僕らはJOKERを容認してはならないし否定してもいけない

Twitterで話題になっていた「JOKER」を見てきました。バットマンはまったく見たことないのですが、「倫理観がぶっ壊される」「そこまで残酷な描写はないのにR15指定なんだよね」とか、ちょっと内容が気になる感じだったので見に行きましたが、まあ、これ今の日本で上映して大丈夫?って思いました。

今の日本にもアーサーはたくさんいるし、JOKERになってしまう人が出てきてもおかしくないんじゃないかっていうくらい現実味を帯びていたんですよね。

アーサーはただ自分をアーサーとして認めてもらいたかった。承認されたかった。それだけなんだよね。障害が理由で世間から奇異の目で見られ、ピエロとして働くもクソガキに看板を壊され、雇い主には心配の言葉一つかけてもらえず、一時父親かもしれないと思ったトーマスウェインには軽くあしらわれ、実は母からも見放されていた。どこかで誰かがアーサーを認めていたら、なにかが変わったかもしれない。でもたらればの話だ。アーサーが認められたのは、ウェイン社の3人の若者を射殺したあとの「上流階級に鉄槌を下したピエロ」としてのものだけだ。それも決してアーサーとしてじゃない。でも認められてしまった。だから彼はその方向に転がりだしてしまった。

マレーの番組で最初は自殺して話題を集めようとしていたのか、最初からマレーを殺害するつもりだったのか。それは分からない。だけど、マレーがJOKERを嘲り笑うために呼んだと分かったとき、アーサーは最後の何かも失ってしまったんだろうなと思った。


JOKERを生み出したのは一体誰なんだ?


世間が生み出した?アーサーの家庭環境が生み出した?ピエロの職場?母?

全員がJOKERの生みの親だろう。


個人的にはJOKERには全く共感できない。理解はできるし社会はそういうものだと思うけど、だからこそ人間はJOKERを否定し、JOKERが生まれない世界を作っていかなければならないと思いました。

「救われる準備のある人しか救うことはできない」

もういろんな作品で何万回も言われてきたことかもしれませんが、まさにこのとおりだと思います。アーサーは誰かが認めてくれれば救われたかもしれない。でも持続的に救われ続けるには、救われない期間が長すぎた。アーサーはもう、「自分を称えるのはJOKERとしての自分を見ている人だけだ」と学んでしまったから、きっと物語後の世界でもJOKERとして生き続けるでしょう。


承認というものは根が深い。

その昔、児童養護施設を見学したことを思い出しました。この場合の児童養護施設とは、虐待などで親と暮らせない子どもたちが暮らしている場所のことです。

「高校生が『寝るし!』と強がって自室に戻ったら、おやすみと返してはいけない。部屋までついていき、ベッドに入った子の手を握り話をした方がいい。高校生の彼や彼女は、小学校低学年の子どもたちが寝かしつけられるのを見て、自分への愛情が取られてしまうのではないかと不安なのだから」

大衆の考え方からしたら想像もつかないですよね。高校生にもなって、小学校低学年と同列で「承認」を得ようとするのは。

それだけ承認という物事は一度歪むと大変なことになります。

JOKERの世界では、貧困層と上流階級の分断が激しくなり、地下鉄射殺事件をきっかけに貧困層の不満が爆発して暴動になりました。でも、たとえ上流階級を皆殺しにして貧困層がゴッサムシティを勝ち取ったとしても、結局その先に未来はないんですよね。彼ら彼女らは上を自分と同列に引きずり下ろすことが自分の欲求であり、自分たちはそれで満たされると思っていますが、貧困層の人たちの今が低すぎるのであって、上流階級を引きずり下ろしたところで社会全体の幸福は間違いなく減ります。

上流階級は上流階級で、自分たちが今持っている金や権力(いわばお前たちとは違うんだという承認)を手放したくない。それが障害のあるアーサーを嘲る理由だし、マレーがJOKERを笑い者にするために呼んだ理由である。


JOKERという存在は認めてはいけない、だけどJOKER予備軍を否定してもいけない。個人が幸福になるには、やっぱり相対的な視点で他人と自分を比較して「幸福」と思えないといけない。絶対的な尺度で幸福を持てる人はそういない。社会全体が幸福になるには、人が許容できる相対的な差を維持しつつ、全体の押し上げをしないといけないと思う。


ちょっと前にTwitterで話題になった某社の執行役員の「妻がいない間の弁当話」とか、某起業家の「月収14万はお前が頑張っていないだけ」とか、ああいうものに対して、賛同する声が大きくなっちゃうと良くないと思うんだよね。彼らは彼らの価値観、倫理観の中でそれが正しいことって思って発信してるけど、誰かを否定することになる考え方が賛同の声とともに広がると、否定された側の不満は間違いなく溜まっていくんだよね。


JOKERはこれからの社会でも一定確率で必ず現れると思うよ。だからこそ、JOKERを生み出さない社会のためにどうしていきたいかってことを、もっと考えなくちゃなって思いました。

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