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「ファスト・アズ・エレクトリー、シャープ・アズ・シザーズ」

「ゲームやろうよ」
「ロックマン」

「忍殺っぽく」
「(これまでのあらすじ)Dr.ワイリーの野望を砕くべく出撃したロックマンは、ガッツマンを爆発四散させた。無慈悲な殺戮のマシーンと化したロックマンがカットマンとエレキマンに迫る!カラダニキヲツケテネ!」

「アイ…アイエーエエエ!!」木材加工場に作られたカットマン基地。その最新部の「ボス部屋な」と書かれたシャッター扉の中。カットマンはモニター・カメラに映る惨劇を見て絶叫した。防衛システムのステータス画面はウルシめいて赤く染まり、「5割がダメです」の文字。

カットマンは自身の防衛システムに絶対の自信を持っていた。無数のセントリー・チャカ・ガンによる射撃。無人シザーズによるアンブッシュ。そして、無数の雑魚メカ。消耗した所をボーで叩くという古代日本より伝わる戦術のセオリーを守れば勝ちは揺るがぬ。そう考えていたのだ。

だが、画面に映る侵入者の映像はその楽観を打ち砕いた。『アババーッ!』青いボディの侵入者は破壊したメカの残骸からバンパイアめいてエネルギーを吸収、ダメージを回復していたのである。『エネルギー回復重点!』侵入者、ロックマンは「岩」「男」のメンポを光らせながらカットマンへと迫る!

カットマンの自信は完全に打ち砕かれていた。もはやこの怪物を倒すには、ワイリーに無断で準備していたトゲ・トラップを使うしか無い。指を何本かケジメされる可能性もあるが、死ぬよりはマシだ。それに、あの悪魔を倒せば、その功績でネマワシをすることもできる。

「侵入者、残り200まで接近ドスエ」合成マイコ音声による警告!カットマンは決断した。いかなる手を使ってもロックマンを殺すべし。手元の端末を操作し、トゲ・トラップ落とし穴をスタンバイする。(ギリギリまで引きつけねば…)カットマンはレーダーに映る表示を凝視した。

ロックマンを示す表示が落とし穴の上に差し掛かった!「イヤーッ!」カットマンはカラテ・シャウトと共に落とし穴を起動!ロックマンの足元がオブツダンめいて開き、ロックマンはトゲ・トラップの中に転落!「グワーッ!」
ティウンティウン!ロックマンは爆発四散!

「…ウフ、アハハハハ!ヤッター!ヤッタぞ!キンボシ・オオキイだ!」カットマンは涙を流して喜んだ。「まったく、こんな手を使わなければならん相手とは…何だよ、アハハハハ…!」カットマンはその場に座り、安堵の息を吐いたのち、オイルを手に取りイッキした。

その時、不意にシャッターが開いた。「世界平和重点!」そこにはジゴクめいた視線でバスターを向ける、青い侵入者がいた。「岩」「男」のメンポを付けた、地獄の猟犬が。
「アハ」
カットマンの笑顔が凍りついた。
「ドーモ、カットマン=サン。ロックマンです」

◆◆◆
「カットマン=サン!どうした!カットマン=サン!」外で雷の光るエレキマン・ピラー。そこの主のエレキマンは通信機ごしにカットマンに呼びかける。『このお電話は現在使われていないドスエ』テンプレートな音声。定時連絡の途絶。それの意味する所は。「カットマン=サン…」

エレキマンは脳内UNIX回路にて瞬時に状況を分析した。カットマンはオタッシャした。それならば、次に来るのはここに違い無い。ワイリー博士へのホットラインを起動させる。だが、『接続エラーな』の文字。既に通信も遮断されている。孤立させた上での各個撃破。実際見事だ。

「来るか…」窓から漏れる雷光がエレキマンの身体を照らす。彼に恐れは無かった。ライト製ロボットの中で最も優秀な判断力とスペックを誇る自分にかかればロックマンなどものの数では無い。接近警報が鳴る。エレキマンは油断無くカラテを構え、シャッターの方を向いた。

「世界平和重点!」シャッターが開き、青いボディの殺戮者が姿を現した。「ドーモ、エレキマン=サン。ロックマンです」「ドーモ、ロックマン=サン。エレキマンです」2体のロボットはアイサツをした。たとえ凄惨な殺し合いが始まる前でもアイサツは大事だ。説明書にもそう書かれている。

エレキマンは挑発的に手招きをした。「来い。狂人め」ロックマンはバスターを構えた。「これは殲滅任務であり、降伏は認められません。破壊!」ロックマンはバスターを連射する!だが、その大半は恐るべき運動性の前に回避され、命中した分もあまりダメージを与えていない!

「イヤーッ!」エレキマンは腕を突き出し、カラテ・シャウトを放った!電撃が腕から放たれる!これこそ、エレキ・カラテの奥義、サンダービームだ!「グワーッ!」直撃したロックマンは悶える!「ロックマン=サン。貴様は確かに実際強い。だが、電気めいて速いこのサンダービームは避けれまい!」

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」サンダービーム連発!ロックマンは爆発四散寸前だ!「ライフ低下な!ジリー・プアーな!」よろめくロックマンめがけ、エレキマンは最後のサンダービームを放つ!「イヤーッ!」「グワーッ!ヤ・ラ・レ・ターッ!!」ティウンティウン!

ロックマンは爆発四散した。エレキマンはしばしザンシンするが、よろめき膝をついた。少なくないダメージを負っていたのだ。恐るべき相手だった。エレキマンはロックマンの残骸を見る。(カットマン=サン。ガッツマン=サン。敵は取ったぞ)だが!再びシャッターが開く!

「ドーモ、ロックマンです」おお…ナムアミダブツ!そこには爆発四散したはずのロックマンが立っているではないか!?「アイエッ!?」エレキマンは己の視覚センサーの故障を疑った!だが、自己診断の結果は『全て緑な』!「ば、バカな…!確かに今貴様を破壊したはず…」

想定外の事態!優秀なUNIXもエラーを吐き出す状況!「コンティニューです」ロックマンは淡々と言った。「スペアボディにて復活しました。戦術パターン更新な。直ちに貴方を破壊します!世界平和重点!」「ア、アア…」エレキマンは恐怖に慄いた。

「ヤメローッ!」エレキマンはヤバレカバレにサンダービームを放つ!だが、ロックマンはそれを安易と回避した!「パターン解析完了な!」先程のイクサで、既にエレキマンの戦術パターンを学習したのだ!「イヤーッ!」「グワーッ!」ロックマンが光る刃物をブーメランめいて投擲!

「グワーッ!こ、これは!」エレキマンは驚愕!これはカットマンのローリングカッターではないか!?「ナンデ!?」「特殊武器効果重点!」鋼鉄の殺戮者の眼光がエレキマンを射抜く!「い、イヤーッ!」エレキマンは応戦しようとするが、サンダービームが出ぬ!回路が切断されたのだ!

「イヤーッ!」「グワーッ!」ローリングカッターがエレキマンの右腕を切断!「イヤーッ!」「グワーッ!」左腕も切断!「た、倒した相手の武器をも吸収するというのか!お、オバケめ!バンパイアめ!」エレキマンは勝てる可能性を探るが、脳内UNIXには『ナムアミダブツ』の表示!

「ハイクを詠みなさい。エレキマン=サン」ロックマンはローリングカッターを構えた。「ワイリー博士、バンザイ、インガオホー…」エレキマンは末期のハイクを詠んだ。「イヤーッ!」「アバーッ!」ローリングカッターが首を切断!「サヨナラ!」エレキマンはしめやかに爆発四散した。

◆◆◆
(私は何というモンスターを作り上げてしまったのだ…!)ライト研究所のモニタールーム。戦闘の一部始終を見ていたライト博士は戦慄した。『ライト博士、エレキマンの破壊完了な。次の指令を』ロックマンの合成マイコ音声めいた無情な声が響く。

「お、おお…ロックや…。怪我は無いかい…?」ライトは無理矢理穏やかな表情を作り言った。『損傷は軽微です。補給と修理に戻ります』「そ、そうじゃな。一度戻っておいで…」『了解。世界平和重点!』通信は切れた。

ライトは苦悩した。雑魚メカからのエネルギー補給。敵武装の特殊武器化。コンティニュー機能。全てロックに確実な勝利をもたらすため搭載されたシステムだ。しかし、これが本当に正しかったのか?ロックは徐々にシステムに呑まれ、無慈悲な殺戮のマシーンと化しつつある。

だが、ここで立ち止まるわけにはいかぬ。ワイリーを、かつての盟友を止めねばならぬのだ。どれほどの血とオイルが流れようとも。「世界平和重点…!」ライトは自分に言い聞かせるように呟いた。

「ファスト・アズ・エレクトリー、シャープ・アズ・シザーズ」終わり

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