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結婚挨拶

202002262226

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「かみ」の話。

<登場人物>
男:ノリがいい。
女:父子家庭。
父:着流しか甚兵衛を着ている。

舞台袖。
家の前。
二人の男女。
そわそわしている。

男「今日の髪、綺麗だね。」
女「ありがとう。」
男「...。」
女「...。」
女「あっ、実はウチのお父さんね...初対面の人にはちょっとハラスメントしてくるの。気を付けてね。」
男「ええっ聞いてないよ、何ハラ?マタハラ?」(お腹を押さえながら)
女「見れば分かる。」

ピンポーン
ガチャ
(口で言う)
二歩くらい歩いて引き戸を開ける
ガララララ...(口で言う)

父「よく来たな」(と言いつつ眼鏡クイッとやるフリをしてヅラを大げさにズラす)
男「...!!!!」
男(脳内)「『ハラハラ』じゃーん!!」

男(脳内)の時には父娘ストップモーションで、男が顔だけバッと客席向く→バッと戻る

父「(咳払い)」
男「こ、こんにちは!えー、本日はお日柄も良く...」(結婚式)
女「早い早い」
父「まあまあ。そう固くならんで。寛ぎたまえ。」
男「わ、分かりました。」(寝そべる)
父「...もうちょっと畏まって。」
男「は、はい。」(俊敏に直立不動)
父「座って。」
男「はい」(正座)
父「立って。」
男「はい」(直立不動)
父「座って。」
男「はい」(正座)
父「立って。」
男「はい」(直立不動)
父「座って。」
男「はい」(正座)

何回かやる。だんだん早くなる。
父が言い間違える。
(女は(・O・)みたいな顔で呆気にとられてる)

父「...!!」
男「(めっちゃいい顔でガッツポーズ)」
父「...娘はやらん!」
男「そんな!」(一転して絶望)
女「何なの!?」

父「(男を睨む)」
男「(父を変な顔で見る)」
父「...茶でも入れてきてやる。」(退出)

女、男に自分の方を向かせる。

女「どうしたの?ねえ、緊張してるの?そうよね?ね??」(両肩を掴んで揺らす)
男「う、うん、うんうん、そ、そうそう」(めっちゃ揺らされてる)

父、戻ってくる。
揺らされてる男をジロリ。

父「茶だ。」

お茶のお盆をちゃぶ台に置いて、(茶はエアーで良い)
おもむろに父が座っていた場所(座布団が望ましい)にヅラをスッと置いて去る。
毛は有る。

男「有るじゃん!?」(思わず言っちゃう)
女「もう!何なの!?」

父、戻ってくる。何事も無かったかのようにヅラを拾って被り、座る。
男、吹き出す。

男「す、すみません、ちょっとお手洗い。」
男、ハケる。

父、男を目線で見送って、
父「...。」
女「ねえ、お父さん。」
父「...。」
女「ちょっとこっち向いて。」
父「...嫌だ。」
女「怒ってないから。」
父「怒ってるだろう!」
女「誰のせいよ!」
父「ほら怒ってるーー!!」(変な顔)

間。女、力が抜ける。

女「どうして私の恋人に変な事するのよ。」
父「それはその、娘を任せるに足るちゃんとした人か心配でだな。」
女「心配でヅラ被るってどういう事よ?!」
父「わー分かった分かった、分かった。もうヅラで変な事しない。」
女「約束よ?」
父「もちろんだ。信じて良いぞ。」

女「...ふっ。」
父「どうした?」
女「お父さんって昔からそうよね。真剣な時に限って笑わせようとするの。」
父「そうだったか?」
女「そうよ。お母さんが亡くなった時だって...。」
父「ああ...。」
女「お父さん、私本当に感謝してるの。男手一つでここまで育ててくれてありがとう。」
父「何だい、急に改まって。」
女「彼、良い人よ。」
父「分かるよ。」
女「...本当はね、最初は彼の事、お父さんに似てる気がして惹かれたの。」
父「え?」
女「私、お父さんの事尊敬してるし、大切に思ってる。でも、結婚したら離れて暮らさなきゃいけないのよね...。」
父「そうだな...。」

ちょっぴりしんみりした空気。
男、戻ってくる。
父、居住まいを正す。

父「それで、どうなんだ。」
男「どう、とは...?」
父「何か話があって来たんだろう。」
男「話、とは...?」
父「無いのか!?」
男「有ります!」
女「何で一回はぐらかした?」
男「なんか...その方が良いかなって...」
女「わざわざボケなくて良いから!」
父「こそこそ喋るな!」
男「ヒッ!はい!」

父、男を睨みつけながらおもむろにすねを触る。
ずる...ずる...と一本の毛が出てくる。(黒い毛糸とかで良い)
男、固唾を飲んでそれを見ている。

男「え?...え?...ええ??」

めっちゃ長い。とうとう1mくらいの長さに。
謎に誇らしげな父。
(着物の下にジャージの短パン等を履いて、ポケットに毛糸を入れて、糸先を垂らして仕込んでおく)

父「それで?」
男「(ハッと我に返る)」
女「ほら、気にしないで!早く」
男「ええっと...ええっと...」
男「お父さんのすね毛を僕に下さい!」
父「えっ...///」

父、若干のときめき
可能ならエンダーイヤーをちょっと流すか、歌って、女のツッコミで切る。

女「いや何でやねん」
男「あっ、違う違う...これじゃない...」
父「...要らないの?」
男「え?」
父「すね毛、要らないの...?」
男「要りません...。」
父「そう...。」

父、めっちゃしょんぼりしてすね毛(黒い毛糸)をくるくる器用に巻いてポケットに大事そうにしまう
女、痺れを切らして立ち上がって、

女「あのね、お父さん、」
父「ん、何だ?」(バッと振り向いた勢いでヅラを飛ばす)
男「ぶべらっ」(ヅラがぶつかる。当たらなければ吹き出す)
女「もう!」(ヅラを拾ってめっちゃいいフォームで舞台裏に投げる)
男「あっ」
父「あああーーー!!」
女「(向き直る)もう!二人とも真面目にやって!」
男「すいません!」
父「あああ...」

男、深呼吸。
めっちゃ衣紋を繕い姿勢を正して、

男「娘さんをヅラに下さい!」
女「ハァ!?」

女、サッと身を引いて髪を守る仕草

父「お前、娘の髪目当てだったのか!?」
女「そうなの!?」
男「あっ、いや、その、違うんです、ええと」
女「もしかして...行きがけに私の髪を褒めたのも...」

女、戦慄。
男、脳内モードに。くるっと女に背を向けて客席を向き、俯いて、

男「(落ち着け僕、落ち着け落ち着け...落ち着いて、『娘さんと結婚させて下さい』『娘さんと結婚させて下さい』『娘さんと結婚させて下さい』、大丈夫、大丈夫...。よし!)」
『』『』『』のところは、1、2、3と指折り数えて拳を握る動き

男、バッと向き直る

男「娘さんの毛根を下さい!」
 (「毛根」は「結婚」のイントネーションで言う)
父「皮ごと剥ぐ気か!?」
女「やっぱり私の髪目当てだったのね!」
父「もう良い!もう十分だ!もう来んで下さい!」

女、泣き崩れる
父、男を押し出す
男は抵抗して父と押し合う

男「あっ、あああ、違うんです、違うんです...」
父「何が違うんだ!」
男「誤解なんですって」
女「酷い!本当は髪以外どうでもいいのね!」
男「違うんだ、分かってくれ!ただここに来てからどうしてもお父さんのヅラとすね毛が気になって気になって、」
父「お前にお父さんと呼ばれる筋合いは無い!」
女「つまり、私よりお父さんの方が魅力的って言いたいのね...」
男「ヒッ...本当に誤解だ...!」
女「何が誤解なのよ!お父さんの髪の方が気になるんでしょう!」
男「落ち着いて!」
女「酷い!あんたの髪なんか毟ってやる!!」
男「やめてくれ!」

男と女、もみ合う。
父、大きく息を吐く。

父「まあまあまあまあ。」
男女「「お父さん...!」」(おTOUさAN...みたいな変な発音。)(二人同時にバッと振り向く)

父「まあね、君の覚悟はよーく分かった。君の髪への熱い想いなんか特によく伝わって来た。」
男女「「お父さん...!」」
父「だからね、ここで紙を書いてもらおうじゃないか。」
女「えっ...」
男「まさか...!?」
父「離婚届。」

間。

男女「何で!?」
父「いつかまた髪の事で揉めた時、この紙が必要だろ?」
女「ややこしいわ!」
男「お父さん...忘れた頃に娘を取り返すつもりですか...!」
父「バレたか...」
男「そうはさせませんよ...」
女「えっ...?///」
父「何...!?」(言うのか...?言うのか...??)

男「娘さんとお父さんを僕に下さい!」
父女「...!!」

男「ここまでちょっと戸惑って言えませんでしたが、僕は今日真剣な気持ちでここに来たんです。」
父「おお...?」
男「男手一つで娘さんを育て上げたお父さん...。実際に会ってみたらやっぱり素晴らしい方だった...!」
父「おお...!」
女「どの辺りが...!?」
男「僕は決めました。...お父さん。」

父と男、向かい合う。

男「結婚したら一緒に住みましょう。」
女「えっ...!?」
父「良いのか...!?」
女「だって、結婚したら二人でウルグアイに転勤するって...!」
男「良いんだ...。ウルグアイとお父さん、どっちを取るかなんて分かりきってるよ。」
女「そんな...昇進のチャンスだったくせに...」
父「(男)くんんん」(号泣)
男「それに、アレ僕の勘違いで実際に転勤するのは隣の席の山田くんだったし...」
女「そうなの!?」
男「三人で温かい家庭を作っていきましょう!」

父「(男)くん...!」
女「(男)さん...!」
父「すね毛要る??」
男「要りません!」
父「じゃあヅラ...」
男「要らないって!」
女「髪の毛抜く?」
男「抜かないよ!」
父「他に何かサービス出来るかみ、かみ、かみ...」
女「離婚届も書いとく??」
男「書かないってば!」
父「じゃあこっちの結婚届は...」
男「書かな...書きます書きます!!」

ちゃんちゃん。

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