見出し画像

四宮が太宰治を愛する理由

 四宮式は太宰治が大好きだ。

 この情報は四宮の配信を数回見たリスナーさんなら誰しもが覚えていることで、少々付き合いのあるVTuberさんでも誰しもが知っていることだ。多分それくらい、太宰治について私は配信やTwitterで話している。

 しかし、「なぜ太宰が好きなのか」ということについて私が真面目に語ったことは少ない。そこで今回は、「四宮がなぜ太宰治を愛しているのか」ということについて書いていこうと思う。

 四宮が太宰を愛する理由は、

「太宰がどうしようもないから」

 である。

 ……冗談ではない。本気である。太宰はどうしようもない。このどうしようもない主観的真実について、俺たちは向かい合わなければならない。

 太宰はどうしようもない。借金をこさえてクスリを買い、酒を飲み大暴れし、女を口説いて心中しようとする。太宰の人生を紐解くと、一通りこのような感想が思い浮かんでくる。本当にどうしようもない。ここまでどうしようもないと、本人が書く作品も多少は色あせて見えるものである。彼の代表作である「走れメロス」は道徳の教科書に載っているらしいのだが、そもそも彼の人生が道徳的ではない。

 と一通り悪口を吐いたところで(キリがないのだが)、はたと気づく。この気づきは飛躍があるかもしれないが、一定の信がある。私たちは彼のように自分たちがならないと、どう保証できるのだろう?

 確かに太宰の行動は常軌を逸したものが多い。だが、彼ほどではないにしろ、私たちもばつの悪いことを誤魔化したり、何か自分の欲求を満たすために他人に多少の無理を聞いてもらったりといった行動をしたことがないはずがない。彼はやっていることのスケールが大きいだけの話である。

私たちがもし、何かしらの原因で心が追い込まれていたり財政的な苦境に立たされていたりしたとき、彼と同じ言動を取らないと誰が胸を張って言えるだろうか?

 太宰治の人生は他人事ではない。自分も同じことをしていたかもしれない、一つのあったかもしれない自分の人生の可能性だと僕は思う。

 しかし、そう考えてみても、やはり太宰の人生はどうしようもないエピソードに満ち満ちている。このどうしようもなさたるや、地獄の閻魔様も彼の処遇に難儀しているに違いない。

 ……この前提に立ったうえで、太宰治の小説を順番に読んでいく。すると、このどうしようもなさに一定の説得力があることに気づいてしまう。

 ここではやはり彼の代表作である『人間失格』を取り上げたい。『人間失格』は自我を押し殺しながら周囲の者には表面上で取り繕う青年を主人公にした話である。「恥の多い生涯を送って来ました」というあまりにも有名な一文は、主人公が考える自身の人生をたった一言で表す、常人には真似できそうもない素晴らしいものだ。『人間失格』作中に一切の救いは登場しない。主人公は育ちの過程や人間関係の中でただただ絶望していく。その過程は美しさすら感じるほどである。

 この内容をどう解釈するべきかは人によって異なるだろう。……ただ私はこれを読んだときに太宰の作品は、明らかに人間のある側面……つまり弱さや脆さを映し出していると思った。私たちは人間の弱さや脆さを、太宰の人生と太宰の作品を通して私たちは知ることができる。

 そしてもう一つある。太宰治や作品で目撃することのできる「弱さ」、「もろさ」は本当に私たちが今、現時点において、抱えていないものだと断言できるのだろうか。彼は借金をこさえてクスリを買い、酒を飲み大暴れし、女を口説いて心中しようとする。これだけ見れば確かに常軌を逸しているような気がするが、自身が精神的に追い込まれたときにこれらをしないと誰が保証できるだろう。そしてこれを読んでいる読者も、何かの状態に置かれた際、これらをしない保証はどこにもない。

 私たちは脆く、弱い。健康なときはたまたま、心の中にある太宰治的な要素が冬眠でもしているだけで、少々何かが起これば起きだしてきて、心の中央に居座るのだ。心身ともに健康な連中はたまたま運がいいだけの話なのかもしれない。

 人間社会、特にこの極東の島々に広がるこの社会では、個人に求めるものが非常に高い。近年、個人が求められる社会的スキルや規範はますます高まっているような気がする。誰しもが「正しい」人間であろうとし、誰しもが「正しくない」と思われる行動を徹底的に避ける。

 しかし、本当に「正しい」とされているものは、世間一般の人間が耐えうるものなのだろうか。人間というものはどこかに太宰治的な弱さを持っていて、外的要因によってそれが発露してしまうことがないと言い切れるのだろうか。

 太宰はこうしたことを考えさせてくれる。これが私が太宰を愛する理由だ。人間の弱さの一側面を容赦なく目の前に叩きつけてくれる存在、それが私にとっての太宰治である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?