PA(音響エンジニア)についてご紹介します
●はじめに:「PA」とは?
突然ですが、皆さんは「ライブ」は好きですか?
アーティストがステージ上で輝く姿はとてもカッコいいですよね。
ボーカルの美しい歌声や艶っぽく響くギターソロ、カッコいいドラムの打音...。
しかし、客席の皆さんの耳に届いている「それらの音」というのは、実は、ステージ上で奏でられた「音」そのものではないことをご存知でしたか?
もし、楽器が出す「生音」だけでバンド演奏されたライブをあなたが見たとしたら、おそらく「聴こえないパート」が出てきたり、あるいは、「どことなく物足りない」印象を持ってしまうでしょう。
実は、「ライブにおける演奏」というのは、常に、誰かが「音のバランスを上手く調整」してあげないとあまり聴き心地の良いものにはなりません。
楽器の演奏に負けずに「ボーカルの歌詞がハッキリと聞き取れる」のも、「ギターソロで力強くギターが前に響く」のも、裏でアーティストを「音の面」から支える立役者がいるからなのです。
ライブを陰から支える存在。
それが、今回ご紹介する「PA」(ピーエー)と呼ばれる人達なのです。
●具体的な仕事の「内容」について
上記では、ざっとPAの存在について触れましたが、ここでは、より具体的な仕事内容についてご紹介したいと思います。
まず、「PA」とは、「Public Address」(公衆伝達)の略語です。
この言葉には、「音を公衆に拡声して届ける」という意味合いが含まれています。
具体的には、「マイク」で拾った音を「専用の卓(ミキサー)」で調整し、「スピーカー」を通して、お客さん(聴衆)に届ける仕事になります。
その手順について、もう少し詳しく掘り下げてみましょう。
以下では、「バンドのライブコンサート」を例に簡単にご紹介します。
①ボーカルや楽器演奏など、「客席に届けたい音」を「マイク」で拾う
客席からステージを見ると、ボーカルが「マイク」に向かって歌を歌っている光景がとても印象的ですよね。
実は、ライブ演奏において、「マイク」が必要となるのはボーカルだけではないのです。よく見ると、演奏している「メンバー全員」の楽器に音を拾うための「マイク」が立てられています。
例えば、バンド演奏の場合は、
・ボーカル
・ギター、ベース、ドラムなどの楽器類
などをメインに、音の出どころに「マイク」を立てて「必要な音」を拾います。
一般に「客席に届けたい音」には「マイク」を立てるという考え方です。
②「ミキサー」を用いて、マイクで拾った音の「調整」をする
ここでは、「卓(ミキサー)」と呼ばれる専用の音響機械を用いて、①でそれぞれ拾った音のバランスや質感を調整します。
ここで調整した音が、そのままスピーカーから客席に届けられるため、最も大事な工程になります。
主に、PAはライブ本番中も、ずっとこのミキサーの前からは動きません。
リアルタイムで常に音を聞きながら、より良いサウンドになるように絶えずミキサーを操作しています。
フェーダーがズラーっと並んだ大きな機械の前で、人が立って操作をしているのをテレビやライブなどで見たことがある人もいるかもしれません。
その、大きな機械がまさしく「ミキサー」なのです。
③「ミキサー」で調整された「音の信号」がスピーカーから「音」として出力される
②では、「ミキサー」で「音を調整する」と言いましたが、厳密には、マイクで「変換された電気信号」をミキサーを使って調整しています。
PAによって「整えられた電気信号」がスピーカーで「音」に変換されることで、お客さんのもとに届けられるのです。
「音の流れ」はざっくりと上記のようになります。
より詳しく解説すると、途中で信号が分岐したりと、システムの規模に比例して、より複雑になっていくのですが、敢えてここでは「音響システムの根幹」となる部分に絞ってご紹介しました。
上記では、主に「音楽などのライブコンサート」を例にあげてお話しましたが、「PA」という仕事の実態は、実はその限りではありません。
以下では、その種類についてお話したいと思います。
●PAの「種類」について
一口に「PA」といっても、その種類は多岐にわたります。
下記のそれぞれにて、音響機材のセッティング、撤収、音の調整などがメインの仕事になります。
・結婚式や講演会など
・コンサートホールなどでの発表会
・屋外でのイベント
・劇場での舞台・演劇
・ライブハウスなど
「ライブハウス」や「コンサートホール・劇場」など、元から音響システムが構築されている場所とは別に、飲食店などの「お店」や「屋外」など、もともと音響設備のない場所に出張してイベントをする場合においては、PAが「新たに音響システムを構築する」場合もあります。
この場合、イベントの規模によって、必要機材の搬入・搬出も大がかりになり、構築するシステムもより複雑になるので、円滑にイベントを遂行するには、高い専門知識と経験が必要となります。
●「給料」はいくら稼げるの?
ずばり、「給料形態」は人により様々であり、個々の「活動形態に依存」すると言えます。
「音響会社」に就職して、月におよそ決まった数のイベントの仕事をこなす人もいれば、完全に「フリーランス」として個人で活躍する人もいます。
会社勤めの人は会社から月々「お給料」が支給されますし、フリーであれば、個人で取った仕事の「契約料」がそのまま報酬に繋がります。
一般的に見れば、「給料」としては、普通のサラリーマンの平均に比べて「高い方ではない」というのが通例です。
PAというのは、「技術職」ですので、個人にしろ、経験を積み、高い技術を習得すれば、その分「高単価」の案件に携わることが出来るでしょう。
技術者としての名前が大きくなれば、一つの仕事をこなすだけで、「数十万~数百万円」を貰える人も中にはいます。
もちろん、そこまでいくのは簡単な道のりではありません。PAは「下積みに少なくとも3年、一人前になるのには、10年以上かかる」と言われている業界ですので、最初の数年は労力に見合った金額の報酬が貰えないことはこの世界においては常識です。
ここまで簡単に「PAの給料事情」について触れてきましたが、こと「音楽に携わるPA」となれば、実はもう少しパターンが分かれます。
筆者も、実際に「ライブハウス」でPAをしていましたので、以降の説明は、その観点を主軸としてお話させていただけたらと思います。
●「箱付きPA」と「付きオペ」について
同じく「ライブハウスでPA」をする中でも、実は大きく分けて「二つの」パターンがあります。
①箱付きPA
②付きオペ
まずは、「①」について簡単にご紹介したいと思います。
ライブハウスは、営業日には数々の「ライブ、イベント」を開催していますが、どのような催しであれ、その裏には、必ず「PAさん」が居ます。
彼らは、主に拠点となるライブハウスに身を置き、日々のイベントを「シフト制」でこなしているのです。
そして、そのように「ライブハウスに常駐しているPA」のことを業界では「箱付きPA」と言います。
業界では、「ライブハウス」などの空間のことを総称して「箱(ハコ)」と言ったりします。
つまり、「箱に付いたPA」ということです。
また、それに対し「乗り込みPA」という言葉があるのですが、これは「外注したPA」のことを総称してそう呼びます。
ライブハウスを営業する中で、「シフトに穴が開いた場合」や、「出演アーティスト側がPAを用意する場合」などはこれに当てはまります。
つまり、「(外から箱に)乗り込むPA」というわけです。
次に「②」のパターンについて説明します。
PAの中には、普段は自分の「箱」でPAをしているけれど、たまに、「特定のバンドがライブをするときは一緒についていって出張でPAをする」という働き方をする人もいます。
この場合を、業界では「付きオペ」と呼んでいます。
「付きオペ」とは、「付き添いオペレーター」のことで、つまり、「バンドの専属PA」のことです。
バンドがライブをする際は、場所にかかわらず、「付きオペ」として選ばれた人がPAとしてバンドの音を作ります。
観客から見れば、「PAの作る音がそのまま、バンドの出す音に直結する」ため、バンドと「付きオペ」の間には高い信頼関係が必要となります。
両者の関係性についてですが、「バンドやアーティスト側」がそのPAの作る音に惚れ込んで、自身の「付きオペ」としてオファーを出すこともありますし、逆に、「PA側」がバンドの音に惚れ込んで、「自分にやらせて欲しい」とお願いする場合もあります。
しかし、最も多くの場合は、もともと「知り合い」だったために、気心の知れた相手としてお願いするパターンです。
実際に、出演者としてライブ経験のある方であれば、お分かりいただけるかと思いますが、ライブパフォーマンスとPAとの相性はかなり密接に関わってきます。
その点、PAが「知り合い」であれば、変に気を遣うこともなく、音に関しての要望を伝えることが出来ますし、アーティスト側からすれば、よりライブパフォーマンスを高めることに集中できます。
また、PA側からしても、普段から知り尽くした相手のオペレートをすることで、よりアーティストに特化したセッティングをすることが出来るでしょう。
この場合、「報酬」については、アーティスト側との直接契約で、当日の「ギャラ」として支払われます。
ですので、全国をツアーで回るような人気のバンドの「付きオペ」になれば、一緒に全国を回りながら、「高い報酬」を得ることも可能です。
その過程で、新たな仕事の獲得に繋がったというケースも少なくありませんし、何より、日々環境の違う場所でオペレートをするというのは、PAマンにとってはかなり貴重な経験となります。
「付きオペ」こそPAの花形だと考えるPAマンも少なくないのです。
●将来的にはどういった道があるの?
私の経験を踏まえて、ここでは、「ライブハウスのPAとして雇われた場合」をスタートラインとして、そのモデルケースをご紹介したいと思います。
この場合、上記に挙げたとおり、大きく分けて「二つの選択肢」があります。
一つは、「箱付きPA」として、「ライブハウスのイベントのオペレートを日々こなしていく」という選択肢です。
その醍醐味としては、時間をかけて、「箱」の名を大きくしていくことにあるでしょう。
聴き手にとっては、「出ている音、聞こえている音」こそが、「箱の音」となる訳ですから、つまりは、「PAの作る音=その箱の音」となる訳です。
「こういったイメージの箱にしたい」という箱に強い愛着がある人は、自身の人生を捧げて日々技術を探求しながら、少しずつそのイメージを周囲と共有していきます。
「長い歴史のある箱」、「地元のバンドマンからも深く愛される箱」というのは、オーナーやスタッフが長い年月を懸けて築き上げてきた「結晶」そのものなのです。
二つ目は、「付きオペ」などをしながら、比較的自由に仕事をとっていくという選択肢です。
言ってしまえば、フリーランスです。
「活動範囲」「活動場所」は個人の自由です。とにかく外に向けて全国的に点々としている人もいれば、基本は地元のライブハウスに軸を据えて、たまに外から仕事をとってくるという人もいます。
どちらにせよ、大事になってくるのが、「人脈、信頼関係」です。
これは、どの業界においても言えることですが、たとえ「技術が高くとも人脈、信頼関係が無ければ、仕事を勝ち取る」ことは出来ません。
逆に、「技術はまだそこそこのものしか持っていなくても、これまで積み重ねてきた人脈・信頼関係で仕事を貰える」ことは十分にあり得ます。
実際に、著者も、コロナを経て、このことについて身をもって経験しました。
イベントの中止が相次ぎ、仕事の枠が一気に無くなった中で、生き残れた人材というのは、技術の高い人以上に、地道に「高い信頼を勝ち得た人」だったのです。
また、そうした人脈を広げていけば、さらに新たな道が開ける場合も多くあります。
中には、「ライブPA」から「レコーディングPA」へとメインの活動領域を変える人もいます。
「ライブPA」が「生のライブの音」を作るのに対して、「レコーディングPA」は、CDなど「音源」の音を作ります。
一見同じように思えますが、その「プロセスや考え方、目指す音」というのは両者の間で大きなギャップがあり、それぞれに独自の楽しさがあります。
しかし、大元となる技術や知識は共通している部分が大半なので、ライブPAをしながらレコーディングも引き受けているというPAも非常に多いのです。
●PAになるには?
巷で言われている方法として、主に以下の二つのルートが挙げられます。
・音響の専門学校を卒業する
・ライブハウスでアルバイトとして働く
PAは「専門職」であるが故に、専門の学校で学んだ深い教養のある人しかなれない職業なのではないかと一般には思われるかもしれません。
たしかに、若いPAの見習いの人を見ても、音響の専門学生であることが多いのですが、結論を言えば、「学歴・経験はほとんど関係ありません。」
実際に、著者も全くの「未経験、ド素人」の状態から、ライブハウスのPA(見習い)としてお給料を貰いながら働いていました。
実際に働いてみて思ったことは、(経験以上に)「学歴は全く関係ない」ということです。
この業界というのは、完全な「現場至上主義」であるため、いくら頭が良く、多くの知識を持っていようとも、それを臨機応変に正しく使いこなせないのであれば意味がないと判断されます。
そういう点において、音響の専門学校では、カリキュラムの一環として、実際の現場を研修として体験することが出来るので、優れているといえます。
講師陣も実際の現場で現役として活躍するPAマンなので、より活きた知識を得られるのも事実です。
しかし、PAになることを考えるのであれば、音響の専門学校をキャリアとして通過することは必須ではありません。
最も近道な方法としては、「直接ライブハウスにアルバイトとして雇ってもらう」という方法があります。
個人的にはこっちの道をオススメします。
最大の利点としては、「お金を貰いながら、現場での経験を積める」ということがあげられます。
最初はどんなにやる気があったとしても、最終的にはやはりお金が無いと生活が成り立たなくなってしまいます。
「職として生計を立てるための場」と「経験を積むための勉強の場」が同じであるのは、かけられる「時間」も「労力」もその他の選択肢の比ではないでしょう。
ですので、PAを目指す方は、こまめに求人をチェックし、募集内容が例え「音響スタッフ」でなくても、とにかく応募してみることをお勧めします。
「バーカウンター」のスタッフや「受付け」スタッフとしての採用であっても、働く中で、徐々に信頼を勝ち得れば、「音響」に関して教えてもらえることが多くあります。
もし、求人広告が見当たらなくても、実際にライブハウスに足を運び、出来ればオーナーさんに顔を覚えてもらえるくらいには仲良くなりましょう。
ライブハウスは特に為人が重要視される職場なので、よっぽどのことがない限りは働くことが出来るかと思います。
もちろん、雇ってもらえたからといって、すぐにPAとしてオペレートさせてはもらえないでしょう。
しかし、これは専門学校出身者であっても、同じことです。
現場に出れば、経験こそがすべての世界なので、専門学校の出身如何に関わらず、「見習い」であれば、全ての人が同列に扱われます。
専門学校に通ってないけれど、「将来、PAとして活躍したい」と考えている人は、なるべく直ぐにでも現場に身を置いて、より多くの経験を積むべきでしょう。
●PAに「向いている人・求められる能力」は?
現場経験のある筆者の個人的な見解として、PAとして特に求められる能力は以下の「3つ」が挙げられるかと思います。
①、トラブルに柔軟に対応できる「臨機応変さ」
②、長時間勤務に耐えられる「体力」
③、PAが「好きだ」という強い気持ち
まずは、①について、説明いたしましょう。
PAとは、「現場至上主義の世界」という言葉を使いましたが、PAをやる上で最も大事になってくる能力が「トラブルシューティングにおける臨機応変さ」だと個人的には感じています。
音響の世界では、リハーサルや本番中に思いがけないトラブルが起きることが日常茶飯事です。
「急に音が出なくなった」などの機材関係のトラブルはもちろんのこと、「演者の都合でリハーサルの時間が急に変わる」などといった人的トラブルにも多く見舞われます。
事前にどれだけ入念に準備していたとしても、現場をこなす内に、必ず何かしらのトラブルに遭遇します。その場一回きりの現場で起こったトラブルであっても、PAである以上は、何とか機転を利かしてイベントを成功させなくてはなりません。
もちろん、最初から上手くいくことはないでしょう。
地道な経験の積み重ねで、あらゆるケースにおけるトラブルの有効な対処法が身についていくものです。
しかし、前提としてはやはり、突然の予期せぬ事態にも「冷静に努め、最後まで諦めずにあらゆる可能性を探れる人」がこの職に向いているといえるでしょう。
とにかくあらゆる場面において「胆力」が必要となる世界です。
②にあげた要素として、「体力」が挙げられます。
機材の「搬入・搬出」があるため、かなりの重労働だと思われがちですが、実際のところは、そこまで気負うほどのものではありません。
もちろん、力仕事もありますが、実は、巷で言われているほど「筋力」はあまり関係ないかもしれません。
というのも、この業界では、実は、「女性」も多く活躍しています。
「音響の世界」においては、むしろ、力があるかどうかよりも、「体力」があるかどうかの方が求められます。
朝は誰よりも早く現場に入り、当日の入念なチェックを済ませ、夜はイベント後に誰よりも遅く残って現場を撤収します。
そんな一日がPAをする限りは毎日続く訳です。
代わりがなかなか立てられない仕事ですから、日々の体調管理はより一層欠かせない職業でしょう。
そして、最後に何より最も必要となるのは、③の要素としてあげた「とにかくPAが好きだという気持ち」です。
現在、PAをやっている人の中で、「お金を稼ぎたくて」PAをやっている人はおそらく一人もいないでしょう。
その理由は明白で、お金を稼ぐのが目的ならば、他の仕事をした方が圧倒的に効率よく稼げるからです。
稼働時間が多く、お金がない中で、それでも日々「PAのことばかり」考えているのは、紛れもなくそれが「好き」だからです。
「好きだ」という根幹さえあれば、どんなに忙しく大変な中であっても、自分を見失うことなく、最後には必ず気持ちを持ち直すことが出来るでしょう。
PAをやっている人は、寝ても覚めても「良い音」について思考を巡らせているような人が殆どなのです。
●まとめ
以上が「PA」というお仕事についての簡単な紹介になります。
「PA」という言葉自体これまで知らなかったという方にも、この記事がきっかけで「その存在」を少しでも知っていただけたなら嬉しく思います。
記事の中では、「PA」についての過酷な面もいくつか紹介してきましたが、その分PAをやっていなければ決して出会えないような瞬間があります。
これまでの過酷な日々を全て帳消しにしてくれる程の「最高の瞬間」に一度でも出会ってしまったら、もうこの仕事を辞めることは出来ないでしょう。
この瞬間の魔力に魅せられた人達の支えがあってこそ、私たちは「最高のライブ」を互いに共有することができるのです。
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