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ほうから

202210262019

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ピンポーン

「どうも〜こんにちは〜今ね、ウォーターサーバーのキャンペーンをやってるんですよ」
「要りません」
「あ、お金かかると思ってます?かかりませんよ、永年無料であったかい水と、冷たい水を、機械代だけでなく何と配送も!さ、ご了承いただけましたかね」
「要りません」
「そんな、タダなんですよ!?しかもね、ここだけの話、」
「え?」
「美味しいんですよ、うちの水」
「要りませんて」

「何でそんなに要らないんですか!水飲まないんですか?身体に悪いですよ!」
「水は飲みますよ。当然でしょう、人間七割は水なんだから飲まなきゃ死んでますって」
「あっ、水代わりにコーラ飲んでるとかではないんですね」
「違いますよ、失礼な、うちはね、置くスペースが無いんです」

「えっ……!?」

「そんな本気で驚く!?」
「隣の家なんかウォーターサーバー十五台は置けるのに……!?」
「置いたんですか!?」
「いいえ、お隣は要らないらしいです」
「一台も置いてないじゃないですか」

「とにかく、お隣と同じ間取りで一台も置けないなんてそんな訳ないですよ、見てくださいよ、こんなに小さいんですよ、ほら」
「いやカメラ越しじゃ分かりませんって」
「ええ!こんなに小さいのに分からないなんて……小さい」
「こちらの人間性を測るな」

「仕方ないですね、実際に見てもらったら分かりますよ」
「仕方ないな、そこまで言うなら見るだけですよ」

ガチャ
ドンッ ドアガードにぶつかる音
「じゃあちょっと置くスペース測らせてもらいますねー」

「いやいやいや、やめてくださいよ何入ろうとしてんですか、不法侵入ですよ人権侵害ですよ訴えますよあなた、ていうかウォーターサーバー無いじゃないですか」
「ちょっとだけで良いですから、まだ置くなんて言ってないでしょう、測るだけ、測るだけです」

「測ったって無駄ですよ、この家にはね、私が立ってるだけのスペースしか空きがないんですよ」

「構いませんよ、ちょっとこっちに出ておいてください、代わりに私が入りますから」
「何で出なきゃいけないんですか!」
「測るためですよ!」
「嫌ですよ!」
「じゃああなたの代わりにウォーターサーバーを置くのでも良いですよ」
「それならいいか……?いやいやいや待ってください、そしたら私が入れなくなるじゃないですか」
「やむを得ませんね、健康のためですから」
「結構です」

「ええ〜、もうほんとに仕方のない人だな……ん?待ってくださいよ、じゃああなたどうやってここまで出てきたんですか」
「まずベッドを下りるでしょう。下りると同時に目の前の椅子に座る、それから前にあるランドリーバッグを掴んで後ろのベッドに乗せる、バッグのあったスペースに立つ、それから、」

「何となく言いたい事は分かりましたが、ベッドから来たんですかあなた」
「そりゃーそうですよ、あなただってベッドから来たでしょう、人間みなベッドから来てるんですよ」
「いえ、私は水道局の方から」

終わり。

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