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良いところまでいくスタートアップの条件

スタートアップが良いところまで行くにはいくつかの条件がある。逆に言えば、良いところまできたスタートアップは必ずいくつかの条件を満たしており、ひいては、そこに典型やパターンを見いだすことができる。

本稿では、その組織的状況にフォーカスし、「ポジションが必要とするキャラクターを、動物から想起されるインスピレーションを用いて考えてみる」というやり方で語ってみたい。

良いところまできたスタートアップの社長からは、「孔雀」をイメージさせられることが多い。企業の実力とは、資本である。資本といってもそれは資金だけでなく、人、設備、知識、信用、技術などを含めた総体であり、当然、エスタブリッシュな企業よりもスタートアップはこれに劣る。資本は大きければ大きいほど有利に戦える。原理的にいって、スタートアップが戦うためには、実力資本以上の存在感を社会に提示する必要があり、孔雀的資質を代表者が有していないと、そもそも戦えない。孔雀に限らず、ライオンのたてがみとか、ヘラジカのツノでも良いのだけれど、つまり、他者に対してアピールする力。これなくしては、スタートアップはそもそも資源を獲得することすら難しい、ということだ。

良いところまできたスタートアップの取締役・執行役員には、「類人猿」的な資質が不可欠である。その心は、企業が生き残り成長するためには、色々と生じる矛盾をうまく処理する能力が欠かせない、ということだ。営業、技術、コーポレート、様々な管掌領域がある。ゴリラのような穏やかさ、強さが求められる領域もあれば、チンパンジーのような器用さが求められる領域もある。ちなみにその野望が事業や顧客に向いていると健全だが、その力を組織内での生き残りに活用するようになると、企業としては黄色信号である。内部的な生存競争と顧客志向が両立する構造が実装されていない場合、何をやっても何も変わらない、という悲劇的な状況を招きかねない。

良いところまできたスタートアップのマネージャ、つまり、部課長級は、さすがにひとくくりにできないが、大別すると、犬、猫、馬、牛、を連想する。組織に忠実な人もいれば、自己中な人もいる。総じて、スタミナに優れていたり、耐久性が高かったり、何かしら個人として秀でていなければマネージャの席への誘いはかからない。

新卒や若手の階層までいくと、もう少し野生味があって、可愛い動物をイメージする。鳥ならインコ、齧歯類ならカピバラ、とか。人は経験によって成長するので、昇進していくにつれ、その人の資質に応じて先述したようなキャラクターを獲得していく。環境があわなければ、転職する。メンバー級からマネージャ級に一歩上がるのは、なかなかそう簡単なことではない。

簡単ながら素描してみると、こんな感じかなと思うのだが、どうだろうか。

良いところまできたけど、そこからの突破口に悩むスタートアップは、非常に多い。みんな、なぜうまくいかないのだろうと悩み試行錯誤する。組織をいじり、事業をピボットし、ミッションビジョンバリューをひねり出し、あれやこれやと戦略戦術を弄す。それでもうまくいかないことは多い。

なんでだろうなんでだろうと考えてみると、もしかしたら、真実はまったくもって身も蓋もないかもしれない。つまり、社長が孔雀とかライオンとかヘラジカとかでは、そもそも駄目なのであって、本当に大成功するスタートアップの社長とは、「龍」じゃないといけないのだ、と、そういうことじゃないか。

資本主義の欲望が、孔雀に龍たることを求め、余計な悩みや非効率を生み出していることが非常に多いのではないか。ありのまま等身大で着実に積み上げたら、もっとうまくいくのに、と、思うことが多い。つい無理をしてしまうし、案の定無理が祟ってしまう。人間ってまぁ、そういう生き物なんだと言えば、それだけなんだけど。

一方で、こんなことも思う。孔雀も無理せず理に適ったあり方をしていたら、時満つれば、つまりマーケットの大きなうねりを、風を、一身に受ける日がくれば、飛翔し、その時、龍となるのではないか。いまかいまかと焦って無駄なことをやっていると、風を受ける器が育たない。さりとてのんびりやってりゃ良いかというと、そうでもない。そこが難しいところといえば、そうなんだけど。いずれにしろ、汲々とするイメージは、龍には相応しくない。

これからは間違いなく、個の時代が加速する。

もちろん、事業とは資本の集積であり、大きな資本を運用するために、大きな組織という手段は欠かせない。これまでは、組織に人を縛りつけるのが前提だったわけだが、この二十年、良い具合で出入りができる仕組みが随分と開拓されてきた。

個の時代を幸福に生きるためには、例えば、「蝶」のイメージがしっくりくる気がする。か弱いように見えて、なかなかどうして、したたかだ。強風にもなんとなく対応するし、エネルギー効率も良い。

もちろん、生態系の本質とは多様性であり、みんなが蝶だと絶滅まっしぐらだ。花と蜜を提供する戦略もありえるし、食肉性のワイルドな戦略を取る人もいるだろう。リソース不足に耐えるのが得意ならサボテンになるもよし。群れるのが嫌じゃないなら、シマウマもありだ。

自分の居心地の良い生き方を、誰もが発見できると良いなと思う。無理がなくて、効率が高くて、自然体で。外部環境が大きく変動しても、それなりに対応しながら、なんとかやっていける柔軟さがあって。

そういう生き方がみんなにあるんだということになれば、閉塞感だの、未来への不安だの、メンタル不調だのといった現代社会の負の側面が緩和されると思うんだけど、どうだろうか。

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