やまなし-宮沢賢治

昔、教科書で読んだ記憶のある人も多いと思う。

クラムボンとかぷくぷくとか、不思議な表現が印象に残っていた。その世界は 小さな蟹の兄弟を中心に、5月と12月の、二つの季節を通し描かれている。宮沢賢治の描く、水中からの光の描写が鮮烈で、字を追っているうちに、僕は水の中で、周りが光ったり揺らめいたりするようだった。


5月

”にわかにパッと明るくなり、日光の黄金は夢のように水の中に降って来ました。
 波から来る光の網が、底の白い磐の上で美しくゆらゆらのびたりちぢんだりしました。泡や小さなごみからはまっすぐな影の棒が、斜めに水の中に並んで立ちました。”

吉本隆明さんは初期ノートの中で、賢治さんの童話を観照するには、嗅覚 聴覚 視覚の三点より留意するべきであると言っている。


12月

”白い柔やわらかな円石もころがって来、小さな錐の形の水晶の粒や、金雲母のかけらもながれて来てとまりました。
 そのつめたい水の底まで、ラムネの瓶の月光がいっぱいに透すきとおり天井では波が青じろい火を、燃したり消したりしているよう、あたりはしんとして、ただいかにも遠くからというように、その波の音がひびいて来るだけです。
 蟹の子供らは、あんまり月が明るく水がきれいなので睡らないで外に出て、しばらくだまって泡をはいて天上の方を見ていました。 ”
”その横あるきと、底の黒い三つの影法師が、合せて六つ踊るようにして、やまなしの円い影を追いました。
 間もなく水はサラサラ鳴り、天井の波はいよいよ青い焔をあげ、やまなしは横になって木の枝にひっかかってとまり、その上には月光の虹がもかもか集まりました。 ”
”波はいよいよ青じろい焔をゆらゆらとあげました、それは又金剛石の粉をはいているようでした。 ”

賢治さんの作品は好きな人が多く、その背景や意味など研究されているけれど、僕は何より彼の描く世界の描写にクラクラしてしまう。

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