『エイム・トゥ・ビー・ザ・ケイモンマスター』

「ゲームやろうよ」
「携帯獣」

「忍殺っぽく」
「『ケイタイモンスター』略して、『ケイモン』とは、違法薬物をドープされ、トレーナーの命令で血みどろの戦いを繰り広げる生物達の総称である。若者達の間で流行するケイモンバトルは激化の一途を辿っていた」

(サツバツ版です)

『アーッ…アーッ…実際…憧れ…ケイモン…マスター…』砂塵が舞う荒野。そこに伸びる道路。脇に立つ建物の殆どは廃屋めいて粗末であり、そこからは住人が流しているノイズ混じりのラジオの音声が漏れる。ここはルート46。近隣の2つの巨大都市を結ぶハイウェイである。

「ヤッター!捕まえた!」近くの草むらではケイモンを捕まえた者の歓声。「勝利重点!所持金を半分よこせッコラー!あとドゲザしろッコラー!」「アイエエエ…」そして、近くの歩道ではケイモン勝負のヤクザスラング。老若男女問わずケイモンが流行する現在では、あまりにありふれた光景だった。

その場から少し離れた、有刺鉄線で囲われた広場。ゲートには鎧武者を模ったマークが掲げられ、「サムライ」とオスモウ・フォントでショドーされている。ここはルート46を縄張りとするストリートギャング『サムライ・ボーイズ』の本部である。

通りかかる者にケイモン勝負を挑み所持金の半分をミカジメ・フィーめいて徴収する彼等だが、本日は様子が違う。空気は張り詰め、メンバーの誰もが浮き足だっていた。ただ1人を除いて。「そろそろ時間か…?」メンバーの奥にいた、筋骨隆々の男はゆっくりと立ち上がった。

男は片手で傍に置かれたカブトを被る。その身に纏う威圧感は、浮き足立ったメンバーに更なる恐怖を与える。彼の名はカタキべ。サムライ・ボーイズの頭目である。「カタキべ=サン、来ました!アイツです!」下っ端の1人がゲートを指差す。そこには赤のトレーナー装束を纏った少年!

少年はカタキべに近づき、ゆっくりとアイサツをした。「ドーモ、カタキべ=サン。ケイモンマスターです」「…何?」カタキべは眉をひそめたが、すぐにアイサツを返した。「ドーモ、ケイモンマスター=サン。カタキべです」アイサツは決して疎かにできない。ケイモントレーナーの礼儀だ。

「ケイモン…マスターだと?ラリってるのか?夢はママとベッドで見たらどうだ」カタキべは尊大に、そして威圧的に言った。「夢では無い」少年、ケイモンマスターは言った。「現実だ。これからオヌシが敗北することも、全てな」その言葉には微塵も怯えは無い。2人の視線がかち合う。

「ナコジ=サンとムコガ=サンが随分と世話になったようだな。2人とも口が聞けなくなってたんで困ってた。だが、ケイモンマスター=サン…だったか?お前の方から来てくれて探す手間が省けたよ」「いずれオヌシも口が聞けなくなる」「フフフ…言うじゃねえか」カタキべは邪悪な笑みを浮かべた。

カタキべの脳裏には勝った後この少年をどう弄ぶかの計画がショドーされるが、手下のナコジやムコガが精神崩壊した状態で本部に戻った瞬間の記憶がそれを遮った。油断するべきではない。カタキべはギャングの頭目だが、相手を侮り隙を晒すサンシタではなかった。

「それじゃあ、始めるぜ!」カタキべはケイモン・キューブを投げる!キューブが発光し、中から現れたのは、おお…ナムサン!巨大なドブネズミめいたケイモン、オラッタである!「GRRRR!」鋼鉄をも噛みちぎる歯で相手を殺す、恐るべきケイモンだ!

加えて、カタキべのオラッタは通常の倍の量の違法薬物をドープされており、サイズも巨大なのだ。厄介な相手である。「行け!キラチュウ=サン!」ケイモンマスターもキューブを投げる!(キラチュウ…?)カタキべは訝しんだ。確か、ハムスターめいた可愛らしいケイモンのはずだ。

キューブが発光し、中のケイモンがエントリー!「アイエッ!?」カタキべは戦慄した。それは、彼の知るキラチュウでは無かった。異常に発達、肥大化したテナガザルめいた手足には鋭い爪が生え、毛の間からは剥き出しの筋繊維が覗く。口にはサメめいた牙が生え、涎と悪臭を放つ息が漏れる。

そして、狼めいた顔の両目には、血と殺戮に飢えた光が灯る。「CYUUU…!」キラチュウは電子音めいた鳴き声を放ち、カタキべの方を見た。カタキべはまずエイリアンを想像した。それからクリーチャーを。なんだ、こいつは?「CYUCYUCYU!」そのカタキべの一瞬の隙を突き、キラチュウはオラッタに突進!

「グワーッ!」勝敗は一瞬であった。稲妻めいた勢いの爪攻撃がオラッタの心臓を貫通!「アバーッ!」即死!ゴウランガ!試合開始3秒以内の勝利!「もう終わりか?カタキべ=サン。次のケイモンを出せ」ケイモンマスターは挑発的に手招きする!「ぬ、ぬかせ!言われんでもやるわ!」

カタキべが次に繰り出したのは、熊のようなケイモン、クマズリーだ!「行け!クマズリー=サン!奴をネギトロに変えろ!」カタキべの指令を受けたクマズリーは丸太めいた腕を振り下ろす!」「AAARGH!」ハンマーめいた攻撃の前にさしものキラチュウも絶命する…はずであった。

「CYUUU!!」だが、見よ!キラチュウはクマズリーの腕を受け止め、逆に押し返しているではないか!?「GRR!?」クマズリーが戸惑った一瞬の隙を突き、キラチュウはバックドロップめいてクマズリーの頭部を地面に突き刺す!「アバーッ!」即死!「ば、バカな、クマズリー=サンまで!?」

カタキべは狼狽した。そして、同時に確信した。ナコジやムコガが精神崩壊を起こしたのは間違い無くこのケイモンと戦ったからだと。「出し惜しみをして負けると恥」ミヤモト・マサシのコトワザである。切り札を使うしかない。「褒めてやろう。こいつを使わせたのはお前が初めてだ!」

「頼むぞ!ゾウファント=サン!」カタキべが出したのは、象めいて巨大なケイモン、ゾウファントだ!「PAOOO!」大気を震わす汽笛めいた鳴き声!「CYUUU!」キラチュウは先程のように爪で攻撃するが、硬い皮膚は爪を通さぬ!まるで鎧だ!「無駄だ!こいつの装甲を甘く見るなよ!」

「PAO!」「CYUUU!」ゾウファントの長い鼻がキラチュウを打ち据える!初めての有効打!「いいぞ!ゾウファント=サン!そのまま全身複雑骨折重点だ!」カタキべは勝利を確信した。だが、対するケイモンマスターは微動だにせぬ。カタキべはその余裕を訝った。

その時、ケイモンマスターはこの戦いで初めてキラチュウに指示を出した!「キラチュウ=サン、プラズマ放電重点!」その言葉と共に、キラチュウの両目が怪しく光り口からプラズマが放射される!「CYUUU!!」「アバババーッ!」ゾウファントの巨体にプラズマ電撃が突き刺さる!

「アバババーッ!」「CYUUU!」だが、キラチュウはなおも放電続行!ジゴクめいた電流により、眼球は爆ぜ、内臓は焼かれ、ゾウファントは即死した!キラチュウは倒れたゾウファントに近づき、爪を器用に使いながらウェルダンに焼かれたその肉を切り分け咀嚼し始める!「CYUUU!」コワイ!

「アイ…アイエーエエエ!」猟奇的なスプラッターを目撃したカタキべは失禁し、地面に這いつくばった!ドゲザである!ドゲザとは母親とのファックを記憶素子に保存されるほど屈辱的な行為だ!「これは降伏のサインか?」「ハイ!ゴメンナサイ!」カタキべは額を地に擦り付ける!

ゾウファントの亡骸を喰らうキラチュウの姿を見た他のメンバーもカタキべに倣いドゲザ!ケイモンマスターは彼等を見下ろした。「誰にでも敗北はある。増長ゆえの油断もな。ケイモンマスターとはブラフでは無い。実在するのだ」ケイモンマスターはドゲザするカタキべの頭を踏みつけた。

「身を持って分かったろう、カタキべ=サン」「ハイ、ゴメンナサイ!」カタキべはドゲザ姿勢のまま所持金の半分を差し出した。「それでは、カタキべ=サン」「ハイ、ゴメンナサイ!」ケイモンマスターはそのままキラチュウを伴い、レポートを書きながら去っていった。

その場には、惨殺されたケイモン達の死骸と、ドゲザをし続けるカタキべ達が残された。『アーッ…アーッ…実際…憧れ…ケイモン…マスター…』オツヤめいた静寂の中、ノイズ混じりのラジオ音声がいつまでも響いていた。

『エイム・トゥ・ビー・ア・ケイモンマスター』終わり

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