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「大雨特別警報」の表現の強さと使い方

2013年8月30日から運用が開始された「特別警報」は「警報の発表基準をはるかに超える大雨や、大津波等が予想され、重大な災害の起こるおそれが著しく高まっている場合に発表し、最大級の警戒を呼びかけるもの」だそうだ。
テレビやラジオでは「これまでに経験したことのないような」や「数十年に一度の」といった修飾語句とともに使われて、警戒を呼びかけている。

近年では線状降水帯による大雨などによって被害が出ており、実際に大雨による災害の発生件数は数十年のスパンで見たときに増加傾向にあるようである。2008年には「ゲリラ豪雨」が新語・流行語大賞でトップ10に選出されている。2014年の広島県で発生した豪雨とそれに伴う土砂災害も記憶に新しい。

この記事で問題提起したいのは危険を伝える際の表現の強さと使い方だ。

普通の感受性があれば「これまでに経験したことのないような」は、なかなかショッキングな表現である。このように危機感を煽る表現は十分に取り扱いに注意しなければならないように思う。

懸念しているのは受け手の麻痺だ。最も行動に結びつく表現は、「○○さん、これまでに経験したことのないような雨で堤防が決壊しそうです。避難してください」と名指しされることだろう。マスメディアでそのようには言えないので、特定の地域を指定して避難などを呼びかけることになるが、問題はこのときの対象範囲だ。

「これまでに経験したことのないような」という強い表現とセットで大雨特別警報が出ていない警報レベルの地域にも幅広く注意を呼びかけると、本来伝えたい地域への注意が薄まってしまうだろう。対象地域が広すぎると実際にはそれほど被害がないところも含まれてしまうことで、オオカミ少年のようになってしまい、将来メッセージを届けたいタイミングで軽視されてしまうことも懸念される。

この記事を書いている2021年8月14日の13時時点で気象庁は”福岡県、佐賀県、長崎県に大雨特別警報発表”としている。

気象庁WP

大雨特別警報は市町村単位で発表するものなので、正確には福岡県、佐賀県、長崎県の各県の一部地域にしか出ていない。下の画像は気象庁が発表した報道用資料(PDF)からの抜粋である。画像中の黒い地域だけが大雨特別警報の地域である。全域に出ている県はなく、福岡県に関しては久留米周辺のごく一部だけである。

気象庁

NHKに至っては「佐賀 長崎 福岡に大雨特別警報 西日本~東北でも危険性高まる」とタイトルを付けた記事を配信している。(将来的にリンク切れの可能性あり)
記事中では西日本や東日本、東北の各地で災害の危険性が高まっているので厳重な警戒をしろと訴えている。どこで災害が起きてもおかしくない状況とまでも言っている。もう日本に安全なところはないと言うことだろうか。

危険を伝えたいのはわかる。気象庁やNHKの責務だからだ。しかし、目的は何なのかに立ち返るべきだろう。目的は本当に危険が迫っている地域の人が避難などの行動に移させることだろう。知人が該当地域に住んでいるならば電話して教えることを促すことだろう。NHKの記事のように日本中が危険と言わんばかりの見出しは受け手の思考すら奪う。

問題提起に戻ると、「これまでに経験したことのないような」や「数十年に一度の」という表現は、表現の強さの中でも最大級のもので、伝える側の表現としては最終手段に近い強さであることを自覚してほしい。慎重に、そして適切に使う。慎重に扱わないとオオカミ少年になってしまう。メディアが表現を乱用することで、将来、本当の危機が迫っている人に対して、正常性バイアスを作用させる報道をしてはならない。

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