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アイアム、ヒーロー2。 トンビが雷鳥を産んだ日

教頭の机の電話がなったのは朝の職員打ち合わせの最中だった。

教員同士のその日の申し送りが為される中、小声で教頭が電話に対応していた。

職員打ち合わせが終わったところで、教頭が俺を呼んだ。

「なんかよくわからないんだけど、お隣の幼稚園の園長さんから、Sさんにすぐに来て欲しいっていう電話なんだよ。」
「はぁ?」
「すっごく慌ててて、トンビがどうとか、カラスがどうとかいってるんだけど、よくわからないんだよ」
隣で聞いていた校長と教頭、俺の3人は首を傾げて顔を見合わせた。

「とりあえず、行ってみていいですか?」と俺。
「ああ」と校長。

俺は状況が見えないまま、護身用の棒を持ち幼稚園に向かった。

お隣の幼稚園は勤務先の中学から歩いて3、4分の場所にあり、普段から交流があった。

その幼稚園には入学式や卒業式で振舞う「桜茶」用の桜花の塩漬けを作るのにぴったりの八重桜があり、交渉して何度か花を摘ませてもらい、出来上がった桜の塩漬けを返礼したりしてお付き合いをしていた。

手作り桜茶


そんな縁で(女性だけの職場なので)力仕事や工事など困ったことがあったら連絡してくれと伝えてあったのだ。


幼稚園に着いてみると、園庭のはじの子ども用《手押し車》の陰で、体長40㎝くらい、羽根を広げたら1m以上ありそうなトンビがカラスの死体から内臓を引き摺り出して食事をしている真っ最中だった。
トンビはまわりを牽制しながらカラスをついばんでいる。

こんなヤツだ



園長が言う。
「役所に電話したんですけど、そんな事初めてでどう対応していいかわからないって言われちゃって、それでSさんに電話したんです!」

俺の後ろでは幼稚園の先生たちが白い防災ヘルメットをかぶり、各々ほうきやら棒やらもって腰引けながらトンビから目を離さないように取り囲んでいる。

敷地隣の団地の屋上では10数羽のカラスたちが「仲間がやられた!仲間がやられた!」と「カーカーカーカー」と大合唱だ。

俺「多分、脅かせば逃げますよ」
先生「アミでも持って来ましょうか?」
俺「いやいや、捕まえる訳じゃないので。笑」

そんなやり取りをしていたら幼稚園の女性用務さんが
「私《手押し車》倒してみます」と棒で《手押し車》を引っ掛けて倒した。

とたん、ビックリしたトンビがバサバサと羽根を広げて逃げ去った。

声にならない悲鳴を上げ、おののく白ヘルメットの先生たち。

「カー!カー!カー!カー!」 カラスの雄叫びも最高潮だ。

「今がチャンス」とほうきとちりとりを貰ってカラスの死体を俺が片付ける。

内臓飛び散るカラスに先生たちは近づけない。

「あのー、それはどうしたら…」

「あー私が持ち帰って捨てますよ」

ほっとした顔をする先生たち。

カラスはゴミ袋に入れて俺が自分の学校に持ち帰った。


そう、私は「用務レンジャー
幼稚園をトンビから救った男。
幼稚園の先生のヒーローだ。

そうなのか? いや、きっとそうに違いない。 多分そうだ。


午後、幼稚園からお礼の菓子が届いた。
園長が研修先で買ったきたお土産が横流しされてきたらしい。

その時の御礼(実物)


#嘘のようなホントの話
#用務レンジャー
#なぜかハードボイルド調
#今日はラッキーデーなので 、面白い話をば
#天赦日
#一粒万倍日
#甲子日

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