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エピソード71 不知火

71不知火

不知火(しらぬい)は、九州に伝わる怪火の一種。
旧暦7月の晦日の風の弱い新月の夜などに、八代海や
有明海に現れるという。
千灯籠(せんとうろう)、竜灯(りゅうとう)とも呼ばれ
る。

海岸から数キロメートルの沖に、始めは一つか二つ、
「親火」と呼ばれる火が出現する。
それが左右に分かれて数を増やしていき、最終的には
数百から数千もの火が横並びに並ぶ。
その距離は4〜8キロメートルにも及ぶという。
かつては龍神の灯火といわれ、付近の漁村では不知火
の見える日に漁に出ることを禁じていた。

「日本書紀」などよると
天皇が クマソをせいばつして、九州をまわられた時
ある海岸から船に乗って海にでたところ。
そのうちまっくらい闇が迫ってきて、どこへ着いて良
いかわからなくなってしまった。
すると、突然はるか前方にあかあかと、火の光が現れ
てきた。天皇は舵を取っている船頭に向かって、
「あの火にむかってすすめ。」とおっしゃった。
言われるままに船を進めると、やがて無事に海岸に着
くことができた。
天皇は村の土地のものに向かって
「あの火の燃えるところは、なんというところだ。
そして、いったいあの火は何の火だ。」と問うと、
「はい、あれは火の国の八代郡の火の村でございます
しかしだれがつけて燃やしているのか、わからない火
でございます。」と答えた。
そこで天皇は
「あれはおそらく人の燃やしている火ではあるまい」
しらぬひ、しらぬい(不知火)という呼び名は、ここか
ら起こっていると言われる。


71不知火 オリジナルストーリー

夜の有明の海に小舟が出ていた。先月父を海難事故で
亡くした幼い守は夜の海で泣いていた。

守:
父ちゃん何で死んじゃったんだよ~。
3年前に母ちゃんも病気で亡くなって、もう僕は独り
ぼっちになっちゃったじゃないか。

叔父さん:
守、お前ひとりじゃ生きていけない。
叔父さんと一緒に博多の街に行こう。
うちの進もお前のことを兄のようにしたっているじゃ
ないか。
どうだ?

守:
叔父さん。
オレ父ちゃんと約束したんだ!
この有明の海で先祖代々漁師をしてきたウチの仕事を
引き継いで、この海で一番の漁師になるんだ。

叔父さん:
守、お前の気持ちはわかるが、幼いお前ではまだまだ
ぜんぜん無理だ。
まだ船だってまともに操れまい。
わがまま言わず叔父さんと一緒に暮らそう。

守:
いやだ!叔父さんなんかオレの気持ちわからないんだ
大っ嫌いだ~          

叔父さん:
守!! 

守は家を飛び出し、海岸の小舟に乗り力一杯 櫂を漕
ぎ海に出たが、そのうち力尽きて小舟の上で寝てしま
った。
目が覚めるとあたりは月もなく真っ暗になっていた。

父と一緒に海に出たことはあったが、一人で出たこと
は無くましてや夜の海なんてまったく経験の無いこと
だった。

守:
叔父さんと喧嘩して船に乗り込んだのはいいけど、
ここはどこだろう?
もう何処に向かって進めば戻れるのかわからない、
どうしよう...。

亀:
どうした少年。
家に帰れないのか?海で迷子になったのか?

小舟の横に大きな海亀が現れた。

守:
わぁ!オレ夢見てるのか?亀がしゃべった!
バ、バケモノ?オレを食べないでくれよ。

亀:
おいおい、亀は人食ったりしないよ。
ワシはもう三百歳の老亀だからしゃべることが出来る
ようになったんじゃ。

守:
え、もしかしてオレを竜宮城に連れていくのか?

亀:
お前がそれを望んでいるならそれも出来るが、
お前はそれを望んでいるのか?  

守:
いや、オレは竜宮城なんて生きたくない。
オレはこの海で一番の漁師になりたいんだ!
...でも、今は家に帰りたいんだよ。

亀:
そうか、そうか、それじゃ特別にお前を港までたどり
着けるように海に道しるべの灯りを照らしてやろう。
何の灯りか誰も知らない不知火って言うんだ。

そう言うと亀は口からフ~と霧のような煙を吐いた。
するとその煙が進む方向の海の上に炎が点々と灯りは
じめた。
そして見えないくらい先まで炎は続いていった。

亀:
さあ、少年この灯りをたどっていけば家に帰れるぞ、
達者でな。
そうそう炎たちにも感謝するんだぞ。

そう言うと亀は海の中に潜っていった。
守はゆっくり櫂を漕ぎ炎にそって進んで行った。

しばらく進むと守は炎の後ろに人影があるのに気が付
いた。

守:
あ、あそこにいるのは猛んちのじいちゃん、
こっちは剛のじいちゃん、あっあそこにいるのは、
じ、じいちゃん!オレのじいちゃんだ!

守の祖父はニコニコ笑って守を見ているそしてすこし
先の炎を指さした。

守:
え、何っじいちゃん......  と、父ちゃん!!!

守が見つめる先の炎には守の父が立っていた。

守:
父ちゃん、父ちゃん!

父:
守、すまない。
お前をのこして逝ってしまって。
守、父ちゃんとの約束はこの有明の海じゃなくても出
来る。
叔父さんはいい人だ、どうか幸せになってくれ。

守:
と、父ちゃん......    

やっと港が見えた。
松明を持ってたくさんの人達が守が戻ってきたの歓喜
で出迎えてくれた。

灯りに照れされた叔父さんは涙を流して精一杯手を振
っていた。

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