見出し画像

ダボスマン 世界経済をぶち壊した億万長者たち

ピーター・S グッドマン
ニューヨーク・タイムズ紙のグローバル経済担当記者。ワシントン・ポスト紙でテクノロジー担当記者、アジア経済特派員・上海支局長として活躍後、ニューヨーク・タイムズに移籍。世界金融危機に関する報道でリーダーシップを執り、そのシリーズ記事がピュリッツァー賞の最終選考に選ばれた。ジェラルド・ローブ賞をはじめ数々の受賞歴を誇る。リード大学卒業、カリフォルニア大学バークレー校でベトナム史の修士号取得


1.ダボスマンという存在

「ダボスマン」という言葉を聞いたことがありますか?それはスイスのダボスで毎年開催される「ダボス会議」に出席する億万長者たちを指します。この会議は、世界中のリーダーたちが一堂に会し、環境問題、経済、技術、雇用、健康、国際協力、社会平等、デジタル化など幅広いテーマを議論する場として知られています。しかし、実はこの会議にはもう一つの顔があります。

ダボス会議の裏舞台では、ビジネス契約やネットワークづくりが盛んに行われているのです。最も影響力のある人々が自国政府や国際機関に働きかけ、彼らの都合の良い世界のルールを作るためのロビー活動が繰り広げられています。では、この会議のルーツをご存じでしょうか?

ダボス会議の創設者は、ドイツの経済学者クラウス・シュワブ教授です。1971年に「ステークホルダー理論」を基に、研究者、経営者、政府当局者らを集め、初回の会議を開催しました。当初の参加者は450人でしたが、その数は年々増加し、参加者の出身地域も多様化していきました。

シュワブは「戦略的パートナー」と称し、多国籍企業を勧誘し、年間数十万ドルと引き換えに特権を与えました。この特権により、企業の経営者たちは特別ラウンジへのアクセスが可能となり、そこで政府首脳や投資家たちと親密な交流を持つことができるのです。例えば、世界的な銀行やエネルギー企業の経営者たちは、防音処理された室内で、規制当局者やジャーナリストの目を避けながら、自分たちに有利な租税待遇や油田の採掘権などについて各国の首脳と話し合うのです。

このような会議に出席する億万長者たちが「ダボスマン」と呼ばれる理由はここにあります。彼らは世界中で貧富の格差が拡大する中、巨額な報酬を得て、繁栄を続けているのです。ダボス会議は表向きは世界の未来を議論する場でありながら、その実態は富と権力が交差する舞台なのです。

2.「ビジネスの社会的責任は、利益拡大にある」

ダボスマンたちは、一体どのようにして巨額の利益を得ているのでしょうか?まずは、記憶に新しい「パンデミック」に注目してみましょう。コロナパンデミックの際、彼らの表舞台での活動はまるで世界を救うヒーローのようでした。マスクや医療用ガウンの供給、ワクチンの製造といった迅速な対応は、多くの人々に希望を与えました。しかし、その裏で行われていたのは、「人々の苦しみを利用して利益を吸い上げる」冷徹な戦略でした。事実、2020年末までに世界中の億万長者が保有する富は3.9兆ドルに達し、これは途上国を救うために必要な年間約3.9兆ドルと同額です。

次は、「株主利益の最大化政策」です。この政策は米国の資本主義のあり方を根本から変えました。「利益を最大限に引き上げること」が道徳的義務とされるこの考え方を提唱したのは、経営学者ミルトン・フリードマンです。1970年、彼は「ビジネスの社会的責任は、利益拡大にある」と提言しました。これにより、株主たちは会社の経営権を奪い、期待通りの業績をあげられなかった経営陣を追い出すシステムを確立しました。

このフリードマンの理論を武器に、企業は動きの鈍い会社を次々と買収し、経営陣をすげ替えました。従業員数の削減や利益を生まない事業の撤廃を行い、その目的は「自己の報酬増大」にありました。経営者の報酬が株価と連動しているため、人件費のカットは避けられない手段だったのです。さらに、この理論は「年金基金」にも応用されました。労働者の退職年金を株式市場での投資に回し、一般の人々の貯蓄も同様に投資に利用しました。米国の株価が急騰するのを目の当たりにした先進国も、この株主利益の最大化政策を取り入れるようになったのです。

このように、ダボスマンたちは表向きの善行の裏で巧みに利益を吸い上げ、自身の富を築いてきました。彼らの冷徹な戦略とその結果としての巨額の利益は、私たちの社会の構造に深く根付いているのです。

3.ブラックストーン社CEO、シュテファン・シュワルツマンの野望と北欧モデル崩壊の危機

ダボス会議の常連で、「フォーブス世界長者番付」にランクインする資産額219億ドルのシュテファン・シュワルツマン。彼が率いるブラックストーン社は、不動産管理の規模において他の追随を許しません。しかし、その背後にあるのは収益確保を最優先とする「無慈悲な企業」の姿です。

ブラックストーン社は、世界各国の都市にある住宅やビルを次々と管理下に置き、特に店子が弱い立場にある地域では、集合住宅やビルを安く買い叩き、家賃を引き上げ、諸費用を搾り取るという手法を用いています。この無慈悲なアプローチは、単なるビジネス戦略にとどまらず、一国を相手にした征服の野望へと発展しています。その標的となった国が、「北欧モデル」で知られるスウェーデンです。

スウェーデンは手厚い公共サービスと引き換えに高い税金を納めることで知られています。しかし、この「北欧モデル」は今、維持が困難な状況に直面しています。その理由は、ダボスマンたちが巧妙に納税義務を逃れているからです。象徴的な例が「IKEA」の創業者、イングヴァル・カンプラードです。彼は1973年に高額課税を免れるためにデンマークに移住し、その後スイス、そして1982年にはオランダにIKEAの経営権を移管しました。これらはすべて、IKEAが最低限の納税で済ませるための戦略だったのです。

2013年、カンプラードがスウェーデンに戻った頃、スウェーデンはすでにダボスマンたちの影響下にありました。富裕層への課税を削減し、最富裕層の所得税率を57%に引き下げ、財産税や相続税なども廃止されました。この結果、政府は公共サービスを削減しなければならず、所得格差が広がり、貧困率は人口の14%に達しています。

シュワルツマンとダボスマンたちが、どのようにしてスウェーデンを征服し、北欧モデルを崩壊させたのか。その背後にある冷酷な現実を、今こそ知る必要があります。彼らの野望がもたらす影響は、スウェーデンだけにとどまらないのです。

まとめ

世の中には、「裏の顔」が存在します。例えば、政治や経済の裏で暗躍するロビイストや、情報操作を行うメディアの影響力者が挙げられます。これらの存在は、私たちの日常生活や意思決定に大きな影響を与える一方、その実態は一般にはほとんど知られていません。また、インターネット上のアルゴリズムやデータ収集も、私たちの行動を無意識のうちに操る一因となっています。このような見えない力の存在を認識し、慎重に行動することが重要です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?