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2024/06/02

1.フィクションをノンフィクションと同じ感覚で書くと身体性が乏しくなる、ということを先日は書いた。より広く捉えると、「読者がその世界を信じる気になるかどうか」が重要なのだと思う。全く同じストーリーの創作と私小説があったとしたら、私小説の方が読者の関心を引きやすい。それは、現実世界との繋がりが明らかであるからで、その世界をわざわざ信じてやるに足る理由が備わっているからだと思う。ノンフィクションにおいては、「誠実に書く」ということである程度それを果たすことができていた。しかしフィクションでは、ただリアルを描くということでは足りない。いくら描かれていることが現実的であっても、その世界をわざわざ信じることで快感を得られそうな予感がなければ、わざわざエネルギーを割いてその世界に没頭しようとはしない。ゆえに、エンターテインメント的要素が入ることは、単なる娯楽化ではなく、物語の主張を強めることにも役立つのだと思う。

2.ミステリーなど、特殊な形式でない限り、アイディアや展開といったものは素人とプロでさほど差がなくなっていくのだと思う。しかし、シーンの描き方に関しては圧倒的に差が出る。描写における情報の過不足のなさ、緩急、感情の操作の仕方など、2-3段落も読めば明らかに違う。角田光代さん「ロック母」の冒頭3段落は非常に美しかった。

3.物語の視点の取り方に対して、完全に納得する答えは得られていない。新井素子さんの作品は興味深かった。この時代に書く作品としての必然性のある視点の取り方をしたい。

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