見出し画像

辿り着いたその世界は

 ゴォン、という爆発音が轟いたのは、藤井透が巨大なトレラー型タイムマシンを自動操縦に切り替えた直後だった。

「一体、なんの音だ?」
 隣の操縦席に腰掛けていた中川聡が、そのもともと大きな目を見開くようにして透の顔を見た。中川聡は、透が勤めている、竹内タイム運輸の社員だった。透と同じ二十六歳で、日本人にしては目鼻立ちがくっきりとしている。頭はスキンヘッドに近いホヴズ頭にしていて、身長は百八十センチにわずかに届かないくらいだった。痩せてはいるが、筋肉質で引き締まった身体つきをしている。

 一方、透は純日本人といった薄い顔立ちをしていた。目も鼻も小さい。が、それぞれのパーツは悪くなく、まずまず整った顔立ちをしている方だといえた。髪の毛の長さは耳が隠れるくらいで、染髪はしておらず、その黒々とした髪の毛にはやや癖があった。身長は高くも低くもなく、百七十センチちょっとといったところだった。どちらかというと、すらりとした細身の体型つきをしている。

「……まさか、荷物が……」
 透は一瞬、最悪の自体を想像した。今、タイムマシンの貨物室にはさっきジュラ紀の地球から積み込んだ恐竜が数十匹以上は乗っていた。今日の透と聡の任務は、ジュラ紀の地球にある基地局から、未来にあるテーマーパーク用に恐竜を移送することにあった。なかにはその獰猛さで知られる、ティラノサウルスも含まれていた。

 とはいっても、もちろん、未来へ、つまり、西暦二千三百年の、透たちのもといた時代へ移送中に恐竜たちが暴れたりすることがないよう、強い薬で恐竜たちは眠らせてあったが。しかし、もしかすると、その眠らせていたはずの恐竜が何かの加減で覚醒し、檻から逃げ出して貨物室で派手に暴れ回っているのではないかと透は疑念に駆られた。

 恐竜を閉じ込めてある檻はちょっとやそっとの力では壊れないようになっているはずなのだが……と、透がそんなふうに思いを巡らせていると、
「まずいぞ、エンジンの出力が落ちてる」
 と、隣で聡が叫ぶように言った。

「どうすればいい?」
 透は隣にいる聡の顔を見やった。
「わからん!」
 と、聡はそんなことは俺に訊くなといように言った。

 透は目の前のコントロールパネルに目を落とすと、タイムマシンのエンジンの出力が落ちている原因を自分なり調べてみた。だが、エンジン関係のことに関しては全く素人の透には何がどうなっているのか、皆目検討もつかなかった。タイムトラベル中にエンジンのトラブルに見舞われたという話など、透はこれまで一度も聞いたことがなかった。また対処方も知らなかった。

 と、そんなふうに透が混乱していると、船内に警告音のようなものが鳴り響いた。タイムトラベルフノウ。タイムトラベルフノウ。コンピューターで作られた無機質な感じのする女の声が、それほど広いとは言えない操縦室内に何度も鳴り響いた。

 こんなときに、町田がいればな、と、透はタイムマシンのメンテナンスを担当している、自分よりも二つ年下の男の顔を思い浮かべた。彼だったら、こんなとき、何をどうすれば良いのか、的確な指示を出してくれただろうと思った。

 だが、今このタイムマシンには、透と聡のふたりしか搭乗していなかった。未来へ移送するだけの簡単な仕事なので、必要最低限の人間しか、このタイムマシンには搭乗していなかったのだ。

「タイムトラベルモード、強制終了します」
 と、無機質なコンピューターの音声が、最後通告のように告げた。

 その途端、それまでコクピットの外に見えていた亜空間が白く輝き、タイムマシンは通常空間に再突入した。コクピットの正面に、太陽の眩しい光が広がったと思った瞬間、目前に岩肌が迫って来た。

 ぶつかる!と思った直後、身体に強い衝撃が伝わり、それとほとんど同時に透は意識を失っていた。

この小説の続きをAmazonで読むことができます。タイトルは『辿り着いたその世界は』です。もし興味があったら読んでみてください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?