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好きなことに夢中になる教育

元サッカー選手・村山拓也さん

昨日、元プロサッカー選手の村山拓也さんとお茶をした。早稲田大学のア式蹴球部(サッカー部)を出たあと、約8年にわたり海外のリーグ(オーストラリアとフィンランド)でプレーされた。

これまで面識はなかったのだが、つい先日、村山さんからメッセージをいただいた。

「友人を通して中村さんのことを伺い、note等拝見させていただきました。一度お話しさせていただけませんか」

ぼくも海外でのサッカー経験についてお話を伺ってみたいという気持ちがあり、ちょうど彼が奈良から東京にいらっしゃっていたタイミングでお話することができた。

村山さんはサッカーの名門・奈良育英高校の出身。サッカー部ではキャプテンを務めていたのだが、ぼくの親友の南ちゃん(南山雄司)がまさにサッカー部の同級生だったという。ぼくが東海道五十三次を歩いて旅したときには、京都・三条大橋にゴール後、伏見区にある南ちゃんのご実家に泊まらせていただいたほど、南山家にはお世話になった。

村山さんも「ぼくも東海道を歩いて旅してみたいんです。あれはすごいチャレンジでしたね」と歩いた話をおもしろがってくれた。

高校卒業後は、早稲田大学のスポーツ科学部に進学した。2007年入学なので、ぼくと同級生だ。共通の友人も何人かいた。

卒業後はJリーグではなく、海外でサッカーを続けた。「オーストラリアは移民が集まってできた国だから、サッカーでもいろんな民族の人たちがいました」。東欧やギリシャからの移民も多く、多様な価値観にふれる時間になったという。オーストラリアといえば、小野伸二選手が2012〜2014年にウェスタン・シドニー・ワンダラーズFCでプレーしていた。その際は小野選手ともシドニーで交流を持ったそうだ。

最後の1年はフィンランドへ渡った。ヘルシンキにある知人のレストランで働かせてもらいながら、自分の足でサッカーチームを探し、テストを受けさせてもらい入団が決まった。フィンランド1部プロリーグの「HJKヘルシンキ」だ。フィンランドでは唯一UEFAチャンピオンズリーグの出場経験があるチームだというからすごい。

そして2019年に引退し、今はビジネスの世界で新しいチャレンジをしている。力を注いでいるのは、サッカーの国産スパイクのメーカーである「アドラー」のリブランディング。

「アドラーは1955年から、奈良の工場で靴作りに専念していたメーカーで、現在の職人さんは三代目。その職人さんと再度法人化して『日本一のスパイク』を目指してブランディングしていき、日本のものづくりの素晴らしさを世界へ発信していきたいんです」

目標だけ聞くと壮大だが、直接お話を聞いていると、テクノロジーやITを活用した新しい試みにワクワクするし、地に足をつけて前に進んでいる様子が伝わってきた。

村山さんはユニークな経験をたくさん持っているのに、とても謙虚で誠実な人柄で、全然ひけらかさない。そこに一番驚いた。引退後もずっとサッカーだけに関わっていく元サッカー選手も多いが、彼はスポーツの世界だけにとどまるつもりはないという。教育や健康分野にも関心が高く、興味のあることには何でもやっていくつもりでいる。

コロナ禍で引きこもりがちだったので、貴重な経験談から良い刺激を受けた。これからも活動を応援していきたい。

新渡戸文化学園の取り組み

村山さんと教育の話で盛り上がったので、別れたあと、ぼくが教育に興味を持つようになったきっかけの話の記事を送ったら、とても共感してくれた。

教育で大切なのは自発性だと思っている。ぼくはぼくで、改めて教育に関心があったことを思い出した。

すると昨夜、2017年に一緒にミャンマーを旅行した高橋先生からメッセージが届いた。

「こんばんは!明日のNHKで本校の取り組みが紹介されます。もしよかったらどうぞ」

今朝、6時10分からの30分番組で、早起きして試聴すると、高橋先生もところどころで登場した。

出会ったときは自由が丘の玉川聖学院で教員をしていたが、現在は東京・中野区の新渡戸文化学園に在籍されている。高橋先生との出会いもまた、とある飲食店で「もしかして中村さんですか?」と声をかけられて生まれた不思議な偶然からだったが、その一連の話は軽く1万字を超えそうなのでまた改めて紹介したい。

この新渡戸文化学園は、ユニークな取り組みで昨年読売新聞に取り上げられるなど、たびたび注目されている。創立は1927年で、初代校長は新渡戸稲造。

NHKの番組では、「毎週水曜日は通常授業を入れず、生徒ひとりひとりが自分の好きなことに取り組む時間にしている」という話をしていた。

まさに自発性や自律性を大切にする教育で、生徒たちは生き生きと、自分の好きなことについて話していた。好きなことに夢中になると、その周縁のことも自然と学べるという話にも納得がいった。たとえばぼくは自転車旅が好きだが、旅を続けているうちに地理や名産の勉強にもなった、という具合に。

実は高橋先生とのご縁で昨年6月、この学校のオンライン授業にゲスト参加させていただいた。コロナの影響でオンライン授業にせざるを得なくなった状況をプラスに捉え、おもしろい大人たちとの対話プログラムを授業の一環にされていたのだ。

1時間半、数名の生徒とセッションし、今関心を持って調べていることや取り組んでいることについて話を聞かせてもらった。

出てくる話がとても多様でユニークで、昆虫や爬虫類の生態、介護、アロマ、米中関係、洋菓子の歴史などなど、それぞれの生徒が自分の興味のあることについて、調べた成果を発表してくれて、ぼくは「へ〜」とか「えー!?本当に!?」とか言いながらおもしろがって聞いていただけだが、いろんな発見があった。

ぼくが中学・高校のときは、自分が好きなことを研究したりする時間はほとんどなかった。一方的に授業を聞くだけだったので、こういう授業の時間を学校側が用意してあげるのは、良い教育だな〜と感じる。

ただ、高校1年のときに総合学習で、自分の好きなことについて調べてレポートを書く課題があったのだが、そのときぼくは『フェルマーの最終定理』を読んだ感想を夢中になって書いたのを覚えている。あれはハリーポッターを除いて初めて読んだ重厚な本で、数学が好きだったぼくに母が買ってくれたのか、自分で読みたいと言って買ってもらったのかは覚えていないが、いずれにせよ今も読み継がれる名著だが当時はまだそこまで話題になっていない単行本だったその本を一生懸命読んで、ぼくなりにフェルマーの最終定理の証明への過程を数枚の論文でぶつけたのだった。それを読んだ先生は驚いていた。何と言われたか忘れたが、とにかく驚いていたことがぼくにとって嬉しいことだった。一瞬だが、「将来は数学者になりたい」と思った。ぼくが東大を目指したきっかけになったのなら、結果早稲田に入ったとはいえ、大きな意味を持つ一冊だった。

新渡戸文化学園のオンライン授業で、

「普通の授業と、こうやって自分で興味のあることについて調べるの、どっちが楽しい?」

と生徒たちに聞いたら、みんな後者の方が楽しいと。

「そうだよね〜、何かに夢中になると時間を忘れるし、疲れないもんね。ぼくも学生時代は地図帳を眺めているのが好きで、地名を覚えたり、この場所に行ってみたいな〜と想像を膨らませたりしていました。

大学生になって、地図で見た土地を自転車で旅して、その日の楽しかった出来事をブログに書いてたら、色んな人が面白いって言ってくれて、気付いたら文章を書くことが仕事になっていました。

だから、好きなことをとことん、飽きるまで調べてみてください。そこからいろんな可能性が広がっていくし、もしかしたら将来の仕事につながるかもしれないから」

という話をして終わったのだった。そんなセリフを今も覚えているかのようにここで紹介できるのも、その日のメモ書きが手元に残っているからだ。なんでも書き残しておいて損はない。

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