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思い出補正は手放すものではない(テレビゲーム編)

中年世代を批判する、「思い出補正」という言葉をご存知でしょうか?

思い出補正・・・思春期の頃触れていた作品に、偏った評価をする心理効果。過去を良かったとする反面、今現在の作品には偏った批判を浴びせてしまうケースがある。作品の質や、量、技術といった点を、一歩引いて見極めることが難しい。

本人はそんな心の動きに気づかず、「昔はよかった、今どきの作品は駄目だ」と周りに悪意を振りまいてしまいがち。

若い世代の人から「思い出補正がかかっている」とネット上で炎上することもしばしばです。

私の思い出補正が入るジャンルは、マンガ作品や、ゲームです。青春時代は1990年代でした。ジャンプ黄金時代、ゲーム機種で言えば、スーパーファミコンやセガサターン(知ってますか?)。今もそのタイトルが残る名作が数多く輩出された期間にあたります。

※こんな表現を使っている時点で思い出補正がかかっているかもしれません。

とはいえ、ドラゴンボールやスラムダンク、ファイナルファンタジー、ドラゴンクエストという名前だけは聞いたことがあるのではないでしょうか。メディアを超えて知られている作品が世に出回った時代でした。

そんな記憶を持つ世代が、2000年代に入り、新しい技術、新しい作品にふれるとどうなるか。

90年代の思い出が残っている。しかもその記憶を掘り返し掘り返し、その都度美化しているので、印象が強くなっています。

そのため、たった今出てきている作品を1から客観的に触れることが難しくなります。せっかくの最新作を昔の思い出が邪魔をして楽しめません。記憶のフィルターを通してでしか、新しいものを受け入れられないのです。度が過ぎると、厨二病ならぬ、中年病と呼べるかもしれません。

こんな病気はやはり直すべき、手放すべきなのでしょうか?


そんな疑問に答えてくれる作品がありました。教わったのはこちらのYou Tube動画です。

テレビゲームで遊ぶ時間が減ったので、個々数年来出ているタイトルを知りませんでした。これも数年前に発売されたロールプレイングゲームです。そして、この作品で評価されている点が目からウロコなのです。

新しい技術である3D表現を使いながら、思い出補正がある中年世代も楽しめるように、2D(昔のゲームで使われていたドット絵)表現を採用している。

昔ながらの2Dだけでゲームを作っても、過去の作品を超えるのは難しい。また、若い世代からすると古くさく見えてしまう可能性が高い。

とはいえ、3D表現という新しい技術だけでは、昔の記憶がある中年世代の美化された過去を超えられない。もしくは受け入れられない。

そこで、このゲームの開発チームが考えたことは、次のようなコンセプトでした。

昔の記憶(思い出)と同化する、新しい表現を見せればいいのではないか?

中年世代が見慣れた2D(ドット絵)をキャラクター表現に使いつつ、世界そのものは3Dで表現する。受け手の補正を踏まえたデザインが生まれた瞬間です。


この発想を上の動画解説で聞いた時、ゲームに限らず、多くのジャンルにあてはまりそうだと、私の中で想像が膨らみました。

身の回りに、「思い出補正」とうまく付き合っている作品が多いことに気づいたのです。

・マンガ・・・過去完結している作品の、続きやサイドストーリーを発表する

・音楽・・・・数十年前の曲を現代のアーティストが歌い直す(カバーリング)

そしてさらに発展させると、娯楽作品以外でも過去の記憶とうまく付き合うためのデザインが、社会には数多くあることに気づかされます。

・タブレット・・・本当は指で扱えるが、鉛筆慣れしている方のために、ペンタブでしか入力できないモードに変更可能。

・お客様窓口・・・メール・AIチャットを完備しているけれど、問い合わせは対話するもの、という方向けに、電話窓口も引き続き併設。

・スマートフォン・・・ガラケー慣れしている中高年向けに、ガラケーと同じデザインのスマートフォンを販売。

温故知新(古きを思い出し、新しきを知る)を実践することで、ただ新しいものを作るだけではなく、その受け手が持つ美意識や価値観を捨てるのではなく活かすことができます。相手ありきで作られる作品やデザインに、愛を感じずにはいられません。


思い出補正は、終始嫌われる悪者ではありません。

付き合い方によっては、受け手に配慮した発想、より相手に刺さるデザインのきっかけになる宝物になりえます。

結論、中年世代が昔の思い出話を始めても、許してください。もとい、私たちの美意識を上手く活用してください。世代間を価値観の差を埋めるきっかけになるはずです。



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