『ナイトメア・ザ・ドーラエム』

「絵本読んで」
「ド◯えもん」
「もっと忍殺っぽいの」
「ナイトメア・ザ・ドーラエム」

(この話はほぼ忍殺です。そういうのが苦手な人はご遠慮ください!)

「アーイイ…遥かに良い…」フェイク・タタミの敷かれた自室の中。ノービイは電脳麻薬を生体LAN端子に挿入しながらタタミに身体を横たえていた。彼はティーンエージャーである。だが、取り立てた才能も無く怠惰な性格である彼にとって、この行為は数少ない娯楽だった。

彼は窓に視線を向ける。普段は灰色の空しか映らぬそれに神秘的なグリッド幻影が浮かび、刺激的な光景を映し出す。入浴中のズシーカの魅惑的な身体。白い肌にほのかに差す赤。「ヒヒ…ウフフフ…」彼は濁った目で笑う。しかしそのビジョンはすぐに消えた。

「う…」ノービイは頭を抑え呻く。生体LAN端子からの甲高いノーティス。電脳麻薬が切れたのだ。「クソめ…」トリップから復帰したノービイは新しい電脳麻薬素子を探す。見当たらない。「オイオイ…もう無いのかよ…」ノービイは前のめりの不自然な姿勢で歩き出した。

『ノービイ君、また、電脳麻薬で、ラリっていたのかい?』突如響く電子音声。ノービイは視線を上げる。そこに居たのは、ゴリラめいた鋼鉄の巨体。胸の前に「ドーラエム」とショドーされたマシンが立っていた。「…ドーラエムか」ノービイは気だるげに言った。

「丁度良いや。新しい電脳麻薬を買」『イヤーッ!』「グワーッ!」ドーラエムの張り手がノービイに突き刺さる!手加減はされているが、それでもノービイの目を覚ますには十分だった。『電脳麻薬を、やり過ぎるなと言っただろ!』ドーラエムはLED掲示板に「遺憾」の文字を写し怒鳴った。

ノービイはシリモチをつき、ドーラエムを睨んだが、溜息を吐き視線を逸らした。未来からノービイの未来を変える為にやってきたロボット。出会ったばかりの頃は反目し合うこともあったが、今はそうではない。先程の張り手もノービイを心配するがゆえの行動だと彼自身も分かっていた。

『何か、嫌なことでもあったのかい?』ドーラエムはノービイに手を差し伸べた。「ウ、ウウ…ワアアーッ!」ノービイは号泣し、ドーラエムに抱きついた。「ゴーダーに!スニーオに!虐められるんだよォーッ!あいつら!学校で!殴ったり!ムラハチにしたりするんだ!」

ムラハチとは陰湿な社会的リンチのことだ。「何か便利なガジェットを出してよォーッ!」懇願するノービイを見下ろしながら、ドーラエムは脳内UNIXを起動させ、演算処理を行いながら腹部の箱から大型のライフルを取り出した。『オムラマシンガン〜』独特なイントネーションが響く!

「何だよ?これ?」驚くノービイにドーラエムは答えた。『ノービイ君。このオムラマシンガンは。破壊力重点だ。こいつの特殊徹甲弾で、奴らをファックすれば良いじゃないか』「すごいや!あいつらをこれでファックして、その後にハカイシを蛍光ピンクでリペイントしてやろうよ!」

「オームラオムラ!オームラ!」『モーターヤッター!』ノービイとドーラエムはオムラ社のチャントを叫びながら、ゴーダーとスニーオのいる空き地に突入した!「ヌウッ!?ノービイ!また虐められに来たか!?」廃棄土管から立ち上がったゴーダーがマグナムを構える!

「フン、囲んで棒で叩いてやる!デアエー!デアエー!」ゴーダーの傍のスーニオが号令をかける!たちまちテロリスト衣装を着てアサルトライフルを構えた一団が出現!全員同じサングラス!同じ顔だ!「ザッケンナコラー!」テロリストの一団は発砲を開始!

「イヤーッ!」だが、ノービイは先程の電脳麻薬によるトリップが嘘のように銃弾をサイドステップ回避!SWATめいた機敏な動きでマシンガンを横薙ぎに発砲!「「「グワーッ!」」」テロリスト3名死亡!「ブルズアイ…!」ノービイは不敵に笑う!

一方のドーラエムはどうか!?『ゼンメツ・アクションモード起動!ゼンメツだ!ドーラエムの身体からガトリング砲やミサイルが展開!「イヤーッ!」一斉射撃!「「「アババーッ!!」」」多数のテロリストがネギトロめいた死体と化す!「す、スッゾオラー!」「イヤーッ!」「アバーッ!」

残ったテロリストもドーラエムのサスマタによりサンズ・リバーに送られて行く!「「アイエーエエエ!!」」ゴーダーとスーニオはしめやかに失禁し、その場にドゲザした。「「ゴメンナサイ!!」」ドゲザとは母親とのファックを記録素子に保存されるのと同じくらいの屈辱的な行為である!

ノービイはドーラエムに言った。「どうしようか、こいつら」『降伏を受け付けました。ありがとうございます』ドーラエムは答えた。ゴーダーとスーニオにガトリングの銃口を向けながら。「え…」『イヤーッ!』「「アババーッ!?」」数秒後、ゴーダーとスーニオは血煙に変わっていた。

「アイエエエ!?発砲ナンデ!?台本と違…」『ピガガーッ!ゼンメツだ!ゼンメツだ!』何ということか!ドーラエムはノービイにもサスマタを向けた!「助け」『イヤーッ!』「アバーッ!」ノービイの首は胴体と永遠にオサラバした。ツキジめいた惨状の中、ドーラエムは静かに佇んでいた。

◆◆◆
(何だ、これは!?)ドーラエムの原作者、漫画家のダブルエフ・ジーオは眼前で繰り広げられた惨劇に絶句した。ここはジーオが招かれた実写版ドーラエムの試写会の会場。大スクリーンに映るのは佇むドーラエムと血文字で書かれた『続きになる』のテロップ。

ドーラエムは子供達に人気のマンガであり、アニメ・コンテンツでもある。ギャグテイストの牧歌的な作品だ。だが、試写会で流れた映像はさながら凄惨なウォームービー。ジゴク・マッポーカリプスだった。来賓のカチグミ・クラスの子供達は皆色を失い、失禁、もしくは気絶していた。

ジーオは隣のオムラ・エンタテインメント社の担当者を見た。ジーオと担当者の視線が交わる。担当者は鎮痛な表情を浮かべ、静かに首を振った。ジーオは全てを理解した。(実写化の業からは逃れられなかったということか…!)『悪魔男な』や『巨人は進撃している』実写化の悲劇は記憶に新しい。

だが、ここで原作者である自分が抗議した所で、スポンサーであるメガコーポに目を付けられれば終わりだ。ジーオはそれを理解していた。やり切れぬ悲しみと憤りが心を駆け巡った。今日のような晴れ舞台となる日が、オツヤめいた日になろうとは。

そうしているうちに、場のオツヤめいた雰囲気に困惑しながらも、進行の女性が役者の紹介を始めた。ノービイ、ゴーダー、スーニオ役の俳優がステージに入場してくる。(よく見ると全員映像とは顔が違う)そして、ゴリラめいた巨体のドーラエムも入場してきた。

(なんと、本物のロボットだったのか!?)ジーオは驚く。オムラのロボット兵器開発の噂は聞いていた。それを強引に物語にねじ込んだ結果、あのような映像が出来上がったのだろう。(スポンサー企業を間違えたかもしれん)ジーオは心の中で溜息を吐いた。

『ドーモ、ドーラエムです!』ステージ上のドーラエムは流暢な電子音声を話しながら周囲に手を振った。「アイエエエ!」子供達の声が響く。無論、悲鳴だ。周りの俳優達もフォローも兼ねぎこちない笑顔で手を振った。その時、ドーラエムのセンサーが、ゴーダー役の俳優に向けられた。

『ピガガーッ!殲滅対象な!』「え?」『イヤーッ!』な、ナムアミダブツ!何ということか!ステージ上のドーラエムは突如サスマタを取り出し、ゴーダー役の俳優を襲いかかったのである!「アバーッ!」即死!「アイエエエ!」隣のスーニオ役の俳優が悲鳴を上げる!

『いじめっ子を許さないです!イヤーッ!』ドーラエムは右腕のガトリングを砲を展開!スーニオ役俳優に狙いをつける!「アイエーエエエ!」スーニオ役俳優はしめやかに失禁!『イヤーッ!』「アバーッ!」「アババーッ!?」ガトリング発砲!スーニオと、巻き添えになったノービイ役俳優死亡!

「ワアアーッ!」「アイエエエ!」たちまち試写会会場はアビ・インフェルノ・ジゴクと化す!「ザッケンナコラー!」「スッゾコラー!」警備クローンヤクザが出動するが、サスマタやガトリングで続々とサンズ・リバーに送られてゆく!『ドーモ、ドーラエムです!ドーラエム、です!』

ダブルエフ・ジーオはその場に立ち尽くし、涙を流した。恐怖によるものではない。自身の息子とも呼ぶべきキャラクターが、今、こうして破壊の権化と化している。その悲しみであった。(アア…ドーラエムよ、ドーラエムよ)周囲の客は避難し、残ったのは自分だけだった。

『ピガガッ、殲滅対象確認な!』ドーラエムがジーオに迫る!ジーオは迫る死の運命をぼんやりと眺めていた。その時、ふと彼は会場に置かれた巨大ドーラエム像を見た。実写版ではない、愛らしいデザインの見慣れた姿を。困った時に助けてくれる、子供達の味方を。彼は寂しげに微笑んだ。

だが、その時である!ドーラエム像の目が突然光り、腕が動き、腹部の箱に伸びた!「アイエッ?」ジーオは驚愕!動く像だったのか!?像はUNIX処理の効果音を出しながら、箱から何かを取り出し、あの独特のイントネーションで叫んだ!

『ニンジャスレイヤァ〜〜』
おお、見よ!ドーラエム像の手の平からゆっくりと立ち上がった恐るべき殺人ガジェットは、赤黒の装束と「忍」「殺」のメンポをスポットライトで照らされながらアイサツをした!
「ドーモ、ドーラエム=サン。
ニンジャスレイヤーです」

「ニンジャ!ニンジャナンデ!?箱の中からナンデ!?」ジーオは混乱し、しめやかに失禁!ニンジャスレイヤーはドーラエムに向けカラテを構える!「ニンジャの気配を感じて来てみれば、またもオムラの粗大ゴミか。今度はネジ一つ残さず粉々にしてくれよう。ニンジャ、殺すべし!」

『ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン!ドーラエムです!あなたはニンジャです!ツヨシ・アクションモード起動!ゼンメツだ!」両者はアイサツを終え、戦闘態勢に入った!アイサツは大事だ!古事記にもそう書かれている!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは機先を制しスリケンを投擲!

『イヤーッ!』おお…だが、見よ!ドーラエムはロボットとは思えぬしなやかな動きでスリケンをブリッジ回避!「ヌゥッ!?」ニンジャスレイヤーは困惑した。これまで相手にしたどのオムラ製ロボットよりも有機的な反応!『イヤーッ!』サスマタがニンジャスレイヤーを掠める!

ニンジャスレイヤーはこれまでもオムラ社製ロボニンジャと戦ったことがあった。だが、今回の敵にロボットとしてのぎこちなさは無い。並のニンジャ以上の実力!それに、相手からはニンジャソウルの気配も感じられた。ロボットなのに何故?いかなるトリックか?

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはサスマタの軌道を見切り、チョップで穂先を切断!反撃に転じようとする!だが、忘れてはいけない!相手はロボットなのだ!その動作のコンマ1秒後、ドーラエムの両足からガトリングが展開!BARATATATA!「グワーッ!?」

ALAS!咄嗟に回避動作を取ったが、ニンジャスレイヤーの脇腹を銃弾が切り裂く!浅くない傷だ!直撃すればスイスチーズめいた射殺死体になっていたことだろう!よろめくニンジャスレイヤーをドーラエムはカラテパンチで追撃『イヤーッ!』「グワーッ!」『イヤーッ!』「グワーッ!」

ニンジャスレイヤーは先程のダメージがある!巨体から繰り出されるカラテに押され、このままではジリープアー(徐々に不利)!一方、そのイクサの様子を物陰から見る者あり!おお、ジーオである!何故ニンジャが実在するのか?何故ドーラエムと戦うのか?彼には見当も付かない。

だが、今あのドーラエムを止められるのは、赤黒のニンジャだけだ!プロの原作者としての矜持が彼を動かしていた!ジーオは決断した。懐からマウスの人形を取り出す。偶然持っていた物だ。原作からかけ離れているとはいえ、あれもドーラエムならば。

「ウオーッ!」ジーオは人形を投げた!ドーラエムの方に!『ピガッ!?』ドーラエムのセンサーがマウス人形を視認!『ピガガーッ!?マウス!?コワイ!演技プログラムエラーな!」おお…見よ!全身から煙を吹き出し停止したではないか!「今だ!やれ!やれーッ!」ジーオは赤黒のニンジャに叫ぶ!

ニンジャスレイヤーは現象の意味を理解した。「ドーラエムはマウスに弱い」!少年時代にドーラエムを見たことのあるニンジャスレイヤーもそれを知っていたのだ!「イヤーッ!」『ピガーッ!』逆襲のトビゲリが頭部カメラに突き刺さる!『ピガガッ…センサー損傷な!』よろめくドーラエム!

ニンジャスレイヤーはその隙を逃さずドーラエムの周囲をミキサーめいた高速で走り1秒に10発のペースでスリケンを連続投擲!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」『ピガガガーッ!』おお…ゴウランガ!さながら赤黒のタツマキだ!「おお…おおお…!」ジーオもその光景に魅入る!

無数のスリケンが突き刺さる!ドーラエムも特殊合金製だ!スリケンでも破壊は困難!だが、ニンジャスレイヤーはスリケンの狙いを関節や装甲の継ぎ目など、構造的に弱い部分に絞っていたのである!『ピガガーッ!』膝関節大破!『ピガガーッ!』肩関節大破!

ドーラエムの各所に無数のスパークが走る!実際スクラップ寸前だ!ニンジャスレイヤーは回転を止め、恐るべき力で胸部装甲を掴み剥ぎ取った!このまま中枢部を破壊するためだ!「イイィヤァァーッ!」『ピガッ、グワーッ!』だが、電子音声に混じり聞こえたのは生身の悲鳴!

おお…ナムアミダブツ!そこにあったのはジーザスめいて磔にされ機械の一部にされたニンジャ!「ア、アバッ…ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン…。リベットです…」「ドーモ、リベット=サン。ニンジャスレイヤーです。これは…」ニンジャスレイヤーはメンポの中で顔をしかめた。

「任務を失敗した俺は…ケジメとして…このロボニンジャの生体部品にされてしまったのだ…自分の身体を操られ…ジョルリ(訳注:人形浄瑠璃のことか)めいて動かされる日々…長かった…カイシャクを…頼めるか…?」「……良かろう。ハイクを詠むがいい」ニンジャスレイヤーはチョップを構えた。

「ニンジャの、世界に、労働組合はない」「イヤーッ!」「アバーッ!サヨナラ!」ジゴクめいたチョップ突きが心臓を貫通!ドーラエムは、いや、リベットは爆発四散した。中枢を失った機械の身体は、その場に崩れ落ちた。それは、この実写作品の悪夢の終焉を意味していた。

「イヤーッ!」赤黒のニンジャはしばしザンシンしたのち去っていった。その場に残されたジーオの心には、激しい嵐の如き感情が渦巻いていた。それは、自身の漫画の敗北であった。(俺の漫画は、何と没個性的だったことか!)ジーオは四つ這いになり打ちひしがれた。

彼の中のドーラエムのような牧歌的なコメディ漫画のイメージは赤黒の炎に焼き払われ、ジゴクめいたチョップで首を撥ねるニンジャ、リボルバーでモータルをヘッドショット殺するニンジャ等の、冒涜的だが、見るものを惹きつける漫画のイメージが浮かんでいた。

ジーオは拳を握りしめた。(次の連載で俺は鬼となろう。今日この日見たニンジャの戦いを漫画に描くのだ!)後日、ダブルエフ・ジーオの新作漫画『ジゴクニンジャハトリ』が世間を賑わせることになるが、それはまた別の話である。

『ナイトメア・ザ・ドーラエム』終わり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?