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私権と公共性の矛盾を解く鍵としての祝祭、それを阻む強制的な褻という構図。

 なんか、よく考えると不思議だと思うのは、オリンピックで海外から人がたくさんくるのは、感染拡大防止の観点からけしからん、という意見だ。この意見って、どれぐらい多数派なのだろうか。
 本当に多数派なのだとしたら、今回の宣言がそんなに響いていない現状と矛盾する気がする。

 どうしたって完全に人の流れを遮断することは不可能であり、すでに変異株が国内でも見つかっているわけで、本質的にオリンピックの開催が国内の感染状況にどの程度影響を与えるのかは、微妙なところなんじゃないか、という気もする。

 まぁ、オリンピックを厭う心理の本質は、そこにはないのだろう。
 みんなが経済的にダメージを受けて、我慢を強いられてるのに、商業主義に毒された特定の利権団体が、しかも財政基盤も強固な団体が優遇されるのはけしからん、という感情と、これに振り回されて一貫性に欠ける政策を繰り出し続ける政府に失望している、という感情、このふたつの方が先にあるのだろうとは思われる。

 でも、ちょっと冷静になってみたいのは、「商業主義に毒された」も「これに振り回されて」も、そう見えているだけであり、つまり、メディア上の膨大な引用による印象論であり、一次情報にあたってみると、意外な実情が見えてくるのかもしれない。

 オリンピックは、現代においては都市部のインフラ再開発にひと役買っている、という見方を語る人がいた。
 真偽のほどはわからないけど、なんとなく、納得した。
 築地市場にしても、国立競技場にしても、それこそオリンピックでもなければ、ただただ老朽化に任せるしかない。建て替えや設備の刷新なくしては、都市のインフラとしては非常にまずい。
 道路整備もしかりである。いつまで経っても解消しない渋滞をなんとかするために、道路を敷く計画はあれども、遅々として進まない。
 なぜなら、それらは、用地買収やらなんやらのありとあらゆる手続き、地域住民や関連団体との交渉を経ることが前提だからだ。私権と公共性の折り合いを、人類はいまのところ、時間によってしかつけることができない。
 そこに突き刺さる伝家の宝刀としての、オリンピック。この一言で救われた政策担当者や実行担当者は、やまほどいたに違いないと想像される。
 これらの話は土木建設業界の利権構造によってのみ語られるべきではなく、都市開発論として検討すべき問題だ。
 たとえば、なぜタワーマンションだけは飽きもせずぼこぼこと建ち続けるのか。一攫千金のイメージでしか、結局のところ、人を動かせない。そういう話ではないか。公共性って、そういうことで本当に良いのか。良くないはずなのである。

 近年の開催地として、ロンドン、東京、パリ、という流れがあることと、こうした議論は、無縁ではなさそうな気がする。

 何が言いたいのかというと、オリンピックの恩恵は、部分的には、すでに発生しているのだろうと思う。しかしそれは、おおっぴらには語られない。その恩恵について、おおっぴらに語れないような話だからこそ、オリンピックという手段が援用されたのだ、という、そんな構図があるのではないか。
 商業主義とか放映権とか、そういった話は、そうした構造の原因ではなく結果なのではないか。
 スポーツの称揚やアマチュアイズムなんてどうでもいいのは、IOCだけではなく、出場者以外全員にとって、たぶん、どうでも良いのだ。そして、そのこと自体は、たぶん、全然けしからん話じゃなくて、健全な話なのだ。その健全さと競技の神聖さは、両立し得る。

 まぁ、そういうふうに読み解いてみたところで、感情論が収まるわけではないんだけど。

 自粛とか、ロックダウンとか、病床確保とか、オリンピックとか、ワクチンとか、テレワークとか、いま話題となっている問題は、すべからく、私権と公共性の問題に逢着する。
 私権ってなんだろう、公共ってなんだろう、こういうことを掘り下げて考えるのが、とても大切な話なのだろうと思う。

 祝祭は、私権と公共が、一瞬ないまぜになる瞬間である。週末の飲み会はその最も身近で素朴な形態であり、オリンピックやワールドカップは、規模的に言えばその極北である。私権と公共の矛盾を解く鍵としての祝祭。それを封じ、褻を強いる存在としての感染症。

 そういう風に読み解くと、人類は詰んでいるのかもしれない。

 逆転の目は、たぶん、ないのだろう。そのことと、今般のミャンマーのことや尖閣のこと、香港、台湾のことは、無縁ではない気がする。戦争もまた、文化人類学的に見れば、祝祭の一形態だからだ。
 唯一、希望があるとすれば、どんな勝負も粘り続けることは可能であり、そのなかで時間が解決してくれるという可能性は、常に残されている。暴発を可能な限り避けること、それはとても大切なことだとは思う。

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