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「車体整備の基本」の紹介(1) <エンジン マウント編>その2

オートバイが備えている能力を適切に発揮させる為、私が年に数回、機会がある度に必ず行なっている「車体整備の基本」を、整備する部位別に紹介します。中には、初めて見る整備もあると思いますが、それを行なう理由を基本的な事から分かり易く説明しますので、きっと参考になる事もあると思います。

2.締付けトルク値 と 締付けの順番

エンジン マウントの整備の大切さは色々な車種で体験してきましたが、特に、この VTR250で、その大切を思い知らされた体験があります。それは、購入して間もない頃、エンジン マウントの整備を行なった後の確認走行での出来事でした。

『 変だ! 何かおかしい 』

いつも走り慣れた道を、交通の流れに合せて走っているだけなのに、乗り味が変わってしまったのです。車体全体が変に固くなっている様な感じで、特に フロント側が路面の凹凸を拾って突き上げてくる感触が強くなっているのです。
ただ、変わったと言っても、恐らく、人によっては変化を全く感じられない程度かも知れないのですが、それでも嫌な感触になっているのです。この感触だと、タイヤの接地性能(ロードホールディング)は下がり、操縦性も安定性も、安全性も悪くなる事が確実です。

『 4本(セット)の マウント ボルト 』

VTR250 のエンジンマウントの整備は、下記の画像で記載した通り、(A)から(D)までの4本(左右1セット)のマウントボルトで行ないます。その内、(C)と(D)のボルトは、スウィングアームのピボットを固定するサブフレームをエンジンに固定するためのボルトです。

『 メーカー指定のトルク値 』

そして、マウント用ボルト毎のメーカー指定の締付けトルク値は以下の一覧表の通りです。実は、ここに VTR250 の秘密が隠れているので、みなさんも一度ご覧ください。

ここで、最初に注意が必要なのが ボルト(B)です。車体画像でも分かると思いますが、ボルト(A)と同様に目立つ場所にあって、ボルト(A)の六角部の二面幅と同じ(17mm)、つまり同じ工具が使えるのですが、実は、ボルト径は(A)より細く、当然ですが 締付けトルク値も異なるので注意が必要なのです。
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しかし、締付けトルク値は何度も確認済み。ボルトのネジ山の状態も、緩める際の “緩めトルク値” を確認をして、締め込む時は最初に指で締め込んで、ネジ山に問題になる損傷は無い事は確認済み。だから、尚更、変化が起きた原因が分からなかったのです。

?・・・と、色々と考えて、思い当たったのが「締付けの順番」だったのです。

『 締付けの順番 』

エンジンマウントのボルトを締付ける順番は、色々な車両で整備をしていますが、さほど難しくありません。車体中央部(スウィングアームのピポット近く)のマウントボルトから始めて、ボルトの太さと指定トルク(値)が大きい順に、車体前方のボルトへと、左右のボルトを一セットとして、順番に締付けていく方法で良い結果を出していました。

しかし、VTR250の場合はそうではなかったのです。と言うのも、VTR250の場合は、一般的な車両とは異なり、後輪サスペンションのスウィングアームはフレームに固定されず、固定用の部品( ブラケット)を介して、エンジンに固定する設計なので、そのブラケットをエンジンに固定しているボルト(図中の C と D)も緩めます。なお、この記事の本題とは関係ありませんが、その C と D のボルトを緩める為に、スウィングアームのピボットシャフトも緩めて、左右のステップホルダーを回転移動させる必要があります。

さて、前回、乗り味が変わってしまったマウントボルト整備ですが、その締付け順番が 最初にボルト(B)で始まり、ボルト(A)、(C)、(D)の順番でした可能性が高いという結論に至ったのです、そして、ボルト(B)に始まり、次に ボルト(C)、(D)と進み、最後にボルト(A)として、確認走行して、これが正解でした。僕にとって VTR250 ならではお気に入りの接地艦・操縦性が得られているのです。

「 何故、マウントボルトの締付け順番 と 締付けトルク設定で、こんな変化が出たのか? 」と、理由を考えてみました。すると、そこには、設計エンジニアとテストライダーによる緊密で妥協の無い仕様設定があった事に気付きました。そして、それが VTR250 の最大の美点になっていると強く確信しています。

   ・・・ 次回は、【 VTR250 最大の美点 】を紹介します

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