『ミー・バード・ベル・アンド・ニンジャ』

「文を読んでください」
「わたしとことりとすずと」

「忍殺っぽく」
『まず、飛行する鈴型の小型ドローンが出現!状態異常を引き起こす音色を発する厄介な敵だがヘッドショットが有効だ!「死んでください!庶子!」BLAMBLAMBLAMBLAM!!「アバーッ!」』

今度はメカリトルバードが上空から出現!小さな身体だが、素早い動きからのツッツキ攻撃を受けると危険だ!ここもやはり非情なヘッドショットが重要となる!「貴方自身を前後なさい!」BLAMBLAMBLAMBLAM!!「アバーッ!」

最後に現れた相手は、少女?否、暗殺用のオイランドロイドだ!耐久性は無いと考え銃弾の節約に走ると命取りになる!ここもやはりストイックにヘッドショット殺だ!「死ね!貴方!前後している!」BLAMBLAMBLAMBLAM!!「アバーッ!」

「前後なさい…!」ラッキー・ジェイクは唾を吐きかける!重サイバネ犯罪者のガイジンである彼にとっても、今回の襲撃者は難敵であった。「…大丈夫か?」ジェイクは傍の少女、ミスズに声を掛ける。「うん…」彼女は震えながら言った。ジェイクは無言でミスズの頭を撫でた。

ジェイクは「SHOOT撃つ↑」と書かれたTシャツの血を拭う。事の発端はクローンヤクザに襲撃される彼女をジェイクが成り行きで助けた事だった。犯罪履歴を洗浄し、国に帰るにはカネが必要だった。そこに身なりの良い少女1人に不釣り合いな程の襲撃。カネの匂いを感じたジェイクは咄嗟に彼女を助けた。

ジェイクは物陰にミスズを案内し、自分も地面に腰掛けた。「ヤギ前後…!」ジェイクは悪態をつきながら銃をリロードする。しばしの平穏が訪れる。「おじさん」「何だい?」おじさんの日本語おかしいね」「そうか?」ジェイクは煙草を吸いながら答えた。

読者の皆様もジェイクの日本語に違和感を感じているだろう。彼はサイバネ化により、脳内日本語変換素子を埋め込んでいる。だが、会話はできても、スラングの類を上手く翻訳できないのだ。「ガム食べるか」ジェイクは偶然持っていたガムをミスズに差し出した。「うん」

受け取ったガムを咀嚼するミスズを見ながらジェイクは尋ねた。「キミは何で前後している庶子に襲われてたんだ?」「前後?庶子?」「…待て、貴方。何で追われていたのか、だ」ジェイクは眉間を押さえ溜息をついた。やはり翻訳が上手くいっていない。

「えっとね、お菓子をあげるからおいでって言われたから、ついて行ったら知らないおうちに閉じ込められたの」「前後なさい…!誘拐か…!」「ねえ、前後ってなに?」「いや、そこは気にするな。それで?」「しばらくモモタロの絵本を読んでたらドアが開いたの」「モモタロ?」

「桃から人が生まれるの」「…それは何を前後していますか?」ジェイクは困惑した。「まあ良い。それで逃げ出したってワケか」ジェイクは結論付けた。「あ、そうだ。おうちの中できれいな積み木を拾ったの」「積み木?」ミスズが小さなバッグから取り出したのは、おお…見よ!大量の違法素子だ!

「前後なさい…!」ジェイクはサイバネ・アイを使い素子をスキャンする。全て合わせれば相当な額のダークマネーが入っている!どこかの暗黒組織の物か!?「スゴイな!」「ね、きれいでしょ?」ミスズは微笑んだ。一方でジェイクは違法素子内のマネーをどう使うか計算を開始した。

(ツキが回ってきたぞ。ラッキー・ジェイク。このカネがあれば、犯罪履歴を洗浄して、この国ともオサラバだ)ジェイクは喜びに震えた。そして、ふとミスズを見た。(あとは、この子供から違法素子を奪うだけだ。何を躊躇う。義理も何も無い赤の他人だ。)

幼い子供から違法素子を奪い逃げるなどベイビー・サブミッションだ。だが、その後、この子はどうなる?世間も知らぬ幼い子をこんな都会に置き去りにすれば?ジャングルにヒヨコを放るようなものだ。(止めろ。クールになれ)ジェイクは迷った。だが、結局、ジェイクは決断した。

「なあ、ミスズ=サン。俺がキミを家まで案内するから、その素子をくれないか?」「エッ?」「その積み木が要るんだ。国に帰りたいだけなんだよ」「この積み木?うーん」悩むミスズを見ながらジェイクは祈った。「いいよ」「ヤッタ!取引成立だ!」ジェイクは跳ねるように喜んだ。

「取引?」ミスズは首を傾げる。「おじさんは何でも屋みたいなもんでね。で、キミの家はどの辺りだ?マッポ(警察)に送っても良いが、マッポは好きじゃ無いんでね」「ふーん」ミスズはジェイクに素子の入ったバッグを差し出す。「えっとね…おうちは、カネモチ・ディストリクトの…」

ジェイクはミスズの言う住所を脳内UNIXでスキャンする。幸い、ここから5分程度の位置にあるようだ。「どこにあるかわかる?」「ああ、近くみたいだ。へんなヤツらと鬼ごっこはしたくない。早いところ行くぞ」だが、その時!「ザッケンナコラー!」

「ヒッ!」ヤクザスラングにミスズが悲鳴を上げる!ナムアミダブツ!追手のクローンヤクザ部隊が到着したのだ!「庶子!」「アバーッ!」ジェイクは先頭のヤクザをヘッドショット殺!「背中につかまれ!」そのままジェイクはミスズを背負い走り出す!

「スッゾコラー!」「ナンオラー!」次々に襲いかかるクローンヤクザ!だが、彼らはジェイクを直接狙う事ができない!ミスズを捕獲し連れ戻すようプログラムされているのだ!「貴方!死んでください!前後している!庶子!」ジェイクは行く手を塞ぐクローンヤクザを次々にヘッドショット殺!

さながらムテキの鎧をまとった勇者だ!と、その時、クローンヤクザの追撃が止む!(何だ…?どうして追ってこない?)その時、巨大な鈴と鳥と人型のシルエットがジェットエンジン音と共に急速接近!「ヤギ前後!?」ジェイクは上空を見上げる!

それは人型と鈴型と鳥型の3体のロボットだ!『合体を!行きます!』3体は合体し、地上に降り立ち、アイサツをした!『ドーモ、ベルバードです!』ジェイクのサイバネ・アイは過去のデータを参照し、恐るべき事実を告げた!(ニンジャの可能性90%だと…?)

機体の前面には「オムラとは関係無い」「ロボニンジャ試験中」の文字!ニンジャの…、ロボット!『そちらの子を、渡しなさい』ベルバードは警告するが、ジェイクはミスズを背負い逃亡!「離れて前後なさい!」だが、ベルバードは恐るべき速さで追撃!

『イヤーッ!』「グワーッ!」ベルバードの足払いがジェイクを捉える!無論、背負ったミスズを極力傷付けぬよう手加減はされているが、恐るべき威力だ!その場に倒れ込むジェイクとミスズ!『同行者は射殺します。障害排除重点!』ベルバードの腕からマシンガンが展開!

「庶子!」ジェイクは倒れた姿勢から射撃するが、ベルバードの恐るべき機動力の前に掠りもせぬ!「前後なさい…!」ジェイクの銃から乾いた音が出る。弾切れだ!ベルバードのマシンガンの銃口がゆっくりとジェイクに向く!ああ!ラッキー・ジェイクの悪運もこれまでか!?

その時である!「Wasshoi!」恐るべき速度で砲弾めいて飛び込んできた何かがベルバードに衝突!『ピガーッ!?』シリモチをつき倒れ込むベルバードの正面に立った赤黒の乱入者はゆっくりとアイサツをした。「ドーモ、ベルバード=サン。ニンジャスレイヤーです」

『ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。モーターベルバードです。貴方はオムラ社の宿敵です。よって降伏は認められません』アイサツを終え睨み合う両者!その隙を突き、ジェイクはミスズを再び背負い走る!「ウオオーッ!」カジバヂカラ!『ピガッ、追撃を…』「イヤーッ!」

ニンジャスレイヤーはスリケンを投擲!だが!『開いてゲットする!』ベルバードは上半身と下半身を分離させ回避!「ヌゥッ!?」そのまま上半身のマシンガンをニンジャスレイヤーに向け放つ!『イヤーッ!』ニンジャスレイヤーは側転回避するが、そこに下半身が回り込みキック!「グワーッ!」

ニンジャスレイヤーはたたらを踏む!何という分離合体を駆使した戦法か!ベルバードは再び合体!『どんどん攻撃な!』マシンガンと足から展開したミサイルで攻撃!回避するニンジャスレイヤーは何かを投擲!『開いてゲットする!』ベルバードは再び分離回避しようとする!…だが!

『ピガガーッ!?』おお、見よ!投擲されたのはスリケンでは無い!ニンジャのイクサに耐えるドウグ社製フック付きロープだ!フックが上半身にガッチリと食い込み離れぬ!『ピガーッ!想定外状況な!』分離中断という予期せぬ事態にベルバードは一瞬フリーズ!

ニンジャスレイヤーはそのままジャイアントスイングの要領でフック付きロープでベルバードの上半身を振り回し始めた!『ピガガガ!ピガガガガ!』下半身はフレンドリーファイアを恐れ攻撃できぬ!回転速度はさらに上がり、ついにハンマー投げめいて上半身が投げられる!

投げられた先は、おお…ゴウランガ!ベルバードの下半身だ!物理シュミレータめいた正確さで上半身と下半身は激突!大破炎上!『ピガッ…こ、攻撃な…』なおもベルバードは残った片腕のマシンガンで攻撃しようとするも、ニンジャスレイヤーのチョップが破壊!「イヤーッ!」『ピガーッ!」

「成る程、変わったロボニンジャも居たものだ」ニンジャスレイヤーは満身創痍のベルバードを見下ろした。「ソウカイヤもザイバツも、オムラも、オヌシらニンジャは皆違う。皆違い…皆、邪悪だ!イヤーッ!」踏みつけでベルバードの頭部を破壊!『サヨナラ!』ベルバードは爆発四散!

◆◆◆
「ハァーッ、ハァーッ…」数分後、ジェイクはミスズを背負い、ミスズの家のある地区まで到着していた。と、その時、向こうから女性と男性が走ってくるのが見えた。「パパ…ママ!」ミスズはジェイクの背中から降り、走り出す。(割に合わない運搬だったぜ…)ジェイクは溜め息をついた。

ミスズは一旦立ち止まり、ジェイクに向け手を振った。「おじさん、アリガトウ!」ジェイクも手を振り、そのまま踵を返し走り出す。ジェイクは路地へ。ミスズは家族の下へと。救出の謝礼がミスズの両親から貰える可能性もあったが、マッポの事情聴取を受けたくは無かった。

(だが、これだけの素子があれば…犯罪履歴の洗浄どころか、豪遊も…)ジェイクはミスズから貰ったバッグから素子を取り出そうとした。「…アイエッ!?」だが、見よ!バッグには銃弾で出来た穴が空いており、素子は数本しか残っていないではないか!?

「オイオイオイ、何だよ!?あれだけ苦労したのにこれだけか!!?」それなりの大金ではあるが、この国を出るには不足している!『御用!御用!』遠くの方からマッポサイレンの音が響く。おそらく誰かが通報したのだ。ジェイクは再びマラソンを始めねばならなかった。

「前後している!庶子!」悪態を吐きながら、重サイバネ犯罪者のガイジン、ラッキー・ジェイクは再びネオサイタマの闇へ消えた。そして、ミスズは泣きじゃくる家族といつまでも抱き合っていた。

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