏中)と非核兵器国186カ国の参加のもとに発効した。
核兵器保有国には、当面の間、核保有を認め、非核国には核を拡散させないというルールを決めた。これは核兵器保有国に核保有の永続的権利を与えたものではなく、保有国が核軍縮の義務を負う(6条)ことも決めた。
この義務は1995年に「究極的核廃絶に向け努力する」と確認され、2000年には「核廃絶への明確な約束」として13項目の軍縮措置に合意している。
これに対して、核兵器禁止条約は、2017年7月国連本部会議場で採択された。日本は条約に賛同せず締約国会議にオブザーバー参加さえしなかった。日本政府は、「核兵器のない世界への道筋はたくさんあり、アプローチの仕方が異なるだけだ」という態度をとった。
これまでに、2007年に核兵器廃絶国際キャンペーン(107カ国635団体)が発足し、2010年には赤十字国際委員会が「核兵器のない時代に終止符を」と訴えた。
 
核兵器禁止条約は、国連の核禁条約交渉会議に参加していた122カ国の賛成で採択されたが、米ロ英仏中のほかにインド、パキスタン、イスラエル、朝鮮民主主義人民共和国は不参加、日本のような「核の傘で守られている」と主張する「核依存国」約30カ国も参加をボイコットした。
しかし、この条約が生まれるまでには、国際法の発展過程がある。1970~90年代に生物兵器禁止条約、化学兵器禁止条約、対人地雷禁止条約、2000年代以降はクラスター爆弾禁止条約などの採択、発効である。
私はクラスター爆弾の恐ろしさについては文献で何回も目にしてきたが、この禁止条約が話題になった時に、この爆弾が日本で製造されていたことを知らなくてびっくりしたという記憶がある。私が迂闊だったと言えばそれまでだが、一般に報道されていなかったという現実のほうが問題である。「国民」に知らせないで、いろいろなことが進められている証左である。
 
2023年8月に核拡散防止条約(NPT)再検討会議が決裂し、最終文書が採択できなかった。岸田首相は日本の首相として初めて出席し講演した。しかし、2021年に発効した核兵器禁止条約には一言も触れなかった。
 
核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員の川崎哲氏は直後の記者会見で、ロシアの姿勢を「国際憲章」に反した核の威嚇で侵略戦争を続け、会議を決裂させたと批判した上で、米国など核保有5大国が、「核軍縮の義務に真剣に向き合おうとせず、核兵器の先制不使用の提案をことごとく拒絶したため」の不合意であり受け入れなれないと語った。
日本被団連の和田征子事務局次長は、「岸田さんは今までと同じことしか言わなかった。核兵器禁止条約をより拡げていくために、日本政府を動かさなくてはならない」と訴えた。
 
この2つの条約の溝を埋めるために、日本政府がやるべきことは何か。
6月に開かれた核禁条約締約国会議では、核禁条約はNPTを補完するものだと明記した政治宣言が採択された。議長を務めたオーストリアのクメント外務省軍縮局長は、NPT第6条の履行を後押しする枠組みを作った。この核の核禁条約を批判する人たちは、核軍縮の緊急性よりも、現状維持に重点を置いていることにあると述べ、核軍縮を停滞させている核保有国側の責任を指摘した。
日本(岸田政府)は、NPT再検討会議での演説で、その核禁条約に触れなかった。この姿勢は当然批判されるべきである。2つの条約の橋渡し役としての責務を放棄している。日本が核保有国の姿勢を糺さない限り、国際的に信用される国にはなり得ない。日本がやるべきことは、被爆国としても国際的に信頼される姿勢を貫かなければならない。 
日本が国連の場で、憲法前文で表明した姿勢を貫き通すことが、多くの国の信頼を得る道である。そして、核廃絶の正論を人類社会で実現させるための努力を国連のあらゆる場面で実行すべきである。と同時に憲法9条の真の実現に向けて、「国民」の合意を形成しつつ、日米関係をはじめ、軍事的、経済的状況の改革をしていくべきである。
 
 人権をはじめ多くの権利条約の実現、気候変動問題、食糧問題、人種差別問題、難民問題などの解決に向けて努力する「日本」を創造していくことが最重要課題である。
そのためには、私たち「国民」の声が、そのような方向を求めるように形成され、政府がそういう態度をとらざるを得ないような状況を私たちが創らなければならない。
 日本の労働組合運動、市民運動、そして、政党運動(政治運動)が、この視点を忘れずに、政府の国連での動きを監視し、絶えず、是正していくことが大切である。
 メディアも、もっともっと、西側中心の報道だけでなく、広く国際的な動向、国連内部の抱えている問題、日本政府の対応の問題点などの報道を強化して欲しい。
 
 これらの流れを創ることが国連の実力を向上させるために「日本」が努力すべき課題である。
 
➡次回は 主体的平和戦略⑤:
〈日米関係の改善・日本の専守防衛の徹底と主体的主張の重要性>


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