ミズキもロボ太も常連の漫画家さんもそこに居た(舞台「リコリス・リコイル」の感想)
銀河劇場の「見切れ席」
舞台リコリコ、チケットを予約しようと思っているうちに全席完売の報を受け、やってしまったと悔いていたのですが、そこに「注釈付き座席」の追加販売なる続報が飛び込んできました。
最初はガイドコメンタリーでも付くのかと勘違いしたのですが、座席に注釈が付くという意味だったんですね。「訳あり」の言い換え。
今回の注釈は「一部、出演者や演出が見えづらい可能性がある」ということでした。「見切れ席」の婉曲表現。
そうは言っても、やっぱり舞台は生で見るのと映像越しに見るのとではまるで違うので行くべきだよなあ、と悩んでいたのですが、その背中を後押ししたのが銀河劇場の見切れ席に関する情報でした。
曰く、見切れ席ということで行ってみたらボックス席だったと。
ボックス席からお芝居を見る機会なんてそうそうないし、それだけで面白い機会なのでは、と思ったらもうローチケにアクセスする手が動いていました。
そして入手したチケットを見たところ、本当にボックス席でした。
私がいたのは2階にある舞台から2つ目のボックスで、確かに転落防止のバーがあったり角度が付いていたりで見づらい部分はあったものの、滑り込みで入れた身からすれば申し分のない景色でした。
むしろ俯瞰で見られる分、演出を落ち着いて見ることができたので、より堪能できた分もある気がします。
感想①(エピソードの再構成)
そういう前提で見てきた感想の記事になりますが、本当に面白かったです。
2時間半の尺が短いと惜しくなるくらい。
アニメで描かれたリコリス・リコイルの空気感をそのまま舞台の上に立ち上げていました。ボックス席につられて良かった。
まずストーリーの再構成が自然で、その上再構成のための繋ぎや余白を補完するオリジナルエピソードが面白く、なるほどこういうルートもあったのかと思わされました。個人的に好きだったのは特に以下の箇所です。
エリカがDA本部に直談判にやってきたたきなと会話している……!
エリカが楠木司令から「リコリコに行くか?」と言われるシーン。本当に行って、エリカ→たきな→千束の感情の玉突き事故が巻き起こるのまで見えている。
人工心臓が発覚する流れが、サイレントジンの回を丸ごと落とすためやむなく用意したとは思えない綺麗なつながりでした。すぐに抱き着く千束の癖が結果的に千束の秘密を明らかにする流れはあまりに千束らしい。
トランクス発覚の件。スローモーションの声を再現した部分もさることながら、吉松さんが「8月2日はパンツの日、大事な人にパンツを贈る日だよ。千束ちゃんは誰にパンツを渡すのかな」(大意)と言い放つあたりでもうダメでした。吉松のスマートさをもってしてもセクハラの誹りを免れない恐ろしいくだりなのに、更にそこから「すっかりレディーだな」に繋げる剛腕ぶり。脚本もそれをやり切る吉松役の小野健斗さんも凄い。
真島の千束襲撃のシーンで、フキとサクラが加勢に来るとは。フキの(なんだかんだで)千束を思う気持ちが見えるのも、千束の悪い癖がフキを経由して着実にDAに広がっているのも見えて嬉しい。
千束襲撃時の真島のラスト、ここにウォールナットの意趣返しを盛り込んできたのはもう膝を叩くしかなかった。自分がされたこと(自動車のハッキング)をし返すの、そらクルミは好きじゃん。
感想②(シーンごとに気づいたところ)
そのほか、気になったところを、ざっくり時系列順に書き連ねていきます。
たきなが機関銃を持ってくるまでの流れがより丁寧に。
しかも機銃掃射をするときにまるで芯のぶれない井ノ上たきな。機関銃の重みと発砲の勢いが感じられない(感じさせない)ところに本西彩希帆さんの「何か?」といった演技が乗ることでたきなの「ヤバい奴」感が存分に発揮される。
ミズキのコントラストとアクの強さ。アニメより500%くらい増している。
喫茶リコリコのパートの柱となるのがミカとミズキだと考えたとき、「静」な柱がミカだとすると「動」がミズキだと思いますが、2時間半の舞台の空気を支えて話を回していくには、むしろこのくらい思い切りがあるほうがしっくり来た気がする。ある意味見たかったミズキではある。
願わくは、来る(だろう)第2弾でミズキにフィーチャーして、いわば舞台回しだった今回から打って変わって深掘りがされているとかなり嬉しい。
プロジェクションマッピングでの演出が全体的に活きていて面白かった。
一番驚いたのが、千束の縄を射出して相手を拘束する銃(ボーラ銃? 呼び方がわからない。)の部分でした。アニメ第1話で銃取引の一味が拘束されるシーンをどう表現するのかと思ったら、役者さんが壁に張り付いてそこに縄を模した映像をマッピングするんですね。アイデア次第でなんでもできるな……
アニメの舞台化なので、普通の舞台であれば想像力で補っても良いだろう部分をしっかり目に見える形にすることで、アニメを見た時の面白さを直に喚起させるのは大事なことなんだろうと思いながら見ていました。
自動車がまさかの黒子による人力。ここまでしっかり黒子が出てくるお芝居、久々に見たかもしれない。
千束がスーパーカーに乗れなかった悔しさの勢いで「扉もない、屋根もない、こんな車に乗るのはいやだー!」(大意)と言うシーン、普通に笑ってしまった後に、この舞台の嘘をあえて破るセリフは、ルールに縛られず、思うがままにあろうとする錦木千束しか言えないんだなと妙に腑に落ちました。
その後にたきなの言う「想像力!」、これであの車はもう誰の目にも車になってしまった。舞台の嘘を強化させる魔法の言葉。ちなみに人力自動車の黒子、真島の時は衝突時に吹っ飛んでいて衝突の勢いを表す演出にも加勢していたのも良かったですね。
(人力自動車に一人で乗る真島、デパートの屋上のパンダの乗り物をノリノリで乗り回す真島さんにしか見えなかった。見たい。)
クルミはどうやって登場するのかと思ったら普通にトランクから出てきた。本当に3次元?
しかもクルミの声、一瞬アテレコしているかと思うくらい違和感がない。本当に3次元?
キャラクターの再現度でいうと、ロボ太が殿堂入りなのは良いとして、個人的にはリコリコ常連の漫画家さんに一番驚かされた。あの人は本当に「いた」。
ロボ太が殿堂入りなのは、見た目で有利というのはある一方で、顔で表現できない分まで幼稚さと軽薄さの混じり合った「ロボ太」らしさが全身から滲み出ていたのもあってのことです。あのロボ太はもっと痛い目見たほうが良い。
千束の抗議の手振りが楠木司令への肩たたきへ変化するシーン。千束がまだDAにいた頃に楠木司令(まだ司令じゃないけど)の肩たたきをしてあげたこともあったんだろうと切なくなる。
絶妙な間合いで真面目な話に戻していくのもさすがの楠木司令。
楠木司令、リコリスのことを思う気持ちと、司令としての立場の間での揺れ動きみたいなものが見えやすかった気がする(たきなをリコリコ送りにした時の上層部への仄かな反発ぶりなど)。千束はもっと司令の肩をたたいて労ってあげてあげてほしい。
姫蒲さん、「がんばれー」で株が上がる。
今になって気づいたけど、ミズキめちゃくちゃナチュラルに飲酒運転してる。
河内美里さんの身体能力がすごい。
河内さんの周りだけ重力が月。
「チンアナゴー!」があまりにしなやかで、作画(動画?)が良すぎる。
この間、映画の応援上映に行ったおかげで「さかなー!」、「チンアナゴー!」、「ヒトデー!」が出るたびに拍手しそうになった。しても良かったかもしれない。
真島さん、アニメに比べて狂気が強く見えた気がする。「ジョーカー」っぽさがより強く出ていた気さえする。
休憩明けの千束の前説、客席を喫茶リコリコのお客さんをしてしまう。
クルミがDAハッキングを自白する禊のシーン。椅子の上にちょこんと正座するクルミが渋谷のハチ公にしか見えなかった。やっぱり犬じゃん。
さくさく進むので最終話まで持ち込むのかと思ったのですが、さすがにキリ良く第7話までで幕引きでした。千束とたきなの関係性が一つの完成形を見たところまで。
ラストに第12話〜第13話のカバンのシーンを放り込んでくるのを見ると、もうこれは第2弾もやってくれるんだなという期待しかない。
冒頭に書いたようにアニメの余白を補完するオリジナルエピソードがかなり楽しかったので、ぜひ第2弾ではもっと盛り込んでほしい。
カーテンコールでヒバナがほかのリコリスと別枠なの、まあわかるものの、せっかくなら一緒にいてほしい……!
クルミがミカと連続で出てくるものだから小ささが際立つ。本当に3次元?
真島さん役の仲田博喜さんがずっとカーテンコールでキャラから素に戻るタイミングを逃し続けて喋れずにいたらしく、私が見に行った15日マチネでようやく解禁。もうあと大楽しかないのに、そこで言っていた一言が「電車は壊すな!」でした。塔も壊しちゃいけない。
スタァライトの沼に落ちて久しいのですが、仲田さんのその一言を聞いて、電車を壊して塔も壊しているスタァライトのことが浮かんでしまったので本当にもうだめです。
最後まで読んでもらったのにすみません。ありがとうございました。
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