詩：グライダー

高度５００
　曳航機えいこうきのロープを切り離し　私は自律する

　もう慣れたもので　地上を離れてしまえば機体と身体の区別は無い
　風防ふうぼうに当たる風も頬を撫でていくようだ
　夏の終わりの日差しが作る上昇気流サーマルが
　塔のようにいくつも立ち上がって
　風を吹き上げる様を幻視する
　手近な上昇気流サーマルに滑り込むと
　くん　と私は上昇を始める
　上昇気流サーマルの輪から出ないように旋回して
　上昇する大気を翼に受け　高みを目指す

高度８５０
　上昇気流サーマルを昇り詰めたら次の上昇気流サーマルへ機体を滑らせる
　上昇気流サーマルに辿り着くと　くん　と体が持ち上がり　再び高度を稼ぐ
　昇り詰めたらまた次の上昇気流サーマルへ

　そしてまた旋回を始める
　傾いた視界に　世界が流れて行く

　この瞬間を愛している

　　空には　私独り
　　鼓動と　呼吸と　機体の振動
　　空と太陽と私
　　他には何も要らない　
　　
高度９５０
　今度は上昇気流サーマルから出て　飛行場を背に飛ぶ
　風に乗って
　風に乗って

高度６００
　飛行場が見えなくなる
　今日は何処まで渡れるのかな