雨宮 蛍寿:第四話「こっくりさん」

「すんません、四話目は俺に話させてもろてもいいですか」

控えめな挙手のわりに、何故か意志の強そうな目で辺りを見回した彼は、上履きの色を見る限りは私と同学年みたい…?

「ありがとうございます。俺は1年E組の雨宮蛍寿いいます。ツレがこの集まり忘れてすっぽかしたんで代わりに参加させてもろてます。

この話だけは、いや…この手番だけは、すんません、俺に話させてください。

先輩方は知ってはるかもしらんけど、キミは俺と同学年やから、忠告も兼ねてこの話させてもらうわ。

墨舟…さん、はコックリさんとか聞いた事あるか?…ま、そらあるやろな、有名やから。
ほんなら尚のこと、こないな会集まるくらいやし言うておかないかんのやけど、この学校な、校則でコックリさん禁止されとるんよ。
なんでやと思う?危ないから?……あぁ、そうやね、危ないわ確かにな。
危ないのはな、この学校でやるとホンマに来てまうからなんよ。

そないな顔せんでくれますか、俺かて言うてて恥ずかしいとは思うてるんですよ。

この学校にはな、ホンマにお狐様がおる。
せやから、アカンのよ。降霊術なんかで呼んだらアカン。
何も差し出さんと興味本位で呼び出して、ただで帰ってくださると思うか?
そら甘いて…。
そこらの霊とは訳が違う。
胡散臭いか?俺が話してること、そう思ってはるんやったら別にえぇわ…。

………いや、えぇよ、嫌な言い方してしもてすんません。

………昔、この学校でコックリさんをやった生徒がおりました。
半ば巻き込まれて仕方なくやらないかんかったらしいが、言うてもその時はまだ校則でも禁止されとらんかったからな…
先生に見つかったら面倒そうやな、位に考えとったらしいです。

誰の話やて?…まぁ、今はええやろそれ…。

今で言う旧校舎の方や。
陽が落ちてきた中、女生徒四人で机を囲んで…コックリさんを呼び出そうとした。…それよりまぁ、えらいもん呼んだわけやが。

…コックリさんて、色々質問に答えてくれはるんよ。

明日、雨は降りますか?

抜き打ちテストは何日後ですか?

誰それの好きな人は?

そんな取り留めのない質問を投げかけると、10円玉が文字の上を滑るんやて。

その時もそうやった。

鳥居をお通りになって、ゆっくり動き出す。
女生徒3人は顔見合わして来た来た、なんて笑いよったが、一人だけ十円玉をずっと見とったそうや。
下らん質問にソレは答えてくれた

ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ

ほんでも、五つ目の質問には答えてくれへんのやと。
何を質問しても『いいえ』や、こらおかしいぞ、今まではこないなことなかった、と口々に女生徒は言うそうや。

ほんで一人がな、聞きはったんよ

『なんで答えてくれへんのですか?』

そしたらソレは言うわけや

『た り な い』

それきりまた動かん。
何やつまらんわ、とお開きにしようとしたんやな。
どうぞ、お帰りください、お帰りください。
…………うんともすんとも言わんのやと。

あぁ、本格的に日が落ちてきた。
暗くなる、教室も、夕陽の赤から夜の黒に変わってく。
いやに暗い、足元もこない暗かったかな。
それに、静かや、自分らの息遣いが耳につく。

何分経ったか知らん、紙の擦れる音がする。
十円玉が動く。

『いつつ こたえた ひとり たりない』

五つ答えた、一人足りない?どういうことや、と…
四人ともキョトンとしよるわけや。
そしてまた沈黙。

ほんで一人が呟いた

『このままやと帰れへんの…?』

それを皮切りに全員焦り始めた
冗談やない、そう思うたんやろな。
最初にコックリさんに誘ってきた3人が怖気付いて指離して教室から出てったんやと。
あーあ、と思うたそうや。
偉いことをしたな、と。
ぼんやり手元の十円玉を一人眺めとったら、また同じように動くねんて。

『いつつ こたえた ひとり たりない』

そん時もう何もかもがアホらしなったそうや。

『ほな将来産まれる子供も数に入れてや』

『ツケにして』

驚くやろ。
そんなんまかり通るわけないやん。
そんでもな、十円玉は少しの間くるくる円を描いたあと、鳥居に戻ったそうや。

校内放送が鳴った。
さっきまではえらく静かやったはずなのに遠くで誰かの話す声、学校沿いの道路を車が走る音、そんなのが聞こえてきたから『帰ってもえぇんや』と後始末済ませて帰りはったんやと。

そこからはよくある話やが、数年おきの同じ日に、当時コックリさんをやった女生徒が不審死を遂げていったらしい。

3人目が亡くなった時、腹に子供もおったそうや。

最後の4人目はまだ生きとる。

その人曰く『アンタか私、五人目どっちにするか考えあぐねてはるんやろ』だそうや。

因みに俺のお袋は元々タレ目やったそうやが、今はキツネのようにきっついツリ目になっとる。

…………俺の話はこれでしまいや」

ひどく疲れたように息を吐き出して、雨宮くんは下を向いてしまった。
一つだけ、気になることがあって、私は彼に問いかける。

「あの、どうして四番目が良かったんですか…?」

彼の切れ長の目がゆっくり私に向けられる。変なことを…聞いちゃったかな…。

「四番目は、危ないからや」

ボソリとそれだけ言うと彼はまた俯いてしまった。

「えぇと……それじゃあ次の人に…」

どこかで聞いたようなこわいはなし、都市伝説を創作キャラに語らせるだけのノートです。自己満。