『ノーフェイス・ノーサヴァイヴ』

「絵本読んで」
「おいてけぼり」
「忍殺っぽく」
『(これまでのあらすじ)大量のバイオフナが生息するネオサイタマのとある堀。釣り人にとって憧れとなるはずのこの堀には誰も寄りつかない。ある恐ろしい噂のためだ。釣り人のサンザエモンは、噂を信じず釣りをするが…)

(警告!この物語は忍殺成分を含むが何も問題は無い。我々は誰の挑戦でも受ける)

「実際大漁大漁!」サンザエモンはバイオフナが大量に入ったバイオバンブー製のビクを揺らしながら家路についていた。環境汚染が深刻化したネオサイタマでも、釣りという趣味は一定の支持を得ている。サンザエモンもそんな趣味人の1人だ。

サンザエモンはとある企業のカチグミ・サラリマンである。部下から魚が大量にいるが誰も寄り付かない堀、『オイテケボリ』の噂を聞いたサンザエモンはそれをサンシタの噂話と断じた。(魚を釣ると恐ろしい声に脅され魚を奪われる?目撃者がラリっていたとしか思えん!俺が確かめてきてやろう!)

かくして、サンザエモンはオイテケボリでのルアー・フィッシングを決断的に実行したのである。「どいつもこいつも腰抜け!現実は魚を釣っても何も起こらん!くだらん噂話よ!」サンザエモンは胸を張り歩いた。だが、その時、彼は周囲の空気が梅雨めいて生温かくなったのに気付いた。

「…?」重金属酸性雨の予報は無かったはずだ。彼は訝しみながらも足を進めた。『置いていくドスエ…』「アイエッ!?」サンザエモンは驚き飛び上がる!『置いていくドスエ…』不気味な合成マイコ音声が周囲に響き渡る!だが、声の主はどこにも見えぬ!フシギ!

「な、何者だ!」『置いていくドスエ…』声は続く!サンザエモンは恐怖しながらも、持ち前の物欲で声を振り切るように走る!「ザッケンナコラー!せっかく釣った魚を置いていけるか!」短距離走者めいたスプリントでその場から離脱するサンザエモン!しばらくすると声は聞こえなくなった。

(フウ…あれが噂の正体か。だが、魚は渡さん。俺の勝ちだ)サンザエモンは安堵した。だが、歩き始めてすぐ彼は再び異変に気付いた。
自分以外の足音が一つ!ヨタモノか?シリアルキラーか?振り向くと、そこには顔をベールで覆った美しいリアルオイランがいた。

「スミマセン。その魚を私にくれませんか?」女の仕草にはエレガントな色気が漂う!「エ…申し訳無いが、この魚は持って帰る」サンザエモンは胸を高鳴らせながらも拒否!「どうしても?」「すまないがどうしてもだ」「そこを何とか」「ダメ!」

「…こうしても?」オイランは突如、着物とベールを脱ぎ捨てた!「オォッ!?役得…アイエーエエエ!!」ストリップショーを期待したサンザエモンは悲鳴を上げる!ボンデージを顕にしたオイランの顔には、目と鼻と口、あるべきものが無いではないか!?

「置いていくドスエ…!!」ジゴクめいた声が目の前で響く!だが、サンザエモンも現代のパンデモニウムたるネオサイタマ企業の重役だ!「チャルワレッケオラー!顔が無いから何だと言うんだ!ナマッコラー!魚は渡さんぞ!」捨て台詞を吐き逃走!

逃走の末、家に着いたサンザエモンは妻に声をかけた。「ただいま!バイオフナがたくさん釣れたぞ!」大量の魚を誇らしげに掲げながら。「あなた、噂の釣り場に行ったんでしょ?変な事は起こらなかった?」「ああ、おかしな声がしたり、顔が無い女に遭遇したが、所詮それだけだ」

「ウフフ…」妻の笑い声が響く。「笑うなよ。本当のことだ」サンザエモンも釣られて笑った。「…顔が無い女。それってもしかして、こんな顔をしていたかしら?」妻の顔が突如、目と鼻と口が無い顔に変わる!「アイエッ!?」続いて、服が脱ぎ捨てられる!

おお…ナムアミダブツ!妻であった者が着ていたのは、クロスカタナのエンブレムの付いた白のニンジャ装束!そして、目と鼻の無い顔の口元には、口がない事を誇示するようなスケルトンメンポ!「ドーモ、サンザエモン=サン。ノーフェイスです」ノーフェイスはゆっくりとアイサツをした。

「アイエエエ!?ニンジャ!?ナンデ!?」サンザエモンはしめやかに失禁!「サンザエモン=サン。貴方は度重なる警告にも関わらず、我らソウカイヤの王たるラオモト=サンの釣り場から魚を持ち帰った。ペナルティを受けてもらいましょう」ノーフェイスがサンザエモンに迫る!

裏社会に精通していない、読者の皆様のために説明せねばなるまい!ソウカイヤとは、巨大都市たるネオサイタマを影で支配し、暗黒メガコーポ(巨大企業)すらジョルリ(訳注…人形浄瑠璃のことか)めいて操る、悪の帝王ラオモト・カンが率いる悪のニンジャ組織である!

「アイエエエ!」サンザエモンは玄関から逃走!(ニンジャが!?なぜニンジャが!?妻に化けていたのか!?それより妻は無事なのか!?)狂乱状態になりながらも、彼は最寄りのマッポ(警察)ステーションに走る!「た、助けてくれ!家にニンジャが!妻が!」

「ニンジャ?酔っ払ってるんじゃないか」受付マッポは呆れたように言った。「ほ、本当だ!顔が無くて、クロスカタナエンブレムのニンジャ装束を着た…!」「…それは、こんなニンジャかい?」受付マッポは制服を脱ぎ捨てた!「ドーモ、ノーフェイスです」ナムサン!先回りされていたのだ!

「ア…アアア…」サンザエモンは絶望し、その場に座り込んだ。「ご安心なさい。貴方の奥様は無事です。貴方を殺したあと、貴方の生首を見せつけながらファックする予定ですので」「アイエエエ…!」おおブッダよ!寝ているのですか!誰か彼を救う者はいないのか!?誰でもいい!誰か…誰か!

その時である!『置いていくドスエ…』マッポステーションにあの不気味な合成マイコ音声が響き渡った!「「アイエッ!?」」だが、驚愕したのはサンザエモンだけではない!ノーフェイスも驚愕!「どういうことです…私はこんな仕掛けまでした覚えは…」ノーフェイスは訝しむ。

『置いていくドスエ…首を…置いていくドスエ…』「首…?」ノーフェイスはますます困惑した。『ニンジャの…首を…オヌシの…首を!!』音声がジゴクめいたものに変わる!同時に、ステーション内に突入する赤黒の影!「き、貴様はまさか!?」「ドーモ、ノーフェイス=サン。ニンジャスレイヤーです」

「あのオイテケボリがソウカイヤのプライベート・エリアという情報は本当のようだな。インタビュー(拷問)したのち、オヌシの首をもらおう。ニンジャ殺すべし」ニンジャスレイヤーはカラテを構えた。「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。ノーフェイスです」ノーフェイスもアイサツを返す!

初めてこの光景を見た読者の方はこの光景に違和感を覚えるかもしれない!だが、アイサツは神聖不可侵の行為!古事記にもそう書かれている!コンマ1秒後、ノーフェイスの何も無い顔が裂け、ヒルめいた巨大な口が開いた!コワイ!「イヤーッ!」口から閃光が放たれる!

光に怯んだニンジャスレイヤーの隙を突き、ノーフェイスは窓から逃亡!敵を目の前にして何たるブザマ!だが、ノーフェイスは彼我の戦力差を冷静に見極めていたのだ!(ダークニンジャ=サンすらも倒す存在だ。敵わぬのは実際明らか。ならば、増援を要請し、囲んで棒で叩くのみ!)

何たる冷徹な組織の思考!ニンジャスレイヤーの姿が見えなくなったのを確認し、ノーフェイスはIRC通信機を取り出し、連絡を取った。「ドーモ、ノーフェイスです。管制室。聞こえますか。ニンジャスレイヤーと遭遇。至急ソウカイ・シックスゲイツに出動要請を」

『ヨロコンデー。現在のニンジャスレイヤーの正確な位置はわかりますか?』「いえ、奴を撒いたので正確な位置までは」『そうですか?先程から貴方の後ろでカラテを構えていますが』「アイエッ!?」ノーフェイスは狼狽え振り返る!

そこにはIRC通信機を持ち、仁王立ちするニンジャスレイヤー!『ドーモ、ニンジャスレイヤーです』ニンジャスレイヤーの再度のアイサツが通信機からも響く!ナムサン!先程まで通信機で話していた相手は管制室でなく、ニンジャスレイヤーだったのだ!

「い、イヤーッ!」ノーフェイスの顔が再び裂け、ヒルめいた口が出現!そのまま火炎を吐き出した!「グワーッ!」ニンジャスレイヤーが炎をガードした隙を突き、ノーフェイスは再び逃亡!(バカな…!通信がすでに押さえられているとは…!?」ノーフェイスの額に汗が滲む!

通信が妨害、もしくは掌握されているならば、直接救援を呼ぶしか無い。ノーフェイスのUNIXめいた頭脳は最寄りのソウカイ・ニンジャのいる拠点を導き出した。(確か、この辺りにはスティールホーン=サンが居た筈だ…合流し、再度救援を呼べば…)

追撃の気配は無い。ノーフェイスは辺りを見回しながら、スティールホーンのいる拠点へエントリーした。「おい、何者だ!」牛のカブリモノを被ったニンジャが出迎える!「待て!味方だ!」ノーフェイスはニンジャ装束のクロスカタナエンブレムを指差した。

「ドーモ、ノーフェイスです」「何だ。同僚か。ドーモ、スティールホーンです」両者はアイサツを返した。無論、儀礼的なものだ。ノーフェイスは安堵した。「スティールホーン=サン、すぐ、IRC通信機で救援を読んでくれ。奴が…奴が来る!」「奴?」

「ニンジャスレイヤーだ!通信を妨害してきた!ここにもいつ来るか…!」「何!?ニンジャスレイヤーだと!?」スティールホーンはおもむろに牛のカブリモノを脱いだ。「アイエッ!?」それを見たノーフェイスは恐怖で凍りついた。そこには『忍』『殺』のメンポとジゴクめいた眼光!

「そのニンジャはもしかしてこんな顔をしていたか?ドーモ、ニンジャスレイヤーです」「アイエエエ!?ニンジャスレイヤーナンデ!?」ノーフェイスは震えながら後ずさる!「状況判断だ。貴様の下らぬオドシの手口は分かった。それに合わせ罠を張っただけのこと」

「スティールホーン=サンは先程殺した。オヌシもインタビューした後、ジゴクに送ってやる。安心するが良い」「や、ヤメロ!イヤーッ!」ノーフェイスの顔が裂け、ヒルめいた口から毒ガスが噴出!だが!それを見逃すニンジャスレイヤーではない!「イヤーッ!」「グワーッ!」

ジゴクめいた右ストレートがノーフェイスの口の中に叩き込まれ、牙が砕け、口内が裂ける!「アババーッ!」「変わった顔芸は終わりか?ノーフェイス=サン。では、情報を吐いてもらおう」「や、ヤメテ…」「ほう、口を塞がれていても喋れるか。便利なものだな」

ニンジャスレイヤーは右の拳をノーフェイスの口に押し込んだまま、壁に押し付けた。「ラオモト=サンのスケジュールを言え」「い…言えない」「イヤーッ!」「グワーッ!」左ストレートが叩き込まれる!「もう一度言うぞ。言え」「い、言えな」「イヤーッ!」「グワーッ!」

「アバッ…言えないと…言うより…知らない」「ならば惨たらしく死ね」「ま、待て…一つだけ…半月後にゴアイサツサマ生命と商談すると…」「…ほう」ニンジャスレイヤーは目を細めた。「じ…情報は言った…助けてくれ」「生憎だが言えば助けるとは言っていない」「そ、そんな」

「ハイクを詠め」ニンジャスレイヤーは左手でチョップを構えた。「追い詰めたと思ったら、追い詰められた、理不尽すぎる」「…イヤーッ!」「アバーッ!」ノーフェイスがハイクを詠み終えると同時に、ジゴクめいたチョップが首を切断した!「サヨナラ!」ノーフェイスは爆発四散!

◆◆◆
「オイ!大丈夫か!」同じ頃、マッポステーションから急ぎ家に戻ったサンザエモンは、押し入れでスマキにされていた妻を救出していた。「あ、あなた…」妻は幸いにも軽傷で済んだようだ。「良かった…本当に良かった…」サンザエモンは安堵した。

マッポへの通報を終えた後、サンザエモンは釣った魚をノーフェイスから逃げる途中で落としたことに気付いた。もう誰かが持ち去っているだろう。だが、妻や自分の命を置いていかずに済んだだけでも幸運だった。魚よりも価値のある物を守れたのだから。

遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえる。今度こそ本物のマッポが到着したようだ。サンザエモンと妻は抱き合いながら、互いの無事を喜んだ。サイレンと外の夜景の明かりが、2人の姿を照らしていた。

『ノーフェイス・ノーサヴァイヴ』終わり

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