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「ココデオワルハズガナイ」君たちへ~UNISON SQUARE GARDEN×岐阜かかみがはら航空宇宙博物館

 UNISON SQUARE GARDENが<au5G LIVE「音楽と行こう」>という企画で配信ライブをする――という嬉しいお知らせが届いた。 

「日本各地にある、まだ知られていない素敵な場所で特別な音楽ライブを」
「音楽と通信の力で日本の地方の魅力を発信していく」

 こんなコンセプトの企画のトップバッターに、我が最愛のバンドが選ばれた。会場は岐阜県の「かかみがはら航空宇宙博物館」というところ。飛行機やロケット・宇宙についての展示物がたくさんあるらしい。そういえばUNISONの曲には、《星》や《空》や《宇宙》に関する言葉がよく出てくる。ピッタリの人選ではなかろうか。
 また、このライブには10代の若者たちを招待するという。窮屈なご時世でいろんなしわ寄せをこうむっている彼らに、少しでも楽しい思い出を……ということらしい。粋な計らいだ。きっと素敵な贈り物になる。ライブ常連の我々が保証する!

 収録は滞りなく行なわれたようで、わくわくして待つこと1週間。3月27日、20:00。配信開始。

 ノイズ混じりの通信音とともに、無重力空間を思わせるひしゃげた映像が映った。そして始まる異星人のうた『エアリアルエイリアン』。暗めの照明ながら我らがロックバンドのいつも通りのカッコ良さ。だけどあれ? お客さんは?
 それは収録されたライブとは別の、配信組へのボーナストラックだった。ぐるぐる回る照明、歪む画面、のっけからド直球で《宇宙》感全開だ。そして唐突に曲が終わり、『UNISON SQUARE GARDEN×岐阜かかみがはら航空宇宙博物館』のタイトル。始まる!

 冒頭、観客である10代の皆さんが入場する様子が映った。心なしか弾む足取りで、笑顔だ。やがて会場が暗くなり、オープニングの『絵の具』が流れ、青い照明の中、3人が姿を現した。拍手に応えて斎藤さんが手をあげ深く一礼する。それからおもむろにセッションが、そしてそのまま1曲目『マスターボリューム』が始まった! 初手から爆走ナンバーである。ラストサビ前のドラムがいつもよりものすごいことになっていたのは気のせいじゃないと思う。
 ライブの時はいつも『絵の具』が流れると観客はいそいそと立ち上がり、1曲目からガンガン手が挙がるが、今日はちょっと様子が違う。お初だったり、曲は聴いているけれどライブの経験はあまり多くないであろう10代さんたちは着席したまま。いきなり迫力満点の演奏を見せられて、「えっなにこれ???」という感じ? 彼らの音楽に圧倒されている。

 あっという間に1曲目が終わる。斎藤さんの「ようこそぉ!」そして間髪入れずに2曲目『to the CIDER ROAD』。ステージがぱあっと明るくなり、貴雄さんのバックに大きなロケットがあるのがわかった。半分に割れているのは、まさに宇宙に射出される瞬間か。まるい小さい光がそのロケットの表面に映ってゆらゆら揺れて、サイダーの泡に見える。
「cider road もう迷わないで 早々に出かけよう」
「その手を離さないで、さあ次はどこへどこへ行こう?」
 そのうたは目の前にいる10代の観客たちに、「よく知らないだろうけど、もうちょっと近くに来てごらん」と言っているようである。そして続けて3曲目『10% roll,10% romance』。テンポよく歌う斎藤さんの後ろでいつもどおり跳ねて暴れる田淵さん、絶好調の模様。最後に「お手をどうぞ right!」とエスコートするように誘って自己紹介「UNISON SQUARE GARDENでぇす!」——くぅーカッコイイ! なじみのない(だろう)彼らにゆっくり近づいて、自分たちの音楽の世界に引き込むくだり、配慮が過ぎる。そして名乗りと同時にドラムスターン! 鳴らしてからの傍のカメラ目線でビシッと敬礼を決める貴雄さん。このショットは配信組へのサービスですね、ありがとうございます!

 今宵の映像はスマホの小さい画面でも非常にクリアである。そして音が抜群によい。斎藤さんの歌声がいつも以上に「口からCD音源」だし、田淵さん・貴雄さんのコーラスもよく聞こえる。さすが5G回線のLIVE、この後がますます楽しみになってきた!

 「ロケットと飛行機の間からこんばんは、UNISON SQUARE GARDENです」
 まだ座ったままの10代さんたちに斎藤さんが挨拶した。配信用の収録ということもあり、かしこまっている彼らを「立って聴いてもいいみたいなので、無理にとは言わないけれどよかったら立ってね」と優しい口調で促す。そして「今から17年前に、僕たちが19歳の時に作った歌です」と言い添えて、次の曲『ライトフライト』。ゆらゆらと漂うスモークの中、後ろのロケットが照明の光を反射し、間奏のギターソロの旋律が一段と美しく響く。こんなにきれいな曲だったんだ、と改めて思う。
 だけどそれだけじゃ終わらない。がらりと曲調が変わる。始まったのは『流れ星を打ち落とせ』。めまぐるしく点滅する黄色い照明、疾走するギターとベースとドラムに斎藤さんの「ヤバイ・ヤバイ・ヤバイヤバイ!」が拍車をかける。UNISONさんの本領発揮の激しいナンバーに思いきり振り回される気持ちよさ、客席の彼らにも届いているだろうか。
 そしてひと呼吸おいて始まったのは『オリオンをなぞる』。UNISON SQUARE GARDENで検索したらきっと最初に引っかかる曲の双璧のひとつで、彼らを世に知らしめることになった曲でもある。観客が「この曲知ってる!」という空気になるのがわかった。今日のために聴いてきたのかな。そして徐々に音に合わせて体が揺れ始める。立ち上がっている子も出始めた。ここで比較的耳にする機会の多い曲を持ってきて一気に引きつける展開、お見事。ラストの「昨日までをちゃんと愛して 見たことのない景色を見よう」という聴きなれた歌詞と、最後の「ココデオワルハズガナイノニ」のところで、田淵さんがグッと握ったこぶしが、不遇な今を生きている10代さんたちへのエールのように聞こえて胸熱だった。

 再び斎藤さんのMC。先ほどの『ライトフライト』で焚いたスモークを「それ(宇宙)っぽいでしょ」そして自分たちの曲には宇宙とか星とか空とかいうワードが出てくるものがけっこうあると話し(知ってる!)、そんなうたを作っている田淵さんを「こう見えて最高にロマンチックなやつなんです」と自慢げに紹介する。そして「今日やるならこの曲かなぁ、と思って『やろうよ~』って(この「やろうよ~」が尊すぎてファンは悶死)そんな曲をやります。——Ladies and Gentlemen,  RIDE ON TIME!」今日やるならこれでしょ、って私たちも思ってました、『ライドオンタイム』!
 繰り返される「ライドオンタイム」というメロディーに、観客のうしろ頭がぴょこぴょこし始める。そう、踊りたくなっちゃう曲だよね。ファンの間では定番だけどメジャーではないこの曲でここまで盛り上がるなんて! リズム隊の貴雄さんが楽しそうにスティックを回しながらドラムを叩いている。

 まだまだ音楽は終わらない。続いて始まったのは『桜のあと(all quartets lead to the?)』、こちらもキャッチ―で軽快な曲だ。なんども繰り返される「ラララ」のメロディが耳に馴染み、10代さんたちの体がますます楽しそうに動く。
 「さあどこまでもゆくだろう」( lead to the? ってこういう意味なのかも?)という最後の歌詞に続く曲、ドラムのイントロは、彼らの一番のお馴染み、検索で出てくる曲の双璧のもうひとつ『シュガーソングとビターステップ』。聞いたことがある可能性がいちばん高い曲を、ここで持ってきた! 『オリオン~』の時と同じ、「これ聴いたことある!」という雰囲気、一段と盛り上がる観客席、とうとう手も挙がりだした! 聴き手の高揚感はもちろんステージの彼らにも届いていて、貴雄さんはフード被ってノールックドラム(ファンにはおなじみ)だったし、ラストサビは立ち上がって片方のスティックを振り回しながらシンバルを叩いていた(ちゃんと両方で叩いた方が……)。田淵さんはステージを駆け回り飛び跳ね、斎藤さんのボーカルはさえわたり、ライブは最高潮に達した。

 でも楽しい時間は永遠には続かない。「ラスト!」という声とドラムのイントロとともに、最後の曲が始まった。彼らの曲を聞き込んでいる我々にはすぐ分かる『シャンデリア・ワルツ』。「自分たちにとって特別な曲」だというこの曲を、いちばん最後に10代の彼らに贈るんだ!

「感情は何通りもあるけど ただ 自分のためだけでいい」 
「ハローグッバイ ハローグッバイ 何度も繰り返す 死んじゃうまできっと」
「行きついた先に何もなくても 息をするぼくらは構わない 世界が始まる音がする」
「君が握るその何でもなさそうな思いはもう輝きだした」

 このライブのあと改めて聴いて、不覚にも涙が出た。この歌の歌詞がいま、本来なら味わえるはずだったたくさんの楽しい思い出を手にできぬまま、別れと出逢いの季節を迎える10代の彼らへの向けたメッセージに聴こえた。「まだまだこれからだよ、楽しいことはたくさんあるし、楽しい音楽も山ほどある」と、新しい1年に旅立つ背中を優しく押す「ハローグッバイ」。それはUNISONの観客に対するはなむけの曲なんだーーそう思った。

 みんな立っていたし、手もたくさん挙がっていた。でもそれはいつもライブやDVDで見ている「聴衆が揃ってぶちあがる」一体感のある動きではなかった。テンポもばらばらでぎこちなくて控えめで、でも挙げずにはいられなくて、音楽に合わせて挙がる手。ライブの経験自体が少ないであろう10代の彼らが、UNISONの音楽の魅力に誘われ、ゆっくりと踏み出し、ついに身をゆだね始めたように見えた。
 そんな観客の心の変化はステージにも届いていたと思う。ライブの時、田淵さんの両腕はとてもよく動く。ベースを弾きながら時折、天を指さしたり、ぶんぶん振り回したり、バーン! と思い切り広げたりして、彼自身の気持ちを雄弁に語る。今日はいつもにもまして、よく動いているように見えた。
 以前ドキュメンタリーの中で田淵さんは、「自分の考えたセットリストで、思っていた通りの反応が客席から帰ってくると、『ヤッタゼ!』という気持ちになる」というようなことをおっしゃっていた。今日のセットリストはいつもライブで聴かせてもらっている、田淵さんいわく『物好き(ファン)』用の《一曲目からトップスピードになれるセトリ》とはちょっと違った気がする。変拍子とか転調の少ない、聴きやすくてキャッチ―な曲たち。つくった時期も、一番新しいのが『10%~』だったから、結成5~10年頃の、徐々に自分たちの音楽スタイルを確立していったバンドのいわば《青年期》にあたるような時期の曲が多かった。そして初めましての子にちょっとずつ、ゆっくりと近づいて、いつのまにか彼らの音で全身を満たしてゆくような、知らない曲でも楽しく聞ける流れをちゃんと作ってあった。まさに「10代の若者たちへ」向けた、今夜だけの特別なセットリストだった。なんて贅沢、そしてうらやましい!
 かしこまっていた観客たちは最後の曲で立ち上がり、手を挙げ、最後の斎藤さんの「UNISON SQAURE GARDENでした、バイバイ!」に応えて拍手喝采。しかも拍手の位置が高くなっている。胸の前じゃなくて頭の上だ。田淵さんが最後に見せてくれた両腕を広げてのどや顔は、自分のセトリが生み出した思っていた通り(以上?)の盛り上がりに満足しているように見えた。

 素晴らしいライブだった。大げさかもしれないけれど、音楽に出会い、心奪われる、ひとが「音楽に堕ちる」瞬間を目撃したような気がした。観客の様子が後ろ姿だけで残念。どんな顔をしていたのかな。きっとキラキラに輝いて楽しそうな、とってもいい表情だったんだろうな。見たかった! でも後ろ姿だけでも十分に彼らの楽しさをおすそ分けしてもらった。
 UNISON SQAURE GARDENはいつでも、最新が最高にかっこいいバンドであるが、この日また人類史上最高の最上級が更新された。「音楽と行こう」という企画のトップバッターにふさわしいライブだったと思う。彼らを抜擢した担当者の方、慧眼でした!

 その後のアフタートークで、彼らは博物館の中とか、岐阜のおいしいものとか、もうすぐ発売する新曲のこととか、たくさん話してくれた。飛行機やロケットにテンション上がって、宇宙服を着たパイロットベアに癒されて、宇宙食を試食して、楽しそうにわちゃわちゃしているのを見られたのも嬉しかった。 UNISON監修宇宙食「ナポリタン」は服につくのか、つかんのか? 9th アルバム『パイロット・ベア』はリリースされるのか? 続報が待たれる(ないない)。

 楽しいトークパートが終わり、ラストテロップが流れ、終わっちゃったなぁ……と立とうとしたその時。再び画面がステージに戻った。アコギを抱えた斎藤さんがひとり映る。あれ? まだある? と思った刹那。
「マテリアのビーチ腰下ろして 他愛ない手紙を書いてみた」
 うわー! 背筋が総毛立った。配信組へのボーナストラック、もうひとつあった。しかも『アンドロメダ』! つい数日前、配信ライブに思いを馳せながらいつものとおり全曲シャッフルでWalkmanを聞いていた時に偶然流れて、「あーこれすごくいい曲だよな。星つながり(の曲)だし配信ライブで聴きたいなぁ」と思った曲だった。アコギで、弾き語りで聴けるとは……感無量。物好きたちへの配慮も忘れない彼らに、改めて流れ星ならぬ、ワタクシのハートがShootingされたエピローグだった。

 UNISON SQAURE GARDENは今日も人類史上最高の最上級を更新している。年末のカウントダウン対バンライブVS女王蜂様の時は、ホストとしての懐の広さと『負けないぞ』というバチバチの対抗意識が交互に見え隠れしていて興味深かった。4月に始まった「fun time HOLIDAY8」では各地で、再戦の女王蜂様を始めとする同年代や後輩のバンドと組んで、さらにアツい対バンライブを繰り広げている。そして11年ぶりに始まったアニメ『TIGER&BUNNY2』のOP『kaleid proud fiesta』リリース、各所でのフェス参戦に7月からのkaleid proud fiestaツアー。彼らの音楽はひとところに留まらず、今日もこの先も走り続けていくだろう。楽しみでしかない。それにしても『TIGER&BUNNY2』、Netflixで全世界同時配信なんですよね。全世界的に一斉に、UNISONのカッコよさが知れ渡っちゃうってことですかね。大変だ!

 かくして 快進撃は始まった。(今年も!)
 振り落とされずに、ついていく。絶対楽しいに決まっているから!


 

 


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