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ラブコメ漫画の金字塔「五等分の花嫁」の思い出を今更ながら振り返ろうと思う

本稿はネタバレなしの前半とネタバレありの後半の2部構成である。未読の方は前半部分だけを読んでいただきたい。

ネタバレなしレビュー

以前歴史に残る傑作漫画として「進撃の巨人」を紹介した。それに倣って言うのならば「五等分の花嫁」はラブコメの歴史を変えうる傑作漫画である。講談社漫画賞も取っているのでそちらのレビューを読んでもらえれば多くの漫画家に認められているとわかるだろう。

余談だが、作者である春場ねぎ先生の名前を見て気づいただろうか?英語にすればネギ・スプリングフィールドなので「魔法先生ネギま」の主人公の名前にちなんでいる。赤松先生に講談社漫画賞を授与されたら春場ねぎ先生も大喜びであろう。

本題に入ろう。世の中で質の悪いラブコメ成分ばっかり摂取していると「対してかっこよくもない主人公がなぜかヒロインからモテモテ」という自己投影型読者のための太鼓持ち漫画がラブコメでしょ?って思ってしまうかもしれない。そうでなければ、少女漫画に代表されるように恋愛模様を中心に描いて心の機微を感じ取って楽しむものがラブコメだろうという派閥も出てくるだろう

じゃあ「五等分の花嫁」はどうなのか?本作は、予測不能のストーリーに震えながらも、主人公の結婚相手を推理する考察マンガである。結婚相手の推理…?と思うかもしれないが、勘の良い読者であればお気づきであろう。一巻の表紙の5人のヒロインは五つ子なのだ。

テストは万年学年一位!友達はいない!貧乏!そんな高校生「上杉風太郎」は生活のために親のツテで家庭教師のアルバイトを始める。だが教え子となるのは留年回避のために転校してきた同級生の五つ子の女の子。勉強嫌いの彼女たちから信頼を勝ち取り、卒業への道を切り開けるのか?…というのが教科書的なネタバレのないあらすじになる。

引用元:フリー素材ぱくたそ

1話は主人公の結婚式における回想シーンから始まる。そう、本作では主人公とヒロインが結ばれるのは確定なのだ。だが、ヒロインは五つ子。結婚式でのヒロインの顔だけでは、読者は主人公が誰と結婚したのかわからない。最終的に主人公と結ばれるヒロインは誰かを予想するのが一つの楽しみ方であり、リアルタイムで連載を追っていた勢の中では、週単位で考察やら議論やら行われていた。ラブコメ漫画であるにもかかわらず「進撃の巨人」と似たような楽しみ方ができるという点で既存のラブコメとは一線を画している

これだけだと面白さが伝わらないって?それはそうなのだが、「あらゆるネタバレは許さない」人のためにあらすじを書くとこうなってしまうのだ。

が、「話の面白さを知るためにほんの少しだけならネタバレがあってもいいよ」という人のためにほんの少しだけ情報を追加するのが許されるのであれば以下の文章を付け加えたい。

ヒロインの中には子供の頃に主人公と出会っていた者がいる。ヒロインの一人とかつて交わした約束を胸に秘めて、主人公は勉学一筋の道を生きてきて、そして高校生になって再会した。主人公は約束を交わした少女の名前を聞いていなかったため、五つ子の誰であるかまでは分からないのだ。

話が面白くなるのは5巻くらいからである。徐々に主人公の子供時代の話が現代と絡み合ってくる。ヒロインの中の一人は主人公とかつて会ったことを覚えているのだろうか?その子こそが結婚相手なのか?読者としては疑問を抱えながら読み進めていくことになるであろう。

表紙の画力を見てもらえばわかるように作者はかなり絵がうまく、どのコマも安定している。画力も構成力も群を抜いており、売れるべくして売れた作品であると言ってよいだろう。話が面白くなるのは5巻くらいからと述べたが、1巻でその片鱗は感じ取れる。将来性に投資してリアルタイムで追っていてよかったと感謝した作品である。

ここまでがネタバレなしのレビューになる。アニメ版もあるが、漫画版の方が質が高いのでぜひ購入して読んでみてほしい。きっと後悔はしないだろう。

ネタバレありレビュー

ここからはネタバレありのレビューになる。

本作の感想を一言でまとめるとこうだ。

引用元:フリー素材ぱくたそ

『また勝てなかった』

結論というか、話のオチとなるのは過去に出会ったことがある少女に対してそうと気づかず主人公は恋をするというものだ。私の解釈としては本作は「初恋の相手に偶然再会して結婚を申し込む物語」ではなく、「自分を変えるきっかけとなった人間と再会して好きになる物語」である。

それでなんで感想が『また勝てなかった』かといえば、私が応援していたヒロインがまた主人公に選ばれなかったためである。…いや、おかしいだろ。姉妹を騙してまで、泥にまみれてもなお主人公と添い遂げようとした一花の愛に応えずに、オレンジジュースを渡すフータローさんよぉ…。

早い段階で四葉エンドを覚悟していたが、それはそれとして五等分の花嫁を物語として面白くしてくれたのは一花だろう。私が傑作と言っているのは主に「シスターズウォー編」がこれまでにない体験をさせてくれたからだ。ヒロインが可愛くて悶えさせるだけではなく、骨肉の争いをラブコメに織り交ぜて緊張感を増すなんてなぁ。定期的なヒロインキャラの投入、命名"追いヒロイン"で新たな刺激を読者に与えるラブコメなんて腐るほどあるが、一話から最後まで5人の同じ顔のヒロインでやろうと決意し、伏線を敷いて一気に回収するなんてこれまでのラブコメにはなかった。

春場ねぎ先生は連載前にこう述べている。

「少年と5人の少女による肩の力を抜いて楽しめるラブコメとなっております」
作者は嘘つきである。。。
「普通のラブコメだと思ったら、進撃の巨人だった」
いや、マジで…。

連載初期にはいわゆる記号的なキャラクター描写が多かった。一花は怠惰で姉らしくしっかり者、二乃は姉妹思いでツンデレ気味、三玖は引っ込み思案で四葉は天真爛漫、五月は真面目で要領が悪く大食いってな感じである。漫画のキャラクター紹介としてはこれでよいし、1巻から5巻くらいまでも質は高い。

しかし、全部読み終わった後に振り返ってみると全ヒロインが変化しているか、もしくは隠された本性が露になっているとわかると思う。一花はしっかり者の仮面を脱ぎ捨てて姉妹をだまくらかしてまでフータローの心をつかみに行くし、二乃は素直に主人公への好意を伝え、三玖は自分思いをはっきりと口に出すようになり、四葉は過去の呪縛から解き放たれ、五月は自分の夢へと歩き始める。

John HainによるPixabayからの画像

間違いなく高2から高3へと変わるタイミングを機にヒロインたちの印象が変わるように仕向けている。様々なキャラクターを考えつくした後に現在の五つ子像ができたと春葉ねぎ先生は語っており、多層なヒロイン像になっているわけだ。記号的なんかじゃない。

練りに練られたキャラクター5人をうまく描いて伏線を各所に設置、怒涛の勢いで伏線回収して物語の結末へとたどり着いた本作は、密度の高いシナリオで豊かなドラマを描いている。読み進めていく過程で読者は主人公とヒロインのことを好きになる。彼らの歩む青春はラブコメとしてではなく、漫画として面白いものに仕上がっている。あなたが一番好きなヒロインが報われるとは限らないのがラブコメの辛いところだが、本作がラブコメの中で一番好きな作品になるかもしれない

少なくとも私にとっては連載を追えて幸せな作品であり、終わらなければいいのに、自分の好きなヒロインが結ばれてほしいと切に願った漫画である。作者である春場ねぎ先生には感謝しかない。ありがとうございました。


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