地の文の書き方について

地の文が上手く書けません。
例えば貴族の豪華な部屋を書く時、「高位貴族相応の豪奢な家具が広々とした部屋に並んでいる」くらいのあやふやな感じで済ませてしまいます。
もっとこうディテールの細かい描写をできるようにするにはどうしたらいいのでしょうか。

お題箱を開設していたら、こんな質問がやってきた。
私のテキストスタイルは光景描写よりも心情描写に偏るタイプの自覚があるし、そもそも最近AA方面で活動してて地の文書いてないので、私にそれを聞いていいのだろうかとは思うのだが、聞かれたからには答えるべきではあるだろうと、自分の考える「地の文」について語ってみようと思う。
なお自論であり必ずしも実践しているものではないし、根拠がある理論であるとも保証できないので、自己責任でお願いします。

地の文に書かれるものの種類を知ろう

今回の質問でも「ディテールの細かい描写が書きたい」と言われているように、地の文といえば、真っ先にイメージされるのは光景の文字起こしになる。
けれど当然だが、地の文で書けるものはそれだけではない。
地の文で書けることはどんなものがあるかについてまず整理しよう。

客観的・確実なもの/主観的・想像したもの

「高位貴族相応の豪奢な家具が広々とした部屋に並んでいる」
最初にもらったこの例文は、典型的な「客観的・確実なもの」だけが書かれた説明文と言える(言い方悪いけど投稿者さん自身がいい例と思ってないので叩き台として遠慮なく使わせてもらおう)。
客観的なこと・確実なものだけを書くのは、客観的で確実なのだからイメージしやすいしさせやすい、描写の起点となるべきポイントなのだが、それだけに書いてて読んでて味気なくなりがちではある。

主観的・想像とは、概ね実際にあるものについて、何か追加情報を加えると言うことである。つまり書くこと=情報量が増える。
そして主観的・想像を混ぜると、当然そこには個人差が出る。作者の差であり、一人称なら視点人物のキャラクター差でもある。

ex「広々とした部屋に並んでいるのは、高位貴族相応の豪奢な家具だ。昔博物館に行った時に見た展示品を思い出す。一つ一つが私の全財産より価値があったりするのだろう。うっかり壊した時のことを考えると、近寄ることすら憚られる!」

記憶にあるものを思い出す話とか、自分の持ってる何かと比較するとか、それが自分に何をもたらすのかを思い描くとか、そういうのが主観・想像だというのをわかってもらえるだろうか。

現在・見てわかるもの/現在以外・そこ以外にあるもの

客観的・確実なものとは、ようするに「目で見てわかるもの」と言い換えてもいい。
勿論これは比喩で、実際は肌で感じる寒さだとか耳で感じる音だとかもあるわけだが、五感全部をひっくるめて端的に言い表す語彙がすぐ出てこなかったのでそう言った。
ボキャブラリーのなさを露呈したのはおいといて、目で見てわかるものとは「現在」の状況な訳である。

しかし、作者の書くことが真実となる創作世界においては「目で見たままの現在」以外も確実なこととして言及することは可能である。視点人物が知りえないことでも三人称なら書けるしね!

ex:「広々とした部屋に並んでいるのは、高位貴族相応の豪奢な家具だ。これらは部屋の主人たるウンターラ伯爵が10年前から趣味で集めているものであり、年に八百万ゴールドもの金がかけられているのだ。勿論その財源は彼の領地からの税であり、この用途に不満を持つ執事長は城下のレジスタンスと共に伯爵への叛逆を企てているのだが、本物語とは関係ない話である」

ウンターラ伯爵、年の予算、財源、執事長、レジスタンス、叛逆計画。
例で挙げたこれらは部屋の中には存在していないし見ただけではわからないことだが、どれも想像ではなく作中事実としての書かれ方をされてるのが理解できるだろうか。
ついでに執事の反応から八百万ゴールドが大金である・伯爵は民から好かれていないということも間接的にわかるので、こう言う余談を積極的にしていくと情報量や世界観に深まりが勝手に出たり。話が進まない?どうせ嵩むのは文字数だけだ問題ない。

普通・理想的なこと/特別・異常なこと

「家具が部屋に並んでいる」

叩き台として使ったサンプル文から、逆に情報量を削ってみた。
これだけでも主語と状態が記述されているので、なんらかのイメージを想起することは可能だと思うが、ここからサンプル文を書いた時にイメージしたことを読者に想起させるのは、非常に困難なのは言わずともわかるだろう。

描写を細かくしていくと言うことは、それがどれだけ特別な感じなのかを書き込んでいく、と言い換えてもいい。

高位貴族相応豪奢な家具が広々とした部屋に並んでいる」

こうやって強調してみると、
家具>豪奢な
部屋>広々とした
と、この段階で既に「どんな」ものか詳しくする修飾がされているし、
なんなら、
豪奢な>高位貴族相応の
と、修飾語が更に修飾されている訳だ。

説明する必要がある、と言うことは、それが特別であることを意味する。
そして大抵のものは、わざわざ描写する必要があるだけで特別なのだ。

「高位貴族相応の豪奢な家具が広々とした部屋に乱雑に並んでいる」
「高位貴族相応の豪奢な家具が広々とした部屋に綺麗な列をなして並んでいる」

並んでいる、とだけ言われても、どう並んでいるのかはわからない。
読んでる時の気分とかでどんな並びかをイメージしてしまう。
ここで「どんな感じで並んでいるか」を説明すると、そこのイメージをある程度共有することが可能になる。

名詞と動詞に対し、「どんな」を考えることが、修飾語を増やすポイントと言えるだろう。

また、特別な状態にある場合、それが他のものに影響を及ぼしていることもある。

「高位貴族相応の豪奢な家具が広々とした部屋に並んでいて、それを窓から差し込む夕日が照らしていた」

例えばこのように、時間が夕方で窓が西についてるなら、夕日が差し込んでそれによってそこにあるものが色付いたりする。

「高位貴族相応の豪奢な家具が広々とした部屋に並んでいて、それを見たアリスは初めて見る豪華さに目をまんまるくしていた」

こういうキャラのリアクションも、特別なものが影響を与えて発生した特別なことと言える。

設定があるものは特別なものであり、そして特別なものは特別なので周りに影響を与えて特別な書くに値することを引き起こすのだ。

ちなみに伏線の大半は「まだ読者に明かしてないけど、実はこう言う設定があるので、こう言う状況ではこう言うことが起きたりこう言うことを言ったりこう言うことをやられたりするだろう」から発生するので、設定は考えておくだけ得だからやれ。

その他

叩き台として使ったサンプル文や今まで語ってきたことは「光景」を描写する時のものだが、言うまでもなく、描写できるものは光景だけではない。

・光景/動作
・情景/心理
・描写/演出

この辺については相談の元文から外れた領域になるし自分もちょっとすぐに例が浮かばなかったので、また後日思いついた時に新しい記事で持論語りをするかもしれない。

あと一応相談に対する返答文章なので、相談者はこれを見かけたらお題箱に匿名ででいいので「読んだよ」報告をいただけると嬉しいですかしこ。

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