ツーリング日和(第2話)お二人の趣味
コトリ社長とユッキー副社長は週末になると、さっそくツーリングにお出かけ。最初はポートアイランドから神戸空港あたりから始まり、次は王子動物園、その次は須磨浦公園、
「はい、お土産」
焼き穴子と言うことは昨日は明石か。
「玉子焼き美味しかったね」
「あれはお土産に出来へんからな」
あの二人なら、いきなり長距離ツーリングをやらかすと思っていたけど大人しいな。
「そりゃそうや、慣らしは大切やし」
「ステップ・アップよ」
あのバイクの性能ならと言いたいけど、
「当たり前や安全運転がモットーや」
「飛ばすのなんて子ども走り方」
信じられないですが、徐々に足を延ばす方針なのは間違いないみたいで、
「玉椿や」
姫路まで行ったんだ。
「夜はお鍋にしてね」
鳥幸の猪肉と言うことは、
「篠山まで行ったのですか」
「新神戸トンネルで行ったで」
六甲山トンネルは回避したか。でも聞いてると、ホントにノンビリみたいで、三十分おきぐらいに休憩をしっかり取ってるようです。この辺はコトリ社長は歴女ですから、神社仏閣、名所旧跡があればローラー作戦みたいで良いかもしれません。
考えてみればコトリ社長の趣味と言えば歴史とトンデモ科学、超常現象。ユッキー副社長は・・・なにか趣味があったっけ、
「ユッキーやったら温泉や。逆鱗に触れて市長のクビが飛んだぐらいやからな」
そうだった、そうだった。温泉巡りが大好きで、地方視察に温泉宿をなんとか組み入れようとしますものね。市長のクビまで飛ばしたのは谷奥温泉の時で、あの市長可哀想に国政進出もオジャンになっています。
温泉巡りはコトリ社長もお好きで、お二人ともかなり鄙びた温泉宿がお好きです。この辺はメジャーな温泉で肩書がバレると大騒ぎになるのもあるようですが、考えたら地味な趣味です。
バイクもなんとなく、その延長線上の趣味の気がします。気ままにバイクを走らせて、鄙びた温泉宿に泊まって帰るぐらいです。まだツーリングで泊まりにしていませんが、次はそれぐらいの気がします。
あのお二人は、どこかやる事が地味なところがあります。服や宝飾品はクレイエール時代からプロも裸足で逃げ出すぐらいの目利きです。良いもの、悪いものをあれだけ見分けられますが、自分で集める趣味はありません。未だに必要な時はクレイエールからのレンタルです。
食べ物やお酒は超が付くぐらいグルメですが、不味くとも平気で食べるどころか、足らなければお代わりまでします。あえて贅沢していると言えば、三十階のキッチンが厨房並ぐらいなだけです。食べ歩きにカネを費やすはまずしません。
もっとも自分で食べ歩かなくとも、視察に出掛ければ接待で、その地域の一番店で食事になりますから、わざわざグルメ目的の食べ歩きはしないのかもしれません。
「そんなことないよ。常に新しい発見のために三宮には行くわよ」
「最近やったら、北野の串カツ屋」
まあそうなんです。お二人に取ってグルメにA級とか、B級はなくて、美味いか、不味いかだけです。コスパ重視はもちろんあって、とくに店の雰囲気への評価は無茶苦茶シビアで、そのためかお気に入りの店は十軒あるかないかです。
他には乗馬もあります。これもシノブ専務にこそテンペートを買って贈っていますが、自馬は買ってませんし、鞍とか、ヘルメットとか、ブーツさえレンタルのままです。ブーツぐらい買えば良いのにと思いましたが、北六甲乗馬クラブのみすぼらしいのを気にもせずに履いておられます。
「ミサキちゃん、それ失礼やで」
「そうよそうよ、今のは新調されて良くなってるのだから」
だ か ら、それぐらい買えって言ってるのです。
「じゃあ経費で落ちる」
「落ちるわけないじゃありませんか」
それを考えるとバイクでツーリングの規模もどこか抑えています。
「あれは?」
「キャンプの準備や」
へぇ、そっちも考えてるのか。バイクでキャンプも結構な人気です。色んなグッズも出ていますが、バイクでキャンプとなると荷物が問題になります。薪や炭はキャンプ場で調達できますが、テントだけでもかさばります。
「そやねんけど、これ見てくれる」
えっ、これがテント。コトリ社長が操作すると見る見るテントになります。へぇ、こんな製品が出てたんだ。まるで魔法みたいだけど、
「どこで買ったのですが」
「科技研のキャンプ・クラブが作った」
他も信じられないぐらいコンパクトになるキャンプ・グッズがゾロゾロと。ここも説明が必要ですが、科技研にも様々なサークル活動があります。ただ集まってやっているのが世界最高峰の科学者です。
本業とは別の趣味とは言え、やりだすとトンデモナイことをやらかします。ラジコン研究会は原寸大の二式大艇を作り、飛ばそうとして大阪湾の藻屑にしたり、ミリタリー・クラブはこれまた原寸大のティーゲル戦車を作ったり、
「あんなん可愛いで。マウスも作ってもたやないか」
マウスは第二次大戦中にドイツが作った化物戦車で、実物は一八〇トンになります。ミリタリー・クラブが作ったのは百トンぐらいですが、道路にめりこんで動かなくなり大騒ぎになっています。
科学者たちが息抜きに楽しんでいるだけですが、そういうサークル活動費にもかなりの予算を注いでいます。これも目的はあって、飛行艇や戦車は無用の長物ですが、斬新な視線でニッチな実用品を作ることもあるのです。
「主目的は、科学者のあくまでもリフレッシュのためや」
そう言いながら商品化した物も多数あります。このキャンプ・グッズも、
「アコンカグア社に売らせる予定」
「ユッキーとやるのはモニター調査や」
なるほどね。転んでもタダでは起きないってことか。さっそくデイ・キャンプに出かけて行きましたが、
「おもろかったな」
「でも、収納の時に・・・」
あちゃ、仕事モードだ。実はミサキもキャンプをします。というかディスカルに引っ張り込まれたようなものです。ディスカルはエランのエリート軍人ですから、キャンプ術と言うより、サイバイバル術を身に着けています。エランほどの先進文明で必要かと思ったのですが、
「そういう時代もあったそうだが・・・」
そうだった。エランの軍事技術は地球と似たような発展をし、電子制御の極致まで達すると同時に、電子制御を逆誘導する技術がこれまた極度に発達し、そのために電子制御を用いない兵器体系に逆戻りしています。ジェット戦闘機だってすべて機械仕掛けの人の手による操作になったぐらいです。
「あの技術があったから、ジュシュル総統とあそこまで戦えた」
ザムグ軍に追撃されながらの苦しいゲリラ戦です。もちろん、今はそれを復習するためにやってるのではなく、純粋に趣味のためです。
「社長が持っていたキャンプ用品も、もしかしたら」
「そうだ。地球の技術での再現は無理だったが」
聞くと、もっともっとコンパクトだったそうで、あれでもエラン兵士が持っていたテントの五倍以上はラクにあるそうです。そんなところまでエランの技術は徹底していたかと思うと怖いほどです。
「あれは軍事用だったからな。普段楽しむのなら今ので十分だ」
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