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早分かり「尺貫法」~小説をすらすら読むための単位の覚え方~

病床六尺、これが我世界である。しかもこの六尺の病床が余には広過ぎるのである。

-正岡子規『病床六尺』より

はじめに

 最近、昔の小説の数の単位が分からんという声が私に届きました。

 確かにその通りです。尺だの寸だのと言われても現代日本を生きる私たちにとってはサッパリ分かりません。せいぜい坪が分かる程度で、あとは本文中の右上に書いてある米印から備考欄を辿るぐらいしか私たちには手立てがありません。そして、それを二、三回も繰り返せばもう参ってしまいます。小説そのものに嫌気がさしてくるのです。

 この深刻極まりない問題に向き合うにはこれらの単位を数学的にではなく、感覚的に理解する必要があると私は考えています。例えばリットルに触れている私たちは2Lなら大体これくらい、500mlなら大体これくらいとなんとなく感覚で分かります。この感覚を私たちは学校教育だったり、家で親に料理を教えてもらったりしながらなんとなく作り上げるわけです。

 ところが尺貫法と呼ばれる旧い単位の場合、現代日本を生きる私たちは一部の例外を除き、この感覚を養う機会にめぐまれることはありません。昔を生きる文学者は単位に関する感覚を共通の認識だと思って堂々と注釈もなしに出してきますから、大変困惑します。

 そこで今回は、昔の数の単位を紹介するだけではなく、我流の感覚的な覚え方と合わせてザックリと解説します。定義に拘らず、ザックリと感覚で覚えることでより読む小説のリアリティが増します。

 なお尺貫法は定義が統一されていなかったり、時代に応じて変わっていたりしますが、この辺を真面目に考え出すとヤードポンド法が尻尾を撒いて逃げるレベルで複雑極まるので省きます。今回は全て最も一般的なものに合わせておりますのでご了承くださいませ。

【長さ編】

■一寸

・尺貫法:一尺の十分の一
・メートル法:約3cm

 約3cm。3をかければ大体メートル法にできます。落語や江戸時代の大衆文学にとにかく頻出し、日常的に後で解説する尺と同様に使用されました。五寸なら15cm、八寸なら24cm。正確には一寸は約3.0303cmなので段々とズレていくのですが、小説を読む程度の理解ならこれができれば十二分だと思います。
 一寸は身体で計ることもできます。手を握って人差し指と親指だけ出して「ちょっと」のしぐさをしてみたらそれが大体一寸。言葉もなかなか伊達にできていないものですね。

■一尺(曲尺)

・尺貫法:十寸
・メートル法:約30.3030cm

 一尺は手を広げた際、親指から人差し指の直線距離の二倍。これが大体30cmとなるので、小説を読んでいて「尺」に困ったら自分の手を広げてみましょう。現在でも建築分野ではこの単位が頻繁に使われます。
 なお一般的に使用される「尺」は大体これですが、和裁で用いられる尺は「鯨尺」と呼ばれ一尺が約37cmとなるため注意が必要です。実家にある竹尺がこっちでできている可能性もありますよ。こちらは呉服屋で普段使いされています。

■一間

・尺貫法:六尺
・メートル法:約1.8m

 畳の長辺が大体一間と覚えると、とてもイメージしやすいです。住んでいる街によっては「三間通り」や「五間通り」といった道路の名前が現存していることがあります。これは作る際に定められた道路幅に由来することが多く、車がなかった当時のことを考えるととても広いですね。
 なお、「間」は江戸と京都で微妙な長さの違いがあります。これは現在でも異なっており、畳のサイズ等に反映されています。まあ、この微妙な違いは小説を読むうえでは気にしなくてもいいかもです。

■一町

・尺貫法:六十間
・メートル法:約109m

 「丁」と書く場合もあります。町の名の通り町中での距離を表す単位として登場することが多いような気がします。例えば「寛永寺の正門から三町くらい表通りを歩いて左手に」とか、「観音堂から二町くらい南へ行ったところにある長屋」とか。
 約109mと明確に覚えるよりは約110m、あるいは100mちょっとと、どんぶり勘定に覚えるほうが簡単です。そもそも小説の登場人物が長さを正確に発言することなんてほとんどありませんから。

■一里

・尺貫法:三十六町
・メートル法:約4km
 
 昔は「歩くと30分かかる距離」とされました。4kmを半時間で踏破するには毎時8kmで歩かなければならず、人々の健脚具合が分かります。各地で微妙なズレがあるものの、まあ大体4kmとしておけば小説を読む分には相違ありません。なお中国で一里は約500mなので、日本とごっちゃにして覚えると大変なことなるから注意しましょう。

【体積編】

■一升

・尺貫法:十合
・メートル法:約1.8L

 自分は十合、若しくは一升瓶に入る酒の量と覚えています。小説では醤油や酒を一升の単位で買うことが頻発する。十合だと少し想像しにくいので、おばあちゃんの家にある一升瓶をなんとなく覚えておくのが吉。

■一斗

・尺貫法:十升
・メートル法:約18L

 一斗缶に入る灯油の量。……なにぃ?家に一斗缶がないだって?それならポリタンクに入る灯油の量も18Lである場合が多いから、手元にない場合はそれを覚えておこう。……なに、家がオール電化で床暖房ォ?ブルジョワめ、勝手にしろ。

■一俵

・尺貫法:約四斗
・メートル法:約60kg

 俵に入るお米の量。俵は時代劇や近所の民俗博物館にあるので、なんとなく感覚をつかみましょう。田舎だとお米を30kg買うことも珍しくないと思うので、田舎住まいの人はそれの2倍と考えても良いと思うよ。俵を担ぐシーンがよく小説に出てきますが、当時の農民にとって俵を担ぐのは当たり前のことだったようです。昔の人すごい。

■一石

・尺貫法:十斗
・メートル法:約150kg

 大体、一反で一年に収穫できる米の量です。加賀100万石とか、そういった時代劇に出てくる「石高」はその土地でどれだけの米がとれるのかを示すものでとても重要になります。日本では長らく年貢の量はどんぶり勘定で決められていた側面があったので、検地をやって基準を全国統一した「太閤検地」は日本史ではかなり重要なイベントですね。まあ紙に書かれた石高と実際は違ったりしたらしいんだけどね。

【面積編】

■一坪

・尺貫法:一般に、一間の正方形の面積を一坪と定義
・メートル法:約3.305㎡

 一般的に、畳二枚分の広さ。恐らく尺貫法の単位で最も日本人の馴染み深い単位で、不動産屋で平米を言われて坪で言ってくれと返すこともしばしば。後述の反、町歩と合わせて覚えれば活用の幅が広がります。

■一反

・尺貫法:300坪
・メートル法:約10a

 一反が300坪になったのは太閤検地以降である点に注意。田舎よくある、畝で区切られた長方形の田んぼ一枚が一反になります。一反あたりの農作物の収穫量のことを「反収」と呼び、現在でも一般的に農家で使用されます。
 個人的にはa,haよりも普段使いにお勧めの単位です。少し日常で使うだけでa,haよりもしっくり来るようになりますし、感覚的に解る面積が10反(1ha)くらいまでは広がります。反を普段使いしよう!

■一町歩(町)

・尺貫法:10反
・メートル法:約1ha

 一反の10倍。つまり約10aの10倍なので約1ha。農地の単位として様々な書籍で頻出するほか、昭和一桁~団塊産まれの方は町歩を普段使いしていた時代を生きているため聞いたことのある方も珍しくないと思います。自分は「町歩」で聞いたことのほうが多いですが正式には「町」のようです。
 町歩はそのままhaにすれば良いのですが、どちらかというと1haの感覚がつかみにくいのが問題。10反が約1haなので、反を感覚で覚えてその延長線上で覚えていきたいですね。


終わりに

 ……というわけで尺貫法を、感覚的理解の方法と一緒に解説しました。あくまで小説を読むためなので、どんぶり勘定でなんとな~く感覚的に覚えていくのがいいと思います。
 他にも色々ありますが、とりあえずこれくらいということで。注釈が無くても数の単位を大体読めるようになれば、かなり文学が楽になりますよ。ぜひお試しあれ!
 

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