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映画「オッペンハイマー」が日本人必見作である理由

何なんだこの情報量の多さは

今年のアカデミー賞を総舐め状態となった「オッペンハイマー」を見てから一週間が経ちました。

鑑賞後、消化するのに非常に時間が掛かかる映画ではあるので、リピーターが多いのはわかります。

なんせ、この映画は上映時間の3時間の最初から最後まで異様なまでの緊張感が続くので一瞬も目が離せない上に、情報量がものすごいスピードで流れていくのです。

筆者も細部がところどころ十分に理解できないまま終わってしまいましたので、ニュアンスを理解するためにも英語字幕の出るソフトで何度も見返したいなと思っています。

去年のオッペンハイマー騒動はいったい何だったのか

この映画の昨年夏の全米公開時、英語SNSでは映画「バービー」とセットで「バーベンハイマー」として語られることの多かったのですが、日本語SNS世界では、かなり批判的で感情的な内容の日本語ツイートが出回り、当時配給権を持っていた映画配給会社が尻込みして公開に踏み切れなかった、という出来事がありました。

その時に問題とされたのは、「日本の原爆被害が描かれていない」という点だったのですが、実際に映画を観てみると「描かれていない」というのは非常に不正確な批判だったと思います。

原爆被害についてはしっかり描かれており、原爆開発の当事者だったオッペンハイマーの苦悩も描かれているのですが、「犠牲となった日本人の直接的な描写がない」というだけのことでした。

しかし、この映画自体が原爆被害をテーマにしているわけではありませんし、「原爆を肯定している」という批判も的外れに思います。

日本人好みの感情に訴える演出ではなく、非常に冷静・客観的で巧妙な演出で原爆開発の背景をあぶり出して開発者当事者たちの苦悩を描き、その是非を観客に問いかける内容になってると思います。

当時この映画を英語で見て批判していた日本人は、その部分を言語的あるいは映画的に理解する能力がなかったのか、映画を観ずして大ヒットしている現象だけを取り上げ、闇雲に批判していたようにしか思えません。

また、そのような的外れな批判に対し、映画の内容を認識しているはずの配給会社が尻込みするというのも、非常に情けない対応になってしまったと思います。

そのせいで全米のブームに同期した商機をのがしているばかりではなく、アカデミー賞での総なめ状態も一緒に盛り上るタイミングを逸してしまいました。

バイオピック映画に持ち込まれたサスペンス・ホラー的演出

全くの無意味だった去年の批判騒ぎは置いておき、この映画の凄さはどこにあるのかというと、史実をなぞるだけの、単なるバイオピック映画に終わらなかった点にあると思います。

時空が歪んだ画期的な「メメント」でブレイクした「TENNET」の監督のクリストファー・ノーランは、サスペンス〜アクション映画を得意としてきた人なのは言うまでもなく、本作「オッペンハイマー」でもその演出力は十二分に活かされています。

バイオピック映画はアカデミー賞において毎年のようにノミネートするジャンルではありますが、このジャンルにありがちな典型的な演出に終わることがなく、日本人であれば誰でも知っている、いつか来る運命の日、すなわち原爆投下の日に向かって、恐怖がひとつひとつ積み上がっていくサスペンス・ホラー映画にもなっているのです。

フィンチャーと対照的なノーランの軌跡

その点を踏まえると、今回の「オッペンハイマー」は、クリストファー
・ノーラン監督が、これまでのエンタメ大作から、より誰もが関心を持つ社会的な接点の多いシリアスな人間ドラマに一歩踏み出し、そして、同時に一大エンターテインメントとして成立させてしまったという、非常に画期的な一本になったと思います。

現代サスペンスの巨匠監督というと、ノーランの他にヴィルヌーヴやデビッド・フィンチャーが思いつくのですが、最近のフィンチャーが小規模なジャンル映画に原点回帰しているのに対し、ノーランは拡大再生産期のピークに来ているような気配があり、現在対照的な位置にいるように見えます。

もっともフィンチャーはフェイスブックのマーク・ザッカーバーグを、「市民ケーン」ばりに負の面からも描いてしまった「ソーシャル・ネットワーク」という映画がフィルモグラフィに存在するわけですが、大作主義の居心地が悪かったのかもしれませんね。

教科書で習わない原爆開発と投下の背景

また、筆者には、この映画が日本人必見の映画になっているように思えます。

その理由は、「オッペンハイマー」を見ることによって広島・長崎に原爆が落ちた経緯と、アメリカ側の論理が、かなり正確に理解できるからです。

要するに、日本人が原爆被害の甚大さを中心に感情的な捉え方をしているのに対し、アメリカを含む旧連合諸国側では、原爆を複数所有していることを示さないと独裁国家によるテロが繰り返されてしまうという危機感を持っていたことがはっきりと示されます。

これ以上の詳細は是非映画を観て考えていただきたいのですが、義務教育でこの辺の経緯を外側からも深堀りしない限り、日本人の一方的な被害者感情が解消されず、どうして原爆を落とされたのか、いつまでも客観的な視点を得られないと考えます。

冒頭で言及した的外れな批判騒動も、日本内外の認識の差が強く影響しているのではないでしょうか。

いつでも繰り返されうる悲劇


映画でオッペンハイマーは、「我々科学者の使命は技術開発にとどまるべきで、それをどう利用するかは政治家が決めるべきだ」との考えを吐露します。

その信念には一定の説得力はあるのですが、それがどういう結果を招いたかを目撃し、オッペンハイマーはある意味人間らしく苦悩に苛まれます。

オッペンハイマーは天才科学者だったかもしれませんが、世の中に完璧な人間などいないのです。

運悪く歴史の歯車が合ってしまうと、このような歴史的な悲劇が起こり得る世界に生きているという現実を、この映画は示唆していると思います。

シートさえ振動するIMAX

筆者は今回、この映画を109シネマズのエグゼクティブ・プレミア・シートで見ることにしました。

主な理由は、いつも利用しているシネコンのIMAXの最後部座席がこのプレミアシート扱いになっており、通常料金では席を取れないこと、またIMAXは最後部席が一番スクリーンを見やすいと日頃思っているからです。

3時間の長尺な映画、かつアカデミー賞総なめ、ということで物は試しで奮発してみました。

結果は大正解。

特にこの映画はIMAXで音響を体験するのとしないのとでは体感にかなりの差が出るように思います。

シートから伝わってくる振動が最高にホラーなのですよ。

非常に快適で、最高の映画鑑賞体験になりました。

空調が効きすぎていて、その後、思い切り風邪をひいてしまったこと以外は・・(笑)

今度利用する際はブランケットの存在を確認してからにしようと思います。





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