鵤 紀久:第一話「スクエア」

「一番目は俺だね。自己紹介からした方がいいかな。三年F組の鵤 紀久(いかる のりひさ)っていうんだけど…まぁ、よろしく。

そうだなぁ…墨舟さんって言ったね、君は降霊術って知ってるか?女子生徒の間だとこっくりさんとかキューピッドさんとか、流行ってた時期もあったかもしれないんだけど。
俺が話すのは“スクエア”っていう降霊術に関することなんだけど、聞いたことは…はは、ないよな、うん。それじゃあ話そうか。

これは、ある雪山での遭難事件の話なんだ。もしかすると聞いたことがある奴もいるかもしれないけど、初めて聞いたって顔してくれると有難いかな。
…とある大学の、山岳部のメンバー四人が雪山で遭難をしてしまってね、日も暮れ始め吹雪も強まり、四人は死を覚悟した。その時、幸運なことに古そうな山小屋を見つけるんだ。

人に手入れされている様子もなく、暖を取れるようなものもなかったが、吹雪さえ凌げればという気持ちだったんだろうね、四人はその山小屋で夜を明かすことにした。
けどね、防寒具をつけているとはいえ雪山の夜はそれこそ凍てつくような寒さなんだ、今まで吹雪に晒されていたメンバーの中には夜になるにつれ更に下がっていく気温に震えが止まらなくなるやつもいた。当然だよな。

『このまま、眠ってしまったらきっと死んでしまう』

これは、彼等にとって差し迫った恐怖があったと思うよ。何せ疲れた身体に震える程の寒さ、でも眠ってはいけない、なんて…ちょっとした拷問だ。
そんな中メンバーの一人があるアイデアを思いついた。

あはは、熱心に聞いてくれてありがとう、どんな?って顔だね。うん、それはね、小屋の中の角にそれぞれ一人が立つんだ。そして、壁に沿って歩き、角にいる人間にタッチする。タッチされた奴は自分も同じように壁伝いに歩いて次の角の人間にタッチする。な?単純だろう。部屋の中央にランタンを置いて、これを実行したんだ。薄暗がりの中お互いの顔もよく認識できないまま、四人はこの『終わらないリレー』を続けたんだよ。

………………気づいたかな。
そう、これはおかしなことなんだ。
図に描くのが一番わかりやすいんだけど俺の手元にはメモがないから、墨舟さん、その手元のメモ帳に書いてみるといいよ。
真四角の角にA.B.C.D…AはBにタッチ、BはCへ、CはDへ…そうしてDは………

誰にもタッチ出来ないはずなんだ。本来は、ね。

そうだろう?Aが居た場所は空いているから、リレーはそこで止まるはずなんだ。なのに彼らは朝までそれを繰り返し、山小屋に訪れた救助隊によって無事に救出されている。

最初に話した降霊術っていうのが要はこのことなんだ。薄暗がりの四角い部屋で四隅に向かって歩き続ける。大抵失敗するんだけどさ。

うん?あぁ、ごめんよ。学校の七不思議なのに…って?大丈夫だよ、前置きが長くなって悪いね。

この“スクエア”をさ、この学校で実行しちまった奴らが居たんだよ。やめておけばいいのに、馬鹿だよなぁ…なんでそんなことしたのか…。

なぁ、君はまだ一年だから知らないかもしれないが、この学校には開かずの間っていうのがあるんだ。実際はただの倉庫なんだけどね。昔は補習室だったとか聞くなぁ…いや俺も先輩伝いに聞いただけでとんと、ね、確かな情報じゃなくて悪いんだけどさ。
仲の良い四人グループが、面白半分にこれを試したのがその開かずの間って訳だ。ま、その時はまだ開かずの間じゃあなかったんだけど…。自分たちの教室でやったんじゃ何かあった時に怖いもんな。それで普段あまり使われてないこの部屋に放課後四人で集まった。日が暮れるまで待って、わざわざ用意した黒いゴミ袋で窓を覆ってな、部屋の中央には蝋燭を立てた。そしてそれぞれ部屋の角に立ったんだ。

どんな気持ちだったろうな。
ワクワクしてたのか、それとも実は怖かったのか…。少なくとも俺はそういうの怖いと思うしやりたくはないな。面白半分っていうのも、いい気持ちしないし。だから墨舟さん、俺たちから怖い話を聞くのはいいけど、なんだろうな…ちゃんと、真面目に聞いた方がいいよ。まぁ、君はあんまり心配なさそうかな。

そう、そしてスクエアは始まった。何年も前、この学校で実際に。時間も…そうだな、きっと今くらいだったのかもな、ほら日が沈んできてる。


勿論そんな実行してすぐ何か起きる訳ない、当然不発に終わる。でもな、こうなったら意地さ、やめときゃいいのに、こいつらは何周も繰り返した。本当に、何度も言うけど馬鹿だよ。ちょっとな、同情の余地がないと思うんだ。
ん?成功したのかって?あぁ、“スクエア”?
そうだなぁ………………わかんないんだよな。
はは、そんな顔しないで、まだ続きがあるんだ。そのスクエアが成功したかはともかく、事件は起きた。

夜になっても帰ってこない子供たちを心配して親が友人や学校へ連絡をしたんだよ。
ほらこの学校、警備員じゃなくて宿直がまだあるだろ?その時もな、宿直の先生が校内の見廻りがてらそいつらを探したんだよ。
そうしたら、真っ暗な校舎の中、一つの部屋からぼんやりと明かりが漏れていた。ゆらゆらと揺らぐ灯り、そう、蝋燭さ。
宿直の先生は持っていた鍵束でその部屋の鍵を開けて中に踏み込んだ。
最初は、何が起こってるのかわからなかったろうな。四人はそれぞれ部屋の角で倒れていたんだ。先生は驚いて近くで倒れてる生徒に駆け寄ったよ。

……死んでいた。顔は恐怖で引き攣って、カッと目を見開いてね、首には手の跡がくっきりとついていたそうだよ。絞殺だ。先生はその部屋にいた生徒を全員確認した。

全員死んでたんだ。皆、首に手の跡がついていた。
警察がきたりなんだり、大変だったろうな。俺はこの先生が可哀想でならないよ。そうだろ?生徒の恐ろしい死に顔を、四人分も見なきゃならなかったんだから、それも一人で、怖かったろうなぁ…。
それで、ここからがまた変な話なんだけど。
首を締められた跡がついてたって言ったよな。これ、誰がやったと思う?え?幽霊?あはは、まぁ怖い話だもんな、これ。
うん、そうと言えばそうなのかもしれない。
ええとね、手袋もつけずに思いきり首を絞めた場合首には指紋掌紋汗や皮脂なんかがつくから誰か割り出すことが出来るそうなんだけど…四人の首にもこの痕跡がしっかりと残っていたんだ。結論から言うとね、Dの首を絞めたのはC、Cの首を絞めたのはB、そして、Bの首を絞めたのはA。

……Aの首はDが絞めた跡があった。

でも、おかしいよな?
先生が部屋に入った時、それぞれ部屋の隅に倒れてたんだ。どうやって、四人がそれぞれの首を絞められる?

でも四人以外の痕跡が部屋から見つかることは無かった。

部屋は生徒が入れないように倉庫となり、鍵は厳重に管理されてるんだと、それでもね、たまにその部屋からは足音が聞こえるそうだ。ぺたぺたと、部屋の中を歩き回る足音が、延々と部屋の中を歩き回っているような音が、聞こえるんだってさ。

さぁ、俺の話はこれで終わりだよ。
…怖かったかな?ごめんよ、大丈夫大丈夫、これも人から人へ伝わってきた話だ、信憑性はないよ。
でも、さっきも言ったように決して面白半分でこういうことに首を突っ込んじゃいけないよ、それだけは約束してね。先輩との約束だ。はは、なんてね。

それじゃ、次の人の話を聞こうか…」

どこかで聞いたようなこわいはなし、都市伝説を創作キャラに語らせるだけのノートです。自己満。