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Hello。Hello。

 ハロー。ハロー。元気ですか?今、ふと思いついたので、これを書いています。これは何処へいくあてもない、ただの独り言みたいなものです。わたしの感じことや、思ったことの、断片、あるいは切れ端。
              ☆
 ねえ、わたしはこれ以上、前へ向かって進んでいくことができるのかな?……ときどそんなふうに感じることがある。そのへんのなんでもない、小さな石ころに躓いて、転びそうになって、なんだか泣き出しそうな気持で、未来を、これからのことを、たとえばそれは、遥か、高い、高い、空を見上げるような気持ちで思うことがある。
              ☆
 ねえ、希望ってあると思う?
              ☆
 たとえば憂鬱な雨の日。青灰色の色彩に染まった、冷たいようなその世界。降りしきる雨の音。踏み出した足の一歩は、地面の、水たまりのなかに沈む。
            パシャン。
              ☆
 冬。とある日の午後。空は曇っていて、クスんだ、鈍い鉛色をしている。見ているだけで、その空気の冷たさが、心のなかにまで、浸透してくる気がする。
             ☆
 凍えるような冷たい空気が、わたしの心をぴったりと縁取る。ビニールラップみたいに隙間なく。
             ☆ 
 ため息が出そうになる。全てのことが、大袈裟に哀しく感じられる。何もかもが、無駄なように思える。もう、どこへも行けない、と、その場に膝をつき、途方に暮れて、その高い壁を見上げる。
             ☆
 あさはかな自信が、親友のような顔をして、にっこりと微笑み、わたしに向かって手を差し出してくる。わたしはにっこりと笑い返し、その手を握ろうとする。でも、その途端、彼はすぐさまその手をひっこめ、舌を出し、わたしのことを見下したように嘲笑う。視界一杯に、彼の真っ暗な口のなかが広がる。
             ☆
 目を閉じると、浮かぶのは、金色の、宝石の飾りがついた宝箱。そのなかにはわたしの宝物がぎっしりと詰まっている。でも、それは、今、暗く、深い海の底に向かって、ゆっくりと、気泡をたてながら沈んでいこうとしている。わたしはなんとかその宝箱を手に取ろうと手を伸ばすのだけれど、でも、その伸ばしたわたしの手は、虚しく冷たい水を掴み、やがて、わたしの大切な宝箱は海の暗闇に包まれて見えなくなる。
             ☆
 カタン。宝箱が海の底に転がった音を、聞いたように思う。
             ☆
 閉じた瞼の内側に広がる暗闇。黒の絵の具をたっぷりと贅沢に使ったような暗闇。
             ☆
 やわらかな泥でできたような暗闇のなかをわたしの身体は下降していく。もう、何もかもがどうでもいい、と、投げやりに思う。暗闇がわたしの身体から熱を奪っていき、少しずつ、わたしの心が強張っていくのがわかる。
             ☆
 でも、そのとき、一筋の光が、閉じていた瞼の内側を横切る。流れ星みたいに。なんだろう?

 やがて、気がつく。それはわたしの心のなかに埋没していた光だ。思い出の光。それはきみの顔。友人の弾けるような笑顔。きみはわたしが見た過去の光のなかで、大きく口をあけて、楽しそうに、心から笑っている。
             ☆
 ねえ。それは五月の透明で優しい光みたい。まだ生まれたてのやわからな色合いをした緑の木々が、風に吹かれて気持ちが良さそうに揺れている。木々の葉に濾過された静かな光がそっとわたしの目を打つ。
             ☆
 そうだ、と、わたしは思う。わたしは発見する。
            ☆
 途端に、身体が軽くなるのをわたしは感じる。いつの間にかわたしの身体は浮上し、濃いプルーの空を飛行している。空のずっと向こうにひとつのドアがあるのをわたしは見つける。
            ☆
 そしてそのドアを見つけたとき、既に、わたしはそのドアの前に立っている。わたしはドアのノブに手をかける。わたしはドアのノブを回す。やがて、目の前に新しい光が広がる。
            ☆
 ハロー。ハロー。これはわたしの独り言。ただの断片。
            ☆
 ねえ、でも、いつかたどり着くことができたらなって思うの。いつかわたしが信じた、明るくて、穏やかで、優しい場所へ。そして、そこにはわたしがいて、きみもいて。心から声をあげて笑うことができて。
            ☆
 だから
            ☆
 わたしは思い切って足を踏み出す。たぶん前に向かって。なんだかぎこちない、頼りない足取りで。躊躇いながら、ゆっくりと。
            ☆
 ハロー。ハロー。これはわたしの独り言。ただの断片。想いの切れ端。

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